本日は「主治医と治療について建設的な議論をしたい」というテーマでお話ししようと思います。
なかなか診察室でうまく会話ができないとか、言いたいことをなかなか言えずに終わっている、主治医の先生とうまくコミュニケーションがとれていないと仰る患者さんは結構多いみたいですね。
YouTubeのコミュニティで皆さんに質問したんですよね。今、困っていることなんですかとか、主治医の先生に不満を持っていることは何ですかとか質問したんですけれど、そこで一番出たのが建設的な議論をしたいけれどどうやったらいいかわからないという声でした。
これについて動画を撮ってみようかなと思います。
コンテンツ
診察の時間をうまく使えない人の特徴
よく診察室で困るというか、時間をうまく使えない患者さんの特徴としてはですね。
身体の困りごとばかり喋る人がいるんですね。
5分+αの持ち時間、再診はそれぐらいですけど、時間があるのに、「何か気持ちが落ち込んでいて、何かしくしく落ち込むんですよね。頭はチクチク痛い感じがして、耳鳴りがモアモアするんです。それが昨日の話で、今日はなんか朝方に足の親指がピクピクして」みたいなことを言う人がいるんですよね。
確かに、精神医学のことや心身医学のことを知らないと、体の細かい変化も知るべきなんじゃないか、医師は知った上で判断しているんじゃないか、行動してるんじゃないかと思われがちですけど、意外とそんなことはないんですよ。
ストレスによる身体の細かい変化というのは、人によって多種多様なので、そういうところはあまり注目していません。
もちろん、大きな特徴やひどい頭痛、突然の頭痛、今までなかった頭痛だったりすると僕らもしっかり聞いたりとか、センサーがピピッっと動くんですけれど、患者さんが考えている伝えなきゃいけないと思っている情報というのは、医師にとってはさほど重要度が高くないことも多いです。
全ての困り事を共有する
建設的な議論をする上で重要なことは何かというと、身体の困り事だけじゃなくて、ストレスの原因になりそうな全ての困り事を共有するということなんです。
プライベートの話もしなきゃいけないんですよね。夫婦仲はどうなんだとか、旦那と喧嘩したのかしてないのか。
親子関係はどうだったのか。最近、親から酷いことを言われたとか、兄弟と遺産相続でもめているとか、言いたくないこともあると思いますけれども、全てを共有する必要があります。
性的な被害に遭ったとかもね。
無意識の次元も含めて共有しなければいけないので、つまり自分ではストレスを感じていないなと思っていても、実はそれがあなたのストレスですよねということもあるわけですよ。
例えば、幼少期にいじめられていたこととか、今はもう関係ないと自分では抑圧している、思い出さないように押し込めていることが、実はその傷が今にも影響していたりするので、全ての困り事を共有するということを覚えておいてください。
だから身体の困り事だけをしゃべっていても治療はうまくいかないので、言いたくないと思いますけど、自分の本当の心のこと、心の中で扱わなきゃいけないことを話すことは大事です。
心理的抵抗はあると思うけれども、話す必要がありますね。
言いたくないと思うけれど、言うことが治療になっていきます。
ただ共有すると言っても、いつするかもポイントですよね。
例えば、うつがひどい時とか治療が始まった当初から実はこういうこともありまして、こういうこともありましてと言うと、どんどん病状が悪化しちゃうんですよ。
パンドラの箱を開くみたいな形でどんどん問題が出てきてしまいますから、それは治療が進むにつれて、玉ねぎの薄皮をめくるように少しずつはいでいかなきゃいけない。
抵抗はしちゃいけないんだけれども、主治医とリズム、ステップ、ペースを合わせながらすべての困り事を共有していく。そして自分のストレスは何なのか、どういうストレスを感じやすいのかを一緒に探求していくことが必要だったりします。
建設的な議論をするためには、こういう困り事を共有する必要がある。
だけれども順番があるよということですね。
どういう風に話をしていくのか
どういう風に話をしていくのかということですが、本当に建設的な議論をした時に医者はどういう言葉を返すのかと言うと、「うんなるほど、あなたの話を聞いてよく分かりました。今、あなたは自分では気づいていないかもしれないけども、疲労度はこれくらい溜まってますよ。だからこの2、3ヶ月くらいはちょっと調子悪いかもしれないですね。うつの症状が遷延してるので、あと1、2ヶ月くらいは楽しめないかもしれない。趣味を楽しめないかもしれないけど、何とか粘ってください」とかそう言ったりしますね。
脳の疲労は自分で気づきにくい、測定しにくいので、どれぐらい疲労がたまっているかというのは、医師の長年の臨床的な勘でしか測定しにくかったりします。
こういう話を聞いて、そうすると「なるほどな、益田も言うとおりそうかもしれないな。1、2ヶ月はちょっと辛抱してみるか」と思ったり、「益田は全然わかってないな、私はさっきご飯を食べ過ぎたから気持ち悪いだけなのに、それを心の問題だと思っている、しめしめ」と思っているかもしれないしわからないですけど。
あなたの今の問題点や課題はこういうことなんですねとか、夫婦の問題ですねとか、夫婦の問題をどうしていくのか考えていく必要がありますね、旦那さんの理解が深まるのを待ちましょうかねとか、理解がなかなか深まらないですね、深まらないのであれば、あなたは今後の5年10年かけて旦那さんが理解してくれるのを待つのか、それとも離婚するのか決断をしなきゃいけないですねとか。
あなたの発達障害の問題があるから、片付けがなかなかできないかもしれないですね、少しずつトレーニングはしていくんだけれども、一方で受容も必要ですよね、完璧主義じゃいけませんよねとか。
そういう風に問題を整理整頓して、それが受容していく問題なのか、それとも解決可能な問題なのかを一緒に考えていくのも重要ですね。
その上で、世界観のゆがみ、いわゆる認知のゆがみですね。
認知の歪みも指摘してもらうといいと思います。
この世界観だと生きているのがつらいですよね。あなたのように白黒思考で生きている世界観だと、何事も白か黒かしかない、敵か味方しかないだと、同じように生活していても、同じようなトラブルに遭ってもストレスの受け方が大きいと思いますよ。
だから白黒じゃない見方をしましょう、中間を受け入れましょう、妥協を受け入れましょう、完璧主義をやめましょう。そういう世界観を変えていく必要がありますよね、みたいなことも指摘したり確認したりします。
その上で、あなたの宿題としてはマインドフルネス、瞑想する時間を作りましょうとか、認知行動療法的な宿題、ワークブックを渡して日記をつけてきてくださいとか、認知行動療法的なアプローチで今週1週間の困り事を2つ以上ワークで書き起こしてくださいとかやったり、あとは規則正しい生活をしてください、お酒を飲むのを控えてくださいとか、そういう言い方をします。
あとは今抱えている現実的な問題や課題について、こういうことをやってみましょうとか、人付き合いが苦手なので、今週は就労支援について調べてみましょう、来週は就労支援に体験入学してみましょうとかね、そういうワークかもしれないし色々あります。
こういうことまで話が進むと、治療としては建設的かなという気はします。
でもね、こんなの言われたくないと思いますよ、患者さん。
毎回毎回こんなことを言われたらすごいプレッシャーだし、すごい嫌な気持ちになると思いますよね。
ただ薬くれるだけでいいよとか、今日はちょっと勘弁してよとか、こんな熱いアプローチを毎回されたらきついと思うので、実際の臨床ではこういうことを毎回言うということはないだろうなと思います。
精神科の治療とは
結局、精神科の治療は何なのかと言った時に、まず混沌としているんですよね。皆さん頭の中というのは。
言いたくても言えないと思うんですよ。
人の心とは何かとか、人間関係とは何かとか、社会とは何か、生きるとは何か、不安とは何か、そういうものは目に見えないし、形になってないものですよね。
どう扱ったらいいかわからないし、どう表現したらいいかもわからないんですよね。
それを目に見える形にするには、言語化してあげなければいけないんですよね。
言語化するためには何が必要かというと、知識なんですよ。
知識は押し付けられている感じがするし、自分たちは自由に考えたいし、自由に表現したいかもしれない。
自分の気持ちを自由に表現し、それを主治医の先生や家族や親に理解してほしいかもしれないけど、現実的にはなかなかそれは難しいです。
未知なるものを言語化していく力は皆にあるわけじゃないし、受け取る側だってそんなに言語能力が高いわけじゃないですから、それは難しいです。
結局、混沌としたものを可視化していく、整理するためには、知識やフレームが必要です。
既存の知識や既存のフレームに自分を落とし込んでいく作業がどうしても必要です。
それは心の問題だけじゃなくて、社会人になっていく時もそうですよね。
何かに溶け込んでいく時には、自分を抑圧して社会のルールを受け入れなければいけないように、心の問題を解決していく時にも、過去の天才たち先人たち、哲学者、宗教者、思想家、いろんな人が考えたものや医学で使われている言葉を学んで、それを自分の中に落とし込んでフレームにしていく必要があります。
それを自分でもやっていかなければいけないし、医師の力も借りなければいけない。
その上で問題が整理された上で、自分らしく生きる次の目標を探すことが重要だったりします。
これを「主観2.0」と言ったりします。
どんな物事もそうですね。「守破離」と言ったりしますが。
混沌としているので、目に見えないものを扱っていますから。
混沌としているものを扱うには、目に見える形にする。目に見える形にするためには、自分で何かをゼロ・イチで作るのではなく、既存の知識やフレームをうまく応用してあげる。
そのためには自分もきちんと学んでいくことが重要だったりします。
主治医と治療について建設的な議論をするためには、心理的抵抗を取りつつ、しっかり自分でオープン喋る。その上で自分も知識を身につけていくことがとても重要だということになりますね。
こういう話をすると、じゃあ知識をつけられる力によって治り方が早い遅いがあるんですかとか、全ての人がそんなに学べるんですか、という話になると思います。
そうなんだよね。そうなってくるんですよ。今度はその問題にぶつかります。
発達障害の人はきちんと学べるんですかとか、精神発達遅滞の人は学べるんですかという話になってくるので、今度は既存の知識をそういう人が学びやすいように、カスタマイズした知識を扱うことになってくる。
既存の知識を彼らに合わせてカスタマイズしたものを作れるのが専門家だったりする、ということになっていきます。
今回は、主治医と治療について建設的な議論をしたい、というテーマでお話ししました。
前向きになる考え方
2023.9.9