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精神科の治療の概論。カウンセリング、運動、薬、どれが大事?

00:54 症状の原因となるもの
03:40 治療
07:26 どういう状態になりたいのか

本日は「薬物治療とカウンセリング、どちらが良いの?」と言う話をします。

患者さんがよく「結局、薬だけで良いでしょ?」「薬だけじゃだめでしょ?」「カウンセリングをやれば十分でしょ?」「カウンセリングじゃなくて、体調整えれば全て治るよね」「結局、環境調整だけで良いよね」などと言いますが、全部大事です。

そのことについてお話ししようと思います。

症状の原因となるもの

今の症状に関係あるものをざっくり書いてみました。

環境によるものと、個人の影響、この2つで症状が出ます。
環境は周囲にどんな人がいるのか、会社や業界はどんな感じなのか、忙しすぎるのか。
後はライフステージ。自分は何歳で、こんな悩みを抱えている。
そのような影響で、落ち込んだりハッピーだったり悩んだりするわけです。

他にも個人の要素があります。
神経回路、これは脳の癖みたいなものです。
記憶から出来上がる自分という概念、特性。
それから体調が良いと気分が良いですし、体調が悪いとうつっぽくなります。

この3つの要素と環境によって今の症状が出てきています。
この相互関係です。

脳の癖みたいなものは、遺伝とこれまでの記憶・学習、親の育て方などから出来上がります。
ですから精神医学では遺伝だけでは決まらないのです。
遺伝と環境、ストレスで神経回路ができます。
記憶や概念によって自分というものが作られていきます。

神経回路の癖にはどのようなものがあるかと言うと、うつになる癖、気分障害の癖、妄想を抱く癖(統合失調症)、不安になりやすい(不安障害)、トラウマを思い出しやすい、過去に戻ってしまう(PTSD)、報酬系に関与するもの(強迫性障害、依存症)、それから発達障害などがあります。

治療

治療において何が大事かというと、全部大事なのです。

・神経回路
薬物治療によって脳の回路を調整してあげます。
化学物質によって出来上がった回路を少しずついじってあげることが重要です。

行動療法によって行動を変えることで、よく考えてしまう癖を考えないようにする。
例えばアルコールを飲んでいると、その癖が出来上がってしまっています。毎回毎回、報酬系が刺激されてしまうのです。
アルコールを強制的にやめることによって、この報酬系のサイクルをゆっくりにします。
「やめろと言われてもそれができないから困っているんだ」とよく言われますが、でもやめるのです。
やめるという治療なので、心がけなどではなく「やめる」という治療をするのです。
やめるためにお金を持たないようにする、家にお酒をおかない、とにかくその行動をできなくさせることが治療ですし、行動療法として大事な概念です。
あとは、マインドフルネスで呼吸に集中することによって、興奮している状態をエスケープしてあげるというのも1つの手段です。

・記憶・概念
記憶や概念をカウンセリングによって訂正していきます。
恐怖や嫌な思い出は、上付けをしていかないといけません。
人間の脳は忘れるということはできないので、上から情報をかぶせないといけません。
そうすることによって、その問題は今は大丈夫なんだ、と教育し直してあげることが重要です。

ですが、教育はなかなかうまくできません。
本を読んだら良いのか、YouTubeを見たら良いのかというとそれだけではなく、自分で考えたり誰かと会話をしながら受け入れていくという調整が必要です。

それから心地よさも大事です。
勉強も楽しくないと身につかないように、トラウマを克服する時も楽しい感じで記憶を上書きしていかないと残っていきません。
カウンセリングを楽しいと言うと不謹慎かもしれませんが、でもinterestingな面白さや安心できる楽しみといったものが重要です。

・体調
人と喋ったりすると体調は良くなります。
人と喋らないと体調は悪くなります。無人島にいたら人間は調子が悪くなります。

それは人間だけでなく、どんな動物でもそうです。
同族や同じような仲間がいないところでは、どんどん不安が高まり体調が崩れるのです。
だから人と話すとかカウンセリングをする。

それから生活指導ですね。
体調が悪いのだから規則正しい生活をする、朝に散歩をしてリズムを整えるのも良いよなどと言ったりします。

いろいろなファクターによって今の症状が出ているので、1つをやれば良いというものではなく、すべての要素に対してアプローチしていくことが重要です。
どれか1つをがっつりやって他は穴だらけと言うよりは、満遍なくそこそこやる、というのが全体から見たら一番効果が高いです。

どういう状態になりたいのか

もう1つ言うと、今の症状からどういう状態になりたいのか、ということも大事です。

「今より楽になれば良いんです、考えられません」と患者さんはよく言うのですが、どういう状態になれば楽になるのかというのがよくわからないのです。

環境を変えた方が良いのだけれど、じゃあ次の場所は良いの?という話になります。
次の場所を知るためには「どういう状態になりたいのか」が大事です。

記憶を塗り替えていく、自分を変えていく、概念を切り替えていく、価値観を変えていく中で、「どういう風な自分になりたいのか」「どういう価値観で生きたいのか」「どういうことを理想と思っているか」がはっきりしていないと上書きもしにくいのです。

神経回路の問題だったら薬を出せば良いだけなのでそこまで考えなくても良いですし、体調に関しても休めば良いだけなのでそこまで考えなくても良いかもしれませんが、他の要素に関しては自分はどうなりたいのか、どういう風にやっていくべきなのかをやはり見つけて行ったり、教えてもらったり、一緒に考えていく必要があります。
そういうものがないとやはり治療はうまくいきません。

患者さんも受け身で治療者側も受け身だったりすると、ダラダラとしてしまいあまりうまくいきません。
患者さんの中から自発性が生まれてくるのを待てば良いのかな、とボーっとしていてもうまくいかない時はこのような概念がないのではと思います。

今回は薬が良いのかカウンセリングが良いのかというテーマで、全部大事ということをお話ししました。
治療の概論という形で役に立つのではないかと思います。


2022.5.1

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