本日は、「うつ病ですね、となぜ精神科医は簡単に薬を出すのか?」というテーマでお話します。
「精神科の先生は簡単にうつ病と診断しますよね」「なぜ簡単に薬だけ出すんですか」という質問はよく聞かれるし、ネットでもよく見ます。質問というか愚痴ですね。
これについて僕が本音で語ってみようかなと思います。
主に4つの要素から成り立ちます。
1番目の要素が大きいので、これを丁寧に話します。
コンテンツ
話を全然聞いていない
簡単に薬を出す、というのはどういうことかというと「話を全然聞いていないじゃないか」ということです。
話を全然聞いていないのになぜ診断ができるんだ、話を全然聞いていないのになぜ診断の上この薬が妥当だとわかるのか、ということです。
答えは、当たり前ですが「工夫をしているから」です。
短い時間の中でも結論が出せるように、病気の説明が出来るように工夫しています。
診察時間は決まっているので、その中で上手く工夫しています。
また、再診などを利用して、さほど重要ではないこと、今緊急で必要でない情報はちょこちょこ取ったりしているのが本音です。
・聞いて欲しくない人もいる
もう少し知ってもらいたいのは、そもそも話を聞いて欲しくない人、話す余裕がない人もいるということです。
うつで精神科に来る人は調子が悪い人が多いので「そんなに聞いてくれるな」という人も多いです。
もっと聞いて欲しいと思っている患者さんがいる一方、できるだけ最小限で済ませたいという人も多いです。
そういう人は話すと悪化してしまいます。
そして見分けるのが困難だったりもします。
この人は話したいのか、この人は話すと悪化するのか、話したくないのか、ということを見分けるのは難しいです。
益田がセンス悪いんだ、と思うでしょ?
でもそうじゃないんです。
うつ病の人や精神科の患者さんは、ご本人はそう思わないかもしれませんが、表情や相づちからどれくらい話したいのかを察するのがすごく難しいです。
なので間をとっているということもあります。
・忙しい、混んでいる
皆さんがご存知の通りドクターは忙しく、混んでいることがあります。
これは結局、医師不足でアンバランスです。
精神科の患者さんは400万人いますが、精神科医の数は1万5千人くらいです。
精神科の患者さんはどんどん増えているので、従来通りの働き方をしていてもどんどん医師が足りなくなります。
入院のケースを診たり、僕も年間800~900人の患者さんを初診、再診含めて診ています。
良くなった人は途中で来なくなったりしますが、800~900人くらい診ています。
僕は週5で1日8時間くらい外来をしています。
それでも400万人中の800~900人くらいしか診ることができません。
多くのドクターは週5も外来はしませんし、僕もこんなに外来をできるのは今だけだと思っています。
40代、50代になってきたら結構キツいと思います。
だからどう考えても厳しいです。診きれません。
アンバランスだということです。
・保険点数
保険の診療点数もいびつです。
初診のときは60分で540点、540点というのは5,400円ということです。
これは精神療法のみです。
他に初診代、薬の処方代もかかりますが、精神療法という加算分だけ見ると、60分で540点です。
再診だと30分以上で400点、5分以上だと330点です。
いびつです。
5分以上をたくさんやるとクリニックは儲かります。
だから再診は5分以上で回している、ということです。
いやいや、儲けたいだけだろ、と思うかもしれませんが、これで回さないとクリニックが潰れます。
30分で400点もらえても70点しか変わりません。700円の差です。
こういうことがあります。
でもそれをしないといけない感じ、そもそも医者が少ないことと併せてすごくジレンマになっています。
そういう中で時間を割くのが難しかったりします。
SSRIは優秀な薬
SSRIという抗うつ薬が適応範囲が広く優秀です。
副作用が少なく、効果は高く、良い薬です。
範囲が広いというのは、うつ病の人にも使えるし、不安障害の人にも強迫性障害の人にも、月経前気分不快症の人にも使えるということです。
抗うつ薬は幅広く使えるので優秀です。
まずこれを出して間違いはないだろうということがあります。
もちろん出してはダメな疾患もあります。
双極性障害の人に抗うつ薬を出すと躁状態になってしまうリスクがあります。
統合失調症には悪くはないですが幻覚妄想には効きません。
発達障害の人の場合、うつは良くなりますが、そもそもの不注意などの問題は解決しないので合っていません。
しかしこうした例外は少なく、ほとんどの疾患の人に抗うつ薬は有効です。
患者さんは、迷わず出しているのかな、適当に出しているのかな、と思われるかもしれませんが、薬が優秀で間違いがないです。安心して薬を出せます。
もちろん考えますが。
病気の背景
「トラウマや生い立ち、人間関係の問題などいろいろあるのでケアしたいんです」「カウンセリングも併用したいです」という人もいます。
そもそもうつが良くなればトラウマなどを扱わなくてもよいケースが多いです。
どちらかというと薬と休息で良くなって、昔の嫌なことを思い出して喋らなくても良くなる人が多いです。
だから話をじっくり聞かなくても良いし、逆に話すと悪化することもあるので、悪化させずに薬と休息で様子を見て、そろそろ喋る元気が出てきても、そもそも良くなったので話さなくても良いということが結構あります。
だから聞かないということがあります。
精神科での会話の特殊性
精神科で会話をすることはちょっと特殊です。
喋りたい、発散したいという患者さんの欲、不満を発散する場所、満たす場所ではありません。
何のために精神科医は喋るのか、対話をするのかというと、内省を深めるため、治療上必要な行為だと判断した場合に会話をします。
病気の調子が悪いときは話して楽になりたい、話せば楽になるんじゃないか、と皆さん思いますが、話しても良くならないし、話せば話すほど伝わらず、よりフラストレーションが溜まることもたくさんあります。
僕はカウンセリングや精神療法は好きですし、今もこういう風に色々説明していますが、これが完璧ではありません。
喋ることやカウンセリングが全てではないと思います。
こういう制限もあってだいたい落ち着いているということもあります。
なぜ精神科医は簡単に薬を出すのか、話を聞かないのか、とよく聞かれます。
よく議題に出てきますが、色々な理由があります。
もし保険診療が、30分が10分、60分が40分だったらどうなっていたのか、ということがあります。
この5分が適切なのかということがあると思います。
決められているからそうやっているんじゃないの?という見方もできます。
そういう枠組み、構造が決まってから理論があるんじゃないの?理屈があるんじゃないの?という気もしますが、しかし今はこうなっているのでやっているということです。
本音はこういう感じです。
ややこしいですが結論としては、みんな悩みながらやっているということ、薬は優秀だということ、何でも話せば良いわけではないということだけ分かってもらえればいいんじゃないかなと思います。
今回は、「うつ病ですね」となぜ精神科医は簡単に薬を出すのか?ということをテーマにお話しました。
精神科医の裏側
2022.3.16