本日は「アルコール依存症の解説及び創作のケーススタディ」をやってみようと思います。
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ケース紹介(創作)
A子さんは50代女性で、今は夫と別居している。
夫は愛人というか、不倫相手、浮気相手を作って、その人と今暮らしているという感じです。
残念ながら子供には恵まれなかったということです。
A子さんの家は父親がアルコール依存症だったんですね。
子供の時からお酒は身近にあって、あまり良いイメージを持っていなかったという家です。
父親が帰ってきてお酒を飲んで家の中で暴れたりする。そうすると夫婦喧嘩が始まったり、いつもピリピリしているという感じです。
なのでいつも緊張して気を張って、父親の機嫌を見たり母親の機嫌を見たりしていたという感じです。
弟もいるんですけれども、弟はアルコール依存症になってしまった。
弟もお酒を飲み過ぎて依存症になって、20代のうちに自殺されている。
そういう家庭なのでピリピリしているんですよね。
ピリピリしている中で精神がやられてしまって、うつっぽくなってしまい、弟もお酒に逃げてしまったんですね。
お酒に逃げてしまって、どんどん酒量が増えて自死してしまうということになります。
お酒って結構怖いんですよね。
お酒は楽しくなるドラッグ、楽しくなる薬だと皆さん思いがちですけれど、そうじゃなくてダウナー系のドラッグなんですよ。
お酒は理性を抑制するんですね。
理性を抑制することでだらーんとなって気持ちよくなって楽しくなるんですけど、逆に抑えてしまうのでうつっぽくなることもあるんですよね。
なので結構お酒と自死は関連性が深いです。
遺伝の影響
あと、お酒と遺伝、家族負因みたいなものは関係ないと思いがちですよね。
でもお酒は遺伝的な関連性があるんですよ。
お酒を飲むから依存症になるんだから、生まれつきの問題ではないと思いがちなんですけれども、依存症になりやすい遺伝子はあるんですよね。
例えばアルコール依存症になる時は、報酬系が壊れていると言うんですよ。
報酬系とは何かと言うと、ストレスが溜まる→お酒を飲む→気持ちよくなる。またストレスが溜まるとお酒を飲みたくなる→お酒を飲む。
報酬ですね、お酒を飲むと報酬を貰える。
これを報酬系と言うんですけど、脳の報酬系がどんどん回っていって止まらなくなるんですよね。
イラッとしたら、疲れたなと思うと「お酒飲みたいな」と条件反射になる。
暑いなと思ったら「お酒飲みたい」なみたいな。
それが条件反射になるし、想像すると気持ちよくなるんですね。
だから飲みたくなってしまう。止まらないんです。それで我慢できずに飲んじゃう。それが依存です。
依存しやすい、報酬系が壊れやすい、そういう弱さというか家系があります。
依存症になりやすい体質
後は、二日酔いになるタイプだとアルコール依存症になりにくいんです。
飲んでもすぐ気持ち悪くなるとか、二日酔いになりやすいと、アルコール依存症になりにくいんだけれども、二日酔いになりにくい人たちっているんですね。
お酒は、アルコールからアセトアルデヒドになってアセトアルデヒドから分解されて水とかに解毒されていくんですけども、アルコールからアセトアルデヒドが速くて、アセトアルデヒドが溜まると顔が真っ赤になったり二日酔いになるんですね。
これが分解されて元に戻るんですけれども、アルコールからアセトアルデヒドがなかなか分解されずに、アセトアルデヒドから水などへの分解が速かった場合。
アセトアルデヒドの分解がめちゃくちゃ速くて酔っ払った時間の長い人は、アルコール依存症になりやすいんですね。
たまにザルと言って、アルコールからアセトアルデヒドになるのも速いし、アセトアルデヒドから水とか解毒されるのも速い人がいますけど、こういう人たちは飲んでも気持ち良くならないから「何で飲むの?」って感じなんです。
こういう人も逆にならないんですよね。
アルコールからアセトアルデヒドが遅くて、アセトアルデヒドから解毒が速い人が依存症になりやすいです。
だから朝に二日酔いにならないんですよね。たくさん飲んでも。
どちらかというとぼーっとして気持ち良くて、朝出勤するのも楽になっちゃって。
だからお酒が悪いものというイメージを持ちにくかったりします。
僕もどちらかというとこのタイプなんですよ。
二日酔いにもなりますけど、どちらかというと二日酔いになるよりも朝ぼーっとしていたり、気だるいことの方が多かったりしましたね。
今はお酒をやめて3年ぐらい経ちますけど、依存症になりやすい体質というか、そんな感じでしたね。
アダルトチルドレン
あとは家庭環境ですね。
アルコール依存症の人の家庭で育って、ピリピリとした家庭環境で幼少期を過ごした場合、妙に大人びたりとか、逆に情動が不安定だったりする子達がなるんですけれども、そういうものはAdult Children of Alcoholicと言ったりします。
このA子さんの場合は相手に尽くしちゃうんですね。
両親に気を張り続けたみたいに、他のプライベートな人間関係でも職場でも、自分から相手に何かをやり過ぎてしまう。
親切になりすぎて、尽くし過ぎてしまうというのが見られています。
自分の気持ちを表現しにくいんですね。
甘えるのが下手で、自分の嫌なこととか苦しいことも言いにくいし、嬉しいとかそういうことも言いにくいんですよね。
だからちょっとつまらない日々なんですよね。つまらなくなっちゃう。
相手がぶつけてきてもかわしちゃったり、うまくキャッチボールできなかったりする。
常に尽くしてくれるから張り合いがないというか。
だからそれでどこかに行っちゃうということは結構ありますね。
男の人もどっか行っちゃうからね。
でも夫が悪いんですよ。
夫が悪いんだけれども、もちろんね。
そういう風になってしまうことは結構あります。
本人は一人で飲み屋を探したりするのが好きですと言って、誰とも喋らずにお酒を飲みながらご飯を食べるのが好きです、みたいなこと言ったりしていましたね。
こういう人は結構います。
治療
最初の1、2年は、お酒をやめたいと本人は言いつつも、なかなかやめられないことが多いです。
疾病教育をしながら、お酒は良くないんだよとかドラッグなんだよと。
お金も時間も健康も無駄にするんだよとかね。
だってお酒で失敗したでしょ?とか色々なことを話しながら、「でも節酒って難しいんですね。やっぱ完全断酒なんですね」とか、「お酒をやめた時は寝れないから睡眠薬ください」とかね。
そういうことを言いながら、行ったり来たりします。
そういうことをしつつ、親の話を時々聞いたり、旦那さんの愚痴とか夫婦のことを少し聞いたりとか。
でもあまり喋るタイプじゃない。
本人があまり言えないから、どうしたらいいんだろうと思いつつ、行ったり来たりするという感じです。
この動画を見ている人は、夫婦関係を解決すればアルコール依存症が治るんだろうとか、すっぱり離婚したらお酒をやめられるんじゃないかとか、逆に夫を訴えることもできますから訴えればそれですっきりして、旦那が帰ってきたらお酒をやめられるんじゃないかとか思うかもしれないですけど。
そういうアドバイスをしていくのが精神科のカウンセリングとか臨床だと思う人もいるかもしれないですけども、必ずしもそうじゃないですね。扱えばいいというものじゃないですから。
言いたくないこともあるしね。
うーんとか思いながら、そうすると3年目以降、ある日やめ始めるんですね。
それでモヤモヤしたりとか、夫との関係を継続しながら、父親のアルコール依存の問題は解決しないまま、弟の自死のトラウマは解決しないまま、だけど通院が続きながら本人はやめられている、みたいな状態が続く。
そういう中で積極的に何か心理課題を解決しないまま、自分は何を提供するんだろうと思ったりするんですけれども。「応援してます」とか患者さんが言ったりして。「YouTubeを時々見ているんですよ」ということを言ったりして、うーんとか思いながらまいっかと言ってやるという感じですね。
のらりくらりとお酒をやめられていたらいいのかなという気はします。
心の問題は全て解決するということでもないし、解決させたいのは本人じゃなくて治療者側だったりするかもしれないですよね。
治療者側が、自分たちの医学知識、心理学の知識をもって、彼らのトラウマをきれいさっぱり語らせたいという欲望かもしれないですから。
そうじゃなくて、相手が望むもの、ニーズを提供するという感じですよね。
睡眠薬を飲んでいればお酒をやめられている、通院が定期的にできていればそれが目印になって、良い意味でセーフティーネットになってお酒を止められているみたいなケースですかね。
でもよく思いますね。
精神科医かつYouTuberである松崎先生は、堂々としていればいいんだよ、自分が提供できるものを提供しているのであれば、堂々としていればいいんだみたいな言い方をされていましたけど、まあそうだなとか思ったりします。
医師って何なのかなとか、この人にとっての益田裕介はどういう存在なのかなと思いつつ、でも医師としてやるべきことをやる。
応援したいという彼女の気持ちがある意味治療にもなっていたりすると思うから、僕らしくちゃんとやるということだったりします。面白いね。
医師ってどんな仕事なんだろうと思いますね。
YouTubeを見ている人は、精神科の患者さんだけじゃなくて、精神科医の先生もいるし、学生の人もいるし、医学生の人とか他科の医学生や先生もいます。
僕らというのは何なのかという時に、一つの社会の機能でもあるんだけども、もう一つとしてやはり人格を持った人間でもあり、そういう僕らみたいな人間がこの社会の中にいて何かを繋いでいるということは、人間の面白さというか、人間社会の面白さだなとは思ったりします。
何て言うんでしょうね。不思議だなと思います。
今回はアルコール依存症のケーススタディをお話ししました。
喋って最後にちょっとわかったんですけど、やっぱり依存症の治療はどこか治療者がカリスマに仕立てられることが多いです。
依存症の先生はカリスマみたいに扱われることが結構多いんですけど、たぶん何かにちょっと依存したいというか、患者さんの何かに依存したいという気持ちがどこかロールモデルとして僕らが演じるということでもあるんだろうなと思います。
今ちょっと思いましたということで、アルコール依存症のケーススタディをお話ししました。
アルコール依存症
2023.7.3