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自分の気持ち・意見を言う練習

00:00 OP
02:55 自分の意見を言わない理由
08:17 自分の意見を言う理由
10:23 自分の意見や気持ちを言わないことの問題
11:58 言えない原因、練習
14:35 治療

本日は「自分の意見・気持ちを言う練習」というテーマでお話しします。

皆さんの中にも会話をすることが苦手、自分の気持ちを誰かに伝えるのが苦手、自分から積極的に話すことが苦手、自分のストーリーを語るのが苦手、という方はたくさんいると思います。

僕もそうですが、苦手意識というか、まだまだだなとか、上手くしゃべれないなと思いますし、コミュニケーションは苦手だなと思っている人の方が多いのではないかと思います。

めちゃくちゃ上手い人っていますよね。
営業がすごく上手いとか、上手すぎて詐欺師みたいな感じの人もいますが、でも苦手、なかなか自分が思うようにできないという人の方が多いと思います。
こういうことが得意な人は、やはり芸能人とかそういうのになったりしますね。

苦手だから全部病気だというわけではもちろんありませんが、それが極端だという場合は、病気の可能性があります。
病気になってしまう可能性があるということです。

つまり、発達障害と似ていて、精神科の疾患というのは多くの人が持っている苦手なものを「極端にしたもの」が障害になってしまうことが多いです。
人間社会の中でそれが悪目立ちしてしまって生活しづらくなるということです。

例えばミスが多いとか、忘れ物が多いという特徴は誰にでもあるんですよね。
誰にでもあるけれど、それが極端なもの。
クラスで一番忘れ物が多い、町一番忘れ物が多いというのは、やはり病気だったり障害と呼ばれたりします。
それはなぜかというと、生活がしづらいからです。

不安な人とか恐怖感が強い人もそうです。
不安や恐怖感はみんなあります。でもそれは皆同じではなく、人によって感じ方はさまざまです。
だけどその中でも極端な人はやはり障害になってしまうことが多い。

自分の意見や気持ちを言うことが苦手な人というのも、それが極端に苦手だと、やはりこれは病気になってしまうことが多いことがわかっています。
そういう話をしようと思います。

■自分の意見を言わない理由

まずその前に、自分の意見や気持ちを言わない理由、言う理由、メリット・デメリットを語ってみようかなと思います。

・語らない美学
自分の意見や気持ちを言わないということは、ある意味「語らない美学」ということです。

自分の嬉しいという気持ちや悲しいという極端な気持ちを語らないというのは、冷静さを装えます。
例えば武士の世界だと良いものだと評価されます。
弱音を吐かないことは、良いものと評価されます。
軍人の世界というのはそういうものです。感情がフラットで揺さぶられない感じは評価されるものと判断されます。

コメント欄で、前回の武士の話をしたら、「いや、武士なんて江戸時代でも人の10何%しかいなかったんだから、江戸時代全体の日本人を語るのには不十分だ」みたいなコメントがありましたが、それはちょっと僕は違うと思っています。

文化を作っている人、社会の雰囲気を作っている人というのは、トップ層だったりするんですよね。
全員でその文化を作っているわけではありません。
それはスポーツの世界もそうです。こういう戦術が良いだろうということはトッププレーヤー同士が決めたり、戦う中で見つけたりして、それが皆に反映されるということがあります。

科学の世界もそうです。
皆で研究していますが、トッププレーヤーがその研究の方向性を決定付けるということはやはりあります。
ですから、文化、人々の価値観や生き方ということも、インフルエンサーというか社会の誰か、文化を担っている人たちが率先して作っている部分というのはあります。
とにかく「語らない美学」というものがあります。

結局、その文化を担っている人たちは精神科の患者さんたちではないんですよね。
当たり前と言えば当たり前なのかもしれないですが、文化の担い手が僕ら精神科医や患者さんではないので、結局メインストリームになっていかないし、文化や社会の常識になっていかない。
だから、いつまで経ってもマイノリティー側に僕らは入ることになるし、差別、偏見、悲しみ、理解不十分という問題が起きているということなのです。

そういう中でも存在感をアピールしていくにはどうしたらいいのかということは、僕はいつもYouTubeを通じて考えていることでもあります。
一応、美学の話です。

・出る杭、敵・味方
「出る杭」になってしまう、目立つと敵・味方がはっきりしてしまいます。
僕も自分の意見やこういうスタンスでやっているということを言うので、味方も作りますが、敵も作ります。
味方の方が多いかもしれないけれど、敵を作ってしまうというデメリットもあります。

・影響力、恥
影響力が出ることは良いのか悪いのか。
影響力があるからこういう発言をしてはいけないのではないか。
これもよくコメントでもらうし、僕自身もよく感じますが、益田は影響力が出始めたからこういう発言は控えるべきだとか、こういう発言はしてはいけないんだとか、本当にプレッシャーを感じながらやっています。

それは僕の立場であれ、そうでない立場であれ、皆さん考えながらやると思います。
そのプレッシャーに負けてしまって話せないというのはそうかなという気もするし、逆に軽はずみな発言がどんどん広がっていって炎上してしまうとか、恥ずかしい思いをしてしまうというのも嘘ではないので、自分の気持ちを言わないことで得るメリットでもある気はします。

・練習不足
あとはそもそも練習不足なのです。
自分の意見や気持ちを言う練習をしていかないと、どういう発言が炎上するのか、どういう発言は炎上しないのかはわからないわけです。

それはSNSの世界だけではなく、会社でもそうだし、友人関係の中でもそうです。
ついていい嘘もあれば、ついてはいけない嘘もある。
仲間内からの評価を上げるような冗談もあれば、評価を下げるような冗談もあります。

これはうまく練習しなければいけないのですが、練習不足だと失敗することが多いので、じゃあ喋らない方がいいのかなということもあったりします。負のループに入ってしまうということです。

■自分の意見を言う理由

次に、自分の意見を言うことのメリットです。

・語る楽しみ
語る楽しみがあります。
自分の気持ちを喋る、それを聞いてもらえた、共感してくれたというのは嬉しいし楽しいですよね。

・味方、友人
自分の意見を考えたりするというのは、クリエイティビティの話なので気持ちの良い作業です。
出る杭は打たれるとか、敵を作ってしまうと言いましたが、やはり自分の意見を言うことは味方を作ることでもあるし、友人を作ることでもあるので良いですね。

・影響力、自尊心
影響力があるというのは、自尊心が満たされたり、承認欲求が満たされることでもあるので重要です。
影響力がない、というのも問題があるのです。

影響力がないといじめられてしまうんですね。
こいつは弱者だ、こいつは会社で影響力が何もないから意地悪をしても反抗できないだろう、そういうことになっていじめられたり嫌な仕事を押し付けられたりします。
防衛の意味でも影響力というのはある程度必要だったりします。

・アウトプット、成長
自分の発言をすること、アウトプットするということは成長につながります。
一番効率の良い学習というのはアウトプットをすることです。
教科書を読むよりも自分で講義をするとか、こういう内容を伝えるということの方が成長できます。
自分の意見を言わないというのは、成長する機会を逃しているということでもあります。

このようなメリット・デメリットがあります。
バランスの問題、テーマ、自分の意見や気持ちを言ったときに聞いている相手が面白いと思えるものなのかどうか、いろいろな要素を考えながら、うまくやっていかなければいけません。

病気の人だけではなく健康な人も皆さん日々悩んでいるテーマですし、切磋琢磨しているテーマなので、差はどんどん開いてしまうということです。

■自分の意見や気持ちを言わないことの問題

自分の意見や気持ちを言うことができないと、精神医学的にどういう問題が起きるのかということです。

・個人メンテナンス
まず個人メンテナンスの問題が起きてしまいます。

意見を言ったり、承認してもらう、自分の気持ちを喋ることで相手に受けてもらう、相手が理解してくれるといったことは、自律神経を整えるのです。

我慢していると自律神経が乱れていくので、自分の意見とか気持ちを言わないとどんどん乱れていくから危険なのです。
意見や気持ちを言うことで、自分の自律神経のバランスを整えたりしています。
そういう機会を失うからどんどん調子が悪くなってしまう。
ひきこもりの人はそういう問題が起きたりします。

・集団適応・不適応
自分の意見や気持ちを言わないということは、集団内での適応が悪くなってしまいます。
人間というのは集団の生き物なので、群れで生きている動物です。
群れの中で不適応を起こす、群れの中での力動バランスから弾かれてしまうので、不適応になってうつっぽくなってしまうということがあります。

やはり自分の意見や気持ちは言えないとダメですし、言えるように努力していかなければいけません。
言えないとやはりこういう意味で病気になってしまう、落ち込んでしまったりします。

■自分の意見や気持ちを言えない原因

自分の意見や気持ちを言えない原因として、社交不安障害のようなものがベースにある、幼少期のトラウマがある、親から虐待を受けたり、自分の意見を言うことで叩かれてきたので言えなくなってしまった。

あとは自閉症ですね。発達障害の問題があり、自分の意見を言うことが苦手な人、コミュニケーションが苦手な人もいます。

そういうものに対してどういう治療をしていけば、自分の意見や気持ちを言えるようになるかというと、薬物治療で言えるようになるということはなかなかありません。

ある意味、お酒とかそういうドラッグを使えば口が回るだろうということもあるかもしれませんが、それは医者が言うことではありません。
アルコール依存症になってしまう人は、お酒がないとうまく喋れない、コミュニケーションが取れなかったと言ったりします。それは医者が勧めるやり方ではありません。

それがきっかけでうまく喋れたとか、お酒を飲んで会話したときの体験をしっかり覚えておいて、日常の中でも応用するということであれば、ある意味治療的な利用法とも言えるのかもしれないですが、常識的にはそういうことは言わないので忘れてください。

とにかく自分の意見や気持ちを言う練習は何かというと、本当にそのものの練習です。
喋る練習、ということだと思います。
誰と話すのかがポイントだったりします。
どういうシチュエーションで喋るのかもあります。

カウンセリングで喋るというのも一つですし、就労支援で何かの作業をしながら、デイケアで何か作業をしながら自然と会話ができるような場所を作る。そういう作業をしながら、「あー、疲れたね」「暑いね」とか言いながら、自分の意見や気持ちを言う練習をしていくのも結構重要かなと思います。

誰と話すかというのも結構ポイントです。
やはり優しい人と喋るのが良いです、最初は。
福祉の人とか、自分を否定しない人と喋って練習する方がいいかなと思います。

■治療

・スピードが不明
周りの人や僕ら治療者もそうですが、ひきこもりの人やなかなか自分の意見が言えない人たちの治療は難渋します。
困ったり悩んだりすることが多いと思います。
それはなぜかというと、まず治るスピードがよくわからないのです。

個人差が結構大きくて、自分の意見をなかなか言えなかったという人や気持ちをなかなか言えないとか、場面緘黙のようになってしまう、そういう人たちが治っていくのは年単位であることが多いのです。

毎週、毎月通ってもらってもなかなか進まない感じがして、治療者側がすごく焦ることが多いです。
本当に数年、10年、20年、そういう単位で良くなっていくものだったりすることが多いので、場面緘黙、ひきこもりなどは本当に焦ることがあります。
これで良いのか、こういう治療で本当に意味があるんだろうか、不毛なんじゃないかなど色々なことを悩みます。

でも本人なりにはゆっくり手応えを感じているのだったら、それをやり続けることに意味はあるのかなと思ったりします。

・やり方は?
と言いつつ、ボケーッと聞いていればいいのかとか、「なかなか良くならないよね」と指をくわえて何年も黙って聞いていればいいのかというとそういうわけでもありません。

やり方を絶えず見直す、現実的な問題はないのか、トラウマの問題にきちんとアプローチしているのか、そういうのはとても重要です。

最近、僕もやり方が変わってきて、夢の話も聞くようになりました。
「昨日はどんな夢を見たんですか?」「最近どんな夢見たの?」と聞くと、なかなか喋らなかった人が喋るようになったりすることもあります。
現実的な話や過去の話、将来のやりたいことや趣味の話など、そういう話だけではなくて夢の話をするというのもアリかなという気がします。

・欲求不満に耐える、伸び代、本人の幸福
本人の欲求不満に耐える力やそもそもの伸びしろも考えていかなければいけません。
あとは本人の幸福とはどういうものか、ということです。

喋るのが苦手な人に無理やり喋らせていいのか、喋ったり人と交わることが苦手な人を無理やり社会に連れ出そうとする。
社会に出られていない状況を否定する、今の生活を否定して「早く良くなったらいいね」ということばかりだと、やはり幸福ではないですし、ダメなんじゃないかなという気はします。

本人がフラストレーションに耐えるのが苦手だったりして、人と喋ったり社会に出ると苦痛なんだけれど、苦痛を耐えるのが苦手な人はいるんですよね。
それは甘えじゃないかと言われそうですが、甘えではなくて本当に敏感というか、耐える器が小さい人はいます。

そういう人に対して受け入れない、治療者側や家族側が受け入れないということをやってしまうとすごくかわいそうだなと思います。
5年、10年かかる治療だとわかっていながら、目先の5年、10年を否定するようなことです。

引きこもっているなら引きこもった上で、今の生活を楽しめばいいのにそれを否定してしまう。
治療者まで否定してしまう、家族まで否定してしまって、早く良くなったらいいねということばかり考えてしまうと、かわいそうだなというのはよく思います。

現状を肯定するということは治療を遅らせるということではなく、治療のためにも必要なことなのです。
現状肯定ということは、どんな場面であっても必要なものだなと思います。

自分の意見を言えないとか欲求不満に耐えられないというのは僕らもわかるし、了解可能です。
自分の中にもそういう部分はあるし、僕も苦手なことをやりたくないです。

得意なことはやっても苦手なことをやりたくないですが、それが相手も同じぐらいのものだから、相手も頑張れとか、僕はこうやったから僕のアドバイスをちゃんと聞いてくれとか、そうではありません。
これが極端なものだと異質だし病的なんですよね。

それは精神科医だから病気を作っている、障害を作っているということではなく、実際人間のバラエティーの中にある障害というものはあります。

例えが悪いからこれも何か言われそうですが、メダカを100匹でも1000匹でも買ってくると、やはり泳ぎが弱いというか、体力のないメダカはいますよね。
それは人間社会の中でもそうで、食欲があって胃が強い人もいれば弱い人もいる。

でも別に弱いからといってそれを否定するのではなく、その人たちの幸せを考えていく、ということがとても重要だと思います。
そういうことを治療者や周りが考えているということが、治療的に意味があるのではないかなと思ったりします。

今回は、自分の意見・気持ちを言う練習というテーマでお話ししました。


2022.7.17

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