今日は「精神科臨床と報道」というテーマでお話しします。
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精神科臨床と報道
・社会的な犯罪
・芸能人らの病気、自死
・社会問題が注目
テレビを賑わすような事件があった時、それが精神科の患者さん、精神科の病気が関わるようなことがあった時。また芸能人や著名な人の病気の告白、自死のニュースが多かった時。引きこもり、虐待、貧困、アルコールなどの社会問題がクローズアップされてテレビや新聞を賑わしている時は、患者さんの心にすごく影響を与えます。心の動揺が起きます。
そのような時は、精神科医の意見が求められやすい時でもあります。
社会的な問題があったときは、精神疾患への偏見や治療を継続して良いのだろうかという不安が高まります。
芸能人らの病気の告白や、自分で命を終わらせてしまった人がいた時には、今自分で命を終わらせてしまおうと考えている人たちの背中を押すような恐れもゼロではありません。
社会問題、例えば貧困や虐待などの問題が出た時は、偏見を助長するだけでなく、誹謗中傷や奇異な目で見られることもあります。
SNSには心ない発言が出てきます。「自業自得なのではないか」「あんなやつ生きている意味がない」など言う人がいます。
そのようなものはごくごく一部の意見ですが、そのようなものを見ると患者さんはすごく心が乱れ、「人から嫌われているのではないか」「馬鹿にされているのではないか」といった気持ちに囚われてしまいます。
調子が悪い時は一部の意見に左右されてしまうのです。
全体が見えなくなっているので、本当に苦しむことが多いです。
マイナスからプラスに
このような時に僕ら精神科YouTuberというか、精神科医はどうしたら良いかということです。
・偏見の解消
・誤情報の流布の防止
病気の誤った知識が広がることを防ぐために、きちんと正しいことを言う。
・早期発見、治療
逆に良いきっかけなので、「こういう病気があるんだ、もしかして自分もそうかな」と早めに気づいてもらい、早期治療に繋がるように促す。
・心理教育による治療効果
僕らはどのような想いでやっているのかを伝える。
そもそもこの病気はこういうことなのだともう一回一緒に学び直す。それによって治療効果が高まる。
このようなことをやっていくべきなのではないかと思います。
このタイミングを「マイナス」から「プラス」にする。本来なら落ち込むところを、落ち込みから回復して治療に持っていくアプローチが重要なのではないかと思います。
具体的に何をするか
では具体的に何をするかというと、同じことの繰り返しになるかもしれませんがこのようなことです。
★病気を正しく理解:「怖くない」「治るもの」「誰しもなる」
病気は怖くないですし、治るものです。
精神科の患者さんの犯罪率が高いということは決してなく、一般の人と大きく変わりません。ですから怖くありません。むしろ大人しい人が多いです。
治療すれば治るので、どんなに酷いうつ、酷い幻覚妄想に支配されている人でも治りますから、きちんと治すようにします。
外来治療だけでなく時には入院治療が必要なケースもありますが、きちんと治ります。
病気なので誰しもがなります。なる人とならない人がいるというものではありません。
なった人はダメということもありません。皆がなるので明日は我が身ということです。ただの病気ですから。
★誹謗中傷を許さない
誹謗中傷を許さないことも大事です。面白半分に話を大きくしたりとか、逆に誰かをけなすといったことは許してはいけません。
病気を正しく理解した上で発言する。それはマスコミの人もそうですし、一般の人がSNSを使う時もルールとしては当然そうなのではないかと思います。
★個人情報に配慮
何か正しいことを言う時にも、芸能人の個人情報には常に配慮しなければいけません。
「ゴールドウォーター・ルール」というものがあります。これは、診察したことのない人の話をしてはいけないというものです。
この人は今までこのような言動があったからと、勝手に精神科医が「こんな人かもしれない」「この可能性があるからこういう病気かもしれない」など、今までのマスコミでの発言や著作などから推定してはいけません。このようなことに配慮しなければなりません。
★皆で解決していく姿勢
病気を促すようなこと、自殺のやり方や手順を詳細に明らかにするようなことはしてはいけません。
そうではなく皆で解決していく。
このようなことで苦しんでいるならば僕らはどうするのか、ということをきちんと言っていく必要があると思います。
それは治療者だけでなく、マスコミの人や一般のSNSをしている人たちも「一緒に頑張っていこう」という姿勢で発信するのが良いと思います。
落ち込むのは当然のこと
このような時に「不安」や「うつ」が悪化するのは当然です。
「たかがニュースで自分とは関係ないのに落ち込みが悪化した、これは恥ずかしいことなのだ」と思う必要はありません。
通院中の患者さんは特にですが、誰しも落ち込みます。
バッドニュースによって不安が増えたりうつっぽくなるのは当然なのです。
だからこそ、ポジティブなニュースをしっかり出す。
ネガティブなニュースの後にポジティブなニュースを付けることが大事です。
ストレスやトラウマのケアはとても大事だと思います。
定期的にこのようなニュースはあります。
2020年の5月にはテラスハウス事件もありました。
定期的にあるのですが、その都度ポジティブなニュースを加える、社会全体が精神医学のことを知るためのある意味良いきっかけと捉えやっていくことが重要だと思います。
心の動揺がある人も多いですが、それは普通なので大丈夫です。
今日は「精神科臨床と報道」というテーマで、ニュースがあったときにどのように考えたら良いのかというお話をしました。
その他
2021.12.23