今日は「困っていないように見える発達障害(ASD/ADHD)」というテーマでお話しします。
ASD(自閉スペクトラム症)は、人の気持ちを汲み取りにくい、こだわりが強い、マルチタスクが苦手、感覚過敏などの特性がある疾患です。
ADHD(注意欠如・多動症)は、不注意、多動性、衝動性、そそっかしいなどの特性がある疾患です。
この2つは別々の疾患ですが、合併していることが多いです。
ASDと診断されているけれどADHDのような不注意がある、ADHDと診断されているけれどASDのようにマルチタスクが苦手、人の気持ちを読み取れないといったことはよくあります。
ですから、今回は2つをまとめて「発達障害」としてお話ししていきます
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家族から言われること
発達障害の治療をしていく中で、家族やパートナーからこのように言われることがあります。
・何度言っても同じミスを直さない
・気にしていない、空返事
・何度も言うと怒ってゲームをし始める
家族は困っているのですが、本人は「へへっ」と笑っている?ということがあります。
「この人は困っていないんですよ、だから直そうとしないんです」とパートナーの方は言いますが、それはちょっと違います。困っています。
表情に出ていないだけです。
発達障害の人の特徴として、困った時ほど困った表情ができない、というものがあります(後述するように調子が悪い時ほど、感情を扱う力が弱くなるため)。
同じミスを指摘したからといって、直せません。
そもそも発達障害は特定の物事がものすごく苦手、できない、という障害であり、気をつけてもできないのです。
ASDの特徴である興味の限定性から、気にしていないかもしれない可能性はあります。
何度も言われると本人もよくわからなくなって混乱し、ゲームの世界(自閉の世界)に行かないと落ち着かないということがあります。
僕らか見ると「そうだろうな」と思うのですが、発達障害の知識がない人からすると「何なのコレ?」となります。
本人も困っているのですが、困っていることが本人でさえよくわかっていないケースがよくあります。
ストレスによって分断されていく
「問題が起こり→気持ちの落ち込みがあり→解決策(トライ&エラー)を探る」という一連の流れがあります。
発達障害の人はもともとこのような統合していく力が弱いのですが、そこにストレスがかかるとより分断されています。
何の問題が起きているのかもよくわからない、自分が落ち込んでいることもわからない、患者さんは「なんだかよくわからないけれど、私は落ち込んでいます」「なんだかよくわからないけれど、イライラしているんです」と言ったりします。
このように「気持ち」の部分だけを語ったりするのですが、きちんと病歴を取っていくと、「うつ病ではなくて、そもそもこのような問題があるから落ち込んでいるんですよね。だからうつ病ではなく適応障害なのではないですか(原因がはっきりしている)。でも適応障害の背景にはあなたの発達障害の問題があるのではないのですか」と言い直すことができます。
そうすると患者さんにも思い当たることがあるようです。初回の診察ではそこまで話されませんが、何回か回を重ねていくと患者さんが「先生に言われて考え直してみたのですが…」と過去のことをいろいろ話したりします。
分断されているのですぐに繋がることはなく、こちらの言葉は流されることが多いのですが、繰り返し言っていくうちに繋がってきます。
女性脳<男性脳(気持ち<屁理屈)
相手への共感や自分への労わりなどいわゆる女性脳の機能は落ちていきます。それよりも男性脳、いわゆるロジカルな部分がASDや発達障害の人は基本的に強いのですが、ストレスなどの問題によってその特徴がますます強まります。
落ち込んですごく傷ついていると、本来ならば慰めてほしいし気持ちに寄り添ってほしいものですが、そのような時ほど気持ちに寄り添うよりも「解決策」を言ってほしくなるようです。
カサンドラ症候群
では発達障害の人だけの問題かというと、パートナーである奥さん、彼女さんなどの問題があると思います。
定型発達の人も非定型発達の人の気持ちがわかっていません。
相手が混乱しているから分断されている(問題と気持ちがくっつかなくなっている)ということがわかっていませんし、普通は気持ちに寄り添ってほしいような場面でも解決策をほしがっていることがわかりません。
「こういう時は発達障害の人はこうなんですよ」と僕が言ったとしても「だって普通は気持ちに寄り添ってほしいでしょ?」とカサンドラの人はだいたい言います。
その後に、「益田先生は変わっているから信用できませんね」と言われたりします。半分くらいは信じてほしいのですが…。
信じない、だからこそ自分の思いで相手と付き合っている、というのもカサンドラの特徴なのかなという気はります。
治療
発達障害の人は相談できる環境や習慣をきちんと作ることが必要です。
あなたが困っていることを一人で解決するのではなく、複数の脳で解決していった方が良いということをきちんと説明して身につけていってもらいます。
抽象的な話よりも具体的な話をした方が理解がしやすいので、具体的な話をしていきます。
しつこいくらい共感をしていくことも重要です。
繰り返し共感し、こちらが相手の気持ちと問題をくっつけていくことをやっていくと、ミラーニューロンの働きが弱いと言えども無意識的に吸収して真似していくようになるので、自分の気持ちに気づくようになります。
僕らが気持ちに気付いて翻訳していく作業は重要です。
パートナーの人が気持ちに寄り添ってもその文脈だと通じにくかったりするので、文脈を変えて気持ちに共感することがとても重要です。
カサンドラの人はどうすれば良いのか
・孤独からの回復
あなたが悩んでいる気持ちはよくわかります、寂しい思いをしてきたんですよねなど共感をしていきます。
パートナーの人が孤軍奮闘してきた歴史はよくわかりますし、ついつい益田に怒りたくなる気持ちもわかります。
・チームを作る
結婚しているのであれば義両親を巻き込む、自助団体に参加することも良いと思います。
義両親が味方になってくれるケースもあればそうでないケースも結構ありますので、簡単には行かないこともよくあります。
夫婦のことを友達に相談するのも難しいですし、相談したところで理解してくれなかったりします。
そういったことで孤独になりやすいのですが、だからといってチームを作れないことはないのでそれぞれのケースに合わせてチームの作り方を考えていきます。
・ASD/ADHDの理解
発達障害の理解も重要です。
それに加えて、パートナー本人の価値観(自分の価値観)を理解していくことも重要です。
何度も言うようですが、治療の基本はこちらです。
・しなやかな思考
・不安の向き合い方
・世界を信頼する
時間をかければ少しずつ変わっていきます。
今回は、困っていないように見える発達障害というテーマでお話ししました。
【参考】
野波ツナ 著「アスペルガー症候群とのつきあい方」(コスミック出版 2018年)
広沢正孝 著「成人の高機能広汎性発達障害とアスペルガー症候群」(医学書院 2010年)
カプラン「臨床精神医学テキスト 第3版」
発達障害
2021.7.31