本日は「今こんなことで困っている人が多い」というテーマでお話しします。
質問が来ていたので読みますね。
『今こんなことで困っている人、こんなことを考えている人が多い、気になる、といったお話を聞かせてください。
社会を精神科医目線で読み解くみたいなお話を聞きたいです』
ということですね。臨床をしている中でよく聞く、よく受ける質問なんですが、パパッと答えようかなと思います。
コンテンツ
臨床をしている中で多いテーマ
・発達障害
現代的なテーマとしてはまず一番に挙がるのは「発達障害」じゃないかなと思います。
発達障害および発達障害グレーゾーンの人たちだと思います。
彼らが仕事ができない、ついて行けないということでうつになったり適応障害になって受診するケースというのはとても増えているということです。
これが都心のクリニックだと特に多いんじゃないかなと思います。
世の中的には、残業禁止になったので今まで時間をかけることで仕事ができていた人が、時間をかけてはいけなくなったので潰れちゃったということがあります。
処理速度が遅い人やマルチタスクが苦手な人は多いんです、発達障害の人は。
だからそういうことが起きた。
パワハラは昔は多かったんだけれども、今は「関わらないようにしよう」ということが多いんです。
もう教えることもやめよう、指導するのはやめようということで放置されてしまって、自分からぐいぐいコミュニケーションを取りに行くこともできなかったり、かわいがってもらう術もなかなか身につけられなかったりするので結局置いてけぼりになってしまって、うつになってしまう。
ついて行けなくなって適応障害になっちゃうというケースが多いなと思います。
そのために発達障害の不注意に対する薬物治療だけでは、この問題は解決できなくて、社会とはこういうものだよ、みたいなティーチングの要素が結構重要になったりします。
本来であれば、精神科のカウンセリングは、支持的なカウンセリングや傾聴が重要だと言ったりするんですが、こういう発達障害的な人の場合、やはりSST的なもの、「社会とはこういうものだ」「人間とはこういうものだ」「こういう時にはこういう風に振る舞いなさい」みたいな社会常識的なものを伝える必要があったりするので、ティーチングが求められることが多いかなと思います。
・中年の孤独問題
あとは中年の孤独や独身問題です。
これは経済的な背景や、奥手な人はなかなか恋愛できないなど、色々あるんです。
自分は親たちと違った、結婚できなかった、結婚したいと思うけれども今からだと子どもはもう遅すぎるとか、こういう話も結構多いなと思います。
親の介護など親のこともしなければいけなかったり、介護じゃなくても妙に家の方が忙しかったりして何か上手くできない。
でも親が死んだ後どうしたらいいんだろう、そういうことを思っている人も多いです。
・カサンドラ、複雑性PTSD
あとはカサンドラや複雑性PTSDという形ですが、家族の中に発達障害の人がいるパターンです。
発達障害の人がいて、その人と一緒に生活していく中で共感してもらえなくて、うつになっちゃう。
逆にその人のこだわりを阻害するから、妙に暴力的になってしまって殴られたり、虐待みたいになってる。
そういうことで昔のあの人は実は発達だったのかな、親は発達だったのかな、という形で受診されて、その当時のトラウマを語るケースというのも結構多いかなと思います。
・ひきこもり
ひきこもりの人は増えています。
不登校から通信などへ行って何とか卒業できて、仕事も就いたけれど、やはり発達障害の問題もあったりとかしてひきこもりになってしまうケースは結構多いです。
・PMDD
生理前にうつになっちゃう、月経前気分不快症と呼ばれる人たちです。
そういう知識は増えてきて、精神科で薬を飲むと楽になると聞いたのでと受診して治療することも多いです。
セルトラリンを排卵日から生理後まで飲むことで、気分の不快感や情動の不安定さをコントロールできるケースは結構多いなと思います。
・減っているもの
減っているものとしては統合失調症、境界性パーソナリティ障害、摂食障害もたぶん減っているような気がします。
パワハラやいじめも減ってるんじゃないかなと思います。
あくまでイメージで統計的なものに基づいているわけじゃないんですけど、減ってるという感じはします。
統合失調症が減っている、もしくは入院治療をせずに外来だけで済んでいるケースを見ると、やはり薬が良くなってきているというのと、統合失調症の原因が感染症も関係してたんじゃないか、という仮説モデルを考えたりもします。
境界性パーソナリティ障害の診断が減ってるというのは、発達障害にその分吸収されているという気もするし、摂食障害に関しても同じかなという気がします。
パワハラ、いじめ問題については世相が変わって関わらないという形になってきたからかな、という気もします。
あくまでイメージですがそんな風に思ってます。
少子高齢化
世の中全体はどう変わっていくのかということですけれども、大きく挙げるのであれば3点かなと思います。
まず一番重要なは少子高齢化の問題です。
高齢者が増えるということです。
その結果、社会保障費がどんどん増えているんです。
年金を受け取る人の数がそもそも増えてますから、社会保障費が増えます。
その結果、税金の割合も増えてきますから、手取りが減ってるんです。
景気というか、日本の国際競争力や産業自体の力も落ちてますから、その分どんどん手取りが減っているということが多いのかなという気はします。
ここら辺はセットなんです。
一応、財務省の見解だと2040年がピークなんじゃないかと言われてるんです。
今の団塊世代の人が2025年に後期高齢者になるんです。
75歳以上になって、これから病気が増えたり、社会保障費が上がるんじゃないか、ということが考えられているんです。
それらがピークを迎えるのが2040年じゃないか、と考えられているそうです。
10年ぐらい経つと、団塊ジュニアたちが高齢者になりますから、しばらく大変なんです、日本は。
でも、とは言っても2040年がピークかなと言われてます。
2025年には医師の働き方改革というのも行われますので、その結果、医療はどういう形に変わっていくのかまだまだわからないというか、僕らは気にしているなという感じです。
精神疾患にかかる人や精神科を受診している患者さんの数も増えてます。
それに対して医師の数が増えることもそんなにないですし、追いついてない感じはあります。
精神疾患に対して予算が増えるかというと、患者さんが増えているので予算というかメンタル疾患に対するお金というのは増えているんですけれども、これから対策として、カウンセリングを保険にしようとか、こういうことをしよう、手厚くしようということはなかなか難しいのではないかなと僕は思ってます。
なぜなら高齢化の問題の方が厚労省としてはすごく頭を悩ませているというか、財務省も含めて悩ましているので、新しく精神科医療や精神科医が儲かるようなシステムができるかというと、なかなか難しいんじゃないかなと思ってます。
IT化
2点目はIT化です。
IT化がどんどん進んでいるので、これからそのスピードはさらに上がると思います。
今まで人間がやっていたことが、AIやIT、パソコン等のアルゴリズムによって置き換わるということは多いと思います。
ロボット技術も進化していますので、ますます人間のやる仕事が減っていく。
自動運転も出てきてますから、減っていくと思います。
そうすると人間がやるべき仕事というのは何かというと、コンピュータではなかなか出来ない仕事、AIやパソコンではなかなかできないことになってきます。
ということだと、マルチタスク、人間同士のコミュニケーション、判断、選択、そういうことになります。
これは結構難しいし、できる人が限られているという感じです。
どんどんいわゆる発達障害的な人たちは、グレーゾーンの濃い方から薄い方まで、だんだん不適応になってくる人が増えていくんじゃないかなと思います。
あと、サラリーマンが不要になってくるんです。
一人でこなせる量が増えていくので、いわゆる頭脳労働というか、ホワイトワーカーがここまで必要なくなってくる感じになるようです。
簿記がいらなくなるように、人間がやらなくてもできる仕事は増えてくるし、1人の人間が3人分、4人分できるようになるので、結果的にサラリーマンが不要になっていき、逆に肉体労働とかいわゆるブルーワーカーの仕事が必要になってくるということが起きます。
ある種の、言葉は悪いですが、低賃金で働いてくれる人がもっと欲しくなっていって、逆に高給取りの仕事の枠が減っていくんです。
そういうことがわかっている、と。
その結果、格差や分断がどんどん起きてくることがわかってるんです。
格差、分断、家族の密室化
プラス家族の密室化が行われるんです。
今までは社会の繋がりがあったり、みんなが同じような水準だと社会の繋がりがあって、みんなで育てようということになっていくんですが、格差が生まれてきて分断が起きると、うちの子はうちの子、みたいな形になって協力し合うのが減っていくんです。
そうなってくると、家族の中でやっていく。
家族の中で教育をする、家族の中でやるという、家族の繋がりが強くなるんですけれども、それは結構息苦しかったりするんです。
上手くいっている家族だったらいいんだけれども、上手くいっていない家族の場合、ダメージが大きいということが起きちゃうということがあるかなと思います。
そういうことを危惧しているという感じです。
家族の問題も結構大変です。
高齢化するので介護の問題もつきまとってくると思いますし、経済格差によってはヘルパーさんを使える、老人ホームを使える所もあれば、使えない家も出てきますから、そうすると家族で家族の介護をしないといけないので、今度は仕事や勉強に割く時間が減ってしまいます。
なかなか給料アップにつながらないなどの問題も出てくるんだろうな、という風に思います。
これが社会の見えるものです。
こういうことがあるからグレーゾーンが増えて不適応が増えるし、仕事はどんどん忙しくなる。
ITなどの影響で増えるということもあるし、仕事が多いからこそ独身が増え、家族が密室化するからカサンドラや虐待の問題が増えたり、密室化しているから社会に慣れないから という感じです。
PMDDに関しては単純に啓蒙活動が進んでいるので、薬を飲んだら楽になるんだ、ということがわかったからみんながやるということだけですが、PMDD以外のものは、やはり社会の影響をもろに受ける感じかなと思います。
■対応策
では対応策としてどう考えているのかということですが、益田祐介ができることはたかが知れているんです。
精神科医は今は5分診療です。
診察時間が短いし、これだったらメンタルを治せないよ、と言われるかもしれませんが、そもそも患者さんが増えている中で、医師がそんなにできないです、単純に。
お金儲けのためにやっているんじゃないかとか思われるかもしれませんが、単純にこなせないです、数を。
ということは医師以外の人間が話を聞いたり、医師以外の仕事をする、医師がしなければいけないのは診断だったり薬物治療をするということなんですが、それ以外のもの、カウンセリングだったり精神療法的なものは他の職種の人に任せようってことになるんです。
かと言って公認心理師がやるカウンセリングが保険適用になるかというと、そういう話はまだ聞かないです。
難しいんじゃないかなという気がします。
なぜならそれを保険でやると、社会保障費がどんどん増えてしまいますから。
財務省はそこは首を縦に振らないんじゃないかと思います。
ということは、カウンセリングはまだまだ自費のまま続くでしょう、ということになってくるんです。
じゃあどうしたらいいのかというと、YouTubeをやって、診察時間の中で話すべきことをYouTubeで予習できるようになれば、診察時間はもっと有効に使えますよね?
だからYouTubeも頑張る、と。
あと自助会です。
カウンセリングができない分、ピアサポートをやっていく。
自分たち同士でカウンセリングができる場所を増やしていくことも重要だし、あとは分断されているなどの、こういう密室化の解決策にもなるんです。
自助会をすることで第三のコミュニティができますから、家と会社以外のところで人と繋がって、いろんな気持ちを交流させたりするというのは、メンタルに良いですから役立つだろうし、あとはコミュニケーションの練習にもなるのでいいのかな、という気はします。
自分ができることはここかなと思って、YouTubeと自助会は親和性が高いので自分がやったらいいんじゃないかなと思いますね。
益田がやるべきことだと思いますけど、もしよかったら精神科医の方、自助会をお手伝いください。
あとはロボットやAI、ブレインテックなども進化していくんだろうなと思います。
ここら辺のスピードはすごく速いと思います。
今までよりもスピードアップすることは明らかというか、みんながそう言っているので、おそらくそうなんだろうなと思います。
だから面白いと思うし、これが進めば進むほど他の問題も出てくるという風にも考えます。
ということで、今こんなことで困っている人が多いというテーマでお話ししました。
心について考察
2022.10.24