精神科の病名はややこしいので、診察室で「この病名は何ですか?」と聞かれたときにどう答えているかお話しようと思います。あくまで、診察室で患者さんにわかりやすいようにアレンジして伝えているものとして見てください。
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うつ状態
初めてクリニックに来る人は、うつ状態で来られる人や自律神経系の乱れが主訴の人が多いです。
「うつ状態」というのは簡単に言うと落ち込んで気力が出ない状態です。もう少し正確に言うと、不安で焦燥感がある状態です。
うつ状態は脳の病気が原因のこともあります。その場合は「うつ病」や「躁うつ病」と言ったりします。うつ病の場合は中高年発症が多く、躁うつ病の場合は10代〜20代で発症しますが中高年で見つかることも多いです。
体の病気が原因でうつになるのは「甲状腺機能低下症」です。甲状腺には元気を出すホルモンがあるのですが、その機能が落ちることでうつになることがあります。甲状腺機能低下症の場合は他に乾燥、むくみ、冷えなどもあり、中高年女性の発症が多いです。そういったことから鑑別します。
よく僕は「適応障害」と言いますが、パワハラや残業時間、業務内容などのストレスが原因でうつになっている場合に適応障害と診断したりします。
「適応障害」と「うつ病」の診断の区別
「適応障害」と「うつ病」の診断の区別はどうやっているのかと思われると思います。うつ病であっても直前にすごくストレスの掛かることが起こっていると思います。ややこしいのですが、適応障害は原因が取り除かれればうつが良くなるものですし、うつ病はうつ病エピソードを繰り返すのが特徴です。区別しなくても良いという派もあれば、した方が良いという派もあります。
「自律神経失調症」と「パニック障害」
ストレスが原因で自律神経の乱れ、動悸やめまいがする時は「自律神経失調症」と言ったりします。
動悸やめまいがあまりに酷くて発作になってしまう場合は「パニック障害」になります。パニック障害の場合は、パニック発作・広場恐怖・予期不安の3つの症状があります。この辺りも結構似ています。
自律神経失調症の重いものがパニック障害だと言って逃げることもあるのですが、重なる部分も多いです。
「適応障害」と「パニック障害」
適応障害とパニック障害が並存することもあります。もちろん、うつ病の人がパニック障害になったり、躁うつ病の人がパニック障害になることもあります。甲状腺機能低下症の人がパニック障害を併発することもよくあります。
ただ、基本的に医療の世界では合併症は少ないと考えて診断することが多く、1つの病名でまとめることが多いです。
職場のストレスでうつになり、時々発作のような動悸や過呼吸がある場合、パニック障害と診断して休職の診断書を書くこともあれば、適応障害と書くこともあります。僕の場合は適応障害と書くことが多いです。
二次障害としてのうつ状態とは何か
それから、よく聞かれるのは「二次障害としてのうつ状態とは何か」ということです。
例えば、不安を感じやすい不安障害の人がストレスを感じてうつ状態になった時、それをうつ病と言うのかというとまた少し違います。発達障害(ADHD/ASD)の人が職場でストレスを感じて、不適応になりうつ状態になった場合は、発達障害からの二次障害からのうつ状態と捉え、診断書に適応障害と書くこともあります。
人格障害の人がストレスを感じてうつ状態になることもありますし、依存症の人がストレスでうつ状態になってしまうこともあります。依存症からの二次障害としてのうつ状態と言ったりします。ただ、本当にうつ病を発症することもあります。
トラウマや虐待の問題がある人がストレスを感じてうつ状態なることがあります。
うつ病、躁うつ病は人口の1〜2%くらいは発症する病気ですが、もともと病気がある人がうつ病や躁うつ病を発症する確率は、体感としては5倍くらいあります。教科書や論文によって捉え方は違いますが、ベースに問題があると脳病としてのうつ病や躁うつ病は発症しやすくなります。
精神科の場合は病歴も大事
以上のようなことから、精神科の場合は病名だけでなく病歴もすごく大事で、紹介状も大事だったりします。その医者がその時にどういう判断をしてどのような薬を投与したかということも大事です。
そう考えていくと精神科は曖昧な部分も結構あり、だからこそ病名にこだわるのではなく、ストーリーやドラマを重視する側面はあります。
ただ、薬の使い方は病名にこだわります。適応障害と診断している時も、年齢的に好発年齢であればうつ病を疑って抗うつ薬を出すこともあります。作用、副作用、その人の環境に応じて薬を調整しています。
診察室ではいつもこんな感じで説明しています。