本日は、スマホ依存症について解説します。
スマホ依存症と言っても何に依存しているのか、どのアプリに依存しているのか、ということは人によって異なります。
SNS、ライブ配信、動画、ゲーム、ギャンブル(ギャンブル依存)、ポルノ(性依存)、株など同じスマホ依存でも見ているものは結構違います。
アプリによって属性、困りごと、やめ方が違います。
■スマホ依存症の定義
現代人はスマホを手放せません。
だから僕らはみんなスマホ依存なんじゃないか、と思われるかもしれませんが、診断上定義があります。
・行為依存
スマホはお酒やドラッグのように、身体に直接取り込んで影響を与えるものではありません。
だから依存症と言わないと思うかもしれませんが、スマホ依存は「行為依存」というものの一種になります。
ギャンブル依存症、自傷行為、過食嘔吐、買い物依存と同じで「依存症」です。
・触っていないと不安
スマホが手元にないと不安だったり、触っていないと不安だったりします。
触っている間は落ち着き、安心感があります。
・日常生活への支障
日常生活に支障があるかないかが診断のポイントになります。
触ってはいけないタイミングなのに触ってしまう、会議中なのに触ってしまう、勉強しなければいけないのに触ってしまう、宿題をしなければいけないのに触ってしまう、授業に出ないといけないのに触っていて留年になってしまった、ということがあるとスマホ依存症を疑います。
・背景に別の疾患
背景に別の疾患があることも多いです。
発達障害、社交不安障害(SAD)などがあります。
よく臨床現場で見るのは、学生(小中高大)、引きこもり、中高年で孤立しがちな人です。
■メカニズム
メカニズムはどういうものかというと、現実的な問題があるとき(高ストレス状況のとき)に不安になりスマホを触る。
スマホを触っていると安心する、楽になる。
スマホでSNSを見ている間は落ち着く、ライブ配信や動画を見ている間、ゲームをしている間、ギャンブルをしている間はちょっと楽になる。
しかしまた現実に戻るとストレスを感じて不安になり、スマホをいじる。
このサイクルがどんどん速まっていきます。
すると、今度はスマホを触っていないと楽にならない、楽になりたいからスマホを触りたい、という風になります。
そしてサイクルに取り込まれるのがスマホ依存症です。
スマホを触っていても、元々の現実的な問題が解決するわけではありません。
スマホを触っていてちょっと楽かもしれませんが、それでテスト勉強が終わるわけでもなければ、宿題が終わるわけでもありません。
時間が過ぎるだけです。
時間が過ぎたら解決したり諦めがつくことも世の中にはありますが、この場合は時間の無駄です。
何も残らずに時間だけが過ぎていきます。
だからまたストレスが溜まって、という悪循環に入っていきます。
■治療
依存症は「否認の病」と言われます。
自分ではやめられません。
「あなたはスマホに依存していますね」と指摘されても、本人は「違う」と言います。
治療はどのように進めるのかというと、本人の話を聞きながら、客観的事実を抜き出していきます。
これを「物理的現実」と僕らは言います。
これを引っ張り出して、今何に困っているのか、本人の目から見えている問題と、本当の現実的な問題は何なのか、ということが違うことがあります。
「私は人が苦手で…」と言っていても、そうではなくて、本当は宿題が多すぎる、スマホの依存症になっている、という色々な現実を抽出していきます。
その中から新しい現実を手に入れていきます。
どういう風に伝えていくか、どうやって今の現実を解決していくのが良いのかを考えます。
これが臨床の流れです。
基本的には、スマホ依存という診断がついているのであれば、スマホを触れない環境を作ってあげると比較的速やかに解決するパターンが多いです。
例えば、スマホをいじっているせいで夜眠れなくなってしまい毎朝気だるい、ということであれば、夜の間は触れないように金庫を用意する、家族にスマホを管理してもらう、というやり方で触れないようにすると、段々とこのサイクルが弱まってきます。
だから、まずは行動制限が重要になります。
どうしてスマホをいじってしまうのかというよりも、先に行動制限をしてあげた方が治療効果は高いです。
アルコール依存症であれば、どうしてお酒を飲んでしまったのかを考えるのも大事で気持ちの整理も大事ですが、その前にお酒を飲まなければ報酬系の気持ちよさは忘れていきます。
やらなければ忘れていくので、やめやすかったりします。
とにかくやらないということです。
お酒の場合なら、お金を持たない、飲む場所には行かない、家にお酒を置かない、など色々なやり方があります。
同じようにスマホの場合も、触らない、職場にスマホを持っていかない、持っていってもどこかへ置いておく、家ではスマホを誰かに渡しておく、というやり方があります。
メールのやり取りも後でと予め決めておくなどします。
■現実的な問題
これ以外に、どうしてスマホを触ってしまうのか、という現実的な問題を一緒に考えていきます。
ただ、言うのは簡単ですが、現実的な問題で解決出来ないものがあったりします。
解決出来ない問題として、発達の問題がある、障害の問題がある、他人よりも能力が劣っているから劣等感がある、などがあったりします。
自分はもうだめなんじゃないか、だからスマホをいじっているしかないんだ、社会復帰はできないんじゃないか、と思い込んでいる場合もあったりします。
こう思ってしまう人は残念な背景もあります。
親から虐待されていた、良い機会が得られなかった、悪いアクシデント、不運が連なった結果スマホに依存せざるを得なくなった事情もあるので、どうしたら良いんだろう、と思います。
ですが、そういう現実があったときに優しく受け止めてもらった、甘えさせてもらった、現実の苦しさを一緒に抱える人がいなかったので、診察の場面ではそれを語り直すことによって受容してもらうという経験をしてもらいます。
また成功体験をどう増やすのか、ということもポイントです。
成功体験が少ないから苦しんでおり、スマホをいじっているから成功体験が増えません。
スマホの中でゲームをしたりライブ配信を見ていても、それは現実社会における成功体験とは呼び難いことが多いので、現実での成功体験を増やしてあげないと厳しいです。
リアルなコミュニケーションが必要だったりします。
治療としては、精神科の5分診療だけでは短いです。
カウンセリング、自助会や精神科デイケアがやっているワークショップへの参加を重ねて、日常生活の経験、スマホ以外のリアルな経験を増やしていく、そして、認知を変えていくことが重要です。
しかし依存症をメインにしているカウンセラーは少なく、ワークショップも少ないです。
なので、どうしたものかな、と思います。
僕だってクリニックとYouTubeとオンライン自助会で精一杯で、なかなかそこまで手がのびないということもあります。
もちろんスマホ依存をメインにしているカウンセラーの人もいますが、充分にいるとは言い難いです。
■スマホ規制?
そもそも規制しなくても良いのか、ということがあります。
ギャンブルでも何でも規制があるものなのに、スマホを規制しなくて良いのか、ということがあります。
SNSをどう規制するのか、ということは考えなければいけない問題だと思います。
新しいものに対して人類は規制をかけた方が良いです。
アルコール、タバコ、大麻、何でもよいですが、それを僕らは新しい発見があるたびに規制をしてきました。
人類は歴史の中でスマホやSNSその他のものをどう規制するのか、ということは考えていかなければいけません。
どこからどこまで規制するのかというのは難しいです。
アルコールも、全ての人が依存症になるわけではありません。
ギャンブルも覚せい剤も同じです。
SNSなども皆が依存症になるわけではありません。
でも、一部の人が依存症になって生活や人生が破壊されます。
その一部の人のために僕らはどうするのか、ということを考えていかなければいけません。
10人が幸せになるために1人が不幸になって良いのか、という問題と似ています。
僕は精神科医なので、10人が幸せになるために1人が不幸になるということは考えたくないし、考えられません。
僕はそういう立場です。
危険なものだからある程度の規制は必要だ、と考えるのが精神科医という仕事です。
こういうことで苦しんでいる人たちの代弁をするべき立場の人間なんだろうなと思いながら、喋っています。
今回はスマホ依存症について解説しました。
依存症
2022.7.25