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若い有名人、天才が精神疾患になった時の特徴と治療の注意点

02:45 才能、努力、運
04:56 運と不安
08:19 親子問題
10:12 孤立、誹謗中傷
11:49 治療者側の問題
16:26 大暴露の恐怖

本日は「若い有名人・天才の治療」というテーマでお話しします。

こういう仕事をしていると、患者さんの中には有名人やスポーツの天才、学者で偉い人やその家族、政治の偉い人、経済界の偉い人、本人や家族が来られたり、同じ精神科医、医師で偉い人が来たりします。
実際に治療することもあります。

身近だと通いにくいので、僕のような末端の所の方が来やすいということもあるようです。
上の人は上の人で繋がっていたりしますが、僕みたいな開業医の町医者は、ヒエラルキー構造の中でいうと底辺なのです。底辺の方が来やすいということもあって来ることもあります。

もちろん僕もずっとこういう場所にいたのではなく、大きな病院に勤めていたこともあるので、その時にはそういう時なりの出会い方をしました。

たくさんの数を診ますし色々な人と出会うので、そういう人たちともいつかは出会うという感じです。有名人も一定数いるので、どこかで出会います。
地方にいると有名人はなかなか会わないですし、たまに町でウワーっとなりますが、東京にいると普通にいます。

こういう人たちの治療にはどのような特徴があるのか、どういうことを不安に思っているのか、どういう危険性があるのかということを皆さんと共有しようかなと思います。

よく若い天才、若いスターが自分で命を絶ってしまうことがあります。
そのこともこの話を聞けば何となく理解できるのではないか、と思います。

才能×努力×運

本人の特徴はどういうものかというと、やはり大変です。
トップ層にいるということは大変です。

食う食われるの世界ですし、本人の才能と努力が当たり前のように必要です。
そこに運も絡んできます。

才能、努力、運の三つが掛け合わされなければ天才と呼ばれません。

才能と努力だけだと世間には知られず、どれか一個欠けていてもダメなのです。
努力と運だけだと輝きが足りず、才能と運だけだと人間味がないです。
難しいです。

本人の才能と努力と運の要素を限界まで引き出したものが、有名人や天才と呼ばれるものだったりします。
僕はよく、精神科の患者さんというのは特殊な体験をしている人たち、不運が重なった人たち、と言いますが、このパターンも逆といえば逆ですが、同じです。

サイコロを振って「6」が連続で出ることはないですよね?
「6」が3回連続で出ることなんてなかなか無いわけです。
それでも 6x6x6 だから216分の1で起きるのですが、216分の1なので「6」が2回連続で出ても次も「6」だとは皆思わないわけです。
でも出ることは出ます。
そういうものです。たまにいる、ということです。

だけど確実にいるのが天才や有名人と呼ばれる人です。
10年に一人の天才とは10年に一人分くらい空く椅子の天才ということだったりします。
大体そういう椅子は誰かが座るので、今回座っているのはこの人たちということです。

運と不安

「運」の要素が結構厄介です。
ちょっとセンスが悪い天才であれば、運の要素は考えず才能と努力しか考えないのですが、普通の天才であれば運の要素には意識的に気付いています。

だからすごく不安になったり、自分になぜ運があるのか、ということに悩み始めて、宗教という意味ではなく特殊な自分なりの信仰を持ったりすることも結構あります。
信仰については半分無意識の領域でもあるので、治療的に突っ込むとめちゃくちゃ機嫌が悪くなったり、信頼を失ったりするので、用心深く扱う必要があります。
そういう思い込みというか認知の歪みがあります。

やはり競争なので、ゲームっぽく言うと「環境メタ」を意識しないといけません。
オールマイティでは勝てないのです。
全部の能力が優れていたら勝てないので、その環境に合わせた能力を特化させていかないと業界では勝てません。どこか特殊型という感じがあります。
環境を意識した特殊な能力を持っている人たちが多いです。

全部できる人がたまにいます。
防衛医大にもいました。運動もできて、頭も良くて、性格もいい人がいました。
たまにいますが、かなり少ないです。
世間でいう有名人や天才の中でもかなり少数ですが、いることはいます。
僕目線でのオールマイティなので、彼らは彼らなりの環境メタがあるとは思います。

尖っていないといけないので、普通の人なら持っている、同じ年齢の人なら持っている概念というか知識や経験がない、ということがあります。
すっぽり抜けてしまっていることがあります。

二面性と言ったりしますが、まさにそうで、皆に見せている、皆が見ようとしている部分は大人で優秀な顔ですが、裏ではすごく子どものような心を持っています。
それは、純粋無垢な子ども、という意味ではなく、何も知らず怯えていて、自分の力ではどうしようもないという無力感に支配されている子どもという側面を持っています。

自分の力で世の中を動かしているように見えて、あまり動かせてない、天才というのはそういうことです。
たまたまその流れに乗せられているのが天才の条件、そう思えないと天才とはいえないということがあります。

彼らはすごく不安です。
メンタリティはお金持ちの息子たちと似ています。
どうして自分たちだけ恵まれているのか、ということがよくわからないし、その椅子を降りることもできないし、なかなかややこしいです。

親子問題

親子問題が絡んできます。

どんなに素晴らしい親、教師であっても、どんなに色々なことがわかっている親や教師であっても、彼らの心の不安を取り除くほど優れた親にはなれないのです。

期待もしてしまうし、教育や育成に協力しなければいけないし、距離の取り方も難しい。
単純に期待をかけすぎて潰してしまう悪い親もいれば、それが分かっているから期待をしないようにしようと天才の子どもたち、有名人の子どもたちの不安を助長させないように、期待しないようにしようとしても、それはそれで距離感があったりして子どもたちは不安になります。

親の教育や育成なしに今日の天才はあり得ません。
スポーツや芸術、東大、何でも良いのですが、東大を天才と言うかどうか分からないですが、まあ天才ですよね。東大とか医学部へ行くというのは、そういう人たちも親の教育抜きにはなかなかそういうことが難しいので、それなりの手間がかかっているという感じです。
大変だなと思います。

スポーツの世界は特にそうです。
親の援助なしに本人の力だけで若い時期に成功するのは無理です。それだけ競争が激しいですから。

同年代から憧れられたり嫉妬されたりして、何となく友だちが作れない、作りにくかったりします。孤立している感じです。

孤立、誹謗中傷

では同じ天才同士、優れている同士だと安心できるかというと、それはそれで相手は相手で問題があったりします。
こっちも悩んでおり相手も悩んでいたりしてバッティングすると、うまく行くときもあればうまく行かないときもあります。そうすると喧嘩になったり、裏切られたという感じもするかもしれないので、概ね孤立してしまいます。

SNSで誹謗中傷を受ける危険や体験をしていたりします。
結構辛いです。

誹謗中傷を無視して良いのかという話ですが、ぶっちゃけ無視しても良いのですが、彼らは無視できない部分があります。それでお金を稼いでいるからです。
人気稼業だと分かっているのです、人気稼業は運だということなので。

無視して自分のお金が減るだけなら良いのですが、天才や有名人はチームなのです。
本人が稼ぎ頭になり皆のサポートがあって稼いでいます。チームや責任を負わされているのです。
若くして責任を負わされているので、めちゃくちゃ苦しく、無視できず、混乱があったりすると思います。

治療者側の問題

これも自分たちにとっては耳が痛い話ですが、治療者側、治療者チームの問題もあります。
治療者側が変に遠慮してしまったり、すごい人だと思うのでいつも通りに接することができず、逆転移を引き起こしてしまう、妙に陽性転移を起こす、陰性転移を起こすなど治療者側の感情も揺さぶられます。
チーム側も、あの有名人だからお前は診るな、オレが診たい、教授に任せる、ということがあったりします。
そういう風になるので普段通りの治療ができず上手く行きません。

本音はどうなのかというと、本当の本音ではみんな面倒臭い…面倒臭いというとアレですが、みんなそれなりに患者さんごとに色々問題があったりするので、有名人だから、天才だから普段より大変だということは無いのではと思います。
他の面倒臭さもありますから。

摂食障害の人なら摂食障害の大変さがありますし、ギャンブル依存はギャンブル依存の大変さがあります。
手間のかかりにくい人たち、薬だけもらってすぐ帰ってしまう人たちもいますが、そういう人たちはそういう人たちなりの大変さがあったりします。

どこも気を遣いますが、普段は遣わない気の遣い方をしなければいけないですよね。
それはその通りだと思います。治療ですから。

こういうことも含めて、彼らの体験、これまでの人生、今まで過ごしてきた特殊な体験を理解したり概念化していくことが結構難しいです。
治療者側にとっても難しいし、ましてや患者さん本人にとっては難しいのではないかと思います。

僕らは自分の不安や困難、悩みを言語化したり概念化していくときに、他人の経験を利用します。
自分の親もこういう風に悩んだから自分も悩んでいるんだ、だから普通なんだ、だから自分も苦しいんだ。
友だちはこういう風に思っているし、僕もこう思っているんだ。
自分の気持ちを正に言い表してくれているな、共感してもらえるな。

そういう形で自分の気持ちを概念化して、自分とはどういうことだったんだろう、自分の悩みは何なんだろう、と理解していくのですが、天才や有名人はとても特殊な経験をしているので、なかなか彼らに合った、彼らに共感してくれる文章やコンテンツ、身近な人、経験者はいません。
だから言語化したり理解していくのが困難です。

難しいのは治療者側にとってもそうですが、全くできないことはないです。
ですが、結構難しいと思います。
でもこうやって「難しい」と言っていることがそもそも転移というか特別視しすぎている感じもするので、でも同じ人間同士なので、同じ患者さんたちなので、普通にやれば良いのです。

…と言いつつ、普通に接してはダメなんです。
普通に接していると、今度は患者さん側が「何かこの人、いつもと違うんだけど」みたいな感じになります。
「いつも可愛いと言ってくれるのに、この人可愛いと私のこと言わないのは何でだろう?」となります。

特別扱いをしないならしないで、いつもと違うと思って不安になりますし、だからといって僕らが他の同年代の患者さんを扱うように扱ったら良いのかというと、それはそれで違ったりします。
ややこしいです。

そういうのが特徴かなと思います。
どういうバランスで付き合っていくのか、治療していくのかということが結構難しかったりします。

大暴露の恐怖

「大暴露の恐怖」と書きましたが、彼らは好奇の目に晒されています。
彼らは色々な人から注目されています。
注目されているから彼らのプライバシーは暴露されがち、暴露して欲しいと思われがちです。

仲良くしていたはずの人なのに裏切られた、暴露されてしまったという経験があり、それで自分が傷ついただけなら良いが、そうではなくて親に迷惑をかける、サポートしてくれるチームメンバーに迷惑をかけてしまう、という恐怖があります。

自分だけが傷つけば良いのではなく、周りも傷つく、より自分の方が傷つくが周りも傷つく、そして周りが傷つくことでより自分が傷つくという負のループがあり、常に暴露の恐怖に襲われています。

暴露する側も当然います。
それは嫉妬心だったり見栄だったりがありますが、周りの人が全て優しいわけではなく悪い人も当然いるのでそういうことがあるかなという気がします。恐怖があ理、警戒心を解けない。

誰に頼ったら良いかわからず、これまでの人生の中で頼るべき親たちに頼れていない、頼ることが難しい、本当の意味で頼ったことはないのです。
すごく苦しい。
でも頼っていたら成功もあり得ない、という世界です。
よくわかります。

…が、よくわからないです。
そんなに成功したこともないので。
わからないですが、理屈の上ではよくわかります。
そうなんだろうな、と思います。

早稲田という土地柄、結構そういう人たちはいます。
お金持ちの子どもたちの心理にも似ています。

昔はうちのクリニックも夜やっていたり、初診を結構取っていたので多く来ていましたが、最近はお陰様で予約が取りにくくなったのであまりそういうこともありません。
でも時々患者さんでいらっしゃいます。

こういう話を聞くと、これを見ているYouTuberや有名人の人は「こういうことかな」と理解しやすいかもしれません。
逆に僕たちはこういうつもりで診ているので「自分は珍しいけど、珍しいと思っていないんだな」と思ってくれるかもしれないし、スターの孤独感も一般視聴者の方にもわかってもらえるかな、と思います。

でもみんなと一緒ですよね。
本当にそう思います。
何かの参考になれば幸いです。


2022.3.6

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