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「うつ」をよくする3つの自己トレーニング 

01:53 身体の整え方
07:09 心地良い人間関係
08:48 概念の拡大

本日は「うつを良くする3つの自己トレーニング」というテーマでお話します。

精神科の治療は、ドクターに言われた通り薬を飲んで休んでいれば治る、というものではありません。
もちろん病気によってはそれだけで治る人もいますし、ドクターの指導を受けなくても自然と自己トレーニングをやることで良くなる人もいます。

ただ、多くの人は薬を飲んで休んでいれば治るというものではなく、自分で学んだり工夫していかないとなかなか良くなりません。
どういう工夫をするべきか、どういうことを心掛けるべきか、ということはドクターからアドバイスがあったりしますが、網羅的な説明を受けたことはあまりないかもしれません。

今回は僕の思う3つの柱をお話しします。
3つの柱を中心に、こういうところを心掛けたら良いよ、ということを網羅的にお話しますので、最後までご覧頂いて参考にしてください。

3つの柱は何かというと、
・身体をどう整えるか
・心地良い人間関係をどう作るか
・知識をどう身に付けるか(概念をどうやって拡大していくか)
です。

身体の整え方

身体の調子を整えた方が良いです。
頭と身体はつながっているので、身体の調子が良くならないと心は健康になりません。

うつの人やパニック、他の精神疾患でも、ドクターのことが信じられない、ドクターが怖いなど色々な感情を持つ方がいます。
ただの他人、職業人なのに、どうして複雑な感情を持つのか。普段以上に信じられない/信じられると気持ちが揺らぐのかというと、それは「身体の調子が悪いから」です。
当たり前といえば当たり前です。

吊り橋効果という言葉を聞いたことがあると思いますが、吊り橋のようなドキドキする場所で男女(男女でなくても良いのですが)が一緒にいると恋愛をしたような錯覚に陥ります。
ドキドキしている→横にはパートナーになり得る人がいる→ドキドキが恋のような感じがする、というものが吊り橋効果です。

同様に、体調が悪いときに人の話を聞いていると責められているような感じがする、体調が悪いときに強い口調で言われると叱られているような感じがする、ということがあります。
実際にはドクターは患者さんを叱ってもいなければ怒る必要もないのに、そのように感じてしまいます。

なぜそういう風に感じられるかというと身体の調子が悪いからです。
身体の調子が悪いときは、被害的に受け取ったり、怖く感じたりします。
だから身体の調子を整えることは大事です。
身体の調子が整ってくると自然と心の方も(脳も)良くなったりします。

身体の調子をどうやって整えるかというと、まず「寝る」ことです。
薬をしっかり飲むことは当然ですし、休職が必要なら休職することが当然ですが、本人が心がけることとしてはまずは睡眠をきちんととることです。
規則正しくちゃんと8時間くらい寝る、可能なら昼寝もとります。

落ち着いてきたら運動も必要です。
健康的な運動量はどれくらいかというと、1日1万歩はキツいかもしれませんが、5~6千歩くらいは歩いた方が良いです。
その方が良く眠れます。

健康な人は1日1万2千歩までは歩くと寿命が伸びるようです。
そういうエビデンスがあります。
また週2回以上筋トレするのが良いようです。
そこまで出来ないとしても、5~6千歩を目標としてやってみるのが良いと思います。

ここには書いてありませんが、食事も脂っこいものを食べ過ぎない、ということもあります。
お酒を飲み過ぎるのは健康を害します。

スマホを1日中やっていると体調が悪くなります。
1日8時間とか10時間とかいじっていると調子が悪くなるのは当然なので、スマホの時間をいかに減らすか、ということです。

身体を整えるといえば、今流行りなのはマインドフルネスです。ヨガや瞑想です。
きちんと目を閉じてゆっくりと呼吸をします。
呼吸をしながら頭に浮かんでくる色々な雑念をそれに支配されることなくただ追いかけてみる、雑念をただ眺めるのではなく、自分のゆっくりとした呼吸や手足のぬくもり、心臓の鼓動に集中していく、どちらでも良いと思いますが、そういう形で心を整えていく力、技術を身に付けることです。

習慣化する力を身に付ける、ゲーミフィケーション(ゲームの要素や原則をゲーム以外の物事に応用すること)をモチベーションのために利用する、そういう技法を学ぶなどもあります。

身体を整えていくことは非常に重要です。
心が落ち着いてから身体を整えましょう、ではありません。
今落ち着かないからとりあえず暴飲暴食は許すことにしよう、落ち着かないから夜にゲームをしたり映画を観ることを特別に許可しよう、ではありません。

気持ちはよく分かりますがそれだと良くならないので、まずは身体を整えることが重要です。

心地良い人間関係

2つ目に重要なのは心地良い人間関係です。
人間関係が良くないと心身は健康になっていきません。

いやいや、私は人間関係が少なければ少ないほど良いんだ、調子が良くなるんだ、という人もいますが、じゃあ無人島で暮らしていて誰とも喋らなければ良いのかというとそんなことはありません。
多くなくても良いのですが、心地良い人間関係は必要ですし、 必要です。

複数の場所で心地良い人間関係が必要です。
家族だけが心地よければ良いです、ではなく、家族の人間関係もあれば、職場や友だち、オンライン、趣味の集まりなどいくつかの場面で心地良い人間関係を作ることが重要です。
調子が悪ければ環境調整をして、パワハラ、モラハラをしてくる人とは距離をとったりすることが重要です。

自分の問題と他人の問題をごちゃごちゃにしないということが重要です。
相手のことを心配してあげるのは良いですが、それはあくまで相手の問題です。
相手の問題に引っ張られ過ぎないことも重要です。

心地良い人間関係を作り上げるにはどうしたら良いのか考えるのが、2つめに自分でやらなければいけないことです。

概念の拡大

3つ目に自分でやらなければいけないのは、概念の拡大、知識を身に付けるということです。
僕のYouTubeもそうだし、診察の中でも色々あると思いますが、心理教育、脳科学から精神医学のことを学んでいくということです。

それ以外にも自己理解、自分の診断や病気、家族関係、生い立ち、会社や業界、ライフステージ(年齢に伴う課題)、20代なら20代、30代なら30代、40代なら40代なりの悩みや学ばなければいけないことを学ぶ。
認知の歪み、白黒思考や完璧主義、自己否定が強くないか、自尊心が低下し過ぎていないか、奉仕し過ぎていないか、逆にナルシシズムが強くて自分を特別視し過ぎていないか、ということをきちんと理解します。
同じように他人のことも理解します。

しなやかな思考、柔軟に物事を考える、こだわり過ぎないことが大事です。
合理的に考えることが重要です。

こういう力を身に付けていくことが大切です。

新しいことを知るには、知る痛みを伴います。
自分が思ったほど自分は優れていない、自分はさほど愛されてなかった、自分は優れてないが自分で考えているほどダメでもないなど、何でも良いですが知ることは辛いです。痛みを伴います。

だけど知らなければいけません。
自分にはどういう問題があるのかを知る必要があり、その上でパラダイム・シフトを起こさなければなりません。
パラダイム・シフトは何かというと、常識の再構成というものです。

今まで考えていた価値観ではなくて、その固定観念を壊して新しい価値観、柔軟な価値観に切り替えていく必要があります。
これは苦しいですし頭を使います。痛みも伴います。
これは薬を飲んでできることではなく、自分で変わっていかなければいけません。

もしかしてこれから百年、2百年経つと、知識も電極を当てたら身に付くかもしれません。
基本的には僕たちが生きている間は難しいと思います。
なので自分から学んでいくことが重要になります。

よく患者さんは、
どうして冷静にならなきゃいけないの?
どうして感情と自分を区別しなければいけないの?
目標を立てるのはなぜですか?
目標なんかいらないでしょ?
あると却って苦しくなるんじゃないの?
と言います。

しかし、どんなパターンの精神療法をみても、どんな教えをみても、冷静になっていく、感情に支配されないということは治療の中でとても重要で、目標とされています。

人生の目標ややりがいを想定することは、たとえちっぽけなものでも必要です。
なぜかというと、健康な人とは違って、僕らは苦しいところにいるからです。
苦しい人が苦しみに耐えるには感情に支配されては耐えることが難しいし、先のやりがいや目標がなければこの苦しみに耐えていくことが難しいからです。

どんなものでも良いから目標ややりがいを作っていく、そしてグッと堪えながら力を身に付けていくことが重要です。
普通の人ならこんなことは努力しなくて良かったりします。
無くてもやっていけたりします。
が、弱っている人、不幸な人はこれらの力を身に付けなければ今の不幸な状況を脱することが難しかったりします。
物理的なものや環境の問題ではなく、内的な問題、心の平和のためにはこうした力を身に付けなければいけません。

ドクターは、毎回の診察の中で患者さんに新しい発見があるように工夫しながら提供しています。
その新しい発見を浴びてもらう、心や頭に効かしてもらう、家に帰ってもこの発見を吟味してもらうことはとても重要です。
そのために、自分でやらなければいけないことですが僕らがヒントを出しているので、上手くキャッチして宿題と思ってやってもらえたらなといつも声掛けを心掛けています。

今回は、うつを良くするために自分でやらなければいけない3つの柱、というテーマで治療の全体像を語ってみました。

ドクターがやる仕事としては、診断、薬を出す、休職の指示、傷病手当金や自立支援、手帳、年金の診断書を書く、福祉サービスの導入で、こうしたことは僕らがするので、そこは心配しなくても大丈夫です。
患者さんが自分自身でやらなければいけないことはこの3つです。
この3つを頑張らなければいけないということです。

頑張らなくても良いですが、ここら辺を意識して日々の発見や成長につなげてもらえれば、と思います。


2022.3.20

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