本日は「カサンドラ症候群、同居・別居・離婚」というテーマでお話します。
この話は少々耳が痛いかもしれません。
僕も語るのは結構苦しいなと思いますが、最後までお付き合い頂けたらと思います。
「カサンドラ症候群」という言葉を聞いたことのない方も多いと思います。
旦那さんが発達障害で、その旦那さんと暮らしていく中で、すれ違いや心の繋がりが乏しいということでうつになってしまう奥さんのことを「カサンドラ症候群」と言います。
最近は発達障害も知られるようになり、それと共にカサンドラ症候群も広く知られるようになってきています。
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受診のきっかけ
どういうきっかけでカサンドラ症候群だと思うのか、どういうきっかけで受診するようになるのかというと、よくあるのは旦那さんのモラハラ、旦那さんが気遣いゼロ、休みには一人でどこかへ遊びにいってしまうとか子育てに協力してくれない、というところから奥さんがうつになってしまう。
どうしてなんだろう、私が悪いのかしら、旦那さんを怒らせてしまった、何で旦那は家のルールに対して厳しいんだろう、モラハラなんだろう、変にこだわりがあるんだろう、と思ってうつになってしまう。
そういう中で僕のYouTubeとか色々なものを見ていくと「あれ、これは旦那が発達障害なんじゃない?」「私がうつ病になったんじゃなくて旦那が発達障害(ASD: 自閉スペクトラム症)なんじゃない?」「このうつ状態はうつ病ではなくて、旦那と一緒にいることによる適応障害から来ているうつ、つまりカサンドラ症候群では?」と気付き受診にいたることが多いです。
ですから、奥さんが受診することもあれば、旦那さんに受診を促すパターンもあります。
発達障害とは何かというと、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)とLD(学習障害)の3つの病気からなるもので、生まれつき知能の凸凹があって普通の人ができることができなかったり、逆に、普通の人の苦手なことにすごく興味があって熱心にやれたり、そういう人たちのことです。
興味に偏りがあり、子育てや奥さんの気持ちにそこまで注意を払えないのがASDの特徴かな、と思います。
自分のこだわりが強いので、それが結果的に他人に対するモラハラのように自分のこだわりを押し付けて奥さんを困らせたりすることもあったりします。
一見子どものように見えるのがASDの特徴だったりします。
受診後のルート
受診後に奥さんはどういう経路を辿るのか、カサンドラ症候群の人たちはどういう風になるのかというのは色々なパターンがあります。
家庭によっても違います。旦那さんの治療モチベーション、奥さんに対する思いやりの気持ちや反省、奥さんのことはよくわからないけど助けてあげたい、などによる違いです。
「そもそも自分はASDではない。アスペではない」と全く治療に関与しなかったり、どうして奥さんが困っているかよくわからないというパターンまでいろいろあります。
合併症の問題もあります。
ASD+二次障害としてのうつ病や躁うつ病、統合失調症があったり、そういうものがなくても性依存症、アルコール依存症、ギャンブル依存症などの病気を合併していることがあったりします。
虚言癖など色々なものがあり、それによってルートは違うかなと思います。
そもそも奥さんはなぜ彼を結婚相手として選んだのか、という奥さん側の問題も考える必要があります。
例えば、奥さんが自分の家族と一刻も早く別れ独立したかったので、すぐ結婚してくれそうな人を選んだ。
すごく暴力的な家族に育ったので、感情の揺れ幅が少なく程よい距離をとってくれる旦那さんに恋をした、というような家族背景の問題があるかもしれません。
また、奥さん自身が不安障害、うつ病、気分障害の問題があって、ASDのような気持ちの揺れが少ない旦那さんを頼もしく思って恋に落ちたとか。
さらに、奥さん自身も発達障害であって、共通する部分が多いから結婚したということも考えたりします。
あとは経済力の問題です。
奥さんは働いて稼ぐ力があるのかないのかで今後の方針も違ってきます。
ASDの旦那さんが集中できるタイプだからこそ、学者や医者、エンジニアに多かったり経済力があり、奥さん自身には経済力がないパターンもあったりします。
子どもはどうするのか。
子どもはいるのかいないのか、子どもに発達障害があるかどうかということも今後の方針を決める重要な点です。
発達障害が親子で遺伝するのかという問題ですが、原則として、親が発達障害だから子どもが発達障害になるというわけではありません。
両親がプロスポーツ選手でも、その子どもの運動神経は良くてもプロ選手になれることはあまりありません。
これは平均回帰の法則と言い、子どもは平均に寄っていきます。
トンビがタカを生むという感じで親族の中からパッと優秀な人が生まれることもありますが、次の世代の子どもはまた平凡になっていきます。
そして平凡な中からまたパッと優秀な子どもが生まれるというのが基本的な法則です。
なので、子どもが発達障害ではないことが多いです。
ですが、時々、親がスポーツ選手だから良いところの掛け合わせでガンと行くこともあります。
このパターンもありますが、基本的には平均に回帰します。
競馬がそうです。
サラブレッドを考えると、よい種馬と雌馬から生まれた馬をトレーニングしても全ての馬が親馬を超えるような名馬として生まれるわけではありません。
これは平均回帰の法則のためです。
治療ではこれらの状況を個々に吟味します。
だから正解はありません。
同居・別居・離婚
人によって伸び代や変化の割合が異なるので、旦那さんの発達障害の程度が軽くなる、子どもの発達障害の程度が軽くなる、奥さん自身の悩みの変化もあり、それによって今後の方針も、同居して夫婦としてやっていくのか、同居して夫婦とは言えないが気心の知れた住人、シェアハウスの住人、友人として付き合っていくのか、別居して夫婦としてやっていくのか、別居して冷めた関係でいるのか、離婚を選ぶのか、ということを選択していきます。
知る痛みと書きましたが、これは結構苦しいです。
旦那さんはどんな人なのか、どんな伸び代があるのか、本当に一緒に治療に付き合ってくれるのか、ということを知ることはとても痛みを伴います。
自分自身の問題を知るのもとても苦しいです。
場合によっては「全部夫が悪いんだ」と自分の問題も夫に投げ込んで、自分の問題に目を向けられない人もいます。
でも上手くいくのではないか、次の瞬間夫は気持ちを入れ替えて普通の夫婦に戻れるのではないか、と思ったり、さまざまな現実を見ることの痛みがあります。
まやかしや自分の気持ち、欲望と折り合いをつけた上で、それらを押えて自分たちの現実を見なければいけません。
これはとても苦しいものです。
この苦しみは一人で耐えることができません。
なのでカウンセリングや自助会など誰かとの繋がりを作ったり、自分の心の回復をまず優先させたりします。
自分のうつをまず治す。そしてこういう現実に向き合っていくという風にやっていきます。
カサンドラ症候群の人は同居するんですか、別居するんですか、離婚するんですか、どういう人が多いですか、と聞かれたりしますが、なかなか言うことができません。
何が良いのかよくわからないですし、どういう風に変化していくのかというのもカップルによって違います。
DVがあるのか、モラハラがあるのか、実家は協力的なのか、等々色々な要素によって変わります。
別に「発達障害」だから同居、別居、離婚を考えるというのではなく、それはアルコール依存症でもギャンブル依存症でも、うつ病でも躁うつ病でも、どんな病気であっても精神疾患というのは複雑で、家族がどこまでサポートできるかというのは全然違います。
統計データでは夫が病気の方が離婚率が高く、妻が病気の場合は離婚率が相対的に低いとなっていたりしますが、時代が変われば夫婦のあり方も変わると思うので、そのデータ自体には意味がないと思いますし、そもそも夫婦によって事情が違うのでざっくりとした統計データにはあまり意味がないと思います。
同じ病状であっても女性の方が受診するから、ということもあるのかもしれませんが。
精神科はハードな問題をハードに扱います。
臨床していても胃が痛くなります。
益田はへらへらしている、他人の気持ちが分からない、患者さんの立場に立って考えてない、と言われそうですが、自分だったらどう思うか、自分が奥さんだったらどうか、自分の子どもがこうだったら、自分の親だったら、と色々なことを考えながら日々臨床しています。
でも主観的な気持ちを伝えるわけではなく、知る痛みをどうやったら緩和できるのか、知る痛みに耐えて道を進まなければいけないのか、それとも進むことが幸せではないのではないかなど色々なことを考えながら臨床をしています。
今日は、カサンドラ症候群、同居、別居、離婚、というテーマで、どういうことを臨床の中で検討するのか、誰がどういう決断をするのか、についてざっくり解説しました。
発達障害
2022.8.7