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40代女性会社員・子育てのうつ病

00:00 OP
00:57 原家族と今の家族
03:53 仕事の悩みを相談できない
07:00 子どものこと
08:11 トラブルが重なった末に
12:11 うつ病の経過
13:16 うつ病の治療

本日は「40代女性会社員のうつ病」というテーマでお話ししようと思います。

いわゆるケーススタディと呼ばれるものですね。実際、こんなことをやっていますよとか、こんな臨床をやってますよということをお話ししようと思います。

うつ病とはこういうものだよとか、うつ病の治療はこういう薬を使うよという動画は今まで撮ってきましたし、最近はそういう動画はいっぱいあると思うのですが、現役精神科医がどんな診療をしているかという話は意外と動画になっていないかなと思うので、ケーススタディという形でお話しするとイメージが湧くんじゃないかなと思います。

原家族と今の家族

40代女性会社員ということで、これは僕が作ったケースなんですけども、呼びにくいので名前決めましょうかね。

映えある第1回目なので、編集のサワキさんにちなんでサトウさんにしますかね。
サトウA子さんにしましょう。

よくあるケースとして、A子さんは二人姉妹の妹です。お父さんは会社員でお母さんもパートをしたりと典型的な感じです。
今が40代なので、お父さんお母さんは健在ですが、結構歳を取って70代ということです。
姉もいて、姉も優しい感じです。40代中盤にしますかね。

姉がいるので、反抗期は姉が母とバトルしたりしている。姉が長女だということで、両親とコンタクトを取っている。
仲はいいんだけど、姉に従うというか、姉を頼りにしているちょっと不安げなA子さんというイメージにしましょうか。

A子さんは結婚していて、旦那さんは頼りがいがあるというか勝ち気というか、男っぽい旦那さんを選んでいるという感じです。
子どもは二人とも男の子なので、家の雰囲気は男っぽい感じです。

実家の雰囲気は姉と私だったので、実家の雰囲気は女っぽい家ですよね。今自分がお母さん役としてやってるところは男ばかりの家で、男っぽい雰囲気の家族なので戸惑いを感じているという形にしましょうか。
イメージわきますかね?

自分が育ってきた環境とちょっと違うところに今いるよ、と。
そういう中で思春期の子どもを抱えて子育てをしなきゃいけなくて、悩みながら生きているというA子さんです。

仕事の悩みを相談できない

それである時、職場の上司から叱責されるんですね。
「こんなんじゃダメじゃないか」「君もある程度の年齢なんだから、もっとリーダーシップを持ってやってくれなきゃ困るよ」と強めの叱責を受ける。
「営業もしっかりやってくれよ」と言われる。
A子さんにとってはそういう体育会系的なノリは初めてだったので、強い落ち込みを受けるんです。
今までもそういうことを言われたことがなくて、できるだけ陰に隠れていたんですよ。

陰に隠れていたんだけど立場も上の方になってきて、後輩ができてきた。
サポートするようなタイプの上司や先輩をやるのは得意なんだけど、自ら引っ張っていくのは苦手なんですよね。
だけど昨今の不況ですから、上司から君も引っ張っていかなきゃいけないと叱責をされるということです。

そういう中で、誰にも相談できないし、共感してもらえる人がいないという感じです。
例えば旦那さんは職場の上司と同じようなタイプなんで、旦那さんに言っても共感してくれないんですよ。
「いや、まあそうかもしれないけど、君は引っ張っていく力が弱いから、そこは上司の人が正しいんじゃない」とか言っちゃうわけですね。

まあ言いますよね。夫婦だからね。
女性としては今旦那さんに慰めてほしいとか共感してもらいたいタイミングなのに、空気を読めずに正論言っちゃう。男の人っぽい。もうわかるわ、自分もやりそう。
姉は専業主婦でなんか相談しにくい。

しかも姉は実家の両親のことも見ていたりするから、自分の悩み、仕事の悩みを言うのは気が引けちゃう。
かと言って、同期の女性も少なかったりするし、同期の女性は同期の女性で家に問題があったり、離婚をしていたりとか色々あるから相談しにくいんですよ。

これを見ている若い人たちはよくわからないかもしれないです。学生さんとか20代の人はわからないかもしれないですけど、だんだん年を取ってくると相談は意外としにくいんですよね。

嫌味に聞こえちゃうこともあるんですよね。
女性は特にそうなんですよ。「私、こんなことで悩んでいるんだよね」と言った時に、「アンタそれ出世してるんじゃん、ズル」みたいな感じに思われてしまう。

「アンタそう言ってるかもしれないけど、旦那さんと仲いいじゃん」「旦那さんは共感してくれないかもしれないけど、うちの旦那みたいに暴れたりしないでしょう?」「うつになったりしてないでしょ?」「リストラされてないでしょ?」

そう直接言うかどうかわからないですけど、気が引けちゃうんだよね。
だから相談できないなと思って、自分が頑張らなきゃと思っている。

子どものこと

男の子の気持ちがわからないんですね。
兄弟仲が悪かったり、喧嘩したり、Hなものを見たり、学校の先生に反抗したり。
で、勉強しないでしょう、男の子って。しない子が多い。
旦那に言うと「いや宿題しないなんて男は普通だよ」と言うんだけど、「そうは言っても今時の子はみんなおとなしくてちゃんとやるのよ」と奥さんが言ってもわからない。

共感もしにくいし、かと言って母親に対して優しくフォローするようなタイプの男の子でもなくて、自分たちでやっている。
どこまで母親として介入しなきゃいけないのかがよくわからない。

そうこうしていると問題を起こしたりするわけですよね。
兄弟げんかで兄が弟をぶん殴るとか、弟が兄をぶん殴って骨折はしないけれど、血が出ちゃうとか。病院も連れて行って頭のCTを取って問題はないんだけれども、そういうことがあるだけでも相当ハラハラするわけです。

トラブルが重なった末に

2~3か月に一回とか家の中でトラブルが起きたり、そういうことが重なってきて、通勤中に涙が出るようになるんですね。

だんだん調子が悪くなってきて、寝れない日が出てきたり、食べられなくなって痩せてしまう。
1か月で2、3キロとか5キロとか痩せちゃうようになってきた、ということです。

こういうのはよくあります。よくあるケースですね。

それで旦那さんや息子がここでようやく気づくんですよね。
「ちょっとお母さん調子悪いんじゃない?」とか。
上司の人もようやく気づくんですよ。「君、最近調子悪いよ。通院しなさい」と言われる。
自分でも受診した方がいいと思って精神科を受診するんですね。
そして、うつ病の可能性が高いですよと診断される。

元気が出ない、意欲が出ない、楽しみがない、食事睡眠が取れない、いろいろありますよね。
うつ病と診断されて、「仕事どうしますか?」と主治医から聞かれるんですね。それで、「もうちょっと頑張れると思うんです。薬で何とかなりませんかね」と言って、初回の診察が終わります。

僕だったら「じゃあそうしましょう」と言います。
いきなりすぐ休職してくださいとはなかなか言わないですね。
休職した方がいいなと思いつつも、強くは勧められないんですね。本人もびっくりしちゃうから。
「調子が悪かったら明日でもいいから来てくださいね」「気持ちが変わったら明日でもいいので来てくださいね」とか言います。

例えば月曜日初診や火曜日初診だったりした時に、土曜日もクリニックをやっているから土曜日に来たりするんですよね。

その週の土曜日に来ることもあるし、翌週の土曜日とか。
予約を取り直して早めに来る時もあります。
その時には旦那さんと一緒に来ることもあったりして、じゃあ休職したらどうでしょうかと話をする。
そして休職の診断書を書いて休職に入るというのがよくあります。

うつ病を外来だけで治すということもあるんだけれど、こういうパターンだと家のこともあるし職場のこともあるし、それを一回仕切り直ししたいなという感じもあるんですよね。

旦那さんも稼いでるし、ちょっと休んだらという話はしますね。
だから一回休もうと言います。
よく言うのは「休むのは権利ですよ」と言ったりします。
「あなたの職場にも休んでる人がいるでしょう?」と言ったら「ああそうですね、います。でもなんかあんまりよく知らないんですよね」とか言う。

「休んでいいんですよ。長い人生、今どき70歳ぐらいまでたぶん働かなきゃいけないからたぶん30年ありますよ。30年あるんだから今ちょっと休んでもいいんじゃないですか?」と言ったりして、「ああそうですか、家族に相談します」とか言ったら、家族は案外「休んでいいんじゃない?」と言ったりするとかあります。

有休もたまっていたりするし、有休を使い終わっても傷病手当金という形で給料の3分の2ぐらい出るんですよ。
働かなくて3分の2もらえるんですかという話になる。
女性だと主婦業はしなきゃいけないので、こちらにしますと選ぶことが多いです。

それが普通ですね。休職するというのが怠けているんじゃないかとか、他の人に迷惑をかけるんじゃないかとかいろいろ思うと思いますが、でもこちらが普通ですね。
7割くらいこのパターンが多いんじゃないかな。僕の診察だと。8割かな、そんな感じです。
家のこともあるしね。

うつ病の経過

ということでだいたい休みます。
休み始めたら一回良くなります。「休むと決まったら良くなりました。もうちょっと頑張れたんじゃないかな」とか言うんですけど、後でガクッと下がります。

フルマラソンの最後の5キロと似ているんですよ。
最後なので走り切れるんですね。まだ走れるなと思うけれど、フルマラソンの後。
でもやはり疲れているので、どっと疲れがくるみたいな形でうつが一回悪化するんです。

休職して2日、3日はいいんだけど、翌週からガクッと落ちるということを経験して、「やっぱり益田先生の診療が悪いんでしょうか」とか、そこまでダイレクトには言わないけれど、「薬が合ってないんでしょうか」「他の病気とか合併してるんじゃないでしょうか」「うつ病以外の病気はないんですか」とか毎回聞かれます。

毎回聞かれるので「だいたいそうなんですよ。フルマラソンと一緒で今まで気を張り詰めていたものが落ちるから一回下がるんですよ」ということを言ったりします。

うつ病の治療

薬物療法としては抗うつ薬を少しずつ増やしていって、吐き気がないかを確認して使うという形です。
1ヶ月ぐらい経って薬が合わないとか効いていない感じがあったら、増やしたり、薬を変更することもあります。

だいたい薬はSSRIという抗うつ薬だったりします。セルトラリンや、最近だとレクサプロが多いかなと思います。
あとはSNRIとかNaSSAと呼ばれるミルタザピンなどもありますが、基本はSSRIが一番副作用がないので、それを使います。
SSRIで弱かったらSNRIとかNaSSAに切り替えるとか、SSRIに抗精神病薬をちょっと足す増強療法をやったりします。
薬のやり方はそんな感じですね。

あと福祉の導入もやります。治療はちょっと種類の違う治療を3種類同時に走らせるというイメージなんです。
診断と薬物療法という一つの軸と、福祉導入という2つ目の軸、どういう福祉が使えるか、どういう制度がこの人に合っているのかということと、環境調整。
3つ目は認知行動療法や精神療法と呼ばれるカウンセリング的なアプローチです。

この3つを同時に走らせるのですが、別々のものを3本同時進行させるイメージです。
福祉としては傷病手当金もやったりします。

うつ病なので、一般的には認知行動療法的なアプローチをとります。
認知の歪みはどうなのかとか、あなたは自分で抱え込み過ぎるところがあるねとか、あなたの特徴としてリーダーシップを取ることが苦手で、サポート役が得意なんだけれども前に出ることが苦手ですと。

だけど今あなたは前に出ることも求められているので、そこはちょっと練習してみましょう。慣れていきましょうとか。
もしくは苦手なことを伝える練習をしましょうとか。

ひ弱なリーダーもいるわけですよね。
三国志でいうところの劉日。劉日は気弱かどうかわからないですけど、ちょっと頼りないかもしれないけれども、部下をうまく使うことで発揮するリーダーシップという形もある。

逆に自分がトップでガンガンいく曹操みたいなタイプのリーダーシップもあるんですよ。色々なタイプがあります。
怖くて強権的である織田信長タイプもいれば、アイデアと人たらしでうまく回す豊臣秀吉タイプのリーダーもいるし、実直で堅実で保守的で我慢強い徳川家康タイプもいるわけです。

いろいろなタイプのリーダーシップがあるので、リーダーシップはこんなのがあるよね、あなたに向いているリーダーシップはこうかねとかそういう話をしたりするかな。

認知行動療法というけれども、決まったコースというよりはまあ普通の外来なので、その時に患者さんの興味があることとか、あと患者さんの強みと弱みを把握して、今現在の問題を把握しつつ、患者さんの興味のある話題をしながら、その人の問題のコアみたいなところを小出しにしていくイメージですね。

そういう雑談をするんですよ。
雑談をしながら頭の整理をしていく感じですね。
だから結局、対話をしていくとか時間をかけることで、自分の人生や自分の生きている意味、自分自身が明確化していくんですね。

明確化していくと、迷いは晴れていくんですよね。
私はこんなリーダーシップしか取れないな、私ってダメなのかな、男の子の気持ちわからないな、それって自分はダメなのかなとか思っているのがだんだん明確化してくると、まあ仕方ないなと思えるんですよ。

下手だけれど、そんなの仕方ないじゃないかって。
今まででリーダーシップを取るような人生を送らなかったし、それは別に私が悪いわけじゃないし、つまるところ私は次女だから仕方ないじゃん、みたいな。

自分で選んだわけじゃないんですね。
男の子の気持ちがわからないというのは、そういう家だったから。男の子と一緒に育ってないからわからない。それは普通でしょと。
むしろ旦那が手伝えよという感じで明確化していく。

あとは親子問題の話。
リーダーシップの話だけじゃなくて、親子問題の話をしたり、子どもと夫、男の子の気持ちがわからないよねとか、上司の話をしたりしていって、診察の中でちょっとしたやり取りですけど話をして、次に益田先生に会ったらこんな話しようかなとかそういう風に思いながら、通院を続けていく。
それで、自分の軸とか考え方の癖が何となくわかってくるんですね。

そんなことをしてるとだいたいですね。6ヶ月くらい経ちます。
復帰するのは6ヶ月後ぐらいが多いですね。
3ヶ月ぐらいで復帰するのが30%、6ヶ月で復帰するのが30%、1年半かけて復帰するのが15~20%という感じです。
あとの20%が退職するということのようです。データを見ると。

若い男性や会社員でバリバリやりたいという感じだと3ヶ月くらいで復帰するのもあるんですけど、結婚もされてるし主婦業もしなきゃいけなかったり、子どものこともあったりすると、6ヶ月、1年、1年半かけるのは別に珍しくないです。

傷病手当金をギリギリまで貰う人も珍しくないです。
それで心身のバランスを整えていくという形です。
制度を利用をしろと言っているわけじゃないですよ。権利なのでやってもいいですし、だいたい家のこともあったりすると、バランスが整うのはそれくらいかかってしまうんですよね。

あと、回復期は寝ていることが多いです。うつのひどい時とかは。
寝ていることが多いんですけれど、それは普通ですよということです。
寝ていてだんだん「こんなんでいいんでしょうか」と言うのですが、良いんです。

そしてだんだん散歩ができるようになってくる。
その後、料理が楽しくなってくる。そして片付けができるようになってくるというと、復帰のタイミングという感じです。
「大掃除ができました」と言うと、もう復帰のタイミングだなというのが僕の目安です。
個人差がありますけど。

その後は再発予防のために通院を継続するという感じです。
1年、2年とか通院を継続します。
ベンゾ系の抗不安薬や睡眠薬を飲んでいなければ、2ヶ月分とか3ヶ月分の薬をまとめて出すことも珍しくないです。
2、3か月分出すのであれば、年に4回とか6回とか来ればいいだけなので、来てもらってちょっと喋ったりして、益田先生のYouTube見てますよとか言われてなんかちょっと照れたりとか、そんなやり取りをする感じですかね。

再発予防のために抗うつ薬を飲んでいたけど、大丈夫そうですねと言ってゼロにするんですね。ゼロにした後、気分転換のためにまた時々益田先生を受診していいですかとか聞かれて「ああ、いいですよ」とか言ったりします。

半年ごとに来たりするんですけど、だいたい2、3回来たら来なくなりますね。
2、3回も来ないかもしれないです。
日常が忙しいので来てないという感じですね。でもまあYouTubeを見る形で何となく僕と繋がっていたりすることはあるみたいです。

精神疾患やうつになる時ってすごく苦しいし、人生観がガラッと変わる経験なので、そういう時に僕ら精神科医が立ち会えるということなのかなと思います。
小学校とか中学校の先生みたいな気持ちですね。去っていく、という感じかなと思います。

今回は、40代女性会社員のうつ病ということで、どんな感じの人が多いのか、どういう経緯で治るのかということをお話ししてみました。


2023.5.8

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