本日は「仕事を見つけられない神経発達症・発達障害グレー」というテーマでお話しします。
うちのクリニックは早稲田でやっています。
早稲田がどこか地方の人はイメージつきにくいと思うのですが、山手線の内側にあります。
東西線の真ん中にあります。
東西線の真ん中ぐらいにあって、東に行くと東京駅や丸の内と呼ばれるところに行きます。
その手前のところにあって、もうちょっと西に行くと高田馬場や中野になっています。
中野になると住宅地という感じです。
住宅地と職場の間ぐらいにある学生街なんです、早稲田というのは。
首都圏で働いている人が多く来られるし、いわゆる高学歴と呼ばれる人たちが多い場所でもあります。早稲田大学もありますし。
そういう人たちが親の期待を背負って、いい大学に入れさせてもらい、親の期待を背負って就職しようとするのですが、なかなか就職できなかったり、就職しても仕事が続かなかったりします。
それでうつになって、もしくはひきこもってしまって当院を受診することは珍しくありません。
診察をしてると、うつ病や躁鬱病というよりは発達障害の問題が見え隠れすることが多いです。
発達障害の、でも障害というほどではない、いわゆるグレーゾーンと呼ばれる人たちが多かったりします。
今回はそういう人たち、発達障害グレーと呼ばれる人たちが仕事がなかなか見つけられない、何度も転職を繰り返してしまうことになっているという事実を皆さんと共有したいなと思います。
それと共に、彼らが苦しんでいることを知ってもらいたいし、それらをコメント欄でディスカッションできればと思って動画を撮ります。
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高学歴だけれど
高学歴と呼ばれる彼らなんですけれども、高学歴じゃなくても良いのですが、子どもの時どうしていたかというと、塾や予備校に結構通っています。
塾や予備校にしっかり通い、強制ブーストではないですが、学力だけはついているという感じです。
その結果、意外と子ども同士の遊びが少なく、勉強もしくはゲームしかないみたいな形で、非認知能力、いわゆる学力ではない人間の知的な能力、学力では表すことができない、数字で表すことができない能力、昔はEQと呼ばれたりしていましたけど、そういう能力が育たなかったり、コミュニケーション能力が育たなかったりします。
あとはマネジメント能力ですね。
僕は地方だったし、昭和の人間なので、受験勉強はどんな参考書をやるのか、どういうスケジュールでやるのか、それが受験勉強の本質でした。
どちらかというと自分で自分を律して勉強するというのが受験勉強の本質で、実際に勉強する内容や、どういうことを勉強するのか、知識を身につけるのかなんて全体のうちの3割、4割ぐらいだったんです。
多くの学力で求められるものは何かというと、このマネジメント能力、我慢する力だったのです。
この我慢の部分を予備校や塾がやってくれる。戦略を立てたりマネジメントするところは。
だからただ学力だけに集中できる分、マネジメントする能力が低かったりします。
でも僕は塾や予備校が悪いと言ってるわけでもないし、もう皆がやっていることなので、皆が予備校や塾を使っている中で、マネジメントのことをやっていたら、競争は負けてしまうので、僕は別にいいとは思っています。
予備校や塾を使うことは悪いと全然思ってないんです。
でもマネジメント能力は育てにくくなっているだろうなと思います。
あとは物語です。
ゲームをやったりする中で、小説を読む、映画を見る、こういう登場人物がいるなどの物語のバリエーションが本当に少なくて、観たことがない人、経験が少ない人が多いなと思います。
これだけ情報があふれていると、自分の好きな情報を取ってしまうので、結果的にいわゆる物語というものを吸収しない人は、吸収しないまま大人になることが多いなと思います。
そういう形で、高学歴なんだけれども他の能力が育っていなかったりする、と。
なので実際に仕事をしてみると難しかったりするというのがあるのかな、と思います。
発達障害の問題もそうなのですが、精神疾患というのは遺伝子+環境で決まります。
遺伝子+生い立ちで決まるというところがあるので、もともと発達障害傾向があったとしても、生い立ちや養育環境によっては非認知能力やコミュ力を伸ばすことで、障害特性が目立たないこともあります。
ただ、そういうところが育つ経験がなかったからより障害特性が目立つ、ということなんです。
そういう話をしたいということです。
ホワイトカラー不要?
あとは、世の中自体が変わってきています。
ホワイトカラー、いわゆる普通のサラリーマン、業務を調整したり仕事を他の人に振ったり、そういう調整役のようなサラリーマンの仕事というのがだんだん不要になってきています。
AIやIT化によって効率化することができるので、いわゆる昔ながらのサラリーマン、サザエさんでいうところの波平さんやマスオさんがやっているような仕事というのは本当になくなってきている感じです。
派遣社員の人にやってもらうというのもあったりして、いわゆる事務職というのは本当になくなっているという感じです。
そもそも人手不足なのですが、採用の枠が減っているというのはあります。
採用されるときにはマルチタスクが求められることが多いです。
つまり、AIやITを駆使して派遣社員の人と連携を取ったり、実際、派遣社員の人もITを使いながら事務の仕事をやったりする。
今までやっている仕事よりもはるかに複雑なこと、マルチタスクをしなければいけなくなり、上の世代、昔だったら発達障害ともグレーとも言われずに困らなかった人たちが困るようになっている、という現実もあります。
人間関係のコミュニケーション能力や調整というのもより複雑化してスピードアップしています。
業務自体のスピードも速くなっていますから、付いて行けなくなっている人たちがいるということです。
ようやく企業に入れても、ブラック企業になることが多いです。
中小とかベンチャーというのは別に社長が悪いわけではないのですが、ついついブラック化してしまいます。
それはヒト・モノ・カネがない、全部ないんです。
ないところからスタートするから色々な仕事をしなければいけないし、やる業務が多いのです。
だからついついブラック化します。
そこにしか入れない。
そういうところだと場所によってはピリピリしていたりするんです。
忙しいから皆もストレスが溜まってピリピリしていることもあるし、業績が上がらないからピリピリしているということもあったりして、ここでまた潰れてしまったり。
発達障害傾向のある人は目立つので、ちょっと失礼なことを言ってしまうとか、空気が読めないことをして周りからいじめられたり、目をつけられるということも結構多いなと思います。
それで辞めてしまうという感じです。
辞めたらまた就職が難しくなって、次に入れるところはよりブラックな場所ということもあったりします。
あとはこれもコメント欄とかでよくもらうし、僕も臨床でよく思うのですが、忙しいからこそ、うつの人が多かったり休職の人が多かったりして、変にメンタルヘルスの知識があったりするのです。
こういう人は入社させないようにしよう、入社してもこういう傾向のある人はちょっと早めに追い出してやろう、みたいなことになってしまうところもあります。
これは本当に現実としてあります。
こんなことはあってはいけないなと僕は思うのですが、あります。
企業の高齢化
儲かっているところはどうかというと、もう仕組みが出来上がっていて社員の高齢化と再雇用が進んでいて、なかなか新入社員を入れにくい環境だったり、入りにくい環境だったりします。
社内カルチャーも古い文化のままなので、メンタル疾患や発達障害に対してより無理解だったりして居心地が悪かったりするというのもよく聞きます。
そもそも不器用
じゃあ給料を下げてもいいじゃないか、身体を使う仕事とか製造業とかに行ったら? みたいな意見もあるかもしれません。
中間層というのは没落していくので、もっと身体を動かす仕事とかそういうのでもいいじゃないか、という意見もあります。
ですが、そもそも不器用だったりします。
発達障害の人は手先が不器用だったり、協調運動というのは不器用だったりします。
運動神経が悪いのです、端的に言えば。
僕も良くないので別に偉そうなことを言えるわけじゃないですが、そもそも不器用だったりするから、同じことをしてもすごく時間がかかってしまったり、何かを作っても雑に見えたりする時もあります。
そもそも手先を使わなければいけない仕事というのは、本当にどんどん機械化が進んでいるので、人間がやらなければいけない仕事というのは、より難しい細かい仕事、もしくはマルチタスク、もしくはコミュニケーションをしなければいけない仕事です。
機械様ができない仕事をやらなきゃいけないことになっているので、より高度なんです。
だからできなかったりします。
発達障害の人というのは感覚過敏があったり、人より疲れやすかったりするので、やはり身体を動かしたり、何かの作業をする何かを作るというのも結構苦手だったりします。
発達障害の人のイメージとして職人のように淡々と同じことをやれるからいいじゃないかと思われがちですが、興味の偏りも結構大きいし、指先も不器用なのでなかなかピタッとはまることも少なかったりします。
だから結構きつい。
きついのです。
親の無理解
加えて、親たちも無理解だったりします。
親たちの現実の理解や発達障害の理解にはすごく差があります。
人によっては、自分たちよりも彼らの方がお金をかけているし、良い塾に行っているんだから、良い企業に入ってくれ。まだまだ大企業で終身雇用制が正しいと思っている親たちもたくさんいます。
そうは思わなくても「せっかくいいところに行ったんだから、出世してほしい」と思っている人たちもいます。
うまくできていないと叱るだけで、「お前の努力が足りないんだ」と怒ってしまう人がたくさんいます。全然います。
挙げ句の果てには、精神科医はヤブだとか、益田をヤブだとか全っ然言います。
だいたい言います。
精神疾患に無理解だったりすると、だいたい僕のこともついでにヤブと言います。
内科とか外科とかできないから精神科医やってんだろうとかそういう風に言われますから、本当に信用ないです。
その子も怒られるし、僕まで怒られるから、本当に嫌な気持ちになるというか…。
この嫌な気持ちをこの人は5年、10年味わってるんだなと思うとすごく共感できるな、たった1回の診察なのにこんなに嫌な気持ちになるということは、これを365日、5年間か10年間患者さんは受け続けていると思うと、本当に可哀想だなと思ったりします。
でもね、精神科医って大変なんですよ。
内科や外科だけじゃなくて精神科医は結構難しい仕事なのですが、あまりそうは思ってくれないみたいです。
でもそういうことはあります。
ただ、親たちの気持ちもわからなくもなくて、塾とか予備校に頑張って入れた、教育費を頑張ってかけてあげた、そういう涙ぐましい努力はすごくあります。
自分たちの楽しみを捨てて、旅行に行くお金を捨てて、貯金をせずに子どもたちに塾や予備校代を出していたりもします。
ある意味育てにくい子、悪い言い方をすれば、出来の悪い子、だからこそ学はつけてあげようと思って、よりお金を出していったという経緯もあるので、より親たちは受け入れ難かったりします。こういう働きにくさというのは。
結果的に本人たちは死にたい、何度も不適応になっている自分には価値がないんだ、社会で生きていけないんだ、と思い悩んでいることが多いです。
生きる価値、優しさ
どうしたらいいんだろう、どういう風に治療していけばいいんだろう、というのは常に思います。
生きる価値や優しさとはどういうことなのか。
優しいということの価値、弱い人の価値、弱い人を労ることの価値。
別に僕らはお金持ちになりたいから生きているわけでも、自分が誰かに勝ちたいから生きているわけでもなく、やはり困っている人を助けたいという欲望もあるのです。
そういうのは僕も歳をとるにつれて大きくなってきました。
自分が20代のときは、もっと勝ちたい、優秀と認められたい、というのはあったけれど、だんだん医師として働きながら、色々な先輩の教えを請いながら、だんだんそうじゃなくなってきています。
やはり「勝ちたい」というのも大事だと僕は思うんですが、若者であれば特に。
そうではなく、子どもや弱者に対して何かしてあげたいという純粋な喜びというか、優しさというのも出てくるのですが、それがあまりわからないのです。
そういう経験がないからわからない。
そもそも物語とか読んだことがない、勉強以外のそういうものに触れたこともなく吸収したこともないから、よりわかりにくいようです。
それで困っていることは、臨床上はよくあります。
家でも理解されない、職場でも理解されない、周りの友達も今の厳しい世の中、経済活動の中戦っているからピリピリしている。
そういう中で、弱者や生きる価値、優しさなんて話題に上がってこないんです。
それをこんな精神科医が言ったところで、「お医者さんが何言ってんだよ」みたいな感じになってしまいます。
ヤブと紙一重みたいなところもあるようですから、「うーん」と思います。
でも本当に苦しいというか、かわいそうというか、困っている、困るなと思います。
でも困っているのはあなただけではないし、これはすごくよくある問題です。
社会的な問題なんです。
だから僕らはこれを皆が知るように啓発していく必要もあるし、新しい時代の新しい価値観をできるだけ身につけて、患者さんたちに提供していくこともしなければいけないなと思っています。
では今回は、仕事を見つけられない神経発達症・発達障害グレー、というテーマでお話しました。
発達障害
2022.10.5