本日は「親が子供をコンテンツ化するのはアリ?ナシ?」というテーマでお話しします。
この動画の元となったニュースがあります。
親が子供のプライバシーをさらす、家族の中で起きたことや子供の中の葛藤をコンテンツにして収益を得ていた、作品にしていたということです。
親が子供をダシにしてYouTubeで稼いで良いのか、ブログで稼いで良いのか、Instagramにあげて良いのか、ということが議論されていたようです。
僕個人としては、臨床経験の中で親が子供に影響を与え、その子供が大人になってからうつで苦しんでいる、親との葛藤で悩んでいる方はたくさん見てきています。
親が子供をコンテンツ化するということは、臨床的にどのような影響があるのか、どういうことを臨床で感じたのか、雑感をお話ししたいと思います。
コンテンツ
親の影響、協力
・エンタメ界
もともと親が子供を使って商売をするというのは、広い意味で言うと昔からありました。
昔というのは何百年も前からということです。エンタメ界では割と普通のことです。
歌舞伎などもそうです。子供の時から親に習い、子役として活躍する。大衆演劇もそうです。
ですからエンタメ界では昔からあります。現在も子役は存在します。
YouTubeに限らず、子供がコンテンツになるということはずっとあるわけです。
そうは言っても子供をポルノのようなものに出してはいけないという線引き、ルールはできてきています。今後もできると思いますが、子供のコンテンツは昔からあるものです。
・スポーツ界
スポーツ界も無縁ではありません。
オリンピックは20代前半や10代後半で結果を出したりします。子供の時からガッツリ練習しないと、金メダルを獲るなんて無理なことです。
親が子供に協力しないとできません。音楽界もそうかもしれません。
若いうちに成果を出さなければいけないものは、親の影響なしには、それが競争が激しいものであればあるほど成功できません。
子供の意思を尊重してと言うかもしれませんが、子供なんて練習を嫌がるものです。
半分、強制的なところがあります。
半分どころか、ほぼ虐待のようなことも起きたりします。
スポーツで成功はしているけれど、なかなか自尊心を持てない、自分の意見で動けない人は結構います。
そういう人が大人になってから詐欺にあったり、うつになったりして精神科を受診することは珍しくありません。
・学術/商売
東大に行くなど学術の世界でもビジネスの世界でも、親が子供に英才教育をするというかそのようなことまで言ったらキリがありません。
子供の権利を侵害していないか
子供が親の影響を受けてしまうのはどうしても仕方がありません。
ただ、程度はありますし、子供の人生を壊すほどであってはいけないというバランスの問題です。
そもそもすべての子供には平等に、「子供らしい時間を過ごす権利」があります。
そして平等に「教育を受ける権利」があります。
ヤングケアラーの問題と同じです。
ヤングケアラーとは、子供が家族の介護や看護をすることです。結構いるのです。
そういう子たちは子供同士で遊ぶ時間が少なかったり、他の子と同じように宿題をする時間が取れなかったりします。それが今問題になっています。
先ほどの子供たちも同様に、子供らしい時間を過ごせないのです。若くして大人の世界に入ってしまうと。
自由に自分なりの発想で色々なことができませんし、愚かなこともできません。
教育も皆と同じように受けることができません。
スポーツに取り組んでいる子で、数学が嫌いで、親も「やらなくて良い」と言えばやはりやらなくなってしまいます。
それは、教育を受ける権利を侵害されているのではないかとも言えます。
でもそもそも学校教育は良いものなのか?
平等なんてできるわけがない。
誰にとっての平等?
などと議論を深めていくことはできるのですが、前提としては上記のことがあります。
何歳を超えたら子供の写真をInstagramにアップしてはいけないか、顔を隠せばアップして良いのか、といったこともありますが、基本的には今は残ってしまいます。
高校生になって、親がアップした自分が3歳の頃の写真をクラスの男子に見られるようなこともあるわけです。
そういうのは嫌ですよね。
どこまでというのは難しいですが、家族旅行の写真なども思春期になったら見られたくないものです。
もちろん子供にもよるでしょうし、今どき気にしないという子や家族もいるでしょうけれど、一方で絶対嫌だという子供もいることは事実です。
臨床的に問題になること
では、どのようなことが臨床的に問題になるのかと言うことです。
エンタメ界にしてもスポーツ界にしても、すべての人がうつになって受診するわけではありません。
僕らは精神科に来る患者さんのことしかわかりませんし、精神科に来ないのだったら最悪良いのでは?というところもあります。僕はどちらかというと自由主義者なので。
こうあるべきだというよりは、自由である方が良いと思いますし、多種多様であるべきだと思います。
でも、傷つく人がいるのは嫌だよね、精神疾患になる人がいることはわかっているよね、ということです。
だから何でも出して良いとは思いません。
子供のポルノは絶対ダメです。それと同じように「これはダメ」ということがあります。
・親の自己満足/承認欲求
親の自己満足や承認欲求になっている。本当に子供はそれを望んでいるの?ということです。
結局問題になるケースは、子供が非常に親に気を遣っていてやめさせてもらえないことです。親の自己満足になってしまっているパターンがあります。
もっとひどいものだと、代理ミュンヒハウゼンというものがあります。
ミュンヒハウゼン症候群というのは、詐病というか、構ってもらいたいから「自分は病気だ」と言って病院に行くことです。構ってもらいたいがために、ついには自分で自分を攻撃して怪我を作り出したり、悪いものを食べてお腹を下して病気を作り、入院させてもらおうとします。
「代理」というのは、親が子供に暴力を振るったり、悪いものを食べさせたりして「子供が調子が悪いんです」と病院に行き、医師や看護師さんから優しくしてもらおうとするものです。
同じように、子供が活躍することで自分が承認を得るような感じ、それがやめられないというパターンは良くないと思います。
一番最初の例だと、「それは子供のためではなくてあなたのためだよね」という場合は、すごく問題だなと思います。
・キラキラネーム
昔はキラキラネームと言って、ちょっと変わった名前をつけるのは虐待なのではないかということも、ワイドショーで取り上げられていました。
最終的にはこれがエスカレートし、子供に悪い名前をつけてしまいました。これも裁判になりました。
そういう問題と親が子供の写真をさらすのはどう違うのか、どう似ているのか、という話もあります。
・宗教2世
子供は自分をコントロールすることができませんし、親の教えが全てだと思いますし、社会の教えを受けてしまいます。
もちろん反抗できる子ならば良いのですが、反抗できずに入り込んでしまう子達もいます。
そういう子達だとコンテンツ化されてしまい、自分の人生を生きられない感じになってしまいます。
・夫婦仲、家族病理
夫婦仲が悪くて父親の愚痴を子供にぶつけてしまう。
子供をカウンセラーにしてしまい、延々と自分の愚痴を聞かせる相手にしてしまう。
家族全体の病理として現れる、家族のストレスが親の承認欲求という形で現れてしまうことがあります。
夫婦仲が悪いけれど、子供がスポーツで成功する、子役で成功する、という共通目標があるから離婚はしていない。だから子供は頑張らなければいけない。
そういうパターンは病んでしまいます。
いろいろな議論、意見があると思います。
社会全体が多様化しているからとも言えます。そのため分断され格差が出ていることもあると思います。
一発逆転を狙う人たち
そもそもインターネットやSNSがあるから親が子供をコンテンツ化する手段が増えた、と言うことです。
いろいろな手段でマネタイズする方法ができましたし、YouTubeで儲けることができたら普通に働くより遥かにお金をもらえるわけです。
もともとあまり稼げない人だと、子供をダシに年に一千万や二千万を稼げるのであれば、一発逆転を狙いに行きたいわけです。
ですからこういう問題は社会的な問題なんだろうなと思います。
一億総中流階級という日本の姿は失われるので、その中で子供をダシに一発逆転を狙うということが起きてしまうと思います。
法的なルール、社会のルールを作っていくことが重要ではないかと思います。
変更不能な人
それから、問題になるのは変更不能な人たちです。
一発逆転を狙いに行くのもアリと言えばアリですが、子供が「もうやりたくないよ」と言った時に、親が無理矢理させるパターンがあります。
変更がきかない人たちがいるのです。そういうパターンは良くありません。
「じゃあ、お父さんが言うんだったらやるよ」と、こうだと決めたら絶対やらせる、叩いてでも続けさせるようなことがあります。
例えば2、3ヶ月やって「うちの子はオリンピックを狙えないな」と思ったら、元のレールに戻って子供らしい時間を過ごせば良いと思います。
これは間違ったなと思えば変更すれば良いのです。
ですがそれができない人たちがいて、それは結構問題なのだろうなと思います。
「これしかない」ではなく、柔軟に動けることは重要です。そういう視点が欠けていると問題が生じてきます。
なんだかんだ言って精神科に来るパターンは、一般論ではなく特殊なケースもあるのではないかと思います。
親子問題
2022.7.1