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精神科の治療に否定的な親への対応

01:28 薬への過度な不安
03:17 医師を信じられない
05:12 脳の多様性の理解困難
08:00 話を聞きたくない「否認」

今日は「精神科の治療に否定的な親」というテーマでお話しします。

臨床をしていると、子供は薬物治療を受けたいと言っているけれど、親が「そんなことはダメだ」と言って否定して、治療が中断されてしまうケースがたくさんあります。
そもそも受診につながらないケースもあります。

20歳を越えてようやく受診につながりましたということもありますが、そのような場合は子供はすごく罪悪感をおぼえます。
「なぜ私は親の言うことを無視して精神科に来てしまったのだろう」
「自分はダメなのではないか」
「甘えているのではないか」
などと思い、すごく傷つきながら受診します。

そのような時に、僕は今回お話しするようなことを話し、
・あなたの親はどのような人だったのか
・あなたの親はどのようなことを考えているのか
・あなたにとって今必要なことは何なのか
といったことを話します。

精神科の受診に否定的な親はいますが、どのような人なのでしょうか。

薬への過度な不安

薬物治療、つまり薬への過度な不安を持っている人はよくいます。
これはドラッグへの偏見にも似ています。

精神に影響を与える薬を飲むとゾンビのようになってしまうのではないか、といったことです。
1回でも覚醒剤を打ったら「人間やめます」となり、人格が変わってしまうのではないかという偏見を持っている人がいますが、そのようなイメージです。

ですが、実際は精神科の薬はそれほど危険なものではありません。
ネットでは依存性があるなどいろいろなことが書かれていますし、それを面白おかしく尾鰭はひれをつけて書く人もいます。
自分を洗脳するというか、思い込みが強くて「元患者です」「やったことがあります」と面白おかしく文章を書く人もいますが、それほど酷いものではありません。

そもそも国が認め、医学的にも認められたものを精神科では使いますので、そんなに危ないものではありません。
この辺りは難しいなと思います。科学リテラシーの問題です。

親によってそのようなことを理解しやすい人と理解しにくい人がいますので、差があります。
ですから、精神科への偏見をなくすような啓蒙活動が重要かと思います。

ドラッグに関してもそうです。
覚醒剤を1回か2回やったといって、依存になり変な人になってしまうということはありません。

医師を信じられない(類:政府)

医師を信じられないタイプの人もいます。
特に精神科医は信じない、という人もいます。

例えば、政府を信じないという人もいます。ずっと政府批判をしているような人です。
気持ちはわからなくもありませんが、大きい組織に文句を言いたいという人はたくさんいます。

また、「医者」というと馬鹿に見えるというのはあります。
ガリ勉、エリートで皆の気持ちがわからない、お金持ち、世間知らずなどいろいろあります。

確かにそのように見えるドクターもいます。
患者さんのことを考えているようで、自分のことしか考えていないようなタイプの人もいます。
それは否定はできませんが、ごく少数です。

自分たちと同じ人間で、金儲けがしたいからなのでは。だから医師を信じないというのもあるのかなと思います。

ただ、他人は愚かに見えるのです。
何なのかよくわかりませんが、自分の方が賢くて他人は愚かなのではないか、少なくとも今やっている行動(解決策)は愚かに見えるということはあります。

自分の意見と合わない行動、解決方法、態度は愚かに見えるのですが、それは人間が持っているバイアスでもあるので、専門ではないことは専門家に任せた方が良いこともたくさんあります。

脳の多様性の理解困難

精神疾患を理解できない、というのはそもそもあると思います。理解困難なのです。

・同性愛
脳の多様性の問題というのは、このあいだ上の先生から教わっていろいろ考えていたのですが、例えば「同性愛」の問題はどうだったのかは歴史的な背景も含めて僕も考え直しました。

今でこそ、同性愛は病気ではなく趣味嗜好の1つという形になっていますが、かつてはそうではありませんでした。病気だと考えられていましたし、偏見もありました。
病気だとする根拠は何かというと、生物学的に変なのではないか、という話です。

確かに同性同士で愛し合っても子供は産まれてきませんし、生産的ではないからこれは病気なのではないか。生物学的に見て異常なのではないかという考えもなくはありませんが、ただそれだけで疾患というわけではありませんし、子供を産まないからといって社会的に何か問題があるわけではありません。
人間は「群れ」で生きている動物なので、子供を作らないことが人間としての価値がない、生物学的な価値がないということにはなりません。

【訂正】
同性愛を趣味嗜好と言いましたが、本人の意思で変えられるものではなく、性的な「指向」として考えられています。
生物学的な側面ばかりを気にしてしまい、ここの配慮が足りませんでした。ここでいう「趣味嗜好」とは、「生物学的な欠陥とは言い切れない」ぐらいの意味で理解してもらえると助かります。
性的な指向という言葉をあまり考えずに使っていたので、趣味指向と言ってしまったのかもしれません

それと似たような形で、発達障害についてもそうですが、多様性というものをどのように理解していくのかということはあります。だから受け入れ難いのかなと思います。

・障害受容
自分の子供が障害を持っていることへの受容の問題も難しいなと思います。

僕は毎日そのような患者さんを診て、良くなっていくところや、なかなか良くならないけれど自分なりの道を見つけて生きている人と接しているので、それなりに受け入れていますが、自分の子供たちや家族がそうだったときに、同じような気持ちでいられるのかと言われたらそれはわかりません。

難しいなと思います。
哲学的な飛躍が必要なのです。

普段の常識、なんとなく過ごしていた常識を疑って、新しい飛躍が必要なのです。
でもその飛躍ができる親とできない親がいるので、なかなかこの問題も難しいなと思います。

話を聞きたくない(「否認」)

そもそも話を聞きたくない人たちもいます。

「否認」ということです。今ある問題を受け入れたくないのです。
子供の問題を一緒に考えたくないという人もいます。

有利な立場からの押し付けだったり、「頑張れ」とか「甘えだ」などと言い、考える責任を放棄してしまう親はいます。

精神科の治療は、基本的には正解のない道を進むものです。その恐怖感があります。

これからその子が山を登るときに、どのような道を行ったら良いのだろう、その時にはどのような装備が必要なのだろうなどあります。
それを一緒に考えたり、過去の人はこうだったんだよなど、みんなでアドバイスをしますが、登るのは本人です。

苦しい思いをしながら、疲れた、足が痛いなどと思いながら登るわけです。
登るのは彼なので、できるだけ登りやすい道を一緒に考えていくのが治療なのですが、それを考えることを放棄して「困難がなかったかのように思いたい」という否認の影響もあったりしますので難しいなと思います。

診療場面で「あなたそれは否認でしょ」と僕が言ったら親子喧嘩になるだけなので言いませんが、親の否認の気持ちが強く働いているなというのはよくあります。

もちろん、精神科の治療を受けているとか精神科の手帳を取得するということは、就職に不利なのではないかという意見はあります。
それについてはそうだなと思います。

実際、面接の時に病気のことを自分から積極的に言う必要はありませんが、聞かれた場合に答えないというのはダメです。
どこまで企業がこちらの病気や障害を聞いて良いのかというのは、プライバシーの問題もあるので結構難しいのですが、答えなければいけないという場面もあります。

この問題をなかったことにしたいという気持ちはわかりますが、それだと一番困るのは本人です。
やはり真実を見ながら、一緒に正解のない道を探していくというのが大事なのではないかと思います。母親だけでなく、父親、ドクターも、皆で考えていくことが重要です。

精神科の治療をやっていくことを決断するのは大変難しいです。
本人でさえキツいことなので、親は苦しいと思います。

ですが、放棄してしまうとより苦しむのは子供たちなので、できれば親自身の問題や偏見について考えてもらって、一番適切な方法を考えてもらうのが良いのではないかと思います。

少なくとも僕は金儲けのために医療をしているわけでも、苦しめるために医者をしているわけでもないので、その辺りは理解していただけたらと思います。


2021.12.12

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