本日は「うつ病の治療の流れ」というテーマでお話しします。
うつ病は、初期、急性期、回復期、再発予防期、と治療の流れを4つに分けて考えます。
この流れを1つの「うつ病相」と言ったりします。
このうつ病相を繰り返すのを「うつ病」と言います。半数くらいの人がこの相を繰り返すことが多いです。
薬を飲むことで、このうつ病相がグッと短くなります。
また落ち込み具合も狭まります。それが薬物治療の効果です。
うつ病を無くすとか、薬でうつが消えるということではありません。
うつ病の薬を飲むと期間が短くなり、症状が軽くなり、再発予防期が延びるというのが薬の効果のイメージです。
薬を飲んで2~3週間経てば、うつがフワーっと消えるというものではありません。
このことから、うつ病の治療は薬だったり、時間や休養が大事と言われています。
うつ病相を一つずつ見ていきます。
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うつ病の初期
まずはうつ病の初期です。
落ち込むのですが、少し波があったりします。
まったく波がないタイプもありますが、体感としては波があるように感じるようです。
ですので、ホワイトボードには波があるように描いてあります。
患者さんは気分のアップダウンが激しいので、自分はうつではなくて躁うつ病ではないか、と聞かれることがあります。
それは違って、躁うつ病、双極性障害の場合は、気分のアップダウンが、落ち込んでいるうつ病相に対して、上がっていく「躁病相」があり、半年くらい落ち込んでいると思ったら2~3ヶ月くらい元気なときがあります。
「三年寝太郎」みたいな感じです。
3年くらい調子が悪いと思ったら急に目がピカッと開いて、2~3ヶ月寝ずに働くというのが躁うつ病のイメージです。
ですから、一日の中で気分の波が激しいというのは躁うつ病には該当しません。
ギリギリまで働くなど、限界まで何かをするという過剰適応と呼ばれる状況で、体はボロボロだけれども動くというのがうつの初期のイメージです。
この状況下では心に余裕がなくなるので、変にイライラしていたり怒りっぽかったりします。
だから周りの人は「あの人は怒っているし、元気そうだからうつじゃない」と言ったりしますが、全く違って、それがうつ病の症状であったりします。
自然と涙が出てくるというのも初期です。
初期に周りが気付いていることも多いです。
運よく精神科につながって診断されて、うつだから休んだ方が良いと言われて休みます。
急性期
そして休むと急性期に入ってきます。
ガクッと下がります。
患者さんはようやく休めると思って休んだ途端、ここから良くなっていくのではなくて、逆に一気に下がります。
調子が悪くなるので、益田の言ったことは嘘じゃないか、休んだら良くなると言ってたけれど早速医者に騙されたと思うかもしれませんが、騙しているのではなくて、ギリギリまで張り詰めていたのです。
フルマラソンを走っているときに最後の1キロは走れてしまうわけです。
でもゴールを切った後は走れなくなります。
それと一緒で、ガクッと下がります。
ガクッと下がってから休めるのです。
とにかく休み始めると悪くなります。
そして急性期と呼ばれる期間が3~6ヶ月続きます。このときはキツいです。
落ち着かないし、頭は回らないし、何だかわけが分からない。
一日がすごく長く感じることもあれば、振り返るとすごく短かったような気もします。
これが急性期です。大変です。
急性期は別人のような感じです。
別人のようになった感じと言われます。
臨床家は初期と急性期しか見ていないので、本来のその人の姿は分かりません。
回復してから、「この人は本当はこういう性格だったんだ」と分かるわけです。
本人も良くなると、調子が悪かった急性期のことははっきりと覚えていないことが多いようです。
人間の頭の中は不思議だなと思います。記憶がないというのが病気たる所以だったりします。
頭が回らない感じです。
覚えられないし、考えられない、本も読めない、そういう時期です。
回復期
ある程度時間が過ぎると「回復期」に移行します。
薬を飲めば急性期は短くなり、症状も本来落ち込む度合いよりも浅くなります。
良くなってくると回復期に入ります。
回復期に入ると今まで寝れなかったのが、今度はめちゃくちゃ寝るようになります。
食べて寝るという感じです。
一日15時間くらい寝るということも普通にあります。
朝ご飯を食べた後に寝て、昼ごはんを食べた後も寝て、夜も寝る、というのが回復期の特徴です。
入院患者さんは大体そういう生活を送っています。よく寝ています。
良く寝ているので患者さんは結構不安になります。
こんなに寝てていいんですか、と言います。
寝れないは寝れないで不安だけれども、今度は寝過ぎて不安になります。
でも、それで良いんです、それが普通なんです、という話をします。
結局脳みそというのは臓器なので、寝て治すのです。寝ることで良くなっていきます。
自然回復していくので、寝てください、と言います。
この回復期の後半になってから、認知行動療法、散歩、料理、片付けなどをやってはどうかという話をします。
急性期の調子が悪いときに家族などが焦って認知行動療法やカウンセリング、ウォーキングをした方が良いんじゃなか、させなければいけないんじゃないか、と思うのですが、そんなことはありません。
急性期は調子が悪いので何もしない方が良いですし、回復期はせっかく寝て、脳が休めと言っているのだから休ませた方が良いし、寝るのに飽きてきたらようやく何か始める、というのが臨床的なイメージです。
うつ病は100%回復してから復帰するわけではありません。
回復期の途中、7~8割くらい回復したら復職準備を始めます。
そして復職するとガクッと一回下がります。
下がってからまた回復してきて、良くなっていきます。
そういうものだと思ってください。
復帰したら悪くなるので焦るのですが、それは自然なことなので大丈夫なのです。
再発予防期
ある程度してきたら波も落ち着いて、再発予防期に入ります。
抗うつ薬はどれくらい飲めばいいのかというと、ガイドラインが出ています。
初発の場合は4~9ヶ月、再発の場合は1~3年くらい飲むのが良いとされています。
うつ病は5年以内の再発率が40%以上あると言われているので、だいたいそれくらいの期間は薬を飲んだ方が良いです。
でもいつまでも飲むというわけにはいかないので、初発と再発でそれぞれの目安が定められています。
患者さんによっては、なかなか良くならなかった人や中高年に発症した、家族の中にうつの人がいるような場合は、初発であっても長めに飲むことがあります。
・診断が変わることもある
うつ病と診断されていた人のうち、途中で双極性障害に診断が変わる人が5~10%くらいいます。
良くなってくると、今度は元気になり過ぎてしまうということもあったりします。
元気になり過ぎると通院をやめてしまうことも多いのですが、通院をやめてしまうと、すごくお金を使って高いものをバンバン買ったり、喧嘩になったりすることもあります。
うつ病で通院していて途中で診断が変わることも結構あります。
社会福祉制度
休むとお金の心配をされる方も多いので、お金の話もします。
正社員の方、社会保険に入っている方は「傷病手当金」がもらえます。
給与の大体2/3の額で、一年半もらえます。
医療費については診察代や薬代が1割になる「自立支援制度」があります。
通院が長引いている場合は医師に相談してください。
また初診から半年経つと「精神障害者手帳」が取れ、これによって税金が安くなったりします。
これも主治医に相談してください。
病気が長引いてなかなか働けない場合は「障害年金」も考えることができます。
初診から大体1年半経つと診断書を作成して申請することができます。
これも主治医によく相談されてください。
自分で書類を揃えるのが難しい場合は、NPOや社労士さんが手伝ってくれるパターンもあります。
お金はかかりますが、NPO等を利用するのも良いか思います。
今回はうつ病の治療の流れというテーマでお話ししました。
うつ病というのは、悪くなって良くなる流れ、うつ病相というものがありますが、薬を飲むことでこの期間が短くなり、また落ち込む度合いも軽くなります。再発する人もいます。
うつ病
2022.1.25