本日は「女性の発達障害」というテーマでお話しします。
発達障害というか、今は神経発達症という呼び名に変わっているのですが、まだまだ皆さん発達障害という言葉の方に慣れていると思いますので、今回は発達障害と言わせてください。
「女性の」と付けると「いや益田、男女差別じゃないか」と言われそうですが、やはり生物学的に見ても社会的に見ても、男性と女性で違います。
もちろん理想としては男女で分けるべきではないんですけれども、臨床医学ですから、そこは分けて、今目の前にいる患者さんに向けて言葉を投げかけてみたいなと思います。
女性と男性はどう違うのかということを話して、どうしてこういう治療が難しいのか、こういう治療が必要なのか、ということをお話しします。
コンテンツ
女性の人生
まず先に、人生というのはどれぐらいあるのか、人は何年くらい生きるのか、ということから考えた方がいいと思うんです。
人間は無限に生きることはまずないので、80歳くらいと仮置きしました。
0歳で産まれて、最初は女の子として扱われる、女の子としての生活を強いられるという感じです。
第二次性徴期、思春期に入ると性ホルモンが活発化する。
子どものときにはまだ性ホルモンや、性の動きはまだ動いていないんです。
第二次性徴のときに性ホルモンや女性ホルモンが出て、身体の体質が変化したり、そのホルモンは時に感情や思考回路にも影響を与えるということもわかっています。
見た目が変わると、本人は変わらなくても周りの扱いが変わってきたり、性的な暴力や性的な誘惑にもさらされてしまう。
いいか悪いかは別として、現実として、やはり若い女性というのは、周囲の注目を浴びますし、色々なお金が動きやすいです。
時には暴力に発展することもあれば、お金や甘い言葉にだまされてしまって、自分のキャリアを崩してしまう人も出てきてしまうということがあります。
脳の成長というのは25歳くらいに1回終わるのではと考えられていて、そこから性ホルモンによる感情の起伏はだんだん落ち着いてくると考えられています。
最近は結婚する年齢も女性の社会進出に伴って後ろ側に行っていますけれども、結婚して出産するということがあるかなと思います。
別にそれが正しい、それをすべきだ、と言っているわけじゃなくて、そういうことが多いでしょうという感じです。
子どもを産める年齢、時期も限りがあるのでその間に産みます。
子どもはたくさん産んで育てることができないんです。魚とかと違うので。
人間は哺乳類ですし、一人あたりの子どもを育てる期間が長いので、だいたい1人か2人、3人とか産んだら、その子の育児で結構時間を食われるんです。
そうすると育児が終わると60代、70代になってきます。
その前後に親の介護もあるでしょう。
そして自分も80代になったら死ぬ、というのがだいたい人間の人生というか、特に女性の人生はこんな感じであります。
女性の役割
出産したら母として振る舞う、母親の機能を強いられます。
それは社会的な圧の問題でもあるし、現実的にお母さんのおっぱいが必要、赤ん坊というのは必要です。
赤ん坊というのは女性、母親からの愛情というものを特に求めるんです。
それは生物学的にそうなので否定しがたい事実だろうなと思います。
母として振る舞わなければいけない。
あとは共働きをしなければいけないことが多いです。
女性の社会進出が進んでいますので、女性は男性社会に入って男性と一緒に働かなきゃいけないという不自由というか、困難さを抱えなきゃいけないということがあります。
もちろん専業主婦をされている方もいますけれども、そういうことがあります。
結婚せずに独身のままやるということがあります。
独身でも結局は家を支える、そういう役割を結構女性は求められがちです。
実家を見なければいけない。
男の人だったら適当に済むところが、実家や自分の家のチームマネジメントや家のマネジメントは女性の仕事だと思われることが多いです。
実際、生物学的にも歴史的にもそんな感じだったんじゃないかなという気はします。
家の片づけや家事というのは女性の仕事だと思われがちですが、歴史的にもそうだったし、何となく男は狩りじゃないですけど、脳科学的にもそうだったのかなという気はします。
女の人は結構難しいんですよね、生きるというのが。
男の人よりも複雑な役割を担わされているんです。
若い時には、男だったらバカみたいなことをできるんです。
そこら辺に寝てても暴力を受けるということはないんだけど、女の子はやっぱり性的な暴力、性的な誘惑など身の危険が結構あります。
その後にはまた色々な生き方があります。
男の人は割と単純なんです。
結婚してもしなくても結局は働いているというか、そんなに大きく変わったりしないんです。
もちろん育児をしている男性もたくさんいるし、主夫の男性もいますけど、基本的には現代の日本においては単純というか、働いているだけという男の人は多いんだろうなと思います。
マルチタスクが求められる
でも女の人はちょっと複雑ですよね。
そこに対応しなければいけないというのが発達障害の人は結構難しいんです。
色々なアイデンティティがあって、色々なことに気を遣って、色々なことに対応していかなきゃいけない。
まさにマルチタスクです。
アイデンティティレベルでのマルチタスクを強いられるので、やっぱり発達障害の人は苦手です。
空気を読んで覚えていくということが苦手なので、一個一個説明していく。
そこには生物学的な観点、脳神経科学的な観点だけじゃなくて、社会学的な観点を持って理想と現実を交えながら言語化してレクチャーしてあげる必要があります。
あなたは好きかもしれないし、10代の時の恋人と一生一緒にいたいかもしれないけれど、10代の恋愛はだいたい別れることが多いよ、と。
あなたが今ここで、好きだから結婚します、子どもを産みますと決めて本当にいいんですか?
そしたらあなたは社会進出が若いときにできないから、それは将来のハンディキャップになるかもしれないよ、と。
そういうところも、本音と建前を交えながら、建前だけじゃなくて本音も語る必要があります。
それは社会がやれることではなくて、家族だったりします。
そして医師もそうです。
医師も綺麗事ばかりを言うわけにはいかないです。
パターナルな要素も必要だろうなと僕は思っています。
どんどん医者のパターナルな側面、お節介な側面は減ってるんです。
でもやはり病気だけ診て薬だけ出しておけばいい、というわけにはなかなかいかない。
それだけだと治療が上手く行かないと思うので、どこかで痛いことを言う、聞きたくないことを言わなきゃいけないのが治療なんじゃないかなと僕なんか思います。
時代が変わるかもしれないですけど。
でもYouTubeは割とそういうことも言いやすい環境なので言っておきます。
危険にさらされやすい
あとは男の子よりも危険です。
性的な暴力や誘惑にさらされやすいので危険ですし、男の人よりも体力や肉体の弱さがあります。気が弱いこともあります。
もちろんいますよ。
言葉は悪いですけれども○中アナみたいな感じで、小柄というかちょっと童顔なんだけど気が強いというか、したたかというか、そういう人もいますけど、でもやっぱり身体が小さいということは、気が弱いことも多いですから、そういう強い人ばかりに目を向けると世の中の本質を見逃すと思います。
身体的負荷
あとは男の子と違って生理とか、出産とか、そういう身体的負荷が大きいと思います。
女の人の方が寿命が長いから男の人より強いんじゃないか、という言い様もあるかもしれないけど、そんなことはなくて、やはり生理の大変さや痛み、出産の大変さ、困難さはあります。男の人はないですからね。
これは全然違います。
それをわからないといけないし、社会というのは黙認してるところがあるんです。
本音と建前の話と一緒で、発達障害の人は本音と建前を使い分けたりするのが苦手なので、自分だけが悪いのかなと思ったり、性的な知識が少なかったりするのでやはり教育が重要です。
メンタル不調が多い
あとは性ホルモンの影響を受けるので、どうしてもメンタルの不調というか上下することが多いようです。
わからないですが、それってお前の偏見じゃないか、と言われそうですけれども、やはり性ホルモンの影響を受ける人がいるということはわかっているので、全員がそうではないですが、多いということです。
実際、精神科に通院している患者さんというのは男性より女性のほうが多いです。
男性は行きにくくて、女性は行きやすいからだという意見もあるかもしれませんが、僕はそうは思わなくて、やっぱり不調の人が多いと考える方が科学的には合っているんじゃないかなという気がします。
説明としてはより確からしい気がします。
普通を強いられる
あとは社会的なニーズとして、やはり男の人より「普通」を強いられることが多いです。
女の子同士の人間関係でもそうだし、奇異なことをすることが認められ難いです。
男の子同士だと、何か変なことをしても「イェーイ」みたいな、むしろ「お前、勇気あるやんけ」みたいな感じです。Xスポーツもそうですけど、危険なことをすることに対する興味というか楽しみがあるし、そこに共感性があったりするんだけど、女の人だとそこは脳科学的にも敬遠されがちだし、実際に社会的な条件でも否定されがちです。
だからすごく発達障害の子にとっては生きづらいし、周りからもやられやすいというのはあります。
治療
実際、治療とはどういうことかというと、まず何度言っても言い足りないのが性のことです。
性を学ぶ必要があります。
それは語られにくいし、学ぶ機会を作りにくいので、あえて何度も何度もこの場では言いますが、性を学ぶ必要はすごくある。
これはこういう危険があるんだよ、男の人が夜一緒にご飯を食べに行くということは付き合うことも多いんだよ、ホテルに行くとか家に入れてということは、口ではYESと言わなくても性的行為をすることの同意とみなされるんだよ。
それは社会的な文脈でも、つまり裁判をしても、あなたはOKということですよねという形でもしかしたら負けちゃうかもしれないよ、そういうことです。
性の常識だったり社会的な文脈のことも含めてきちんと説明する必要があります。
オブラートに包んでますが、要はそういうことです。
ホストは騙すよ、デート詐欺をする男の人がいるよ、汚い言葉を言えばヤリモクの男はいるよ、オジサンになって結婚しているのに不倫したがっている奴はいるよ、キャバクラでお金使ってる奴いるよ、とまあそういうことです。
あとは同性、男社会に入ること、お母さんとの付き合い方も覚えておく必要があります。
お母さんたちも新しい世代の価値観、常識にアジャストしていない、対応していない人も多いんです。
ひと昔前、自分たちの世代ではなくて、更にその上の世代の価値観で生きている人もいるんです。
若い人の価値観、母親世代の価値観、その母親世代の価値観ですね。
自分たち世代にもアジャストしなくて自分の母親と同じ価値観でいるから、二世代分くらいまたがっているから、全然常識外れなことを言っていることもあったりするんです。
それですごく悩んだりとか、どういうこと?と困惑することが多いんですが、ここら辺もやっぱり言語化して教えてあげる。
そうしないと発達障害の人はなかなか理解しがたいということが多いかなと思います。
一番の問題は治療者が少ないということです。
僕も男なんで、男の人から説明されてもようわからん、ということが多いわけです。
僕らだってよくわからないんです、女の人のこと。
女の人の治療をしているから、色々知識として知っていて、患者さんとのやりとりの中で知ってるからこそ伝えられるんだけども、そもそもそれって女性の治療者だったら常識じゃないか、女性の治療者ならではの観点、女性の治療者だからわかることって多いんじゃないの、と言われたら、う~んと思います。
オジサンにはわからないでしょう?と言われたら、まぁそうと言えばそうだな、と思います。
もちろんオジサンにもわかることがあるけれど、オジサンにはどうしてもわからないニュアンスみたいなはやっぱりあるのは事実です。
男の人のことはわかるんだけれども、女の人のことというのはちょっと難しいから、女性の治療者が少ないのはフェアじゃないというのはよくわかります。
これががんとか男女差が関係ないものであれば、そこまで男女差というのは関係ないのかもしれないですけれども、糖尿病を診るとか血圧を診るとかだけだったら。
だけど心の問題というか、すごく繊細な部分があるものに関しては、男性半分女性半分、むしろ女性の方が患者さんが多いと、女性の方が多くあってほしいという女性側の意見、社会的な意見というのはもっともだなと思います。
YouTuberだってね、男の人ばっかりですね、精神科医YouTuber。
女性の精神科医YouTuberもいますけど、何だかんだ言って男の人が多いんで、それも本当に正しいのかなという気がしてしまいます。
まあ、僕は僕で頑張ります。
頑張っているし卑屈になる必要はないと思いますけど、でも女性たちの意見、患者さんたちの意見ももっともだなと思って聞いています。
女性の発達障害は、男性の発達障害の人よりも大変なことが多いんじゃないかなと僕は思います。
覚えなきゃいけない、マスターしなきゃいけないことも多かったりします。
大変だし、理解されがたいことも多いのですが、こういう特徴を理解しつつ、一歩一歩やっていくのがいいんじゃないかなと思います。
ということで、今回は女性の発達障害というテーマでお話しました。
あと、オンライン自助会をやっています。女性の当事者が集まって喋ったり、家族会もやっているので、もし興味があったらそちらの方にも参加していただければと思います。
発達障害
2023.2.18