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なぜ理解してくれない? 精神医学を学ぶ難しさ

00:00 OP
01:22 何が難しいのか
03:28 人間は遺伝子という設計図で作られている
06:45 精神医学はなぜ学びにくいのか

本日は「精神医学の学びにくさ」というテーマのお話しします。

精神医学はすごく難しいですね。
最初は、僕はそこの難しさがわからなかったんです。
精神科医になったら心のことをわかるのかな、と適当な感じで医学部に入って精神科医になりました。
気付けばもう中堅みたいなところがありますが、それでもやはりわからないことがいっぱいあるし、こんな自分でいいのかな、こんな形で本当に一人前を名乗っていいのかなと日々思ってしまいます。

患者さんに病気の説明をするのもやはり難しいなと思います。
本当に難しいと思います。

臨床でも話しているんですけれども、YouTubeでも説明しています。
色々なコメントや反応を見つつ、どこが難しいのかということは絶えず見てました。
今回は、どこが難しいのか、学びにくい点はどこなのか、ということを動画にします。

何が難しいのか

精神医学において、まず人間観ということを理解するのは難しいです、そもそも。
どうして疾患が発症するのか、病気とはそもそもどういうものか、ということを理解するのは難しいです。

これは例えば、そもそも心は脳だよ、ということがまず最初難しいんです。
心や意識は脳の現象でしかないから、脳が無くなれば、脳に障害があったり炎症が起きたり、脳に何か異常があれば心は乱れるし、変になってしまうんです。脳が生んでるから。
これがまずわかりにくいみたいです。

あと言葉です。
言葉は不完全というのも意外とわからないというか、知らないみたいです。
言葉について考えたことがあるとか、詩でも音楽でも小説でもいいのですが、言葉で何かを表現したい、何かをクリエイトしたいと思ったことがある人にとっては当然のことだったり、法律関係の人にも当然のことだと思うのですが、言葉は不完全です、不十分だし。
どんなに言葉を尽くしても伝わらないじゃないですか。

言葉というのはあくまで目印であって、何かを作成するものではない。
完全に何かを表現しきれるものではないので、それがなかなか意外と知られていないです。患者さんにとっては。

ちゃんと説明したじゃないかと言っても、それが不完全だったりするし、ちゃんと説明して欲しいと言われても、説明しきれなかったりするし。

あとは自分が思った通りに喋れていないこともあるんです。
野球のピッチャーのフォームが、自分ではこう投げてるつもりなのに実は肘が思ったより下がっていた、ということがあったりするのと似ています。

言葉というのは上手く喋れないことも多いです。
意図したことを喋れなかったりすることも多い。

人間は遺伝子という設計図で作られている

似たような感じで、科学リテラシーというか、そういう常識的なことをなかなか教わらないです。学校教育で、昔は。
今はちょっと教わりますけど、知らないことも多いんじゃないかなと思います。

人間というのはそもそも遺伝子を設計図にして作られているんです。
遺伝子というのは父親と母親からもらって作られるんです。
この遺伝子を設計図にして、脳ができる。

脳みそというのは、生まれたときには完全ではなくて成長していくんです。
生まれてからどんどん大きくなっていったり、必要な回路を伸ばしたり、必要じゃないものを減らしたりする。
学習していくんですね。
経験とか知識を学習して記憶に溜めておくことで、脳は形が変化していく。

10代になってくると成長するんです。
急にグッと性ホルモンの活動も活性化してまた脳の変化が起きる。
それは第二次性徴と呼ばれるものなんですけど、それが起きるともっと抽象的なことを考えられるようになります。
そういう成長は、25歳ぐらいまで続くと言われていて、そこから60歳、70歳になってくると老化していく、記憶力が落ちていく、気力がなくなっていくというのもあります。

そういう脳みそがたくさん集まったのが社会なんです。
社会に突然放り込まれて、そして寿命が尽きたら社会から放り出されるということが起きてる。

社会に合わなかったり、上手く行かない、馴染めなかったりすると病気になっちゃうよ、ということです。
病気になるタイミングというのは遺伝的な問題なのか、成長過程の問題なのか、それとも社会に揉まれた問題なのか、という色々なところであるし、だいたいこの3つが重なっていることも多いんです。
だから精神医学は不運の連続と言ったりします。

社会というのもイメージがわかりにくかったりする人が多いんですけれど、そもそも社会というのは情報の蓄積なんです。
脳がネットワークを組んでいて情報を蓄えているんです。
いつから蓄えているかというと、紀元前何千年とか何万年前から蓄えているんです。

脳細胞と同じように、インターネットのサーバーと同じように、ネットワークを組んで情報を抱えているんです。
一人が全部覚えているというよりは、みんなが少しずつ覚えてる。
老化で誰かが死んでも、新しいやつが入ってきて、それで覚えたりする、補ったりするみたいな感じです。
ネットワークに情報が蓄えられている、と。

陰謀論というのは成立しないんです。
それはなぜかと言ったら全部把握できないからです。

今や情報というのは脳の中に蓄えるんじゃなくて、紙に書いたり、本にしたり、インターネット上に置いたりするので、より社会は複雑になっているし、蓄積されてる情報量が多いと言うことになります。

精神医学はなぜ学びにくいのか

こういうものを理解しつつ、じゃあ精神医学というのはどうして学びにくいのか、どうしてこういうことを理解しにくいのか、という話をします。
理性的な側面と感情的な側面の2つに分けます。

理性的な側面として、知的な問題としてわかりにくいのはなぜかというと、まず扱うものが目に見えないもの、すごく抽象的なものだからです。
情報とか心とか漠然としたものばかりを扱うので、現象だとか、とても扱いにくいです。
具体的に目に見えるわけじゃないからよくわからない。

次に、単純化したり複雑なものに戻したりする、この行き来の作業が難しいです。
うつ病だからこう、とは言い切れないじゃないですか?

あなたの場合はこうですよ、だけどうつ病だからこういう治療をしましょうね。
あなたはうつ病だと思います、単純化すると。
うつ病なのでこういう薬を飲みましょう。
しかしあなたは家庭環境を考えるとこうですね、と複雑系に戻すとか、このやり方が結構難しいんです。
この行き来が結構難しいし、スピード感もついて行けないというのがあります。

あとは心と現象という問題があって、人間は見たいものを見ているんです。
正しく世界を見ていないんです、主観的なものを見ているので。

心で見ているものと、客観的な世界は違うんです。
脳の中に何が起きているのか、社会で何が起きているかというのは、自分が見ている世界とは全然違うものだったりします。
ここの主観と客観の行き来というのもなかなか難しいです。

でも客観的なものを目指すわけじゃなくて、治療のゴールというのは主観的な世界で行われるので、あくまで心の充実だったり、腑に落ちる、納得する、理解するということなので、現象で起こすわけじゃないんです。
客観的に見て私はうつなんだな、だけど幸せだなみたいな、心に戻らなきゃいけないので、ここも難しい。

あとは抽象的かつ大量の情報、複雑なものを扱っていく、そして主観的かつ客観的なものを扱っていくので、めちゃくちゃロジカルじゃないといけないんです。
だから不自然なんです。

普通の思考回路だと扱いきれなくて、生まれ持った思考回路では扱いきれないので、ちょっと特殊なやり方をしなければいけない。
つまりロジカルに考えないといけないのでこれも結構難しいという感じです。

どんなにロジカルに考えていっても、最終的には答えを出せないことがあるんです。
演繹的に考えていっても、帰納的でもいいんですけど、言葉を積み重ねていって、どんなにロジックでは正しくても正解にはたどり着かないんです。
最後に二択や三択になるんです。
そうすると最後は統計的な理解、確率的な理解に変わってくるんです。
そこら辺の感じというのもちょっと難しいのかなと思ったりします。

あと心理的な抵抗という問題もあって、例えば我々が説明してる内容というのは既存の価値観や常識と反することがあります。

例えば、心とは脳のことであるというのは、ある文化体系や宗教体系の中では否定されます。
だけど我々はそういう風に考えているし、考えていることを伝えなければいけないので、常識と反することもたくさんあるなと思います。
例えば「甘えるな」とか。我々の世界に「甘える」という言葉はないですから。
不思議です。

今まで自分が持っていた価値観、考え方を変えなければいけない。
変えていかないと精神医学は学べないので、そこはちょっと気持ち悪い感じがするなと思います。

あとは精神疾患が持つ偏見というのもたぶん元々あるでしょうし、挫折を受け入れる、病気になってしまったことを受け入れる。自分の子供、自分の家族が病気になってしまったことを受け入れる、挫折体験も受け入れなきゃいけないので苦しいかなと思います。

あとは周囲の反応です。
自分たちが認めても周りが認めてくれないということもあると思うので、そこも難しいです。

隠れキリシタンみたいなものです。
実は私、益田先生のYouTubeを見ているんだけど、これは絶対職場の人には言えない、彼氏には言えないと言っている人もたくさんいますから。
そういうのはあります。

色々な抵抗があって、学びにくいんだろうなと思います。
なので、このYouTubeを見てる人はすごく偉いと思います。
偉いというか本当に尊敬に値するなと思います。
小難しいし、大変だし、嫌なことばっか言うし、益田は。

でもそれに食らいついて、自分のために、もしくは誰かのためにやっていこうという人たちなので、すごい人達だなといつも思っています。


2023.3.25

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