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傾聴力(聞く力)について精神科医目線で解説します

02:09 傾聴とは
08:10 会話とは?
09:48 実践編

本日は「傾聴力」について解説します。

「傾聴力」とは何かというと「耳を熱心に傾けて相手の言葉、会話を聞く力」のことです。
簡単にいうと聞く力です。
会話の中での聞き役が上手いということです。

この力は最近注目されています。
コミュニケーションが重要だと昨今言われていますが、コミュニケーションで大事なことは上手く喋ることでも上手くプレゼンできることでもなく、「聞く力」なのです。

聞くことで相手から信頼を勝ち取り、結果的に自分の目的を果たすことができます。

精神科医であれば、聞くことで患者さんからの信頼を得ます。
聞くことで患者さん自らが病気のこと、薬の必要性、自分自身のことを理解し治ってくれます。
ですから、聞くということはすごく重要です。
これは恋愛においてもビジネスでも同じです。

聞くことが上手い人はいますが、それを仕事として、プロとしてやっている人というのはそれほど多くはいません。
聞く力や傾聴はどういうところが大事なのか、どういうポイントがあるのか、いろいろな正解があると思います。

精神科医は聞くことをプロとしてやっていますので、精神科医が語る傾聴力とは何か、それは多様な正解の中の解の一つで、いろいろな人に役立つのではないかと思っています。
ぜひ最後まで聞いてください。

傾聴とは

傾聴するということはどういうことなのか。
会話において話を聞くとはどういうことなのかを考えます。

話す人は、話していると気持ちが良いのです。
自分の言葉を発するのは楽しいのです。
歌を歌うと気持ちが良いのと同じです。

自分の思いを喋る、そしてその声を聞くというのは気持ち良いものです。
だから聞くことで気持ち良さを相手に提供できます。
そのような肉体的な気持ち良さを提供できます。

話を聞いて共感してもらうと安心します。
自分の不安や困り事を伝えると、それが解放された感じがするのです。

自分が困っていることを相手が知ってくれる、相手も同じことで悩んでくれるというだけで人はすごく安心するし、気持ちが楽になるのです。
話を聞くことには、そうした共感や解放の作用もあります。

ですが、ただ聞いているだけだと相手はやはり満足しません。
チャットボットについて、患者さんに利するところがあるのかなと思い一時期熱心に調べていたことがありますが、やはりそれだけだとあまり良くないようなのです。

それはなぜかというと、話す気持ち良さ、共感や解放の力があっても、チャットボットは話を整理したりヒントを出してくれたり答えを導いてくれる要素が弱いからです。
チャットボットでは自分が質問したことよりも多くのものが返ってきます。
それは会話としてはすごく不快なものです。
自分が喋ったことよりも相手が返すことの方が多いと不快なのです。

傾聴力は何かというと、相手の言葉をまとめて「要約する力」でもあります。

だいたい30秒~1分、ぎりぎり1分、それ以上長く喋られると会話において不快です。
若い人であればあるほど短い時間を好みます。

短い時間でパッと要約してくれるのはすごく安心するし気持ちが良いことです。
傾聴力は何かというと、要約する力でもあり、相手が気付いていない気持ちや会話の中の謎を言語化する力でもあったりします。

そういうものが全部合わさった時に「信頼関係」が生まれます。

こういうことを良く考えます。
精神科医や医者は話を真摯に聞くことが大事だ、共感することが大事だと言われますが、それは「整理してヒントや答えを出す力」「言語化する力」を軽視している気がします。

これは難しいので人によって優劣がありますが、言語化する力をすごく軽視しているのではないかと思います。

聞くだけなら誰でも真心があればできるということで、そちらを重視しがちです。
日本人は性善説が好きなので、共感が大事という結論で話が終わることが多いです。

曖昧なところで議論が終わるわけですが、それはそれとして、しかし曖昧ではなくて言語化可能で議論を積み重ねるところ、進化ができるところ、PDCAサイクルを回せるところについての詰めが甘いのです。

ですから要約する力もすごく重要です。
なぜ重要かというと、話を熱心に聞いている医者が本当に評判が良いのかというとあまり良くなかったりするからです。
それは良くわかります。

自分自身でもずっと経験しているし、人を雇ったこともあるからわかります。

普段は話がまどろっこしくてこんがらがっていて混乱していて、診察室で30分とか長居する患者さんがいますが、その30分の話を聞いてくれるドクターを患者さんは一時的には良い先生だと言うのです。
ですが、そういう先生と患者さんとの関係はだいたい破綻を迎えます。
良い結果を迎えません。
そして他の患者さんには「あの先生は何もやってくれない」と評判が悪かったりします。

それは、要約したり言語化する力が弱いのだと思います。
傾聴力はただ聞くだけではなくて、受け答えをするときの「要約する力」がすごく重要だと思います。

僕も話をしていて「本当に熱心に聞いてもらった」ということもあれば、短いながらも端的に今の自分の問題点や悩んでいることをパッと返してくれた人の方が「すごく聞いてもらった」という感じがします。
飲み会で1時間とか2時間話を聞いてもらうよりも、5分くらいのプレゼンで一文でもパッと返答してくれた時の方が「ああ、聞いてもらった」という感覚を得ることもあります。

傾聴力というのは要約する力でもあるということです。
だからすごく積極的にコミットする力でもあります。

会話とは?

では会話というのは何なのでしょう。

皆さんはあまり意識したことはないと思いますが、会話とは何かと考えることが大事です。
傾聴力を高めるためには、会話のパターンや目的を意識すると良いと思います。

そもそも喋るよりも聞く方が疲れます。

「診察の後にYouTube動画を撮影していて疲れて大変ですね」と言われるのですが、喋る方が楽です。
YouTubeを撮影している方が診察しているよりも遥かに楽です、聞く方が疲れますから。

会話の中で疲れて自分が喋りたくなるのですが、そこをグッと堪えて聞く時間を増やすのがすごく重要だなと思います。
そこを意識することが大切です。

そうして傾聴力が高まっていきます。
傾聴力が身に付いてくると、人間関係が円滑になったり信頼されるようになります。

また、会話についてですが、会話というのは「できる/できない」ではありません。
そうではなくて、「よりできる/よりできない」なのです。

つまり終わりはないので、少しでも得意になる、少しでも上手になっていくと、一日1センチでも2センチでも良いので、ちょっとでも上達していけば人生が生きやすくなります。
終わりはないですから、日々そういう心掛けをすると良いと思います。

実践編

それでは実践編、具体的なお話しをしていきます。
会話のパターンは色々あります。

恋愛・友人・プライベート

恋愛のとき、パートナーと話をする、新しくパートナーを作りたいときの駆け引き、友人関係を良好にする、そのほか家族などプライベートな会話ではどのような会話が望まれるのか、どういうことをお手本にすれば良いのかというと、YouTubeなどのカップルチャンネルは勉強になるのかな、と思います。

相手を引き立たせてあげるという意識が大事です。
相手に「おいしい」役を渡すイメージです。

相手が可愛く見えるようなボケができる誘導だったり引き立たせる要素を作る、相手の可愛さを引き立たせるためにわざと意地悪をする、相手の面白さが引き立つようにわざとボケたりツッコんだり、そういうことが重要だと思います。
基本的にはツッコミ役を意識するのが重要です。

でもお笑い芸人のようにバンバンツッコむのではなく、優しいツッコミをするのが良いです。
お笑い芸人を見ていてこの人のツッコミが上手いな、好きだなと思うのは、トレンディエンジェルのたかしさんです。ツッコミや合いの手で相手が引き立つのです。

ほかには去年のM-1のオズワルドの伊藤さんも上手いと思います。ほっこりします。
あとは、ぺこぱなどメジャーどころですけれど、良いなあと思います。

とにかく「相手がどうやったら引き立つのか」ということを考えながらツッコミをする、会話をしていくと盛り上がるのではないかと思います。

ビジネス

ビジネスの場合、相手を引き立たせるというよりは、会話はできるだけ「協力する」という感じです。
整理をする協力です。

相手のプレゼンや情報をどうやってより良いものにするのか、ということを考えます。
整理を手伝ったり、足りない情報をシャーロック・ホームズのように推理していくのが大事です。

相手の話を聞いていって、それをロジカルに分類したり起承転結を整理してあげると信頼されるのではないでしょうか。

プライベートとビジネスの場合はちょっと違いがありますね。
もしプライベートの会話で整理整頓をしてしまうと嫌われてしまいます。
逆にプレゼンの場所でプライベートの会話で求められることをすれば、損な役回りになってしまいます。相手が引き立ってしまうので、ビジネスに貢献していない、実力不足に見えるはずです。

精神科医の場合

では精神科医の場合はどうかというと、プライベートとビジネス両方の要素があります。

患者さんに気持ちよく話してもらうための傾聴であったり共感だったり、ときには褒めたりします。

混乱しているのであれば整理してあげるのも重要ですし、診察室にホワイトボードが置いてあるのでゴリゴリに話を整理したりしています。

そんな臨床してていいのか、異端も異端なんですが、まあそんな感じでやっています。
患者さんにはビジネスマンが多いのでビジネスタームを使いながら臨床をしたりしています。

精神科医の場合はどういう会話のパターンが理想かというと、自由連想、患者さんが自分で喋りながら内省してもう一人の自分と会話をする、というような会話ができると良いです。

自分の中で内省が深まり気づくのが重要なので、自由に遊べる場所を作るイメージで話を聞いたりしています。

キャッチャー・イン・ザ・ライ(ライ麦畑でつかまえて)みたいなものです。
患者さんというのは麦畑で遊んでいます。
でも麦畑の外側には断崖があって落ちてしまうかもしれません。
落ちないように、落ちる寸前になったらヒョイと持ち上げてまた戻してあげます。

患者さんは、見えない、でも楽しい、安心した場所で遊んでいる。
このとき患者さんはできるだけ精神科医の存在に気付かない方が良いです。

患者さんは夢中になればなるほど自分の心に深く入っていけるし、本当の意味で自分の心の弱さに気づいたり強さに気づいて治療に活かせるのです。
治癒する瞬間というのは、「熱中している」ものです。

熱中からグッと入っていって、グッと良くなるというのを演出するには、キャッチャー・イン・ザ・ライをやっています。
自由に遊べる場所、患者さんが自由に喋れるような場所を作るにはどうしたらいいのか、ということを考えながら聞いています。

ですが、みんなに自由にしゃべってもらったら良いのかというとそんなことはないです。
例えば発達障害の人だと何をしゃべったら良いのかわからない、そもそも自閉的なところがあって自分で自分と会話ばかりしているので診察室でも同じことをしていると、家にいるのと変わらないということになります。

それでは診察室での会話があまり良い刺激になりません。
その場合は先ほどのように自由にしゃべってもらうというのはだめです。
僕が会話に介入していかなければいけないです。

また重度の摂食障害、重度のパーソナリティ障害、重度のうつ病の人などは、自由にやると混乱したり、浮上ではなく落ち込んで下がっていってしまい泥沼化していくので、自由にしゃべってもらうことはよくありません。

できるだけ軽い人、自分で治してく力のある人の場合は、遊べる場所を作る。
自分で治す力がない場合はできるだけ介入していくことが重要です。

会話は色々なパターンがあり、目的によっても異なります。
この会話はどういうものなんだろうということを考えるのはすごく重要です。

実際の会話のパターンということに関しても、別に正解ではなく、僕はこういうことを考えながら実践している、場面場面ではこういう会話が理想なんじゃないかと思いながら実際に会話をしている、あくまでそれだけです。

傾聴する力というものがあり、それはそもそもどういうものなのか。
正解はないですが、意識することで会話が上手くなるのではないかと思います。
日々考えていくと上手になっていきます。

会話が上手になれば信頼されますし、生きやすくなります。

自分のことばかり考えるのも良いですが、どんな人であれ相手がどうやったら気持ちよくなるのかということを考えるのが、巡りめぐって自分の治療につながります。
傾聴力を意識してもらえればと思います。


2022.1.30

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