本日は「精神医学と社会変化との関係」について解説します。
特に、なぜ発達障害という診断が最近増えたのか、発達障害の患者さんが増えたのか、ということも持論を交えて解説します。
皆さんがよく誤解されているのは、病気というのは「ニワトリ」や「ネコ」と一緒で固有のもので、社会や文化が変わっても不変である、という認識です。
パソコンを使うようになったからといって、ニワトリが変わるということはありません。
「胃がん」などの病気が変わるということはありません。
多少は食べ物の変化などで発生頻度等は変わると思いますが、あまり変わりません。
胃がんは昔から胃がんです。
ただ、精神疾患の場合は、社会構造が変化することで昔あった病気がなくなったり、新たな病気が出てくることがあります。
それはなぜでしょうか。
そういうことがあるということは、精神疾患というものは病気ではないのではないか、と思う人がいます。
それは違うという話をします。
■世の中の変化
世の中はどのように変化しているのかというお話をします。
技術(科学技術)は日々進化をしています。
特に産業革命前後、ここ100年~200年はすごい勢いで変化しています。
技術や科学は日々進歩していて、それに伴って産業構造も変わります。
僕らの経済システムが変わったりします。
今までだったら人間の手で育てた作物が、機械の力でできるようになったり、肥料の力で同じ土地から色々なものを一気に作ることができるようになります。
ビニールハウスを使えば夏の野菜が冬でも食べられるようになります。
農家で働いていた人が自動車工場で働く、自動車工場で働いていた人が工場のオートメーション化に伴ってサービス業、金融の世界へ移るということもあります。
昔はなかったYouTuberという仕事もできたりします。
産業構造が変わるにつれて、社会が変わります。
国民国家が生まれる、民主主義が強まるなど社会が変わります。
社会が変わるのと同時に家庭も変わります。
昔なら親族が集まって皆で畑作業をしていたのがそういうことをしなくて済んで、今度は都会に出るようになり、核家族化が進むという家庭の変化が起きます。
家族の変化が起きることにより、人間の持つ価値観やカルチャーが変わります。
価値観や文化は若い人が創るものなので、若い人たちの創る文化が、若い人たちが育った家庭によって決まりますから、変わってくるというのは自ずとわかります。
もちろん図の上から下だけではなく下から上に行く要素もあります。
でも基本的には科学技術の変化に伴って世の中が変わっていくということです。
科学技術と薬物治療は相関関係があります。
科学技術が進めば進むほど薬物治療は良いものができてきます。
また科学技術が進めば進むほど脳のことがわかってくるので、診断体系も変わってきます。
精神疾患は何かというと、働けない人、社会に適応出来ない人で犯罪者や老人や子どもでない人を精神疾患と呼びます。これはフーコーという人が言いました。
その中で、どうしてこの人たちは同じように働けないのか、ということを解明していくことで診断や新しい病気が見つかります。
だから科学技術と産業構造によって診断というのは色々なことがわかってきています。
実際、産業構造や家庭環境が変わることで、病気の人が増えていきます。
適応できない人が増えていくので患者数が増えていきます。
家庭内が荒れていく結果、虐待などを受け、患者さんになってしまう人が増えます。
治療法も変わります。
薬物治療ではなくカウンセリングや福祉の世界というのは、社会やその時の価値観や文化によってやり方が変わっていきます。
昔ながらのやり方をしていてもダメなのです。
昔は医者の権威が強かったので権威があるような振る舞い、親しみやすさよりも厳格な父、厳格な父が時折見せる笑顔で患者さんは良くなったかもしれませんが、今はもうそういう時代ではありません。
だから今の時代に合ったアプローチをしていかなければいけません。
そういうアプローチで患者さんの信頼を勝ち取る必要があると思います。
社会変化によって精神医学が変わると聞くと、精神医学なんて嘘っぱちなんじゃないのと思うかもしれません。
が、こういう話を聞けばそうなのかとわかるのではないかと思います。
なかなか時代が変わっているとか、5年後や5年前はこういう科学技術でこういう産業構造で家庭環境もこうだったし、世の中の価値観はこうだったというのは思い出せないし、肌感覚で言えません。
でもこういう変化があるからこういう風に病気は変わっているんだ、ということは想像してもらえればと思います。
とは言っても、昔のお釈迦様の教えやギリシャ神話、ギリシャ哲学を僕らが今読んでも面白いように、人の心の変わらなさというものもあります。
カルチャーや文化が変わっても、人間の持っている変わらないもの、本能的なところに根付く何か、力強さというか強固さというものもあるので、そうしたものも吟味しながら精神疾患は決まったりしています。
脳の要素と記憶・学習の要素によって病気の症状や現れ方は変わってきますから、こういうことかなという風に思います。
■なぜ発達障害が増えたか
持論も踏まえて話しますが、なぜ発達障害が増えてきたのか、ということです。
一つの理由は、これまでは診断されていなかった、ということがあります。
脳のことがわかるにつれて、知的な能力にばらつきがあって、そのいびつさが故に社会で上手く行かない人がいる、ということがわかってきました。
その概念が少しずつ普及してきたということです。
医者側が知ったということがあります。
また、産業構造の変化によって、マルチタスクやコミュニケーションが求められるようになってきた、ということがあります。
昔のような単純な工場での労働が減ってきました。
集団で行う反復作業、変化が少なく昨日と今日で同じような作業をすれば良かったのが、変化が速くなり、常にコミュニケーションを取り合いながらマルチタスクをしなければ仕事ができなくなっているということがあります。
個人が集団に埋没することが難しくなっています。
SEなんて特にそうで、パソコンの話はすごいですよね。
言語も変わってくるし、使っている技術も変わっているし、職場も変わります。昔のように車を作っていればいいという訳ではなく、変化が激しく、変化が激しいがゆえにコミュニケーションを取りながら色々なことをやりつつ集団で変化に対応していかなければいけません。
とても難しいです。
だから、自分は発達障害かもしれない、他の人と同じように働けない、と思って精神科を受診する患者さんは増えています。
さらに家庭環境の変化の影響もあります。
大家族でないと暮らせなかった時代、大家族でないと子育てができなかった時代から、家電の進化などのお陰で、ある意味、親や親族が集まって子育てしなくても良くなりました。
核家族でも良かったりしますし、最近ではシングルの家庭も増えました。
それでも最低限の子育てができるようになりました。
ただ、その一方で、そこでもトラブルが起きることがあり、常識的なこと、皆が知っている世間知というものを伝える機会が減ったということもあるかなと思います。
結果的にいびつなところが出てしまうことがあります。
これは知識で補っていけばいけるのですが、こういうことがあったので人とのコミュニケーションが苦手というパターンもあります。
昔は昔で大家族が故のトラブルというものもありました。
昔の仕事は昔の仕事で困ったことがあった訳なので、進化が良くないということではなく、単純に問題となる人、問題の出方が変わったという感じです。
あとは、人間の知性にはバラつきがある、能力の問題というのは、人間の心を分解してパラメータ化しています。
こういう考え方は何なんだと上の世代の人は思うと思います。
若い人にはそんなに抵抗感がないですが、昔の人にとっては受け入れ難い概念かなと思います。
科学的に正しいか正しくないかは別として、倫理的な問題、価値観の問題ではなく、人間の脳というものを純粋に理解しようとしたときに、それが正しいか正しくないかはわかりませんが、人間(脳)がAI(アルゴリズム)に寄せている時代に移ってきているなと思います。
AIが動くやり方と人間の脳の見方をリンクさせた方が研究が進みやすいのです。
AIだとこうだから人間の脳もこういう風に動くかもしれないから実験してみよう、という形でやった方が、良いデータが出やすく、脳のことを理解しやすいです。
こういう時代になっているし、実際に僕らもそうです。
スマホがないと生きていけないように寄せていっています。
僕自身のコンテンツもそうです。
AIが要約しやすいように、AIが検索しやすいように、AIがおすすめにあげやすいように動画を作ったりしています。
世の中の変化に伴って人間自体が変えているというところもあります。
だから発達障害と訴えている人が増えているのではないか、という気がします。
科学技術の変化や社会の変化に合わせて病気がこういう風に変わっていく、治療法が変わっていく、ということです。
これは精神科医にとっては一般的で当たり前で、何を今さら益田は言ってるんだという感じですが、案外こういうことは普通の人は考えたことがないと思います。
普通の人というか、患者さんや精神科に関係のない人、あまり知らない方はそう思うと思います。
ちょっと頭の隅に入れておいていただけると、色々なことが分かりやすくなるのかなと思います。
精神医学
2022.4.18