今日は「しなやかな思考」について解説します。
診察室でこんなことを言われたことはありませんか?
「○○さん、頭が固いからね」
「こういう見方もできるよ」
「白黒思考じゃだめだよ」
「しなやかに考えなきゃだめだよ」
流動的に考えられる、1つではなくさまざまな視点に立つことができることを「しなやかな思考」と言います。
治療ではこれを目指すのですが、気をつけたからすぐそうなるというものではありません。目指していく「理想目標」ですので、少しずつそちらに近づけていきます。しなやかな思考になる修行をしていくようなものです。
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しなやかな思考
・固くなく、流動的
・ひとつではなく、様々な視点
これはつまり「合理的な考え方」と言うことができます。科学やビジネスの世界に似ているロジカルな考え方です。
ですが、すごくロジカルで、ディスカッションが上手く、相手を言い負かすのが上手い人を、しなやかな思考の持ち主とは言わないですよね?
・飄々として理屈っぽくない
・世界を信頼し、愛情豊か
しなやかな思考、しなやかな思考を持った人というのは、合理的なことに加えてどこか飄々とした感じや理屈っぽすぎない。情緒面も重視して、立場としては世界を信頼していて愛情豊かな感じがあると思います。
「世界を信頼する」というのがわかりにくいかもしれませんが、「明日死ぬことはないよな」「自分は大丈夫だろう」「仕事がなくなったとしたって別に大丈夫だろう」「誰かが助けてくれるだろう」と思えるということです。
愛情豊かなので、怒りや敵対心を向ける、上手く生き抜いてやる、合理的に考えてサバイブしてやる、といったことはなく、他者に対する愛情がきちんとあります。
そして、他者のみならず日常の中にある様々なものに注意を払え、そこにある美を見出して行けるのが「しなやかさ」なのではないかと僕は思います。
つまり、しなやかな思考と言った時には、思考のロジカルさだけではなくある種の「美意識」や「価値観」も含んでいるのです。
美意識、価値観
固くなく流動的と言った時に「水のイメージ」を思い出すと思いますが、そこには美意識がありますよね。
これはすごく大事で、理屈だけで人を治すことはできません。人を動かすこともできません。それは精神医学の初期からわかっていたことです。
フロイトは無意識を発見したときに、無意識を発見して「解釈」をするようになりました。患者さんに「あなたは今こうですよ」「口ではこう言っているけれど、本心はこうですよ」と言い当てたりするのですが、それだけでは患者さんは治りません。「転移」の解釈が重要だとフロイトは言います。
患者さんとの「関係性」の中で、相手が情緒的な理解をしていくように言葉を投げかけることが重要だと言っているのです。
ですから、「しなやかな思考を持ちなさい」というときは、ある種の美意識も伝えなければいけないと僕は思います。
ただ、それが押し付けがましかったり、僕自身の価値観をぶつけていくのは違います。
それだと相手の成長がないですし、窮屈に感じてしまって、それこそ美意識がないということになってしまいますからね。
日本的美意識とは何か?
・甘え、疾病利得
・生きている意味がない?
美意識について僕はよく考えるのですが、「世界を信頼し、愛情豊か」というのは、患者さんの「甘え」や「疾病利得」を許すのかというと、そういうものではありません。
合理的で、しかし美意識がないものの例としては、「自殺するのは自分の自由でしょ」「生きている意味なんてないでしょ」「私なんてお金を稼げないじゃないか」という話です。
「稼げているかもしれないけど、これっぽっちの金額しか稼げていない」「誰も自分のことを認めてくれない」「親より稼ぐことができない」などいろいろ言います。
そして、「こういうロジックで言うと、私の無価値さは誰も否定できないでしょ」ということを用意してくる人もいます。それはしなやかではありません。
そこで僕が「こういう見方もできるんじゃない?」と言うと、その3倍くらいのスピードで反論できたりします。
それはしなやかではなく、ただ言い負かそうとしているだけで、何か美意識を感じません。
甘えや疾病利得などの低い水準の美意識・ロジカルさではなく、もう1つ上の段階で考えていくにはどうしたら良いのだろうと最近考えているのですが、それは海外の最先端の理論から学んでいくだけなのかというと、僕は違うと思います。
美意識や価値観というのはその人が生きている日常や、生まれ持った価値観、地域の文化から出来上がっているので、日本人ならば日本的な美意識を意識しなければあまり意味がないと思います。
海外で生活してそこのカルチャーを学び、それをそのまま日本に持ってきてもすぐには受け入れられないですし、日本化しないと受け入れられないものです。どんなに美味しいフランス料理でも目新しいだけなら馴染まないわけです。
では日本的な美意識は何なのかというと、例えば「幽玄の美」や「侘の美」です。
これは時間のうつろい、四季のうつろいといったことです。
僕はそこに今、課題意識が向いています。
僕らは時間のうつろいの中で、永遠に生きていくことはできません。
そういう「無常感」を日本人は持っていると思います。無常感を精神分析的に考えるとマゾヒスティックで倒錯的な快感ですが、そのような倒錯的なものではなく、僕らが持っている無常感はもっとしみじみとした「まあいいか」というような気持ちの良いものです。
そこをもう少し臨床の中で活かせたらと最近思っています。
患者さんは決して強くはなく、弱いからこそ合理的に考え、知恵を絞る必要があります。権威などではなく、本当に実践的に有効なものを追い求める必要があります。ですが、伸びしろ的なものもあり結局は勝てないところがあります 。そのような中で、美意識を持てるというのはすごく重要なのではないかと思います。
ですので、日本的な美を学ぶとか、無常感、諦観を体に覚え込ませていくことは重要なのではないかと思います。
日本のカルチャーは日常の中できちんと修行をしていくという特徴があると思います。
このYouTubeも毎日やる、「よくわからないけど、毎日見る」というのが重要なのだと思います。そうすると僕と一緒に学びながら、理想目標に到達はできなくとも近づいてはいけるのではないかと思います。
そういうことを、季節のうつろいの中で一緒に考えていけたらと思います。
★noteでも書いています。「しなやかな思考とは」
https://note.com/wasedamental/n/n8e18aff65c69
前向きになる考え方
2021.6.7