本日は「子どものうつ病」というテーマでお話しようと思います。
僕は児童精神科医じゃないんですよ。高校生以上は時々診察していますけど、基本的には大人をメインに診ているドクターなのですが、今回は子どものうつ病というテーマでお話ししようと思います。
子どものうつ病は、きちんと評価されていないだけで結構いるんじゃないかと思うんですよね。
YouTubeをやる中で多くの人と交流することができているんですけど、そこで誤解が結構あるので、ちょっとお話ししようかなと思います。
うつ病とはそもそも何なのか、大人がなる病気なんじゃないかとか、僕が学生のときには中高年で発症するのがうつ病だと教わっていました。
若い時に発症するのはうつ病というよりは統合失調症とか躁うつじゃないかみたいなこと言っていました。
でも子どものうつ病は多く発見されるようになってきています。
診断のあり方がちょっと変わってきているのもありますけど。でも子どもの時からあるということが最近はわかってきているという感じです。
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脳の慢性的な炎症反応
うつ病は、脳の慢性的な炎症反応、慢性疲労みたいなイメージに変わってきています。
慢性的なストレスを浴び続けることによって、もともとの遺伝負因と継続的なストレス反応、ストレス状況に置かれることによって、脳に疲労というか炎症反応が続いてしまっている。
神経細胞の貧困化が起きているというようなイメージなんですよね。
療養や薬によって、木の根っこを伸ばすようなイメージはあります。
子どもの場合はちょっとわかりにくいんですね、症状が。
どちらかというとうつ病というと元気がなくて固まっているようなイメージです。
大人の場合はそうですが、子どもの場合は、固まっているというよりは焦燥感の方が目立つんですよね。
元気はないんだけれども空回りしてるような感じ。大人でも焦燥感はあるんだけれども、子どもの方がより目立つという感じですね。
けんかが増えたり、嘘をついたり、ということが多い。
だから甘えているんじゃないかとか暴れん坊なんじゃないかとか言うんだけど、このイライラ感というのは躁状態とかではなくて、うつ病のうつ症状から来てることもあったりします。
躁状態はもうちょっと万能感があるというか、もうちょっとパワフルだったりします。
見極めは難しいです。
これはうまく言えないんですけど、でもなんか食べられない、なんか自責的になっている、そういう感じがあるかな。
躁状態の人も自責的になったりもするのですが、ニュアンスが違うんだよね。
臨床的に感じる差というのが、科学的に正しいのか正しくないのかというのはたぶん100年後、200年後の医学じゃないとわからないと思います。
物質依存
あとは中高生のイメージかもしれませんが、物質依存です。うつになってこの苦しみから逃れたくて、何かに依存してしまうことが結構あったりします。
アメリカでは大麻が危険視されているという感じです。
大麻はやはり危険で、自殺リスクを3.3倍に上げたり、とか他殺ですね。
人を殺してしまうリスクを3.2倍に上げてしまったり。
過量服薬をして自殺のリスクを2.4倍に引き上げるみたいな話があったりします。
違法ドラッグというかドラッグ結構危険なんですよね。
危険な状況だからドラッグを使って休まろうとしているんじゃないかとか、もともとそういうところがあるからなんじゃないかとか言われそうですが、それだけじゃないなというのはわかりますよね。
僕らもお酒飲んだりしますから、大人も。
お酒の質の悪さを考えるとわかるんじゃないかなと思いますね。
こういうことを言うと「いやいや益田は何もわかってない」「大麻はナントカだ」とかいろいろ言われそうですけれど、ルールというのは、多くの人を幸せにするルールもあれば、個人の自由を守るというルールもある。
一方で社会的な弱者を守るためのルールもあるんです。
僕の場合は、どちらかというと社会的な弱者を守るためのルールを重視する立場です。
立場によってルールのあり方とか規制のあり方は異なるとは思うのですが、精神科医はこういう弱い人、自殺を防ぐにはどうしたらいいのか、という観点からルールを規定します。
疫学
疫学ですけれども、UpToDateというアメリカの教科書から引っ張ってきているんですけど、12歳から17歳の子どもの8%が1年間のうちにうつになるんじゃないかと言われています。
すごい人数ですよね。
12歳から17歳までの間に11%の子どもがうつ病の症状を経験すると考えられている。
これが遺伝的な問題なのか、環境要因なのか、それとも思春期特有の産みの苦しみなのかわからないですが、でもこれだけの人数の子どもたちが苦しんでいるということです。
それは理解することが大事なんじゃないかなと思います。
決して珍しい病気でもないし、珍しい症状でもない。
かといって隠していたり言わなかったりするので、他人事じゃないという感じはします。
いやいやそれはアメリカの人たちの診断基準じゃないかと言われそうですけど。
確かにアメリカの場合は同じようにデータを取ると、大人の場合は10%ぐらいの人が1年間のうちにうつになると言ったりして、生涯のうち21%ぐらいの人がうつ病を経験すると言われています。すごいですね。
対する日本はですね、2%ぐらいの人がうつ病を経験して、生涯のうち6%ぐらいの人がうつ病を経験するみたいなことが言われています。
うーん、日本は素晴らしい国ですね。うつ病になりにくい国ということですが、ホンマかいなという感じもします。
なぜなら日本はアメリカよりも自殺する人間の割合多いですから、本当ですかという感じがします。
うつ病以外の理由で自殺しているんですかとか言われそうですけど、いろんな考え方があると思いますね。
アメリカの方が日本よりもはるかに競争社会ですし、貧富の差が激しいし、家族システムも違うとか、いろいろ考えられますけど。
でもまあ日本も2%ということはないんじゃないかという気がします。
もうちょっと多くの人数がいると思います。
子どものうつ病が1、2%だということではないんじゃないかなという気はしますけどね。
鑑別と治療
もうちょっと重要なポイントとしては、うつ病と躁うつ病の鑑別はとても重要です。
うつ病だと思っていたけれども診断が躁うつ病に変わるとか大人の外来でも珍しくないですし、子どもの場合は躁うつ病になりやすいというか、大人よりもなりやすいのでより慎重に診る必要があります。
結構難しいですね、診断って。
例えば、1年の間にうつか躁か常にどちらかというわけではありません。
2年前にうつがあってそれからしばらく落ち着いていて、1ヶ月だけ躁状態があって落ち着いていてまたうつになったとか。
3年前に躁うつがあったけれど、落ち着いたけど、3年後に再発したとかもあったりする。
だからしっかり聞く、しっかり経過を見ることが大事ですね。
何が問題かというと、抗うつ薬を使用した場合、自殺のリスクとか行動化のリスクが上がるんですよ。
躁うつ病の人に抗うつ薬を入れるとポーンと上がってしまうことがあるんです。
子どもの場合もそうで、ポンと上がったときに何か問題行動を起こしてしまったりとか、事故につながることもあるので、慎重に判断することが重要です。
あとはADHDですね。発達障害の診断をするというのもとても重要で、その合併の有無を見たり、発達障害と診断されていたけれども実はうつ病だったとか躁うつ病だったということを鑑別することもとても重要です。
ADHD自体も8%ぐらいいるとか言ったりしますから。
合併症なのか、それとも別の病気なのか、これも鑑別は結構難しいなと思います。
子どもは喋って見せることも難しいし、発達の程度も子どもによって全然違うので、本当に難しいですね。
子どものうつ病は他の合併症も多かったりします。社交不安障害とか。
単独の病気ではなく、社交不安障害、摂食障害、強迫性障害など他の合併をすることもあるので総合的に治療していかなければいけない。
薬物薬じゃない治療をしっかり吟味してからやらなければいけないと思います。
だからすぐに薬ですねというわけではなくて、大人とはちょっと違うので、子どもの場合はそこの吟味はとても重要ですね。
薬物治療をする場合は週一のフォローが望ましいということをUpToDateでは書いていました。教科書的には。
でもなかなか全部の患者さんが児童精神につながるわけじゃないので、学校の先生やスクールカウンセラーの人は大変だなと思いますし、どう判断したらいいのかと思っているんじゃないかなと思います。
未治療というか、精神科につながっていない子どもたちがたくさんいるということですよね。
教育によって治療していくのか、ケンカや嘘をついたときに教育的な対応が必要なのか、それともそうじゃなくてうつ病を疑って治療や療養を勧めた方がいいのか、本当に悩ましいなと思います。
喋りながら思いましたけど、大人の場合だったら休職があるのに、子どもの場合はなかなか不登校というか、何ヶ月か学校に行かないということがなかなか許されないというか、そういうのが一般的じゃないじゃないですか。
だから何かうーんと思うし、焦るしね、親御さんも。
でもこれだけいるということを考えると、大人が休職するみたいな感じで子どもも不登校というか学校に行けない時期があるのも、まあそうだろうなと僕は思います。
ここら辺もね、YouTubeを通して脳のこととか病気のことを知ってもらえれば、また教育や学校のあり方も変わるんじゃないかなとは思います。
今回は子どものうつ病というテーマでお話ししました。
あとですね、うちのYouTubeのメンバーシップで「オンライン自助会」をやっています。
家族会もやっているんですよ。子どもは参加できないという規約なのですが、大人の家族の方は家族会という形で参加できます。当事者じゃなくても参加できますので、もし興味があったら参加してもらって、コミュニケーションをとってもらえればなと思います。
うつ病
2023.4.3