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治療・治癒のイメージについて

00:45 よくある勘違い
01:42 治療とは選択肢が増えること
04:07 洗脳に近いものは解ける

本日は「治療のイメージ」を語ってみます。
どうやって人の心は癒えていくのか、どうやったら不安というものが減っていくのか、ということをお話しします。

患者さんはなかなか治癒のイメージを持つのが難しいようです。
治療は進んでますよ、と言っても、本人は「うーん」という顔をすることが多いです。
どうやったらそれがイメージしやすいのか、ということをお話します。

よくある勘違い

よく患者さんが勘違いしているのは、A→Bと考えていたのが、同じような状況でA’→Cと考えられるようになったら良くなったということだと思う、ということです。
スイッチをオン/オフしようとか、物事の考え方がスライドしていくような感じになっていくと「良くなった」と思うようです。
同じような状況の時に今までは悲観的だったのが、ポジティブに考えられるようになったら良くなっということだと思うみたいです。

でも、そういうわけではありません。
治療はそういうことではありません。たまにはありますが。
今まではこう考えていたのがこう変わる、ということはあるかもしれませんが、それは治療が進んだとは言えず、そのときにたまたま良い考え方ができただけです。

治療とは選択肢が増えること

治療は何かというと、A→Bと考えていたのが、あみだ状に色々と考えられるようになることです。
選択肢が増える、ということです。

Bと考えてもいいな、Cと考えてもいい、Fと考えてもいいな、と色々な視点からモノを考えることができるようになることが治療が進んでいるかどうかということです。

一度に色々なことを考えられるようになって迷うのですが、A→Bと考えていたのが、途中で脇道に逸れてもA→Fと考えられるようになったりします。
適正化していきます。

治療とは何かというと、「こんな風に考えられるよね」ということを医師がパターンとして呈示し、患者さんは「あ、こんな考え方があるんだ」「今回はこんなことを学んだな」と、だんだん自分で何か知らないうちに適正化していくイメージになります。

A→BがA→Cになっても、スライドしているだけなので戻ります。
ですが色々なことを考えられる、同時に複数のことを考えられる、色々な選択肢があるということが見えてくると、この時は落ち着かなくなり色々なことを考えて迷うのですが、それが適正化していくということです。

「迷うことが増えました」というのは全然良いのです。
患者さんとしては進んでいる気がしないかもしれませんが、良くなっています。
ひとつのことしか考えず、行ったり来りだと治療が進んでない感じがします。
A→BがA→Cにずれてまた戻る、ということだと治療が進んでいないことになりますが、色々なことを考えられるようになると良いと思います。

僕は川の水の流れをよく考えます。
水がブワッと流れていくときに、水路が一直線だと勢いが強くなりすぎます。
ですが、クネクネ曲がった水路だと水が来ても色々なところへ行ってぶつかって緩衝が起きたりして溢れ出ません。
これが、頭の中が良い状態であるというイメージです。

洗脳に近いものは解ける

患者さんは、こういう風に考えていたのがこういう風に考えられるようになりたい、とスライドやスイッチを求めるのですが、これが起きる治療はあまり良くありません。
それは「こうしなさない!」と押し付けている感じで、「洗脳」に近いものです。

洗脳に近い治療というものも確かにあります。
1ヶ月や2ヶ月の短期集中で終わらせて、今までは悲観的に考えていたのが急にポジティブに考えられるようになって「そういう風な考え方で考えればいいのです」という風に、トラウマを押さえつけて別の考え方ができるようになります。
でも押さえつけたものが顔を出してくるようになります。
そのようなやり方はあまり上手くいきません。

僕はこんな感じですが自衛隊にいて短期集中教育も受けていました。
でも結局こんな感じですよ。
自衛隊っぽさは多少は残っているかもしれませんが、やはり残ってません。

洗脳は結局解けてしまいます。
解けてしまうと本人が持っている地の部分や苦しみが出てきます。

そうではなく色々な選択肢を見られるようにします。
その中で自分なりの選択肢にそのうちなります。
自分に合っていない選択肢は、考えていてもそのうち忘れてしまいます。
そうすると自分らしい選択肢を取れるようになっていく、という感じです。

今までのようなネガティブな選択肢ではなく、自分なりの選択肢が取れるようになっていきます。
これが治療のイメージです。

ただそれだけの話と言えばそれだけの話ですが、意外と言われないと気付かないことでもあるので、今回お話しました。

この話は、患者さんよりは治療者の方が学ぶ意義があるかもしれません。
他科の先生、内科の先生や外科の先生、若い先生にこういう話をすると喜ばれます。
精神科は何をしているの、どうやったら良いの、と聞かれたときに、答えが分からないときにどうするか、というときに、答えを選ぶのではなく色々な選択肢を伝えてみる、そういう見方ができるよねと補助してあげるのが良いんだよと言うと結構喜ばれたりします。

今回は、精神科の治療、治癒のイメージについて解説しました。


2022.5.12

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