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これだけ知っていれば大丈夫。ゼロから学ぶ「抗うつ薬」メカニズムから副作用、使い方まで

01:07 向精神薬
04:08 セロトニンの再取り込み
07:55 抗うつ薬の副作用
11:20 抗うつ薬の使い方

今日は、抗うつ薬のメカニズムから副作用、そして使用方法まで説明します。

この動画は、初めて精神科へ行った人、これから抗うつ薬を飲む人、飲み始めたけれど先生からあまり説明を受けておらず心配だと思っている人に向けて、
・そもそも抗うつ薬はどういうものなのか
・どういうメカニズムがあってどういう副作用があるのか
・実際はどういう風に使うのか
・患者さんおよびご家族が知るべきこと
これらを全部説明しますので、最後までご覧ください。

ちょっと見づらいですが、左上から時計回りに説明します。

向精神薬

まずは精神科の薬にはどのようなものがあるのか、というところから話をします。

精神科で用いられる薬、精神=脳に影響を与える薬、脳の中でも精神に影響を与える薬を「向精神薬」と呼びます。
向精神薬は主に5種類あります。
抗うつ薬、抗精神病薬、気分安定薬、抗不安薬と睡眠薬、その他、です。
その他を入れると何でも5種類になるじゃないかと言われそうですが、ざっくりとこんな感じです。

主にうつ病の人には「抗うつ薬」を使います。
統合失調症の人には「抗精神病薬」を使い、双極性障害の人などには「気分安定薬」と呼ばれるものを使います。
オプションとして抗不安薬と睡眠薬、その他と呼ばれるものには、漢方、認知症の薬(抗認知症薬)、発達障害の人に出すコンサータ、ストラテラ、インチュニブがざっくりと含まれます。

抗うつ薬は、この5種類の中でも優秀な薬です。
副作用が少なく効果がしっかりあるということで結構使われています。
うつ病以外でも、不安障害(社交不安障害、全般性不安障害、パニック障害)や強迫性障害の人にも使われます。

二次障害としてのうつにも使われたりします。
適応障害、発達障害でうつが強い人にも使われます。
割と良く使われる薬です。

和食でいうところのお醤油のような感じです。
例えがわかりにくいかもしれませんが、精神科の中でも万能薬という感じはします。
それゆえに、使われ過ぎているのではないかという批判も受ける訳ですが、優秀な薬なので使われます。

抗うつ薬には、
・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
・SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
・NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
・S-RIM(セロトニン再取り込み阻害作用ならびにセロトニン受容体調節作用)
があります。

メインがセロトニン再取り込み阻害薬と呼ばれるSSRIです。
SSRIのちょっと変形したバージョンがSNRIやNaSSA、S-RIMだったりするので、メカニズムとしてはSSRIを理解してもらえれば良いのではないかと思います。

セロトニンの再取り込み

SSRIはセロトニンを「再取り込み」します。
ざっくりとした理解では、セロトニンは安心や不安、うつに関係する脳内物質ということは良く知られています。
それくらいの理解で別に悪くないと思います。
僕も大体それくらいしか理解していません。

ではセロトニンをそのまま飲めば良いのか、というとそうではありません。
それだと脳内のセロトニンは増えません。
脳にはBBB(blood-brain barrier、血液脳関門)があり、吸収したものが直接脳へ行かないようになっているからです。
脳は大事な臓器なので関門がきちんとある訳です。
食べたものがすぐ脳へ行かないようにできています。

なので薬としては、セロトニンを増やすために、セロトニンが捨てられるのをリサイクルするような作用の薬を飲むことになります。
セロトニンが破棄されないようにリサイクルするような薬を飲むことでセロトニンが増える、という理屈です。

セロトニンそのものが良いわけではなく、セロトニンを使っている「神経系」が大事です。
神経系というと難しいですよね。

脳は神経細胞の集まりです。
神経細胞の集まりの中で、セロトニンを主に使っている神経があります。
ドーパミンを主に使っている神経もあれば、セロトニンをよく使っている神経、ノルアドレナリンを主に使っている神経もあります。

主にセロトニンをよく使っている神経の集まりがあり、その神経の仲間がうつ、不安、安心に関与していると言われています。
セロトニンが増えることで、セロトニンに関係する神経、脳細胞の部分が増えます。

今までセロトニンが少なかったので神経細胞自体が萎縮していた、というイメージです。
萎縮していたので、セロトニンが増えることで「あっ、ここは大事なんだ」と思って、栄養が入って伸びて行きます。
木の枝が伸びて行くような感じです。
その結果、その部分が活性化してうつが良くなる、ということになります。

この過程は時間がかかります。
セロトニンが増えただけではダメで、セロトニンが増えた結果、セロトニンが関係する脳の神経細胞がワーッと少しずつ伸びて行き、うつが良くなる、ということです。
脳の成長のためには時間がかかるということです。

ここはイメージしにくいと思いますが、脳の中の神経細胞は森とか木、木の枝に似ています。
セロトニンは木にとっての水です。
水がないと木も枝も段々小さくなっていくという感じです。

もう少し言うと、うつ病は脳の中の炎症が関係していると言われています。
疲れたりストレスが溜まっているとどんどん脳が萎縮していきます。
萎縮した結果元気が出なくなるということなので、休む、きちんと疲れを取ることでセロトニンを増やしてあげると伸びて行くということです。

副作用

元々セロトニンが少ない場所だったので、セロトニンが急に増えることで吐き気や消化器症状が出ます。
神経細胞が少ないので敏感になっていたんです。
しょっぱいものをよく食べていると塩味に慣れていきますが、あまり食べていないときに急にしょっぱいものを食べるととてもしょっぱく感じます。

僕はラーメンがめちゃくちゃ好きなんです。
ラーメンやラーメン二郎が好きなので、しょっぱいものや脂っこいものに慣れています。
でも初めてラーメン二郎を食べた人は、多分しょっぱくてビビると思います。
それはラーメン二郎が足りていないので敏感になっている、ということです。
敏感な人は塩味をよく感じるということです。

同じように、セロトニンが急に増えると吐き気などの症状が出ます。
ここはドクターの腕の差が出てくるところでもありますが、単純にゆっくり増やせば吐き気は出ない、ということです。
様子を見たり、薬を飲むペースが速いのであれば、ペースダウンをして身体を慣らしてあげるということが重要です。

この副作用に関しては、多少吐き気が出ても我慢してください、とよく言われると思います。
もちろん基本的には副作用は出ないのですが、よく出る副作用としては、こういう消化器症状がある、ということです。

しかし、薬を変更すべき副作用というものもあります。

変にイライラする、躁状態になってしまう「躁転」の場合、また何かイライラ(アクティベーション)して10代では自殺のリスクが上がったりするので、そういう場合は抗うつ薬が合わないということで変更すべきです。

尿閉、男性によくあるのが性機能障害があれば、これもやめましょうということになります。薬を変えましょうということです。

便秘も良くありますが、これは下剤で対応することもあります。
自律神経系に影響を与えるので妙にふらついたり、急に立ち上がるとふらっとすることもありますが、我慢できるようなら我慢してもらい、ひどいようなら薬を変えます。

足のムズムズが起きることもあります。
これはムズムズ止めを使うこともあれば、薬を変えることもあります。
ムズムズは結構気持ち悪いので、すぐ主治医に伝えてください。
電話でも良いと思います。
すぐ伝えて薬を変更するのが良いと思います。

副作用は使ってすぐ出ることもあれば、2~3ヶ月後に出ることもあります。
適宜主治医に相談してください。

使い方

抗うつ薬の使い方はだいたい決まっています。
RCT(randomized controlled trial)で、どの薬が有効かということが比較検討されています。
それを基にガイドラインができているので、それに準じて治療しています。
医療者向けですがネットを探せば転がっています。
ここはあまり大きな声では言えませんがもし心配な方は見てください。

RCTについて解説すると、まずランダムに薬を渡します。
Aという薬と偽薬を混ぜて、医者側も患者側も実薬か偽薬か分からない状態で使用し、最後に治療効果を見て、どちらがどれくらい有効だったかを判定するのがRCTです。

Aという薬を飲んだ人の60%は回復しました、偽薬を使った人の30%は回復しました、という結果になれば、Aという薬はプラセボよりも30%は回復した人が多いので良い薬である(有効である)ということが分かります。

これは昔やったテストです。
今日ではそういうテストはしません。

今はAとBのどちらが優秀なのかということを同じ方法で判定し、次いでAとCのどちらが優秀なのか比較する、ということをします。
そうすると、Aを介して、BとCのどちらが優秀かということを数学的に判定できます。
これをメタ解析と言います。
全ての薬でメタ解析されています。

統計的な解釈ややり方によって多少の違いはありますが、優秀な薬はどんな薬かということはわかっています。
逆に副作用が出やすい薬はどういうものかもわかっています。

その番付表を見ながら主治医が薬を選びます。

最初の抗うつ薬(1種類目)を使い、効果判定は2~4週間くらいと言われています。
神経が伸びるまでに時間がかかりますから、最初に飲み始めて「効かないな」と諦めるのではなくちょっと粘ります。

粘ってもあんまりだったな、と思ったら次の薬に変えます。
次の抗うつ薬に変えて、また2~4週間粘ってみます。

でも上手くいかなければ、抗うつ薬+αという形で、増強療法という使い方をします。
増強療法では、抗うつ薬をメインに抗精神病薬、気分安定薬、抗不安薬、睡眠薬など他の薬を少量加えるというものです。

よくあるのは、気分安定薬のリチウム、抗精神病薬のクエチアピン、ジプレキサ、エビリファイなどです。
抗うつ薬同士でSSRIやSNRIにNaSSAを足すなども行います。

うつが良くなった後にどれくらいの期間飲むのですか、ということですが、再発予防のために一定期間飲みます。
うつ病は再発が多い病気なので、すぐに薬をやめるのでなく、半年~数年飲み続けます。

具体的には、初めてのうつの場合は、良くなった後も4~9ヶ月くらいは飲んだ方が良いと言われています。
うつになったのが2回目の人は、1~3年くらい飲むと良いと言われています。
ここは難しく、どれくらいの期間飲み続けるかというのは、科学的根拠が無いといえば無く、どれくらいが妥当かというのは常識的なラインがガイドラインにあるので、だいたいそれくらいの期間が必要になるかなと思います。

若い人なら4~9ヶ月、中高年だと再発例が多いので1~3年くらいは薬を出すことが多いです。
休職するほど悪くならなくても、1~3年くらい診ているとちょっと調子が悪い時期があります。
抗うつ薬で下支えしてあげて、残業はできないが何とか働けている状況だったりするので、そういう場合はもう一度発症したと考えて、また1~3年延びるという感じです。

今回は、抗うつ薬のメカニズム、副作用、どういう使い方をするのかという全体像を解説しました。


2022.4.3

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