本日は「治療のゴールとその過程」というテーマでお話しします。
精神医学においてどういうプロセスがどういう治療効果を生むのか、どういう話をしたら良いのかをわかりやすく説明するために、自分なりに整理したことがあるので、それを今回皆さんと共有したいと思います。
精神科で何を喋ればいいんですかと聞かれます。
自分の症状とか体調を伝えるのがいいですよ、ということを多くのドクターや心理士、ソーシャルワーカーの人は言うと思うのですが、実は症状を細かく伝えていくことが正しいわけではありません。
それを丁寧に伝えれば良い治療ができるというわけではなく、症状よりも伝えなければいけない、伝えた方が良いこと、ディスカッションをすると良いことはたくさんあります。
特に慢性期や治療が長い人こそ症状よりもこういう話をした方が良いことがあります。
もちろん躁うつ病や他の病気もありますから、全部が全部そうというわけではありませんが、症状だけを伝えていくと治療は停滞してしまうので、他の話もした方がいいと思います。
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どんな話をすれば良い?
どんな話をしたらいいのかというと、生い立ちや両親のこと、両親の生い立ちも話していいと思います。
どういうことがあったのか、あの時どう思ったのか、自分史を語るように話していく。
1回では終わらないと思うので少しずつ話していくことが大事です。
それから原光景、昔見たこと、一番最初の記憶。
どんな夢を最近見たのかとか、そういう話も喋ってみると面白いと思います。
あとは現実的な困りごと。今どんなことに困っているのか。
それから主治医の態度。
主治医に対してどう思っているのか、なんで先生はそうなのですかと主治医の態度について触れてみるのもいいと思います。
主治医の態度について語ること、主治医との関係性について語ることで、自分自身の無意識や対人関係のパターンも掴めたりするので、言いにくいかもしれないけどとても重要なことです。
あとは人生とは何か、友人とは何か、死ぬとは何かという抽象的な単語を掘り下げていくのも面白いですし、趣味や映画など自分が見たものを語ってみるのも良いです。
あとは時事ネタですね。
最近あったニュースで私はこう思うけど、先生どう思いますかとか、こういうことも結構大事です。
何からスタートしてもいつもの話題に突き当たる
こういう話は雑談のように思うかもしれないけれど、どんな話からスタートしてもいつもの話題に突き当たります。
例えばトラウマがある人、児童虐待があった人は、どんな話をしても、途中から自分の子供の頃の虐待の話になっていきます。
恋人への執着や共依存がある人は、どんな話題をしても、最終的にはやはり共依存に関するテーマになります。
これが精神科の面白いところで、どんな話を入り口にしても、フックになる話しやすいテーマから話していけば、だんだん自分の本当に話さなければいけないテーマを話せたりします。
そのテーマを話していく中で、やっぱり私はそうなんだなとか、私はやっぱり意地っ張りなんだなとか、私は毎回白黒思考なんだなとか、私は毎回お父さんとお母さんに対して怒っているけれど許せないんだなとか、そういうテーマに戻ってまた次回ということになっていきます。
これを何度も何度もトライしていくと、ついに壁がぶち破れて、次のテーマに行ける。
主観2.0に移れたりします。
そういうことなんですよね。
主観2.0
実際どういう風に話すのかというと、まず本人の気持ちを言います。
「私はこう思うんです」という主観的なものを、治療者は客観的なものにデータを移し替えます。
「こういうバイアスがあるよね」「こういう思い込みがあるよね」「ここが整理されていないから、ロジックで理論的に整理したらこうなるよね」とか、教育と補足ですね。
若い人は経験がなかったりするので経験をためてみたり。「いや、こういう意地悪な人っているんだよ」「会社ってそういうもんなんだよ」「敬語を使わないとこういうトラブルにあったりするよ」と補足したり、「病気ってこうなんだよ」「脳みそってこういう仕組みなんだよ」という教育や補足をして客観的なデータにして、また自分で考えてもらうのです。
そうすると「主観2.0」に移ったりします。
主観的な情報を客観的な情報に移していく中で、また主観に戻るのですが、その中で達成すべきものというのは何かというと、「自分が愛されているんだ」ということや「社会の一員なんだ」という所属感を体感的に理解したりとか自己肯定感ですね。
「自分は悪くないな」「いいところもいっぱいあるな」とか。
あとは楽観性ですね。「未来は良くなっていくな」とか、そういうものを身につけていくということなんですよね。
客観的に情報を整理した後、肯定的に客観的な事実を受け入れていくというのが治療の流れです。
ネガティブなものをポジティブに受けるという風に見方が変わるという風に横のスライドだと思っていると結構違います。
一旦あるがままのものを見る。そしてポジティブに変換していく、ポジティブなものだと再解釈していく、ということが臨床で起きることです。
共感や傾聴をしてもらって、わかりやすく説明してもらう、補足をしてもらうと、基本的には主観から主観2.0に移れます。
基本的には自己理解や脳の理解、群れってこうなっているよね、社会ってこうだよね、運や不運があるよねということを理解をしつつ、こだわらない、切り返していきながら、しなやかな思考を身につけていく。
そうすることによってバイアスが減り、整理され、教育・補足がされていきます。
共感的に聞いてもらう、支持的に聴いてもらう治療者の優しい態度によって、愛されているという感覚や自己肯定感、楽観性というのが無意識に育まれるというのが精神科の臨床やカウンセリングの現場で起きていることかなと思います。
とにかくいろいろなことを話しながら、こういうゴールに向かって進むのが精神科の治療ということになります。
今回は、精神医学の話、治療のゴールとその過程というテーマで精神医学をリデザインしてみました。
精神医学
2022.8.2