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芸能人のうつ病告白は正しい? 強い人、成功している人が「私もうつ病でした」と告白するときの違和感を解説します

00:00 OP
01:30 自分で治した?
02:41 診断
05:03 違和感の原因

本日は「強い人、成功している人が自分も昔うつ病だったよと告白することに関する違和感」というテーマでお話しします。

よく芸能人や有名人が、「昔、自分もうつ病だったことがある」「実は、最近うつ病と診断されて治療していました」と告白することがあります。

それを見て、「ああ、うつ病って身近なんだな」「ああ、うつ病ってこんな人でもなるんだ。自分も頑張ろう」と思う人もいれば、「絶対違うだろう」「私達と同じではない」と思う人、「売名なんじゃないか」と思う人、いろいろな人がいると思います。

実際、僕ら精神科医はどう感じているのか、そこら辺を話してみようと思います。

僕は嘘をついているとは思いません。全然嘘をついていると思いません。
ただ、一般的な精神科臨床で見ている感じと、芸能人の方がうつになる感じはちょっと違います。
そこら辺の現場感覚をお話ししようと思います。

自分で治した?

例えばよくこんなやりとりがあります。
「あなた元気そうだから来なくていいよ」とドクターが言う。
そうすると「自分よりももっと苦しい人がいるんじゃないか」と思って行かなくなってしまう。

あとは「医者は薬を出すだけで話も聞かないし、役立たずだった。だから自分で治したんだ」と言う人までいます。芸能人の人とか。
「病院で治したんじゃなくて、自分はこうやって治したんだぞ」と言う方もいます。

こういう話を聞くと、精神科のことをよく知っている人、患者さんは特に「あれ、それってうつ病じゃなくて、燃え尽き症候群(バーンアウト)だったんじゃないの?」すごく疲労がたまってきて、自分で追い込んだから一時的にうつ症状になったんじゃないのとか、そもそもそれはストレス性のうつだから適応障害だったんじゃないのと。
うつ病じゃなかったんじゃないの?と思うかもしれません。

おおむねその見立てで間違いないかもしれないですが、もう一歩踏み込んでお話ししようと思います。

診断

その芸能人を診たドクターが診断できずに、バーンアウトや適応障害と本来だったら診断をすべきところを、間違えて「うつ病」にしてしまったとか、重めに書いたということではなく、バーンアウトや適応障害という診断にしなかった背景があります。

そもそもDSM-5やICD-10の操作的診断というものでは、うつ病、適応障害、燃え尽き症候群(バーンアウト)を、ざっくりとしか分けていません。

「うつ病」というのは、2週間以上続くうつ症状を満たすものを何でも言ってしまいます。

「適応障害」というのは、3か月以内でうつが起きるもので、ストレス原因から離れるとおおよそ6か月以内に回復するものです。
実際は6カ月以上かかることもありますし、前後しますが、一応こういうイメージです。

「気分変調症」は、なかなか治らないうつです。
軽いうつ症状が継続するもの、少なくとも2年間続くものを気分変調症と言ったりします。

もちろん僕らの中では病気のイメージというものがあります。
うつ病というのは悪くなって、また時間が経つと良くなってきて、またしばらく経つとまたうつを繰り返す脳病というイメージです。

適応障害はストレスで潰れてしまうこと。
気分変調症はずっとうつが続くことという、古典的な精神科の病気のイメージ、精神病理学から続いている病気のイメージを精神科医は共有しています。

ですが、実際それを操作的診断に当てはめようとすると、なかなかそのニュアンスが文章には反映しにくくて、結果的にこうなってしまいます。
これらの文面だと、適応障害に該当するものが、病状をチェックしていくとうつ病に当てはまってしまうことがあります。

違和感の原因

どうして芸能人や成功している人のうつ症状と僕らが診ている精神科の患者さんのうつが、ちょっと雰囲気が違う、毛色が違う、違和感を感じるか、ということを解説しようかなと思います。

そもそも精神科の病気は、ストレス+遺伝子で決まります。
ストレスで精神疲労がたまって、加えて遺伝子のもともとある脆弱性によって発症するといわれています。

実際の臨床はそれにプラスして社会的な問題が絡みます。
貧困の問題、虐待の問題です。
あとはコミュニケーションが苦手とか、さまざまな要因がかかわってきます。
ですから、多くの患者さんは健康な集団、社会の集団から外れてしまって、不運のところ、ある種不幸な場所にいます。

こういう場所でなかなか健康の方に行けない。不運が重なります。
虐待だけではなくて、虐待とコミュニケーションの苦手さ、勉強ができない、運動ができない。
いろいろなものが重なって不運にいて、なかなか健康に行けない。
不運の中でだんだんストレスを溜めていって、とうとう病気を発症してしまうことが多いです。

精神科で薬をもらって病気の状態が良くなったとしても、また不運へ戻ってしまい、またずるずるとストレス溜まって病気に戻ってしまうという負のループに陥っていることが多いです。

ただ、成功している人たちは健康の状態から自分でよりハードな状況に追い込んで、病気になってしまうことがあります。

一流の経営者、一流のアーティスト、スポーツ選手なども追い込むんですよね。
追い込むから勝つのです。競争社会の中で。

すごく追い込んで、すごく自分に負荷をかけて、精神疲労もギリギリまで追いつめてしまう。
それでとうとうパキンと弾けて、病気にいくことがあるのですが、こういう人はそもそも自力で回復する「資産」を持つ人なのです。

健康から病気に行ったとしても、すぐに健康に戻って行けてしまいます。
だから医者は役立たずだとか、自分にはこういうのはいらなかった、と言えてしまいますし、休んでいれば治るんだと言えてしまいます。

ですが、僕らが診ている臨床や皆さんが苦しんでいることというのは、病気と不運の問題だったりします。

成功するイメージがどうしても持てない。
成功した体験がないから、イメージしろと言われても、頭でわかっても全然腹に落ちてこない。
一回成功したことがある、愛された経験がある人が、一度落ち込んで元に戻るのとはわけが違います。
だから話を聞いていても違和感を感じるのかなと思います。

逆に成功している人たちにとっては、そういう人に合わせるようなものを、僕ら精神科医が提供できていなかったりするし、健康から病気に来ている人たちも同じ患者さんなのです。

苦しんでいる患者さんなのに、「君たちは不運にいないから大丈夫じゃないか。だから来なくていいんじゃないか」とか、邪険に扱うこともないとは思いますが、たまにあるのかもしれないです。
せっかくこういう人たちが病気のことに関心を持ってくれたタイミングなのに、追い返してしまうことがあるのかなと思います。

オタクの世界と一緒ですよね。
僕らは暗いから、隠キャの煮詰めたところにいるじゃないですか。
コア層だけを相手にしていて、にわかとかライト層は来なくていいよ、みたいな感じになってしまうと、精神科の社会的な認知は広がっていきません。
やはりこういう人自ら追い込んでしまってたまたま病気側に来てしまった人にも、きちんと丁寧なケアをしたりとか、病気のことを知ってもらって帰っていってもらえたら、社会に精神科のことを覚えてもらえるのではないかと思います。

今回は、強い人や成功している人が「自分もうつ病だったと」告白するときの違和感について解説してみました。


2022.9.3

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