今日は「思い込みが激しい人との付き合い方」をテーマにお話しします。
いつもやっている「精神科医なら〇〇と答える」のシリーズです。
結論は、「限界を伝え、親切に。距離が大事」ということです。
「自分はこう思うけれど、あなたはこう思うんだね」
「僕はここまでは協力できるよ」
という言い方が良いかと思います。距離も大事です。
患者さんが思い込みの激しい人との付き合いで困るケースというのは、思い込みの激しい上司、思い込みの激しい親、恋人などと対峙した時があると思います。
相手が上司であれば、「ここまではできます。これ以上は私にはできません」と言うことです。上司が怒ることもありますが、毅然と、だからできないということを伝えます。
それが難しい場合は、もう一つ上の上司にきちんと報告することが大事です。
そもそも自分がどこまでできるのかを伝えていないケースも多いです。伝えればその思い込みの激しい上司も「ああ、そうか」と次の目標に気持ちが移ったりします。
親に対しても、「僕も頑張りたいけれど、僕の限界はこれくらいなんだ」「勉強しろと言うけれど、1日10時間もできないんだ」「他の子はできるかもしれないけど、僕は1日3時間でへばってしまうんだ」などと伝えることが重要です。
それを、親切に、丁寧にやる事が重要です。
また、近づきすぎると振り回されてしまうので、距離感が大事だと思います。
コンテンツ
「思い込みが激しい人」とはどんな人?
思い込みの激しい人の特徴について、発達障害、依存症、境界性人格障害、強迫性障害の人たちの臨床を通じて感じられるエッセンスから引っ張ってきています。
・主義主張がある
思い込みが激しい人は主義主張があります。
基本的には、彼らなりの世界観で彼らなりに完結したメッセージがあります。
・助言を受けつけない
思い込みが激しいことの言い換えでもありますが、助言を受けつけません。
受けつけたといっても自分に都合の良いもの、自分が受け入れたいことしか受けつけません。
・MECE(モレなく、ダブリなく)?
主義主張があって世界観がそれなりに完結しており、彼らからすると論理に矛盾がないと思っています。
ですが、MECEではないことが多いです。
ロジカルに「場合分け」をしてきちんと考えられていることはなかったりします。
もし考えているならば思い込みが激しくても社会適応が良いのですが、そもそもMECEで考えられる人は世の中に少ないので、考えられていないことが多いです。
・自分で自分を傷つける
思い込みが激しいのでうまくいきません。ですから、自分で自分を傷つけていることになります。
自分を傷つけている原因が「自分の思い込み」だとわかりつつ、その思い込みを直せません。
・補助を求めている
彼らが求めているのは「補助」です。対等な他者というよりは「補助エンジン」を求めています。
社長や自分でやる人にこのような人が多いのはわかります。
ですが、給料をもらって部下になるならまだしも、日常生活、友人・恋人関係において部下になりたいと思う人はいないわけです。その人の機嫌を取る補助までしたくないと思うのですが、彼らが求めているのは対等な人間関係ではなく、補助、サポートなのです。
上司であれば優秀な部下、あくまで自分の仕事をサポートする部下でしかありません。サポートをするのが部下の仕事かもしれませんが、仕事の前にまず「対等な個人」ということが抜けてしまっています。
母親が子供にこうしてほしいと思うのは、母親の欲望でありその子供の欲望ではありません。
「こうした方が将来のために絶対に良い」「給料が良くなるから勉強をしたほうが良い」というのは確かにそうかもしれませんが、それ以外の生き方もあります。その子には限界なのかもしれません。
親子といえども対等な個人だということがわかっていません。
子供は親の道具だという価値観もかつてはありましたが、今はそういうことはありません。
思い込みが激しい人が気づいていないこと
思い込みが激しい人たちが気づいていない点があります。
思い込みが激しい人をどう治療していくか、ということにも似ています。
・未知→既知へ
未知なるものを既知へつなげていきます。
頭で理解するのではなく体感的、情緒的に理解していくことが重要です。
・他人も同じく主義主張
思い込みが激しい人は、自分にはこのような主義主張があるが、他の人にはないと思いがちです。
ですがそのような事はなく、他人にも同じように主義主張があります。あなたと同じように考えているし、あなたと同じように悩んでいます。対等なのです。
あなたほどうまく言語化はしていないかもしれないし、パワーはないかもしれません。でも同じように主義主張、価値観があり、生き方に思い悩んだりしています。そのことがいまいちわかっていません。
・他人は親切である
他人は概ね親切です。6割~7割の人は親切です。
相手に対してプラスになるようなことをしてくれているのですが、それをあまり理解していなかったり、意地悪だと思ったりすることも多いです。
・僕らには限界がある
できることには限界があります。
その限界の中で、親切をしている、やれる範囲でやっているということです。
世の中はそのように回っているのですが、それがいまいちわかっていません。
自分の見えているところだけで話してしまっているから、他の筋が見えていないことが結構あると思います。
補助の欲望は叶わない
「補助の欲望」は叶いません。
自分の主義主張を補完してくれる何かは、他者に求めるものではありません。求めても手に入りません。
自分で動いていかなければいけないのですが、それがわかりません。
叶うこともあるのでは?と思い込みの激しい人は言うのですが、「お前が悪いんだろう」「お前の問題だ」もしくは逆に「じゃあ自分が悪いんだ」「この世界は終わりなんだ」などとなってしまい、システムを柔軟に動かすという発想があまりありません。このようなことが思い込みの激しさなのかと思います。
思い込みの激しい人が一時的に緩和されるときや、思い込みに付き合ってくれる人がいる瞬間もあるので部分部分では叶います。
部分部分では叶うので、また新しい「部分」を手に入れたいといってドクターショッピングをすることがあります。
「わがままが通る人」はいるわけです。
腕力、若さ、美しさ、地位、お金があればわがままが通るのではと思う人もいます。実際そのように見えることもありますが、原則それは嘘です。
世界の真実としては、補助の欲望は叶いません。それを理解する必要があります。
平凡化?
治療とは何かと言うと、そのような欲望は叶わないと理解していき社会とうまく折り合いをつけていく、「平凡化」を目指すことになります。
これが本当に正しいかと言うと、ハテナが付くのかもしれません。
思い込みが激しくなりふり構わず自分の欲望を果たす人だからこそ作れる作品、商品、仕事の成果があることも一方では事実です。
ですが精神科医というのは、社会的な成功者や人類を一歩先に進めるような人たちを生むためにあるわけではありません。
なんとなく全体的に不幸を感じずに、なんとなく幸福感を得るためにあるので、平凡化という筋は悪くないスタンダードなやり方だと思います。
思い込みが激しい人との付き合い方
・主導権を握ることは困難
思い込みが激しい人との付き合いで、主導権を握ることは困難です。
子供に精神の問題があったときに親は悩みます。その時に親の力でぐっと引き寄せようとしてもうまくいきません。不登校の子供がいるときに、親の力でなんとかしようとするとこじれます。
主導権を握ることは困難なので、彼らの補助エンジンになりながらも、できないことがあるので自分のできる範囲で補助エンジンを演じていく、というのが良いかと思います。
親子であれば距離を縮めても良いけれど、会社であれば距離を取った方が良いと思います。
・傷つける対象を求めている?
思い込みの激しい人は自分で自分を傷つけていますが、自分を傷つける代わりに他者を傷つけようとすることもあります。ですので、こちらが近づいて傷つけられることもあります。
なぜ傷つける対象を求めているかというと、その人のシステム維持のためです。
思い込みを思い込みのまま維持するために、人や自分を傷つけます。そんなシステム変えてよと思うのですが、変えられません。
あることをきっかけに変えることもありますが、この辺りはややここしいです。
近づきすぎると傷つけられることがあるので距離を取った方が良いのですが、傷つけられるのはその人の問題ではないので(脇が甘い気はしますが)、うまく距離を取りながら様子を見つつやるのが良いと思います。
治療
治療の場では、このような患者さんが来られた場合やこのような患者さんに困っているご家族がいらっしゃった場合、僕も限界を伝えて親切に振る舞うということをしています。
僕ができることには限界はあるので、その話はします。何度もします。
何度も話すことによって欲望は叶わないということがわかるし、欲望は叶わないけれど僕らは親切だということがわかるのではないかと思います。
ただ、これは治療の最後の方で起こるので、治療の中盤や途中で断念した場合はこういったことは伝わらず、ただただ「悪い対象」として扱われることもあります。
今回は、「思い込みが激しい人との付き合い方」について解説しました。
心について考察
2021.9.3