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家族や精神科医によって、無理をさせられていないか? ハードルを下げる重要性 自己啓発や成功から距離を取る理由

00:56 自己啓発や成功からは距離を取る
02:49 過剰な頑張り
04:02 頑張りを減らす環境づくり
04:36 不幸や弱さを受け入れる
07:05 良さを活かす
08:20 周囲のサポート
09:23 「やりすぎ」はわからない
10:30 延命処置

本日は「患者さんに無理をさせ過ぎていませんか?」というテーマでお話しします。
サブテーマとして「自己啓発・成功から距離をとる」と付けています。

どうしてこの動画を撮ろうと思ったかというと、最近WEBの記事や出版の人、精神科の患者さんや家族とは関係のない方から取材を受けることが続いていました。
彼らが言うのは、精神医学は一般の人も興味があるので、一般の人が興味を持つような切り口で情報提供をしたい、ということでした。

一般のビジネス書では自己啓発や成功の話が多いのですが、精神科医はそういうものから距離を取ることが多いです。

それは、精神科医は「成功とは何か」を知らないということがまずあります。

医学部進学は受験戦争ではちょっとした勝利ではあるかもしれません。
そこで人より語ることができる点は多いかもしれません。
でも大した成功はしていないわけです。
そこだけで、あとは普通に働いているだけです。

我慢強く働いている、我慢強さという意味はあるかもしれませんが、人様に何かを言うような立場ではないと思います。
ただ精神科医は調子の悪い人や不安な人、不幸な状況から普通の状態になる心の持ち方や変化ということはよく知っているし、語ることはできます。

でも、マイナスをゼロにすることやマイナスの度合いが軽減されることと、+1の人が+100になるのとは意味が違います。
使っている筋肉が違うので、-100の人が-1になるところは、僕らはお話しできますが、+1の人が+100になることはお話しできません。

だから成功などから距離を取っているということもあります。

過剰な頑張り

それともう一つ理由があって、それは患者さんに無理をさせてしまうのではないか、ということです。

成功や社会的な出世の話をすると、患者さんに無理をさせることになるのではないか、と思ってあまり言いません。
骨身に染みてるので僕らはそういうことから距離を取っています。
これは何なんだろうな、と時々思いますが、精神科医的なカルチャー、精神科領域の支援者、治療者のカルチャーです。

そもそも患者さんは、過剰な頑張りを続けてきた人たちが多いです。
そのために疲れが溜まったり、生まれ持った弱さがあったり、不運が重なっていたり、そういうことの上に頑張りが続いて精神疾患になっているケースがほとんどです。
病気になる前もなった後も頑張りすぎていることが多いです。

頑張りを減らす環境づくり

基本的には「頑張りを減らす環境づくり」というのをしなければいけないです。
つまり、ハードルを下げるということです。

患者さんが持っている理想、夢、目標というもののハードルをちょっと下げてあげないと対応できません。

その理想などがあるから頑張らなくてはいけなくて、そして頑張った結果潰れてしまっているわけです。
ということは、その理想や目標を下げるしかない、という話をします。
あきらめましょう、ということを言います。

不幸や弱さを受け入れる

精神科の治療は何かというと、薬は薬であるのですが、この「ハードルを下げる」ということを受け入れてもらう、ということです。
これがなかなか受け入れられないです。

自分の不幸や弱さを受け入れることができないし、受け入れなければいけないという事実を知ったとき、病気になって精神科に来ているので「このまま続けられない」「このままではダメなんだ」と薄々は自分で理解しているのですが、最後のトドメを刺されることになります。

ドクターから「あきらめましょう」と、どういう言葉で、どういう形で伝えるのかわからないですが、言ったり伝えたりしています。

とはいえ、ハードルをちょっと下げても思ったほどダメじゃない、ハードルが下がってもそんなに悪いもんじゃない、ということもわかるものです。

究極的に言えば、病気の重さゆえに精神科の患者さんで生活保護を受けている方はたくさんいらっしゃるし、一人暮らしで家族との縁が切れている方もたくさんいらっしゃるのですが、みんなが不幸ということもないですし、卑屈になる必要もないわけですし、尊敬できる人たちもたくさんいます。

だからハードルをちょっと下げてあげても良いわけです。

転職して給料が減るかもしれないけれど、残業が減る場所に行くというのは全然普通ですし、自分をダメだと思う必要もないです。
ダメだと思ったとしても、それはそれで良さなんです。
これを受け入れる必要があります。

でも受け入れるのは結構苦しくて、衝撃的で、頭で分かっても感情は受け入れられないということがあってすごく苦しいです。
苦しいからそれを緩和させるために精神科医がいて、一緒に会話の中で緩和して衝撃を受け入れる、ということをします。

トラウマや虐待があっても会話をしながら受け入れていく、自分が喋ることで明確化して受け入れていく、喋ったことを相手がドン引きせずに優しく聞いてくれたから「あ、大丈夫なんだ」と受け入れていくということです。

良さを活かす

良さを活かす、強みを活かすという言い方をする場合もありますが、それは主観的な世界の話です。

現実的には病気をきっかけにキャリアアップした、良さが分かったから、自分には得手不得手があって不得意がわかったことで逆に得意なことがわかった。やらないことを決めたおかげで逆に出世した、給料が増えた、ということはほとんどありません。

発達障害の人で苦手なことがわかったから、逆に得意なこともわかったから出世しました、ということはほとんどないです。
だからある種の主観的な世界です。

いや益田はそう言うが、給料は下がっても自分はやりがいが増えて幸福度は上がった、というのは主観的な世界の話です。

主観的な世界であれば、良さを活かす、強みを活かすということを達成することが出来ますが、それはすごく負けず嫌いな人たちの意見かなと思います。
別に負けず嫌いな人たちは負けず嫌いな人たちでそういう風に考えていけば良いわけだし、負けず嫌いでない人はダメでも良いとわかったのだと思えば良いと思います。

周囲のサポート

とは言っても、治療というのはそれだけではありません。
サポートという側面もあります。

合理的配慮、薬物治療、治療者のカウンセリング、月に一回や週に二回、毎週のカウンセリングでもいいのですが、カウンセリングを受けることでようやく心の安定を保てるということもあります。

家族、治療者、支援者のサポートがあって生活のハードルが下がらない、目標が下がらない、下げなくても済んでいるということもあります。

発達障害の人がかろうじて一般就労ができている、サポートがあるから一般就労ができている、カウンセリングを受けているから残業時間も耐えることができている、カウンセリングがあるから夫婦仲が悪くても離婚せずに済んでいるなど、色々あります。

「やりすぎ」はわからない

でもそれって本当に幸せなんだろうか、ということもあります。

本来であればそういう過度なサポートがなければ離婚できているパターンもあるし、どちらが幸せかどうかはわかりません。
毎日苦しいけれど週に一回、二週に一回カウンセリングに来ているから、かろうじて離婚せずに済んでいます、という人たちがいたとして、それってどうなんだろう?と思います。
それはやり過ぎなんじゃないか、ということも考えられます。

でもどれがやり過ぎでどれがやり過ぎでないか、ということはよくわかりません。
客観的な人がいればわかるのかもしれませんが、たくさんデータを取ったら「これ以上はやり過ぎ」「これ以上は治療者の自己犠牲が過ぎる」とわかるかもしれませんが、あまりわかりません。

冷静な治療者、支援者は存在しません。
結局どこまでやるか決めるのは本人や家族だったりします。

延命処置

この話はちょっとわかりにくいので、延命処置に似ているんだろうな、というのは最近僕が考えたことです。

僕も研修医のときにいろいろな患者さんを診てきたのですが、人工呼吸器を繋いでかろうじて延命できている人が何人かいらっしゃいました。

もちろん呼吸器を繋ぎながら復活する人もたまにいるのですが、多くの人はゆっくり衰弱していくパターンがあります。
現代的な医療の力を使って何とか生きている人たちというのもいたりします。薬をたくさん使ったりすることで。

精神科医療でも、すごく支えてくれる家族がいます。
障害を持った子どもたちをすごく支えてくれる家族がおり、その家族の頑張りでギリギリ成立しているという状況も結構あったりします。

じゃあそれはどうなんですか?と言われたらよく分からないです。

それはやり過ぎなのか、それとも今は苦しいけれど、苦しい状況を続けた先には何か変化があるのか、ということは分かりません。
実際、ある瞬間に霧が晴れたように次のステージに移ることもあったりしますから、それはやり過ぎです、意味はないです、とは言えません。

やり過ぎかどうかをどこで判断するのかというのは難しいです。

ハードルを下げるというのは僕らの治療の中で必要なファクターです。
精神科医療の中でハードルを下げてあげるというのはどうしても避けて通れない重要な要素です。
だからハードルを下げることを拒むような自己啓発や成功というものを、メッセージとして僕らが言うということはあまりないんじゃないか、と最近思いました。

話を戻します。

一般の方から取材があったときに、一般の方の興味というのは「成功する」ということなのです。
それを精神医学の中で証言できませんか、と言われたとき、すごく違和感を感じたというか、初めてその違和感に気づいたんです。

一般の方と僕らの違いというのはそこなのかな、と思います。
いかにして諦めるのかということを日々考えているのが僕らの仕事なのです。
すごく嫌なやつ、残酷だなと思う一方、それが精神科医療の一つの側面、障害や不幸に対する人間らしい態度なのかなという気がします。

今回は「無理をさせ過ぎていないか?」というテーマでお話ししました。


2022.2.7

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