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双極性障害と『死にたい』

00:00 OP
03:39 双極性障害とは
07:50 人生を悟っているかのような
10:34 病気がわかりにくい

本日は「双極性障害と『死にたい』」というテーマでお話ししようと思います。
毎週日曜日は「死(death)」を扱っているんですけれども、今回は双極性障害と死というテーマでお話ししようかなと思います。

自殺願望、死にたいという気持ちでも、疾患ごとに結構違うんですよね。
双極性障害の人は結構自殺リスクが高いんですよ。他の精神疾患よりも群を抜いてというか、頭一つ抜けている感じがありますね。
自殺リスクは高くて、診断された人の10~20%は自殺で亡くなるのではないかという報告もあります。
これはUpToDate(アメリカの医学教科書)から引っ張ってきました。
自殺する人の95%くらいは精神疾患じゃないのか。90~95%は精神疾患の疑いがあるみたいな報告もあります。

だから自殺というのは本人の自由じゃないか、自由に選んでもいいんじゃないかと机上の空論というか、思考実験のディスカッションとしてはまあいいんですけど、現実的なことを考えると、やはり精神医学的な問題がすごく絡んでいますね。
病気と認定され得るものが多かったりします。

「いやいや、勝手に病名をつけているだけだろう」とか言われそうですけど、そんなに人間というのは合理的な生き物ではなくて、やはり動物なので。動物は本能だったり、病気に支配されて自分の行動を決定されがちですから、自由意志でロジカルな論理展開から自殺を選ぼうみたいな人は少ないです。
だいたい病気のせいだったりします。

だから逆に自分がそう思っている時に、「いや、病気のせいじゃなくてそう思ってるんだ。心底そう思ってるんだ」と思っているとしたら、やっぱり通院してきちんと判断してもらうのは大事です。

多くの人は病気が良くなった後に、「ああ、あの時死ななくて良かった」とか言いますから。
そういう現場を僕はたくさん見ているので、だからちゃんと治療しましょうと言っているわけです。

あと双極性障害はうつ病よりも若く発症するとよく言われてます。
10代から20代で発症して、そこで見つかる。
若い人だから自殺率が高いんじゃないかという説もあるんですね。
若者に多いんですよ。自殺ってそもそもが全体として。

だから双極性障害という病気のせいではなくて、若いからなんじゃないかということですよね、という説もあるんだけども、実際は若いから亡くなるのではなくて、やっぱり双極性障害の病気によって、年齢の影響を差っ引いても病気の特性によって亡くなりやすいことも分かっているので気をつけましょう、ということは教科書に書いています。

■双極性障害とは

双極性障害というのはどういう病気かと言うと、うつと躁を繰り返す病気なんですね。
落ち込んでいる時期と元気な時期を繰り返すんですけれど、躁・うつ・躁・うつと繰り返すのではなくて、うつ・うつ・躁・うつとか、うつ・うつ・うつ・躁・うつ・うつみたいなパターンもあって、必ずしも一対一ではないです。
どちらかというとほとんどうつですね。

ほとんどうつが多いので、うつ病だと思っている人も多いです。
自分がうつ病だと思っていることも多いし、実際臨床していてもうつ病と誤診されていることが多いです。

うつ病だけだったら自殺率はそこまで高くないんですよね。なぜかと言うと動けないんですね。
うつのときは調子が悪すぎて、うつだけなら動けないんだけれども、やっぱりちょっと元気になって急激に悪化する時のこの落差に死にたくなって、動けてしまうから、自殺になってしまう、自殺を達成してしまうことが多かったりします。

あと躁うつの人は、何となく連続性が保たれにくいんですよね。だ
自分がうつだった時の記憶とか躁状態だった時の記憶は何となくおぼろげにはあるんだけれど、なんかしっくりきていない人が多かったりして、その結果、アドヒアランスが悪いことが多いです。

だから「薬をやめてもいいんじゃないでしょうか」という人が多いです。
あなたあんなに苦しんでたし、入院までしたじゃないかと思うんだけれども、それなのに何でやめたいんだろうみたいな気がするんだけど、「いや、やめたいんですよね」という人が多いです。

忘れているみたいですね。忘れているというのもちょっと変なんだけども、何か妙に連続性が保たれてないことが多いです。だから薬を止めがちなので気をつけましょうということですけれど、連続性が保たれにくいから、カウンセリングの効果も何かね三角という感じがあります。

本当にうつの時や躁の時は飲み込まれてしまって、カウンセリングとか言語的介入で本人の死生観とか価値観とか生きる意味とかを語り合ったりとかしていって、病的なものを外し、自尊心を高めていく、自己肯定感を増していっても、どこかで病気が悪化してしまうと、そういうことも忘れてしまうことが多かったりします。
だからすごく危険ですね。

あと実際躁の時に、家族や友人と金銭トラブルを作ってしまうことが多いんですよ。
躁状態の時に誰かと喧嘩してしまう、自信満々になってしまって女遊びをしてしまう、自信満々になって高額な買い物をしてしまう、暴力事件を起こしてしまうことがあって、取り返しのつかないことを起こすこともあるんですね。

その結果、うつの時に「あんなことをしてしまった、もうダメなんだ」と思って、「もう生きていけないんじゃないか」と思って事故になることも多かったりします。
だから躁状態は危険だし、軽躁状態、ちょっと元気なくらいで維持したいんですよと言うかもしれないけれども、ここからもうちょっと上がると大きな事故に繋がってしまって、それが取り返しのつかないことになったりするので、やっぱり危険ですね。
だからきちんと治療をするとか、本人には「低め安定にしましょうよ」みたいな言い方をすることが多いです。

あと、双極性障害の人は合併症も多かったりします。
双極性障害だけじゃなくて、アルコール依存症、ギャンブル依存症、買い物依存症、パーソナリティー症など精神疾患の合併症も多くて、精神疾患の合併が多いからこそ、生きづらいから自殺したい、死にたいと思う人も多かったりします。

あとは自然死のリスクですね。やっぱり負担が大きいみたいですね。
心疾患、慢性疾患、糖尿病のリスクが結構高かったりします。身体の方にもダメージが大きいっていうのも結構あるなという感じです。

■人生を悟っているかのような

双極性障害の人の性格の特徴というか、一緒に話したりしていく中で、なんかすごく深い理解というか何か人生を深く悟っているかのような感じがあります。
僕らよりもはるか遠くを見ているというか、遠くのものを知っているような雰囲気というのがあります。
それはアップダウンが激しかったりとか、躁状態の時ってすごく賢くなるので、IQが跳ね上がる。
そういう時に考えたりとか感じたこととかたくさんあるのでしょうね。

その結果、僕みたいな凡才には到達できないというか、はかり知れないようなものが見えている時もあります。
だから何か「人生なんてなあ」みたいな言い方をしたりとか、僕らの言葉、凡人の言葉が届かないこともあるのかなとか思ったりします。

でも、まあそういう人だからこそ影響力がすごくあるんですよね。他の人への影響力があるので、きちんと理解してもらいたいなと思います。
本人が思っている以上に、本人が他の人に与える影響力はあって、良い面でも悪い面でもあって、誰かの人生に色々な影響を与えているのが双極性障害の人の特徴ですね。

だから、その人たちがやる色々な行動とか自分を傷つける行動というのは、誰かに悪影響を与えたりもするので、頑張ってもらいたいなというのは思います。
弱い自分をさらけ出す勇気を持ってもらいたいなとは思います。

だから、双極性障害の人は躁状態の時の自分を知っているが故に、うつの時の自分のことをすごく情けないと思っちゃうみたいな。
落差の結果、情けなくはないんだけども、それは人間の美しさだったり、人間らしさなんだけども、どうもそうは思えないみたいで、この状態にいる人だけが生きる価値があると思っている時もあります。

「じゃあ僕は躁転しなくて、僕みたいな凡人は生きている価値ないんですか」とか患者さんに聞くことがありますけど、「益田先生は生きる価値ないかもしれませんね」とか躁状態の時はそこまで言われたりしますからね。
「益田先生ごときだと本当にいらないんじゃないかなと僕は本気で思いますよ」みたいなことも言ったりするんで、それぐらい言えちゃう。
そういう状態まで思考がなってしまうなら、確かにうつの状態になっているとすごく苦しいだろうなと思いますね。

■病気がわかりにくい

双極性障害の人は、結構病気が重くなることが多いんですよ。だから、統合失調症の人みたいに働けなくなる。
結果的に働けない人っていうのはたくさんいます。
障害年金とか手帳とか生活保護のお世話になる人はたくさんいます。

あと、統合失調症の人やうつ病の人よりもわかりにくいんだよね。
統合失調症の人であれば、幻覚妄想があったり、この人は病気なんだというのがわかりやすいんですけど、双極性障害の人はなかなかわかりにくいんですよ。
その結果、周囲の無理解に苦しむことも多いですね。
結構気にするし傷つく人も多いです。

僕らも臨床していて思うんですけど、双極性障害の激しいものはわかるんだけど、双極II型の人はやっぱり見逃すことがありますね。
1年とか2年通院していて、ようやく「あれって躁状態だったんだ」とか思ったりします。
なんかすごく性格悪いなとか、急にいじわるなこと言うなとか、あの人の本性ってこうだったのかなとか。

でも実際そうではなくて、そう思った時は絶対に躁うつを疑った方が良くて、「いやいや、そんなことないな」みたいなね。
やっぱり精神科に通院する人は苦しいから来るんだよね、益田に悪口を言いたいから来るわけじゃなくて。
そういう人もいるかもしれない、そう思う時はあるかもしれないけれども、基本的には藁をもすがる思いで来ているんですよね。恥も承知で、藁をもすがる思いで来ているので、そういう人たちなわけですよ。

そういう人たちが何かそうじゃない行動を取った時というのは必ず裏があるはずなので、その裏は何かと言った時にはやっぱり特に躁うつが隠れてることは多いなと思います。

だからなんかね、僕も言葉が足りなかったり不親切に見えたり、そういう行動をとってしまうことはありますよ。
僕も別に完璧な人間じゃないですから。
でもベースはやっぱり誠実だし、ちゃんとやってるわけですね。

そんな僕が何でここまで言われなきゃいけないんだろうという時があるんですよ。
多少は僕も人間だから失敗はあるけど、ベースはちゃんとやってるしなとか思っている時に、やっぱり常にちゃんとやっているからこそ思うんですけど、「あ、これ躁状態だったんだな」ということに気付くことが多いです。

パーソナリティの問題の時もありますけど、ちゃんとこちらがやっていて、少なくとも確かに不備はあったかもしれないけども、及第点を出せている確証があるのであれば、やっぱりこれは僕らの人格的な問題ではなくて、相手の人格的な問題でもなくて、どちらかというと躁うつの問題だったりすることも多いということです。

これは僕の体感的な理解の話なのであれですけど、そういう風に臨床で何かを判断することはよくあります。まあ、主観的な話なので、話半分で聞いてください。

今回は、双極性障害と『死にたい』、というテーマでお話ししました。


2023.8.27

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