本日は「ゼロから学ぶ精神医学」というテーマで、この動画一本で精神科とはどういうものなのか、精神医学とはどういうものなのか、精神疾患とはどういうものなのか、どういう風に治療していくのかがざっくりわかるように説明しますので最後まで見てください。
精神科の問題というか、メンタルヘルスの問題は、年々関心度が高まっているようです。
子どもたちのなりたい仕事ランキングでも、精神科医や心理士、カウンセラーは結構上位の方に来ているようです。
昔に比べて偏見がなくなり、割とオープンに興味がありますと言えるようになってきた。
オープンに精神科のことを語ったり学ぶことがしやすくなったようです。
とは言いつつ、やはり精神医学の話はちょっとオカルトな感じがするし、偏見も多いです。
「精神科の人って甘えている人でしょ?」「変なことを考えてたり危険な人たちなんでしょ?」とか、そういう偏見もまだまだ多かったりします。
その偏見に対して「そうじゃない」と言いたい、「苦しいんだよ」ということを言いたいがあまり、ベタベタとした、妙に感情に訴えかけるような動画やストーリーや本が多かったりするのかな、というのもあるのですが、今回はさらりと語ってみます。
割と僕はドライに語る方が好きなタイプなので、今回、精神医学というのをできるだけドライに、現役の精神科医から見てどういうものなのか、ざっくりわかるように動画を撮ろうかなと思います。
グチャっとしちゃいましたけど、行きましょう。
コンテンツ
精神疾患とは
精神科の患者さんというのはどういうものなのか、ということですが、簡単に定義すると身体の病気、身体障害はないが、通常の教育、訓練では社会適応困難な人たちというものを指します。
つまり、身体の病気はないけれど普通に学校生活を送れない、親が普通に子供たちを躾けても育てにくかったり上手く育たない、会社で研修を受けたり上司が何度も説明したり叱責してもなかなかミスが改善できない、変わっていけない人たち、いますよね?
そういう人たちはいるんだけれども、それはなぜかということなのです。
そういう人たちをどうやったら助けてあげられるのだろう、どうやったら救ってあげることができるのだろう、どうやったら苦しみから解放できるのだろう、ということを医学的アプローチによって探求するというのが精神医学ということになりますし、臨床ということになります。
元々精神医学がある前から、社会適応が困難な人たちはいました。
ずっと落ち込んでいるな、過敏だったりするな、奇異な行動を取ってしまうな、コミュニケーションが難しいな、変な妄想にとりつかれているな、という人たちがいました。
普通に「落ち込む必要ないよ」と励ましても、なかなか気分が改善していかない、思い込みが取れなかったりする。
身体の病気はないんだけれど、何かおかしいなという人たちがたくさんいたということなんです。
それは歴史の中でもすごくわかっていて、記述されたりしています。
物語の中に描かれていたりします。
ナルキッソスという話はご存じだと思いますが、ギリシャ神話のお話です。
ずっと水面に映る自分の姿を見続けていて、どんどん食べなくなって死んでしまうという話です。
ギリシャ神話の中では神様からの呪いとか、そういう風に描かれてるのですが、今日の医学知識に照らしてみると、それは摂食障害だということがわかるわけです。
そういう人たちが昔からいて、その人たちがどうやったら救われるんだろう、どうやったら苦しみから解放されるんだろう、という人類の願いだったり介入方法があった、と。
それの医学的な介入は何かというと精神医学だということになります。
これが定義の話です。
うまく説明できなくてややこしくなってしまいましたけど、もう一回言うと、身体の病気はないけれど普通の教育や躾け、研修、叱責、訓練では、なかなか社会適応の困難な人たちを集め、それを医学的に介入していきましょう、というのが精神医学であり精神疾患だということです。
医学的なアプローチ
医学的アプローチとは何かというと、まず「分類する」ということです。
分類して原因や解決方法を解明していく、研究していくということです。
これが医学的アプローチです。
実際にはどういう風に介入していくのか、どういう風に治療していくのかというと、3つに分けます。
A: 脳への物理介入、いわゆる薬物治療
B: 認知への言語介入、つまりカウンセリング
C: 社会制度的介入、つまり福祉の導入
そして治療していくということなのですが、バーッと喋ってしまったのでちょっと難しいと思いますが、そういうことになります。
一個一個説明していきます。
身体の病気はないのですが、教育や訓練を施しても社会適応が困難な人たちがいたときに、まず分類しました。
分類した、つまり診断したということなのですが、どういう人たちがいるんだろうということを分類していった、と。
どういうアプローチで分類していったかというと、まず経過を見ていきました。
これまでどんな症状があったのか、どんな変化があったのか。
今はどんな症状があるのか、落ち込んでいるのか、それとも妄想があるのか、何度も何度も確認してしまうのか、コミュニケーション困難なのか、人付き合いが苦手なのか、そういう症状を調べました。
そして予後です。
その後どうなったのか、ということも調べていきました。
再発するのか、徐々に良くなっていくのか、あまり変わらないのか、と。
経過と症状と予後によって分類していったものを診断と呼びました。
精神医学というのはいつから始まったかというと、正確に言うと1900年前ぐらいからです。
1850年くらいにダーウィンが進化論を発表します(「種の起源」1859)。
それがブームになっていく。
何が言いたいかというと、生物学というものとか、医学というものが、進化論を含め、世の中の人に受け入れられるようになってきたということです。
それ以前は聖書の世界観でした。簡単にいえば。
聖書に描かれている通りであれば動物は進化しないし、人間の心というのは神様によって定められている、支配されているものだった。
けれども、そうじゃないよね、という形で、聖書の教えはやはり人間が作ったもの、ちょっと嘘だよね、ということに人間は気付いて、やはり科学的にアプローチしていこう、ロジカルに考えていこう、と門戸は開かれた。
それが最初は物理学から始まるのですが、人間の脳や心にまで科学のメスが入ったのが1900年ちょっと前くらいです。
ドイツの大学の精神医学の教授クレペリンという人が、経過や症状、予後をまとめなおしました。
そこで精神医学の体系が出来上がり、今日の精神医学の診断体系ができます。
クレペリンが一人でやったのではなく、各地で、フランスでもイギリスでも「こういう病気があるんじゃないか?」という報告や研究がされてきたし、それらを集めたり、クレペリンが実際に診ている患者さん、正確にいうとクレペリン医局グループみたいなところで教科書を作ったのです。
それが今日でも生きています。
とにかくそこでできあがるのです、分類というのは。
分類していったものを、原因は何なのかということで分類していったり、どうやって治療していけばいいんだろう、ということを研究している。
これが医学的なアプローチです。
原因を追究していく中で、脳の解剖をしたり、今だったら遺伝子研究やfMRIを使って脳の画像研究もしたりしているのですが、そうするとクレペリンが作った診断体系とちょっと違うんじゃないの、というのが少しずつわかったり、治療方法がわかっていく中で診断が見直されたり、ある程度ここら辺は双方向的なのですが、一応はそういうものなんです。
何か難しいね、この話は。
分類して研究した、と。
その結果どういう治療をするのかというと、脳への物理介入、認知の言語介入、福祉の介入、と3つに分かれていて、これも治療としてどういう風にやったらいいんだろう、ということが個別に研究されたりしています。
脳への物理介入
脳への物理介入、脳に対してどういう風な介入をしたらいいのかということですが、これはここ(左一番下)ですね、色々なパターンがあります。
まずは休むことです。
療養する、つまり脳を使っているから、酷使しているから調子悪いよということです。
いっぱい使っているから、うつになっている、疲労がたまってうつっぽくなっている、いっぱい使ってるから疲労がたまって、炎症反応で脳が疲れてうつになっている、ということもあるので、まず休んでみようよと。
自然治癒能力がありますから、人間には。
そういうのがまず脳への介入の一つ目です、療養する。
あとは薬を飲むことです。
薬を飲むことによって化学物質を脳に与え、脳内物質や組成を変化させることで治療していくのが薬物治療になります。
あとは電気けいれん療法とか、最近だと電気を頭に刺して、脳の一部分を電気刺激してあげるとかそういう研究がされています。
電気刺激のほかには、磁場です。
磁気を当てることで電気の流れをちょっと変えてあげて、血流を良くしてあげる、脳の動きを変えてあげる、TMSという介入方法もあります。
なぜ磁気で起きるかというと、神経細胞は電気で動いているのです。ご存じですか?
脳は何かというと神経細胞の集まりです。
神経細胞から神経細胞に連絡が行くことで活動をして人間は考えている、ということがわかっているのですが、神経と神経の間には神経伝達物質というのがあり、セロトニン、ドパミン、ノルアドレナリンという化学物質で連絡しています。
神経細胞自体は長いのです。
一本一本が長くて、その長い神経細胞が複雑に絡んでいるのが脳です。
神経細胞自体は、端から端に信号が行くときには電気で通すんですね。
電気で通して、次の神経細胞には神経伝達物質を使う、化学物質を使って次の神経細胞に信号を伝える。
次の神経細胞は長いのですが、これはビーッと電気が伝っていくことになっています。
電気が流れると磁気が発生します。
電流が流れるのに合わせて磁場が発生するのですが、今度は磁場をコントロールすることによって電流を流すことができるので、そういう形で脳に介入するということです。
難しいね。
あとは光刺激です。
目に光を当てることによって脳に変化を与えるということもあります。
腸内環境を整えることで、腸内環境を通じて腸内にいる細菌が化学物質を出し、それが腸の粘膜を通って信号を伝えて脳に行くということもあります。
栄養ですね。
栄養によって血糖値を変える、カフェインを摂る、そういうある種の栄養によって脳に変化を与えるとかです。
あと運動ですね。
運動することで心拍数を変えて脳に刺激を与える。
マインドフルネス、何かに集中する、心臓の動きや呼吸数を変えることでそれを通じて自律神経を介して脳に刺激を与えてあげるというのが、脳への物理的な介入治療です。
基本的には、上位の療養と薬以外のやり方というのは、なかなかいい結果が出ていません。
研究はされているけれど、臨床レベルでは「うーん」ということが多いです。
それはご理解いただきたいという感じです。
もちろん変化はあるけども微弱だということです。
臨床的にはあまり使い物にならないという感じです。
一応研究されているという感じです。
カウンセリング
これが一個目で、B: 認知への言語介入というのは何かというと、カウンセリングのことです。
カウンセリングのやり方はいくつかあるのですが、わかりやすいように、通常の教育・訓練という観点から我々がやっているカウンセリングを分類してみました。
例えばコンサルティングです。
コンサルは今人気の職業ですが、話をヒアリングして問題を整理し、問題を同定するというやり方です。
これは精神科の診療や支持的精神療法というものに似ているなと思います。
あと、学校教育です。
知らない知識を補ってあげる、教育することで知識を身につけて変えていく、脳の組成を変えていくということですが、これは認知行動療法にも似ているなと思います。
あとは催眠やマインドコントロール、そういう形で人の心や脳を変化させていく、介入していくやり方もありますが、これは精神分析とかEMDRというのに似ています。
こう言うと語弊があるし、「いやいや益田、怪しいこと言うなよ」という話ですけど、あくまで医学的にしてみれば、ということです。
教育の要素をもうちょっと医学的に変えていくと、CBTぽくなっていくし、催眠やマインドコントロールというのは、やはりそのまま使うと危険で治療的な効果も乏しいですから、ここのエッセンスをうまく抽出して臨床的に応用するにはどうしたらいいのかと考えていくと、精神分析みたいなものになっていくということになります。
はい、これは難しいので、また今度、後日説明します。
社会制度
あとはC: 社会制度です。
福祉導入によって、患者さんの心を癒していく、苦しみから解放するというのがあります。
社会適応困難な人たちというのは、やはり脳への物理的な介入によっても、言語的な介入によっても、なかなか変化を起こせなかったりします。
今の医学での限界というのがあるわけです。
ということは、本人は変えないんだけれども、周りが変わることによって生きやすくする、苦しみから解放してあげる、というやり方もあるわけです。
どういうことかというと、福祉を導入するということです。
具体的に福祉とはどんなものがあるかというと、精神障害者手帳や障害年金です。
早めに年金をもらうという制度がありますから、障害年金を取るとか、場合によっては生活保護をとるということがあります。
そうやって金銭的な不安から解放されるというものもあります。
なかなか働けない人には就労継続支援というのがあり、障害者でも働きやすい職場で働くということもできるし、就労移行支援という形で職業訓練を受けることもできます。
障害者雇用という形で障害者が働きやすい制度というのが日本にはありますから、そういう障害者雇用を利用するというのもあります。
子どもの場合は特殊学級に入って教育を受ける、通級を使って教育を補助してもらう、放課後等デイケアに通うことで通常の教育では受けられない医学的な教育を受け、それによって社会適応を可能にしていくというやり方もあります。
あとは、NPO法人がやっているようなやり方も個々にありますから、通常の教育や訓練では受けられない訓練や教育を受けることで社会適応していくというのもあるし、自助会、自分たちでそれをやっていく、自分たちで助けていく、助け合うことで心を癒していくというやり方もあったりします、ということです。
この自助会、というのも僕やってます。
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精神医学はちょっとわかりにくいのですが、身体障害はないけれど、通常の教育や訓練ではなかなか社会に溶け込めない人達がいるよと。
そういう人たちに対して医学的なアプローチを行うことで、彼らが持っている苦しみや不安から解放してあげられるんじゃないか、少しでも軽減できるんじゃないか、というのが精神医学だよということです。
分類して研究してやっていくと。
どういうやり方があるのかというと、脳への物理介入があったり、カウンセリングだったり福祉導入だったりしますよ、ということです。
ということで、今回はゼロから学ぶ精神学というテーマでお話ししました。
精神医学
2022.10.12