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医師と患者の相性について

00:00 OP
01:05 相性はある?
07:43 言葉なき世界の理解者
10:18 相性で治療は進むのか?
11:29 医師一人ではカバーしきれない

本日は「医師と患者の相性」について解説してみようと思います。

よく「医師と患者には相性がありますか?」「相性がよくないと良くならないんですか? うまくいかないんですか?」と質問をされます。

これはなかなか答えにくいのです。
精神科医もカウンセラーも「うーん」と口を濁すことが多いと思います。
「いや、このまま頑張っていけば良くなるよ」とか、「今はちょっと頑張ってみよう」とか、ごまかしてしまうことが多いかもしれません。答えにくいです。

今回は、医師と患者の相性、どうしてそれが答えにくいのか、そして相性が良いこと悪いことは、治療にどういう影響を及ぼすかについて解説してみようと思います。

相性はある?

まず、医師と患者の相性というものはあるのかという話です。

これは普通に考えてあります。相性というのはありますね。
医師と患者が合う、合わない。性格が合う、価値観が合う、逆に価値観が合わない、リズム感がどうしても合わないなどあります。

・人間の多様性

育ってきた環境とかいろいろなものが加味されるので相性というのはあります。
そりゃそうですよね。
人間は多様だということはいつも言っていますが、相手の理解ができないほど多様なのです。

理解ができる範囲でバラエティーがあって話し合えばわかる程度の多様性だったら、それは本当の意味での多様性とは言いません。
人間の多様性のことを考えると、合う合わないもあるだろうなと思います。

・「こころ」を表現する世界の広大さ
じゃあ、合わなくても知識で補えるんじゃないかという話ですが、それも無理です。

なぜなら心を表現する学問であり、科学であり、そういうものは非常に広大なのです。
今はどんどん知見も大きくなっていますから、医師一人ではカバーできません。一人の人間が心の分野に特化しても、それをすべて理解しようというのはほぼほぼ不可能です。

患者さんが調べてきたものとか、患者さんが知っている世界、こういう治療がいいんじゃないかと調べてきても、医師なりカウンセラーがそれをすべて理解している、体感的に理解をしているかというと、なかなか難しいかなと思います。

患者さんに対する対応も毎回毎回100%お応えすることはできません。
それはこちらの不注意や体力など色々なものが関係しています。ですから、なかなか患者さんが望むものを常に提供することは難しいのではないかと思います。

・治療の物理的な限界
あとは治療の物理的な限界ということです。
精神科であれば、1回の診察は再診5分+αぐらいです。初診も30分+αです。
これが良いか悪いかは別として、そういう構造で治療しているところが多いと思います。

カウンセリングにしても1回45分とか50分ですし、お金は自費ですから1万円前後かかります。
だんだん物価も上がってくるから、1万円もキープできないかもしれないですね。1万円よりもっと上がると思いますね。
そういう物理的な限界もあります。

あとは距離の問題です。
通える範囲というのがあるので、通える範囲内でどういう治療ができるのか。

医師目線から見たら、例えば僕だったら半径何km以内にいる患者さんをできるだけ責任を持って診ようみたいな形になります。
その中には、摂食障害の人が何%、統合失調症は何%で何人ぐらいの人がいるとか、アルコール依存症は何人ぐらいの人がいるとか出てきます。

自分は摂食障害だけを集中してやろうと思っても、摂食障害だけで患者さんを、例えば年間1000人くらい集めるのは基本的には難しいです。
僕は年間1000人くらい、コンスタントに500~600人/月を診ています。月1だったり週1だったりいろいろな患者さんはいますが、だいたい僕のところにコンスタントに通っているのは500~600人です。
初診が月に何人か入ってきて、それとともに良くなったり転居する人がいる。
そういう循環があって、一度に診ている数は500~600人くらいではないかと思います。年間にすると1000人行かないくらいと関わります。

もし摂食障害の専門医になろうとした場合、摂食障害だけを500~600人集めて、定期的に新患を診るというのは不可能です。通える距離にそんなにいません。
やはり精神疾患というのはレアな疾患なのです。

そうすると自ずと自分の専門以外の患者さんも診なければいけない。
加えて、疾患ごとの特徴もあれば、地域性、年齢、世代的な価値観など、別の意味での専門性も必要だったりします。

ある種のカテゴリーの専門に特化しようと思っても、物理的な制約でできないという問題があったりします。
ビジネスで言う商圏の問題です。
東京だとマニアックなお店も成立しますが、地方だとなかなかマニアックな専門店というのは商売になりにくいです。
都会だとポケモンカード専門店などできるけれど田舎だとできにくい。
僕のクリニックがある早稲田のような都心であったとしても、専門ということをするとそれだけでクリニックを回すことはほぼほぼ不可能です。
東京ですらポケモンカード専門店は維持できないということです。

ですから、相性はあるのですが、それを満たすことは現実的にできないということがあります。
医師はカバーしきれない。

相性があるのは当たり前の話で、それは「サンタはいる」とか「すべての病気は治る」みたいな嘘と似ています。

言葉なき世界の理解者

ただ、僕らはなぜ相性があると言えないかというと、基本的には精神科医というのは「言葉なき世界の理解者」を目指すからです。

相性が合わない人たち、社会、家族、いろいろな他人と相性が合わない、うまく話を噛み合わせることができなくて困っている人たちを診る。
そういう人たちを救うのが精神科医なんですよね、そもそも。
最後の砦が僕らなのに、最初から匙を投げてはいけないじゃないですか。

だから相性というよりも、そもそも僕らはわからないもの、自分たちが表現したいと思っても表現できないもの、患者さんの無意識だったり、患者さんと家族の間にある誤解を理解する存在なのです。
まだ自分の気持ちを表現できない子どもの心を理解したり、語れないトラウマを理解したり共感したり。

統合失調症の妄想の世界を僕らは理解して気持ちを共感したり、境界性パーソナリティ障害の人の感情の揺れ動き、対人関係の脆さを共感したり理解したり、発達障害の人のこだわりや不注意、自尊心の低下を理解したり。

それは相性とかそういうものではなく、知識の中でそれで補っていって患者さんに寄っていくということが僕らに求められている仕事です。
相性とかそういうものを超えたところを目指しているというのがあるのかなと思います。

こう言うと誤解がありそうですが、例えば動物と会話ができるみたいなこと。
一流の釣り人は魚の声が聞こえるとか、一流の牧場経営をしている人は牛の気持ちがわかる、競馬のジョッキーは馬の気持ちがわかる、馬と言葉を交わせるように、僕らは狂気の世界、人間が持っている狂気の世界、患者さんが持っている、自分の中でもよくわからない無意識の世界の心と対話をすることができる、対話をすることができるように目指していくというのが精神科医です。
「相性」という言葉だけで解決してほしくないなというのがあります。

相性で治療は進むのか?

相性が良いと治療が進むのかということですね。

相性だけでは説明がつきません。
治療というのは適切なタイミングで適切な言葉があれば進むというものでもないですし、一見不毛のように見えること、一見無意味なような会話が後々効いてくることもあります。

患者さんから見て信用できないなと思っている主治医との中でも、信頼関係ができることで治療が進むということもあります。
そもそも相性は良いけれど、患者さんの精神的な症状のせいで相性が悪いと勘違いすることもあります。
いろいろあります。

あまりにもズレていると良くないのですが、でも相性という言葉だけで治療がうまくいくとかいかないとかは思ってほしくないなというのが僕ら精神科医の意見ですね。

現実としては相性というのはあるでしょう。
だけどそういうものを超えて治療していきたい、というのが僕らの意見だということです。

医師一人ではカバーしきれない

でも実際どうなのという話ですよね。
現実的には患者さんに合わせて多様な治療法があるわけです。
多様な支援のやり方があるわけです。

薬はある程度ガイドライン通りやればどの精神科医も標準的な治療ができるし、診断もそんなにズレはありません。
でもいざカウンセリングや精神療法になってくると、やはり個人差が出てきます。多様です。

それは臨床現場ではなく、教科書レベルであっても多様です。
精神分析的な治療もあれば、認知行動療法もあるし、マインドフルネスもあるし、集団療法もあるし、ワークショップもあるし、自助会もある。

そもそもこういう精神療法でやろうというのは非常に多様で、治療アプローチも多様なんですね。
いろいろな研究がされて、いろいろなやり方があります。

福祉の支援もとても多様です。
行政が持っているサービスも多様で、地域によっても違ったりします。

患者さんごとの多様性に合わせてできあがってきた多様なやり方であるので、医師一人がカバーできるわけではないというのはあります。
言葉なき世界の理解や相性を超えるものがあったとしても、なおかつ進んだところでやはりカバーしきれないということです。

多様な中で、自分は結局どれが合うんだろうと思いますよね。
医者側の気持ちはわかった。あなたたちは相性を超えて治療したいのですね、よくわかりました。でも私はどうなのみたいな話ですよね。
多様な治療や支援の中でどれが合うのということになり、患者さんは悩んでいます。

なかなかこれが難しいんですよね。
また話が戻るのですが、カバーしきれない。
カバーしきれなくて、でも患者さんに対して何ができるのかということで始まったこのYouTubeチャンネルです。
ここのぐちゃぐちゃ感、葛藤を理解してもらえればなと思います。

患者さんは多様な治療があるということで驚きます。
僕なんかYouTubeを1人やっていますから、YouTubeをやってくれる先生も少ないのでどうしたものだろうとか思います。

このマッチングをどうやって解決していくのかというのは今後の問題だと思いますし、いつも考えます。

相性はあるでしょう。だけど僕らは相性を超えた世界へ行こうとしている。だけどそれでもなお進んで行ったら統一していくのかというと、どんどん多様になってしまうみたいなね。
これが心の面白さであり難しさだなと思います。

少しでも統一的なこと、標準的な話をしようと思ってYouTubeで話しているのですが、それさえ僕のオリジナルなものに発展してしまっているというのがあります。

ということで、今回は医師と患者の相性について述べました。


2022.7.9

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