本日は「社員が突然やめるのを防ぐ方法」というテーマでお話します。
色々な会社の社長さん、部長さん、上司の方で、若手の社員や色々な社員の人がすぐ辞めて困るという困り感を持っている人がたくさんいます。
精神科には患者さんが「仕事を辞めたいです、キツいです」という主訴で来る方が多いです。
そういう患者さんの話を聞いていると、ここがダメなんだな、こういうところを直せば会社はもっと良くなるのにな、こういうことをしてもらったら良いのにな、ということがすごくあり、いつもとても歯痒い思いをしています。
会社は会社で、面倒くさいからもう辞めちまえ、という雰囲気のあるところもあり、そういうのはもったいないなと思います。
今回はそういう患者さんの困りごとをお話しして、一緒に考えていけたらと思います。
精神医学の知識はどんな人にも役立つと思っています。
人間のことを理解するには、精神医学は一番科学的で妥当で学問として一番良いと思います。
ここから学んでもらえることはたくさんあると思いますので、最後まで見てもらえたらなと思います。
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適応障害、パニック障害
患者さんで、仕事がキツくて辞めたいです、というときによくかかる病気は、「適応障害」および「パニック障害」です。
「適応障害」はストレスの負荷でうつ状態になる、うつっぽくなってしまい、食べられない、眠れない、落ち込むといった症状がでます。
「パニック障害」はストレスや疲労が溜まることで自律神経が乱れ、突然パニック発作(動悸、手が震える、冷や汗が出る、死ぬんじゃないかという恐怖に襲われる)が現れる病気です。
これは疲労が極限まで高まることで起きます。
これが何度も何度も起きることによって「また起きるんじゃないか」という予期不安に支配され、1日中不安で仕方がなくなったり、広場恐怖のように「あそこには行けない」ということが起きます。
密閉された場所、電車に乗れない、渋滞の車が怖いとなったりします。
これらはストレスによる体調不良で誰にでも起きる病気です。
こういうことが起きたので仕事を辞めたいという方は結構いらっしゃいます。
この場合どうしたら良いのかというと、会社がすべきことは業務の見直しです。
その人が残業時間が多いのであれば減らす、業務量が多ければ減らす、ということなのですが、単純に量を減らせば良いというわけではありません。
人間関係の見直しも重要です。
僕が医者になった頃、10年以上前は残業時間が多かったです。
1ヶ月の残業時間が100時間を超えてうつになってしまったという人がたくさんいました。
今は働き方改革で残業時間が100時間という人はそんなに多くありません。
にも関わらず適応障害、パニック障害は増えています。
それはなぜかというと、職場が安全な場所でないから、です。
常にヒリヒリする、ヒヤヒヤしている、「心理的安全性」がきちんと配慮されていません。
妙にピリピリして部下ー上司の関係が悪かったり、悪くないが相談しにくい環境であったり、上司がいつも忙しそうにして相談しにくく分からないまま業務をやっている、不安なんだけれども取り敢えずやっている、という状況では落ち着きません。
それでうつになることがあります。
家に仕事を持って帰る、24時間SNSで上司から仕事の連絡がくる、などがあっても落ち着きません。
そうしてうつになることが結構あります。
このような場合は業務の見直しが重要です。
社長や部長が自分で好きに仕事をやっている分には別に良いんです。
僕も自営で好きに仕事をやっていますから、休みの日も職場に来てYouTubeを撮ったり仕事の雑用をするのが好きですから良いのですが、部下の人は違います。
板挟みにあっている人は全然疲れ方が違います。
僕の勤務医時代はこんな働き方はストレスが溜まってできませんでした。
上に人がいると好きにできないのですごくストレスがかかります。
だから心理的安全性はすごく意識しないといけないと思います。
単純に量を減らせば良いというわけではありません。
発達障害(グレーゾーン)
社員が突然辞めるもう一つの多いパターンは、発達障害のグレーゾーン、発達障害の人が辞めてしまう、です。
今はグレーゾーンの人がとても多いです。
職場の業務でストレスに遭って、うつになり、適応障害とパニック障害を二次的に発症する、ということがあります。
グレーゾーンの人も含め発達障害の人は、業務の見直しはもちろんですが、困っているのは無言のルール、暗黙の了解が苦手だったり、職場の環境がうるさかったりごちゃごちゃしていてストレスを感じているということが多いです。
マニュアルをしっかり作る、研修をしっかりする、説明をきちんとすることがとても重要です。
本人のリズムに合わせてきちんと教えてあげる。
適当にパッとやって「できるだろ」とやると潰れてしまう人が多いので、その人に合った教え方をしないといけません。
そんなの面倒くさいよ、と思うかもしれませんが、発達障害の人は普通の人にはない才能があったり、粘り強さがあったりします。
どこか一つ欠点があるからと言って、それでその人がダメだと思わず、長所もしっかりあります。
今までは長所で欠点を補って生きていましたが、会社で上手くいかない場合は、欠点を誰かが補ってあげればすごく良い仕事をします。
上司の人は丁寧に説明をしてあげたらなと思います。
僕自身もそうです。
僕も防衛医大時代はアスペと言われたり、凸凹が多いのでできないことも結構あって、色々な人からバカにされることもずっとあり、ダメなヤツと言われていました。
それまでずっと上手くいっていませんでしたが、自分は大器晩成型だと漠然と思っていて、変に自己肯定感が高かったので、今はうまくYouTubeが跳ねました。
それまでは本当にダメなヤツと言われていましたから。
だけど大丈夫です、ちゃんと伸びますから、きちんと説明してもらえたらな、と思います。
感覚過敏があって、うるさい環境、におい、雑音が入ると集中できない人がいます。
できるなら在宅勤務が良いですが、在宅勤務でなくとも、耳栓を許す、ちょっと遅刻を許すなど、本人の特性があるのでそれを踏まえてやってあげないといけないということがあります。
みんな耳栓をしてないからお前だけ耳栓をするな、という自衛隊方式だと、こういう人は潰れてしまいます。
臨機応変にやってもらえると良いかなと思います。
そうすると離職率は減ると思います。
病気の発症
その他、普通の病気を発症して辞める、というパターンもあります。
それも知識、教養、一般常識として覚えてもらえたらと思います。
ひとつは「双極性障害」です。
双極性障害とは、急に元気になって4日とか1週間、通常は1~2ヶ月多弁で活発で寝なくても仕事ができるという状況が続き、あまりにも元気過ぎてお金遣いが荒くなってマンションを買ったり、会社を辞めて突然起業をしたりしますが、それが落ち着くと半年~1年くらいうつ状態が続いてうまく働けなくなったりします。
元気の前借りのようなことが起きる病気です。
ちょっと変だなと思ったら受診に繋げてあげる。病気が落ち着けば働けますから、こういう人がいたら、もしかしたら双極性障害なんじゃないかと受診を促してあげると良いと思います。
だいたい人口の1~2%います。
発症は10代~20代が多いので、新入社員でそういう人がいたら、頭の隅においておいてください。
「統合失調症」もだいたい人口の1~2%発症します。
変な声が聞こえる、悪口を言われている、見張られている、インターネットを通じて攻撃されている、やくざにストーカーされているといった妄想を抱く病気です。
発症が10代~20代なので、何か調子が悪そうだなと思ったら受診を促してあげてください。
薬物治療によって良くなればまた働けます。
これも頭の隅に入れておいていただけたらな、と思います。
意外に見逃されるのが「依存症」です。
アルコール依存症、ギャンブル依存症、性依存症などの依存症が原因で仕事に行けなくなる人もいます。
だらしないのではなく、アルコールが依存症レベルになったり、ギャンブルも自分でやめたくてもやめられない依存症レベルになっていたり、性依存症で風俗がやめられない、痴漢がやめられない、女性ならホストに嵌まりお金が払えない、キャバクラや夜の店で働かないと借金が返せない、ホストクラブに行けない、ということで辞めるパターンもあります。
こういうパターンも話を聞いてあげて受診に繋げるのが重要だと思います。
若い人で心細くて依存の対象にすがり、悪いサイクルに入ってやめられなくなることもあるので、人生の先輩として目を配って受診に繋げてあげるのが優しさであり美徳なのかなと思います。
社員が突然辞めることを防ぐ、というテーマでお話しました。
社長さん、部長さん、人事の人、精神医学の知識を覚えていただくと見方が変わると思います。
上手く離職率を下げてみんなが働きやすくなるということは、社会的にとても重要だと思うので、参考にしていただければと思います。
仕事の悩み
2022.5.8