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おすすめの本3冊紹介

02:28 「FACT FULNESS」
06:20 「疲労ちゃんとストレスさん」
09:07 「ドナルド・トランプの危険な兆候」

本日は「おすすめの本3冊」というテーマでお話しします。

診察室やYouTubeのコメント欄で「おすすめの本はありますか?」「精神医学や治療、自分の病気を知るためにはどんな本を読めばいいですか?」という質問を受けます。
おすすめするのは結構難しく、なかなか合うものがなかったりします。
診察室だと、この患者さんのこの性格だとこの本がいいかな、ということが説明できますが、漠然と不特定多数の方に説明するのは難しいです。

本は今売れないので、専門書やマニアックなものが多かったりします。
みなさんに知ってもらいたいこと、精神医学の基本的なこと、病気の基本的なこと、治療において基本となるもの、つまり主観ではなく全ての精神科医、全てのカウンセラー、治療者が「そうだよね」と同意する基本的な内容のものは患者さん向けに書籍化されていることはあまりありません。
どちらかと言うと、そうした内容のものは厚労省のホームページや学会のホームページに載っていることが多いです。
結構分かりやすく書いてあります。
無料ですしスマホでいつでも読めるので、どちらかというとそちらをおすすめすることが多いです。
僕の動画もわかりやすく伝えるために作っているので、厚労省のホームページを見たり、僕の動画を観たりしてください、というのが正直な意見です。

とは言っても、そういうものとは別に、精神医学とはどういうことなんだろう、どういう風に考えていけばいいのだろうというような、専門書ではなく、しかし半歩先に進んだことを理解するためには今回取り上げる3冊がとても役にたつのではないかと思います。

この3冊を紹介すると共に、これを読むことでどういうことが身に付くのかということを解説します。

「FACTFULNESS」

1冊目は「FACTFULNESS」です。

この本は売れましたね。僕の動画でも何度も登場している本です。これは良いです。
ハンス・ロスリングさんという人が書いた本です。

どんな本かというと、疫学データから人間の思い込みを指摘する本です。
飢餓の人は何人いるのか、将来はどういう風になるのか、男女差別はどうなっているのか、というところをきちんと統計データで表しています。

その統計データは、皆が考えているよりも遥かに良いデータになっています。
アフリカの貧困は、ヨーロッパやアメリカの知識人が考えているよりも遥かに少ないということがデータで出ています。

つまり、人間には思い込みがある、ということがこの本を読むとわかります。
だから要約すると、疫学データから人間の思い込みを指摘するということになります。

また、世界はどんどん良くなっています。
科学技術や政治体制が変わることで、どんどん世界は良くなっていることがこの本でわかります。

患者さんはやはりバイアスがあります。
過度に悲観的に考えたり、皆に嫌われていると思ったりします。
でも嫌われているのは全体の中の1~2割の人からだけで、他の人は嫌っていないし、むしろ好意的に思っている人も1~2割いたりします。
だけど「皆に嫌われている」と思ってしまったりするし、「自分はロクでもない、能力が低い」と思いがちです。
そこそこできないかもしれませんが、そこそこできるのです。そういう思い込みがあったりします。

世界は悪くなっていく。
人間は、未来を悲観的に考えがちです。
そういうバイアスがあります。
そういうことを指摘するし、そういうことがわかる本です。

科学やデータを重視しなければいけないのです。
権威、思い込み、周囲の意見ではなくて、何かを考えるときには科学的事実や実際のデータに基づいて考えることが重要です。

よく患者さんは「どうしたらいいんだろう?」と言います。
僕は診察室の中でよくネットを使ったりしているのですが、今はネットを調べれば事実は見つかりますから、こういうことなんじゃない?と言ったりします。

権威や思い込み、周りの一部の人、周りの人だけの意見で考えるのではなく、科学やデータを意識するのが重要ということです。
僕の臨床において考えるのであれば、目の前の人の本当の困り事をちゃんと聞く、何に困っているのかということを聞く。
「私は孤独なんです。不安なんです」と言うけれど、じゃあ孤独って実際どうなの、事実としてどういうことが起きているのか。
例えば家に帰ったら誰も話す相手がいないのか、意外と親とは電話しているとか、きちんと事実に基づいて考え、彼らの生活や人生全体をきちんと聞く、ということが重要かなと思います。

思い込みなどではなくて、毎回毎回事実を確認する癖をつけなければいけない、ということがこの本でわかります。

「疲労ちゃんとストレスさん」

2冊目は「疲労ちゃんとストレスさん」という慈恵の近藤一博先生が書いた本です
これは漫画化されているもので、うつ病はウィルスが原因かも知れない、といった研究の本です。

今はヘルペスウィルスが原因なのではないか、腸内環境、腸内細菌がうつに関与しているのではないか、色々なことがわかってきたり、わからないなりにももがいていたりします。
この本は疲労とは何なのか、ストレスとは何なのか、発展的に言えばうつ病とはそもそもどういうものなのか、ということを漫画でアプローチしていく本です。

ここまでわかったよ、という本であるのと同時に、実は全然わかっていないということがわかるかなと思います。
全然わかっていないというのは医者の中では当たり前の事実なのですが、一般の人はよくわからないのではないかという気がします。
何となくうつ病というのはもう解明されているような錯覚があるんじゃないという気がしますが、実は全然わかっていません。

診断や薬への盲信はダメだ、ということです。
かと言って精神医学は全部インチキということではなく、何ができるのだろう、ということを考えていくことが重要だと思います。

色々な科学的な事実から、自分たちはどこまでできるんだろう、観察されたデータから、とりあえずこういう診断やこういう薬が良いんじゃないかというベターなものが国際学会などを通じて出てきます。
ですが、目の前の患者さんに照らし合わせたときにそれが良いのか?ということを考えます。
つまり、何が僕らはできるのだろう、ということを考えるのに良い本かなと思います。

わからないということを手放さないことが重要です。

僕らはわからない中にいて、ベターなことをやっていく。
それが精神医学というか臨床なんだな、ということが、この漫画を読むと良くわかります。
統計的な事実や実験室的な事実から法則を見つけていくことの重要性も、この漫画を読むとわかるかなという気がします。

「ドナルド・トランプの危険な兆候」

3冊目は「ドナルド・トランプの危険な兆候」という本です。

これは最近読んだ本で面白かったです。
この本には、トランプさんは自己愛性パーソナリティ障害だったのではないか、リンカーン大統領はうつ病だった、ニクソン大統領はパラノイアでアルコール依存症だったのではないか、ということが出ています。

すごく衝撃的な本で面白かったです。
色々な人が「トランプさんを大統領にしていいのか」ということで選挙前に出た本です。
なかなかすごいなと思います。

この本を読むと、精神疾患の差別はどういうことなんだろう、ゴールドウォータールール、精神科医は診察していない人の意見を言って良いのか、ということを考えさせられます。

この本では、今回は特別だ、この人を核兵器のボタンをいつでも押せるアメリカ大統領にしていいのか、ということを、アメリカのトップの精神科医の人たち、心理士さんたちが勇気を出して実名で報告しています。
とても悩ましいです。

この本を読むと、自己愛性パーソナリティ障害とはどういうことなのか、自分の会社にいる上司や社長は実はこんな人たちだったのではないか、ということが結構わかってくるのではないかと思います。

重要な点は何かというと「心の中の問題ではない」ということです。

皆さんがうつになってしまうとか不安になっているのは、自分が弱いからとか自分の心の中の問題だけではなく、怖い人、問題がある組織や問題のある人物はいたりします。

システムが故に問題がある人になってしまっているのかもしれません。
大統領になった後にうつになってしまったり、アルコール依存症になったり。そこら辺はすごく考えさせられると思います。
恐らく考えたことがない人が多いと思うので、世界はこうなっているのだという衝撃的な事実じゃないかなと思います。

システムや集団や人間に正解はありません。
よく僕は運とか不運と言っています。
患者さんは不運が重なるから病気になっている、不運が重なるから苦しくなっていると言いますが、そうなのです。

自分が頑張れば上手く行くと思っている人がほとんどです。
ですが、実際は自分が頑張っても上手く行かないことの方が多いわけだし、不運が重なる人もいるわけです。
でも多くの人は自分が頑張ればどうにかなると思っているし、ほとんどの人は、そう思っていない人も、それなりの運がみんなあるのだから、頑張れる範囲で頑張った方がよいと思っています。

だけど、不運と不運がどんどん重なっている状況までは考えていないのです。
100人中の1人の不幸は考えられても、1000人中1人の不幸、1万人中1人の不幸は考えません。
でも精神科医や医者は特にそうですが、1万人に1人発症するような病気をよく診ていたりするので、そこはとても不幸が重なっているのです。
その重なりの中には問題のある人物たちも加わっていたりします。

それは滅多に起きないのですが、僕らは日常で良く見る不運なのです。
でも、それは僕らのような仕事をしていないとわからないのです。
この本を読むと何となく身近な問題としてわかるのではないかなと思います。

精神科医は答えを知っているわけではないのです。
この本を書いている人たちは超天才の人たちで、超優秀な人たちで、超経験がある人たちなのですが、でも迷いながら差別やゴールドウォータールールのことも考えながら告白したということです。
そこは、精神医学というものがどういう形で世界や社会にアプローチしていくべきかということがまだわからない、人類は失敗を無くすことができないということの理解でもあったりします。

上手く説明できた気がしません。でも読むと何となく分かります。
全てを読めておらず、1/3~1/2、斜め読みをしたところもあるのですが、おすすめの本です。

精神医学というのはどういうものなのか。どこまでが疑似科学というか胡散臭いもので、どこからが真実であり僕らの努力のものなのかということが、本を読んでいくと何となく掴めるのではないかと思います。

今回は本の紹介でした。


2022.2.20

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