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自己暗示とプラセボ効果:心の事実は観察困難

01:29 暗示
07:30 治療効果
09:09 患者さんごとの世界観
11:27 「共通の物語」が減っていく

本日は「自己暗示とプラセボ効果」というテーマでお話しします。

心の真実は観察困難だ、ということですね。
これをお話ししようと思います。

患者さんのみならず僕ら治療者もそうなのですが、ついついプラセボ効果や患者さんの自己暗示、ひいては自分自身の自己暗示ということを忘れがちです。
でも心は不思議なのです。

願えば叶うとは言わないですが、考えたことが現実に、思い込むことで体が変わることはめちゃくちゃあります。
自分は病気じゃないと思い込めば本当に病気が治ってしまったり、自分は病気なんだと思い込むと本当に病気になってしまうということが起きます。

これはすごく摩訶不思議というか、考えれば考えるほど訳がわからなくなる現象なのですが、そういうことがあります。
自己暗示やプラセボ効果の部分と、実際に脳の中で起きている出来事や科学的事実の按配を常に考えながら治療することは重要だし、重要なのですがなかなか難しいという話です。

暗示

暗示と言われてもよくわからないことが多いと思うので、それをちょっとお話しします。

症状の暗示、例えば「自分は今こういうことで悩んでいます」「私にはこういう症状があります」「私は忘れっぽいんです」というのは、どこまでが本当でどこまでが自己暗示なのかということがあります。

自己暗示なのか演技をしているのか、演技というかそこを強調してその困り事を盛っているのか、はたまた診察室の中で嘘をついているのかということを判別することは結構難しいです。
その嘘も本人に自覚のある嘘なのか、無意識的についている嘘なのかとか考えると何だか訳が分からなくなります。

僕たちは患者さんと診察室でお話ししているのですが、実際家族の中でどんな会話をしているのか、家族の中でどんな会話をしてきたのか、会社の中でどういうことをしているのか、どういうことが起きているのか、ということは見ることができません。
患者さんの口から語られる主観的な事実しかわからないので、その主観的な事実の中からよりベターな解答、ベターな方法を探っています。

いやいやうつ病はあるでしょ?PTSDとか発達障害はあるでしょ?と皆さんは思うかもしれませんが、病気の流行というものがあります。
流行があるということは、暗示によって脚色されている可能性があるということです。

例えば昔は、真ん中に1970年と書いてありますが、精神医学ができた当初、1880年~1890年くらいは急性精神病、ヒステリーや解離性障害が結構多かったと言われています。
急に足が動かなくなる、声が出なくなるというヒステリー反応、急に錯乱して幻聴が聞こえた、妄想、狐に憑かれた悪魔に憑かれたということがありました。

そもそもカウンセリングの始まりは催眠術なんです。
だから催眠術によって治療をしようということをフランスのシャルコー先生などが言い、そのシャルコー先生にフロイトは学びに行ったというところからスタートしています。

当時はこういう病気が流行っており、それは聖書の影響による流行りなのか、治療者側がこういう病気があると治療者側のバイアスで見ていたのかはわかりませんが、ヒステリーや解離、急性精神病の患者さんは結構いたみたいです。

1970~2000年ぐらい、薬ができるかできないかくらいのとき、精神科の中で薬物治療がメインになりつつある段階で、境界性パーソナリティ障害についての診断が増えたと言われています。

そもそも境界性とは何かというと、見捨てられ不安が強かったり、操作性(理想化とこき下ろし)と言って、相手、治療者だったり恋人だったり家族を「素晴らしい人」と言ったと思ったら次の瞬間「最低だ」と言ったりする人です。
そして感情の起伏が激しい人を境界性パーソナリティ障害と言ったりします。
自傷やリストカットが多いのもそうです。

この「境界」とは何かというと、精神病(統合失調症やうつ病)と神経症と言われる不安障害の間にあるもの、それを「境界性」と言ったりして、話をしていっても質的に壁にぶち当たるような困難さがあるが、かといって薬が効くわけでもないというのを境界性といい、そこから来ています。
こういうものが流行りました。

最近は、境界性パーソナリティ障害と診断することは減りました。
実際、僕が臨床をするようになってからは、本当に少なくなったと言われています。
先輩のドクターからも言われています。

どちらかと言うと、それまで境界性パーソナリティ障害と言われていた人たちは双極性障害II型、PTSD(トラウマの影響)、ASD/ADHD(発達障害)という風に診断されることが増えました。
人格障害というよりは発達障害、双極II型という風に変わってきています。
実際症状も変わってきています。

ここら辺はインターネットの影響で、自分は発達障害かも知れない、という人が増えてきています。
だから診察室でその部分が強調されているとも言えるし、医学が進んだ結果、発達障害の知的な問題の凹凸なのではないかと言われることが増えたのかもしれません。
悩ましいです。

あくまで病気の年代別流行はイメージとして捉えてください。
本当はこれの元になる引用元の本があったのですが、暗示性という文脈で病気の流行を伝えていたわけではないので、あまりこれを引用ですというと迷惑かなと思い、アレンジして自分なりの形に変えました。

流行があるということは症状に暗示性があるということです。
そして治療者も影響を受けている、流行りの病名に従いやすいということがあります。

治療効果

次に暗示性というと治療効果です。
治療効果も暗示性があります。プラセボ効果も強いです。

本当に薬が効くのかどうかというのは、プラセボの効果も含めて考えなければいけないということがあります。

プラセボ効果というのも重要です。
それは薬物治療だけではなくて、精神療法にも流行というかプラセボ効果はもちろんあります。

ヒステリーの時代は催眠術から精神分析に移りました。
そこから認知行動療法が流行って、今は認知行動療法の第三世代、マインドフルネスに移行しつつあります。

治療効果はプラセボ効果も含めて考えるとやっぱり変わってきていると思います。

ただ元を正せば、人類は心の悩みに薬物以外のことでアプローチしてきました。
宗教や哲学、仏教や儒教、そういう教えがあり、その教えで心を癒してきたということがあるので、それも含めると面白いなと思います。

逆に、昔やっていた仏教の偉い人がやっていたような治療を現代でやろうとしても、プラセボ効果が落ちているので同じような治療効果が得られなかったりします。
そういうことを考えると、面白いと言ってはダメかも知れませんが、不思議だなと思います。

■患者さんごとの世界観

じゃあマスダは発達障害の診断を広めにとって良いのか?という話もあるのですが、それは結局相手の考えている世界観に踏み込んでいかなければいけないので、ある程度流行りも意識することが重要なのではないかと思います。

患者さんの頭の中で起きている事実を捉えることはできないわけです。

事実ではなくて若干の影響、自己暗示性を含めたものが自分の中で起きている主観的な世界なので、患者さんの主観的な世界から離れすぎたこと、いやこっちが事実なんだよ、と言っても仕方ないわけです。
そもそも治療者の考えている事実も本当の事実かどうかもわからないのです。

僕らが頭の中で行うことは、患者さんの主観的な世界をイメージすることです。
エミュレーターみたいなものです。
僕の頭の中で患者さんごとの世界観に合わせた世界を作り直していって、そこに対して適切なアプローチをしていくことが重要なのです。

その患者さんが今悩んでいることが双極II型だったら、双極II型として治療していく。
それは薬の副作用があるとかないとか色々な要素がありますが、その世界観の中で本当に適切なことはどうなのか、且つ、患者さんの体に害を与えない、患者さんが自分でこの病気なんじゃないかと思い、だから薬をくれ、だと問題があります。
その可能性は捨てきれないな、じゃあこの薬は使えるな、というギリギリのラインを狙うのが臨床です。この話をするとが長くなるのでやめますが、そういうのはあります。

発達障害だと自分たちが思っているときに、それを否定するのではなくて、発達障害だとすればこういう治療がある、こういうことに困っているならこういうやり方がある、ということを考えていくのが重要かなと思います。

流行りというのも意識しないといけないと思います、プラセボ効果が乗りますから。

「共通の物語」が減っていく

もう一つ思うのは、「共通の物語」が減っていく、ということです。
今までは患者さんと自分たちの世界観や流行が似ていました。
治療者と患者さんの流行が似ていたのですが、この流行がどんどん離れていっています。

この患者さんは発達障害だと思っているけれど、この患者さんは双極II型だと思っている、境界だと思っていたり、ヒステリー、解離だと思っていたり、とにかく共通の物語が減っている、ということです。

どうにかして共通の物語を取り戻さなければいけない。
患者さんが信じている世界、インターネットで自分で調べてきた世界と本当の精神医学がずれていた場合、どうやって治療に引き戻すのか、こちらの世界観に連れて行くのかということは、結構難しいです。

相手の世界観に乗っていたら問題が起きることが多いで。
HSPは精神医学ではないですが、精神医学かのように振る舞って、患者さんは「自分たちはHSPだからHSPに準じた認知行動療法をしてください」と言ったりしますが、それは我々は知らないものだったりするので、良くないなと思ったりします。

独自の世界ではなく共通の物語をどうやって作って行くのかを常に考えています。

YouTubeはやはり共有できることが増えてきます。
YouTubeを見続けたり情報発信をすることで同じような世界観でやっていけるので、そうすれば治療効果は高まってきますから、良いのではないかと思います。

何度も言っていますが、新しいもの、流行りのものを上手く治療に取り込むのは治療的な意義があるのではないかと思います。

今回は自己暗示とプラセボ効果について解説しました。
もしよくわからなかったらコメント欄に書き込んでください。
このテーマは面白いので、再生回数にもよりますが、また整理して語ってみようと思います。


2022.2.21

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