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統合失調症とスマホ、最新の幻覚妄想のパターン

00:00 OP
02:40 ケース紹介(創作)
06:31 診断・治療

本日は「統合失調症とスマホ」というテーマで、創作のケーススタディをやってみたいと思います。

統合失調症というのはどういう病気かというと、簡単に言うと、脳のドパミンに関する部分が壊れてしまっている病気です。
遺伝的な要素、生まれつきの要素が多く、10代、20代で発症することが多いです。だいたい100人に1人くらいが発症します。
若い人に多いのですが、中高年発症のこともあり、そういう時は遅発性パラフレニーと言って、年を取ってから幻覚妄想が起きることもあったりしますね。
幻聴があったりするのが一般的によく知られていて、うるさいんですよね。幻聴がうるさくて、隣の家にうるさいよ出て行ってよ、と言ったりします。
統合失調症の人はそういう感じです。

あとは「もう毎日毎日悪口言いやがって」と怒ったりする。
気が弱い人は、悪口ばっか言われている、私はそのうちやられちゃうのではないか、殺されてしまうんじゃないかと思って自分を傷つけてしまったりとか。そういうことも起きてしまうという病気ですね。

ドパミン系に異常が起きるということで、若いうちに覚醒剤をたくさん使ったりすると幻覚妄想が出てくるんですよ。統合失調症と同じようなことが起きたりするんですね。
危険ドラッグって本当に危険なんですよね。
起きない人もいるんだけど、起きる人もいるという感じです。

実験室で統合失調症のラットモデルを作ろうとすると、ネズミに覚醒剤をたくさん打ち込むんですね。
そうすると幻聴が聞こえているかどうかわからないですけど、奇異な行動を取るようになる。
それを統合失調症のモデルみたいな形で実験することもあったりするということです。

統合失調症は最初から幻聴が多く聞こえるわけではなく、病気の発症の時には幻聴なのかどうなのかよくわからなかったり、耳鳴りがするのかなという程度だったり、誰かに見られているなという注察妄想が多かったりするんですよね。
だから初期はよくわからないんですよ。

ケース紹介(創作)

この創作のケーススタディでは、大学生の女の子がお母さんと一緒に受診に来たということにしたんですけれども、最初から統合失調症を疑って「私、統合失調症でしょうか」「変な声が聞こえるんだけど、病気でしょうか」と言って来るケースなんてほとんどないです。

だいたいは「学校に行けなくてうちの子落ち込んでるんです、うつでしょうか」「人間関係に不安があるんでしょうか」とかそういう形で一緒に来たり、一人だけで来たりします。

学校に行けない理由は何なんだろうとゆっくり聞いてみるんですよ。
「親には言えないんだけれど、私の顔を合成したポルノ写真があって、なんか学校で出回っている」「LINEで回っていて歩いているとあの人だって指される感じはします」みたいなこと言ったりします。

だから妄想の形も変わっているんですよ。
面白いですよね。面白いというとちょっと語弊があるかもしれないですけど。
昔の統合失調症だと近所から悪口を言われているとか、神様から命令が来ているとかそういう妄想を持ったりしていたんですよね。

あと狐がついたとか、悪霊がついてきたとか、そういうことを言うんですけども、最近はそういうことは言わなくて、どちらかと言うとスマホですよね。
スマホでやられているとか、インターネットで検索されているとか、LINEで悪口言われているとか、そういう妄想が多いです。

しかも初期の場合は、妄想なのか本当にそうなのかよくわからなかったりするんですよね。
これもこの子の合成ポルノを作るかなとか、作る人もいるかもなとか。
理由もあったりするんですよ、「私出会い系サイトを覗いていたことがあって」「Hなサイトを覗いた時もあって、その時に顔写真をパっと撮られちゃったんです」「ウイルスが入ってきて、私の写真を盗んでいったんです」とか、本当なのか嘘なのかわかりにくかったりするんですね。

じゃあその画面見せてくださいよと、本当にスマホでそういうのがありますか? 見せてくださいと言うと、見せてくれることもあれば絶対見せられませんということもある。
見せてもらっても全然言ってることが違う。ダイレクトな場面はないんだけど、これとかちょっと見せられる範囲だとこれですとか言った時に、全然普通の会話のLINEしかないとかそういうのもあったりします。
すごくファジーだったりしますね。
そこから食べられなくなったり、眠れなくなったりとかいろいろあったりします。

幻覚妄想というのは、確かにわかりにくかったりしますね。
妄想とは何かと言うと、一つの定義としては訂正不可能ということなんですよね。
「いや、そんなことないんじゃない?」と言った時に、「やっぱそうですよね」とかゆらぎがあれば、思い込みだったり、強迫性のものだったり、発達障害のこだわりだったりとかあるんだけど、何度言っても訂正ができない、こちらが言い負かすだけになっちゃう時は、やはり妄想的なものを疑う根拠にしてもいいかなとは思います。

もちろんそれだけじゃないですよ。それだけじゃないんだけれども、やはり訂正困難であるというのが妄想の古典的な定義なので、それも臨床に活かせるなとは思います。

診断・治療

治療は結構難しいんですよね。
どうやって病名を伝えていくのかということですよね。

幻覚妄想なんじゃないかと言った時に、本人は受け入れ難いかもしれないし、お母さんも受け入れ難いかもしれないですよね。
統合失調症と言われるのがきついので、「ネットで書いてるやつと違うじゃないですか」「これ本当に妄想ですか?」「益田が嘘ついてるんじゃないですか?」というのはだいたい皆さん思います。
精神科の場合、典型的な症状や典型的なものにならないことが多いです。

本質的なもの、注察妄想とか注察されている感じとか、被害的な感じとか他者の視点がこちらに向かってくる。
そしてそれがそのうち声に変わってくるという本質的なところは、普遍性がある程度あるんだけれども、もうちょっとわかりやすいところ、現実の現象として起きていることは典型的なものはとらないですね。
その人その人によって違う。
時代や地域の影響を受けるので、ネットに書いてないこともたくさんあります。

でも患者さんたちはネットに書いていなくて、自分の今の症状を、これは自分達の症状だ、だからこの病名なんだよ、この薬の治療方針が正しいんだとはなかなか思いにくいですよね。
ましてや統合失調症というちょっと重い病気で、ある意味薬を生涯にわたって飲まなければいけないかもしれない。
そういう病気だとなかなか受け入れ難いし、目の前にいる医師を信じない方がいいんじゃないかという選択も取るんじゃないかなとは思いますね。

薬を飲んだ方がいいんじゃないか、今調子が悪いし、薬を飲んだ方がいいんじゃないかという時に、今度は効果はあるかもしれないけど、副作用が怖いというパターンですよね。

副作用と効果のバランスを見た時に、効果の方が圧倒的に高いわけですよ。
副作用が出る可能性も低いわけですね。出たとしてもすごく軽微なもの。ちょっと吐き気がするとか、ちょっと気だるいくらいだったら効果の方があるわけですよ。幻覚妄想を抑えるという。

だけどこの天秤をかけるということがなかなか難しかったりする。それを理解するのは結構難しいみたいですね。
メリットデメリットをどう比較するのかとか、確率の問題ですよね。
リスクの確率をどう理解するのかは結構難しい概念なんですよ。
抽象的な概念を理解する上ですごく難しいですね。

子供に1から10を教える次に、偶数奇数を教えますよね。
1から10を知ることと偶数奇数を覚えることだったら、やっぱり偶数奇数の方が難しいわけです。抽象概念として。

その後素数とか説明するとメチャむずいわけですよね。乗り越えられる人もいれば、乗り越えられない人もいるわけですよね。
それと同じで、確率的なもの、自分の健康や自分の命に関する確率変動をうまく理解できないし、それを決断することはなかなかできない人は多いです。

副作用が怖いからやめますという人はいますね。
これは逆プラセボみたいなこともあるわけですよ。
プラセボ効果とは何かというと、薬じゃないんだけれども、それは薬ですよと言って飲むと、本当に健康に良くなる、思い込みの力で良くなるというのをプラセボ効果と言う。
この逆プラセボもあるんですよね。

自分でこれはダメだダメだ。飲んだらそれが出る出ると思いながら飲んだらめっちゃ出る。
そうすると、5年後、10年後も薬を飲まないという選択肢を取るかもしれないから、やはり医師としてはなかなかこう強く押せなかったりしますよね。
結構難しいんですよね。

どういう態度を取るべきかというのはすごく難しいなと思います。
例えば、地方で病院がそこしかない場合、病院が1件か2件しかない場合は、厳しい言い方はできないと思いますね。やっぱり患者さんを主体にして、ある程度患者さんのわがままを聞いてあげる、患者さんのやりたい診療というか、やりたい治療に合わせながら通院を途絶えさせないということが大事だと思うんですよね。

正しいことをする、正しいことを言い続けるというより、もうちょっと清濁併せ呑んで何とか継続することを目指さなきゃいけないし、逆に都内であればそこで嫌な思いをしたとしても別の病院に行ける。
都会のクリニックだったら。

仲良くしてだらだら診療を続けるよりも、言うべきところは言う。
たとえ関係性が悪くなったとしても、次の病院でうまくやれるのであれば、言うべきことは言うのも重要じゃないかなと思います。
 
どうしてそう思うかと言うと、例えば年金を取ることになりましたといって、昔診ていた患者さんの紹介状を送ってくださいとか、診療情報を送ってくださいとかありますけど、やはり治療が遅れてしまって良くなっていないケースもあるんですよね。
 
その先生が悪いわけじゃないんだけれども、何となくだらだらとその人のわがままを聞き続けている。
治療が全然進んでいないケースを見たりすると、良心が痛みますよね。
僕らは結局、その患者さんよりもたくさんのことを知っているわけですよね。
  
だから本人たちの自由意志をどこまで尊重するのか、もしくは僕らがどこまでパターナリックにやるのか、専門家としてどうすべきなのか本当に悩みますし、考えなきゃいけないことだし、その非対称性ですよね。
きちんと説明すれば、きちんと学習機会を与えることで同じような水準に立てるというものでもないんですよね。

そういう部分もなくはないんですけども、やはり精神科の場合は本人が理解できないほどの抽象的な概念を扱うかもしれないんですよね。
背景には膨大な知識が必要だったり、文化的な文脈が必要だったり、数学的な理解とか確率とか、統計的な解釈の必要性があったり、そうするとある程度やっぱり精神発達遅滞とか、知的障害の人であれば理解が難しいことだったりがあるので、ここのバランスも難しいですね。本当に悩みます。
臨床の中ですごく悩むところですね。

あとは「疑い病名」ですよね。
こういう疑いがある。「統合失調症疑いですね」とか言うわけですよ。
たぶん妄想もあるし統合失調症なんだろうと思っても、疑いになってしまうんですよね。幻聴が確認できないから。本人が言わなかったりしたら疑い病名のままになってしまう。
でもその状況でもやっぱり薬を使うのがベターだよと言っても、なかなかうまくいかないことがあります。
でも、まあ疑い以上はつけられないことってあります。
  
もちろん精神障害者手帳を書くとか、そういうことになってくると疑い病名からきちんと診断になるんだけど、説明する時には疑いのままの時も結構あります。

でも、典型的ではないイコール神経症なのかというと、そういうわけでもないですよね。
典型的な統合失調症でないから、この人は精神病ではなくて神経症圏なんだとか、葛藤の問題なんだと言ってしまうのはちょっと問題があるし、間違っています。
それは素人芸になってしまうので、プロじゃないという感じはします。
難しいですね、こういうのは。

あとここら辺の問題は、じゃあどうしたらいいんですかと言われても、さじ加減ですよね。
どれぐらい妄想らしいのか、どれぐらい効果とデメリットの問題があるのか、本人たちの価値観はどうなのかという細かいさじ加減の問題なので、こうだからこうだとは言い難い。

だから塩加減みたいなものですよね。  
今日は暑いし、汗をかいているから、ちょっと濃いめの方がいいとかね。そういう感じですよ。

この人は肉体労働しなくて塩分しか摂っているから、ちょっと薄めの方がいいなとか。
お酒飲んでいる人だから、濃いめがいいなとか、そういうのと似ているので、その加減をその人に合わせて調整するところですけれども、臨床もそんな感じということですかね。

今回は、統合失調症とスマホというテーマで、現代的なスマホに関する妄想と、そこに関する臨床的なジレンマの話をしました。


2023.7.24

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