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精神科医の会話術①概論

02:27 準備
06:33 自己理解
11:25 聴く
15:26 伝える
18:53 他者理解

今日は「精神科医の会話術を学ぶ」というテーマでお話しします。
概論編ということで、精神科医の会話に関することを一覧にまとめました。

今回、自分がやっている仕事はどういうことなのか、どのような点に注目してやっているのか、今後もっと診療が上手くなるためにはどのようなことに注目すべきなのかを自省し、注意ポイントを書いてみました。

これは他の人にも役に立つのではないかと思いますので、動画にしてシェアしようと思います。
メンタル系の治療者、精神科医以外のドクター、ビジネスマン、患者さんにもこのような会話術は役立つと思います。
コミュニケーションの本はたくさん売られていますが、精神科医目線で書かれているものはありませんのでぜひ最後まで見てください。

会話術を「準備」「聴く」「伝える」の3つに分けました。
「準備」の段階では「自己理解」が重要ですし、「聴く・伝える」の段階では相手を理解する「他者理解」が重要です。

今回は概論編ですが、好評でしたら各論もやっていこうと思います。

準備

準備には大きく分けて3つあります。

・時間、場所の確保
・契約(動機、目標)
・信頼(相手の尊重、自己開示)

オーバーラップしているところもありますし、漏れているところもありますが、ぱっと思いつくのはこちらの3つでした。

・時間、場所
短いといえども診察時間をきちんと取る。
カウンセリングでしたらきちんと45分や50分を取ります。

また壁が薄いと話し声が聞こえてしまい不安になってしまいます。ですから声が漏れない、他の人に聞かれない場所で行います。

・契約(動機、目標)
動機を明らかにして治療目標を共有することが重要です。
患者さんの動機をきちんと理解する、動機付けをする。
治療のゴールを共有したり、明らかにしていくことが大事です。

精神科医療も「契約関係」に基づくので、動機や目標を確認する必要があります。

そのように言うと「契約を交わしたことはないよ」「契約って何?」と思うと思います。
精神医療に限らず、医療というものは「暗黙のうちに行われる契約」を交わします。

思春期になったときに、知らないうちに社会に放り込まれるといったこともそうですし、そもそも国家との契約も暗黙のうちに行われています。僕は日本人になりたいから日本人になったわけではなく、産んでもらったのがたまたま日本だったので日本人になりました。

そこで知らないうちに契約が交わされて、税金を納めるようになったわけです。
このような社会契約的なものがあります。

これは医療でもそうです。
治してくれる場所だと思うのですが、実際は治してくれる場所ではなく「日本的な医療を提供する場所」です。

医者なのだからこうしてほしいという気持ちもわかりますが、実際僕らがやることは限定されています。医療は魔法ではありません。しかも科学としても泥臭い科学です。
治してくれると思って命からがら来たのに、こんなものしか売ってくれないのかと思うことも結構あると思います。

このような「契約」もあります。

きちんと動機を明らかにして治療目標を共有していくことは非常に重要です。
守秘義務を守ることも契約に含まれます。

・信頼(相手の尊重、自己開示)

きちんと契約を交わすからこそ信頼を得られます。

信頼されるにはどうしたら良いかというと、相手を尊重し、適切な自己開示を行うことです。
自己開示とは、どのような思いで治療をしているのか、あなたを治したいと思っているといったことで、プライベートを晒すということではありません。

とはいえあまりにも人間味がないと信頼関係を作れませんので、ほどほどの自己開示が重要です。

自己理解

信頼される人間であるためには「自己理解」をしておくことが大事です。

医者は聖人君子であるべきと思われますが、実際は理想目標であり到達できません。少なくとも僕のような人間には到達できません。

ですが、自己理解をすることで「悪さ」をしなくて済みます。

自分にはこのような弱いところがあるとあらかじめ知っておけば、その弱さが治療に反映されないように振る舞うことができるのです。

<投影・転移>

僕の性格だとこのようなことをしがちだということがあります。

投影とは自分の感情を相手に映し出すこと。
転移とは自分の過去の体験を相手に重ねあわせてしまうということです。

僕の場合、学歴や組織へのコンプレックスがあります。
ですから患者さんが「私、会社で辛いんです」と言った時に「組織なんてそんなもんだよ」とか「会社なんてあまり良いものではないよ」と言いがちです。
それはそこにコンプレックスがあるからです。

僕自身が組織に憧れているところがあるのです。
自衛隊は好きでしたが辞めてしまったので、そこにジレンマがあります。

そのため患者さんが大事にしている学歴、権力、お金、組織、地位などをつい否定したくなる気持ちが湧いてきます。湧いていなかったとしても言いがちになってしまいます。
ですから、そのようなことがあったら僕は言うな、と意識して接するようにしています。

もちろん患者さんがそこに苦しんでいるのであれば、中立に引き戻すために言うこともあります。
ですが、自分の感情をぶつけないようにしています。

それから、転移というか苦手な人というのはあります。
ですが僕の場合、投影に比べるとあまりないかなと思います。

女性に弱いドクターだと、ついつい好意的に接しすぎてしまうので気をつけるのが大事かと思います。

自己理解というのは非常に重要です。
自分はどのような人間で、どういう生い立ちで、どのようなことに価値を感じているのか、どのようなことを貶しやすいのかを理解しておけば、そこを踏まないように意識することができます。
聖人君子になってすべての欲望から解き放たれないとできない、ということはありません。

<逆転移、投影同一視>

他に意識していることとして、逆転移や投影同一視もあります。
他者理解の話なのですが、こちらに入れています。

逆転移とは、患者さんが持ち込んでいる感情をこちらが体験してしまうということです。
相手がイライラしているとなんだかこちらもイライラしてしまう。

投影同一視とは、患者さんが怒りや不安を持っているときに、それを自覚せずに「主治医がそう思っている」と思うことです。
例えば、患者さんが劣等感を感じているときに、相手はそう思っていなくても「相手は自分を馬鹿にしているのだ」と思ってしまいます。

そのような対象に医師はなりやすいので、そこを意識することもしています。
劣等感が強いために馬鹿にされていると感じやすい人だと、そこを刺激しないように弱めに行くなど意識します。

聴く

「聴く」ことに関してどのようなことに注意をしているかという話です。

「相手の話を聴いている」「相手は好きなことを喋れる」というのはそれ自体が治療です。
聴いてもらえたというのは気持ちが良いですし、治療的効果もあります。
できるだけ聴く時間を長く取ることが重要です。

時間が取れないのであれば、その時間の中の聴く時間の割合を少しでも増やすように努力しなければならないと常に思っています。

・相手が主役
当たり前ですが相手が主役です。
価値観としては中立を保ち、自分の価値観を持ち込まないようにします。相手の価値観に対しては中立に振る舞います。 

ただ、常に中立でいられるかというとそういうわけではありません。
患者さんが「もう好きにやらせてよ。こっそりなら大麻を吸ってもいいでしょ」などと言うと「いや、ダメでしょ」と父性を見せることもあります。

「勉強しなきゃいけないのはわかっているけど、やりたくないんです」というときには、母性を見せて「確かにそうだね、今まで頑張ったからゆっくり休んだ方が良いよ」というような言い方をすることもあります。

この辺りはバランスです。
この人の発言をどこまで許容するのか。相手の弱味をどこまで許すのか。
社会から逸脱する悪い行為をしていたとしても、それをどこまで許すのか、あるいは父性を持って指導をするのかというのは、その時の状況に合わせて移動させる必要があります。

患者さんが悪いことを告白したときに、「中立」だと告白した価値を感じることができません。
勇気を出して自分の恥部、弱さを吐露したのに、相手が中立で「まあ、そういうこともあるよ」という感じだと聴いてもらったという感じがしないのです。

やはり、母性・父性の2択クイズを当てられるかはあると思います。

また、精神分析の世界では「平等にただよう注意」と言いますが、自分が次にどう言うかや2択をどちらにしようかと思いながら聴くのではなく、ふわっと相手の話を聴きながらやることが重要です。

これは経験が重要になりますが、なんとなく言っていることはわかります。
クリニックで診療していると、意識しなくてもいろいろなものが見えてきたりします。

・整理、焦点、誘導
外来の時間は短いですし、患者さんの自由に任せておくと混乱してしまいます。

家でも診察室でも混乱してしまうことになるので、適宜相手の話を整理したり、重要なポイントや考えた方が良いところに焦点を当てたり、あなたの問題は今はこれだから、これについて考えてみましょうと誘導したりします。

・スピード、間
会話のスピード、テンポ、空白を持つ時間、相手が喋り出すのを待つ時間、「間」をどうやって作るのかも重要なポイントです。

伝える

伝え方の話です。

・無知だが、賢い
プレゼンの原則である「無知だが、賢い」を利用します。

相手は医学、精神医学、体のこと、病気のこと、薬のことを何も知らないという前提で話します。
しかも初回だけでなく、毎回その前提で話します。

ですが、相手は自分より、あるいは自分と同じくらい賢い存在なので、きちんとロジカルに説明すれば理解できるものと思って患者さんに必要なことを伝えます。

「益田はYouTubeを見せておけば良いと思っているだろう」と思うかもしれませんが、そのようなことはなく、患者さんはYouTubeを見て来ていないと思ってやっています。

そのような前提でやりますが、では実際それで良いのかと言うとそんなことはありません。
皆が平等な知性を持っているわけではありません。
それは病状にもよりますし、脳の特性にもよります。

相手の考えるスピードや処理できる消化能力、一度にためておける量(ワーキングメモリ)も意識しながら、一気に詰め込んではいけないな、これくらいのことしか喋れないななど加減をしています。

・安心したいニーズと伝えるべきという医師
患者さんは医学の勉強をしに来ているのではありません。
患者さんは、安心したいのです。
治療をされて、保証されて、このままいけば良くなっていくのだという安心を得たいというニーズがあります。

一方で、ドクターは不安が強いものです。
病気のこのリスクを説明していない、これも伝えなければいけない、これも伝えてあげたほうが良くなるのではないかと思い、医師は詰め込んで喋りたくて仕方がありません。

ですが、それよりも大事なのは安心したいというニーズですし、伝えることよりもやはり聴くことが重要だったりするので、この辺りのバランスを取るのがすごく重要だと思います。

・異なる文化、すれ違い
患者さんは契約の話も知りませんし、医療というものがどういうものか分かりません。
僕は防衛医大という医学部しかない大学でしたから、高校を出てからずっとその世界にいます。その世界にどっぷり浸かっているのですが、患者さんはそうではありません。

ですから、文化圏が違うと思った方が良いのです。
すれ違いやすいので、すれ違うものだと思った上できちんと相手の目線やスピード感に合わせ、相手の文化圏に入ってきちんと喋ることが重要だと思います。

他者理解

聴きながら、伝えながら、相手の理解を深めていきます。

相手の理解の仕方というのは自己理解とも通じますが、原則、今の精神医学は「生物・心理・社会モデル」を取りましょうと言います。
生物学的な特性、心理的な特性、そして社会的な背景をきちんと理解することが重要です。

生物学的:診断、特性の問題など精神医学的な範疇のことです。

心理的:投影、転移、バイアスの問題、認知行動療法で言うスキーマの問題、混乱や不安があるからこそ起きる心理反応などを理解していきます。

社会的:患者さんが属している社会によって価値観、考え方が違いますのでそれに合わせる必要があります。東京の人、地方の人、理系の人、銀行員の人などそれぞれのカルチャーがあります。そういったことを加味しながら考えたり相手を理解していく必要があります。
そのほかに親子関係の問題、虐待の有無、正社員・非正規など全体を含めて理解する必要があります。

ポイントとしては、僕が社会的な理解をするときに構造主義的な思想をバックボーンに置いています。

他に、年齢によって経験や知識が不足していたりします。
この人にはこの経験が足りないからそれがわかっていないなという場合、そこをどうやって臨床の中で埋めていけば良いのかなども考えながら伝えています。

・カルテを書く
一般の人はそこまで相手を理解しようとする必要はないと思いますし、相手の顔色を見ながら会話をするのも難しいと思いますが、カルテを書くことも重要なのではないかと思います。

僕らもカルテを書きながら話を聞いてますし、カルテを見て相手を思い出したりします。
営業マンの人も、相手の情報をメモに残している人は結構います。

所々で相手のことを1回まとめて、こういう人なんだなとやると良いのではないかと思います。
ただ、それがバレると良くありません。発達障害の人など、書いた手帳を置き忘れたり失くしたりしないよう、管理は慎重にしてください。
ちなみに、ホストの人もきちんとカルテを作っているようです。

今回は「精神科医の会話術」ということで、概論として全体像をざっくり述べました。
好評でしたら1つ1つ細かく話してみようと思います。


2021.10.25

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