今日は「発達障害(グレーゾーン)を家族から指摘しても良い?」というテーマでお話しします。
結論から言うと、病名を指摘する、病名から会話をしていくことはあまり良くありません。
本人が怒ってしまったり、トラブルが多くなると思います。
それよりも、今本人が困っていることや本人が困っていなくても周りが困っていることなど、「具体的なものを共有する」ところからスタートしていくのが良いと思います。
今回はご家族からこのようなご質問がありましたので動画にします。
コンテンツ
病名を伝えない理由
なぜ家族から病名を伝えない方が良いのか、思いつく理由を挙げました。
・正しくない。Drによっても違うぐらい、デリケート
まず病名が正しくない可能性があります。
ご家族が発達障害だと思っても、それが正しくない可能性があります。医師でない限り診断は難しいのです。
また、精神科では医師によっても診断がバラバラだったりするほどデリケートな事項なので、病名を伝えるということは家族がする必要はないと思います。
・病気の程度は様々→誤解
病気の程度は様々です。家族から「発達障害なのではないか」と言われて、いざ本人がネットにある発達障害の記事を読むと、記事によって内容が重かったり軽かったりするので、患者さんによっては重い方の記事だけを読んで「俺はもうダメなんだ」とショックを受けてしまうこともあります。
病気の説明というのは非常にデリケートです。僕もYouTubeで情報発信をしていますが、診察の場では基本の動画に加えて、その人ごとにアレンジを加えて説明しています。
誤解があったりもするので、ダイレクトには扱わない方が良いかと思います。
本人が気になって調べたり、前提知識として知ることは良いと思いますが、家族から教えるのはあまり勧めません。
・ショック→悲嘆or怒り
言われたショックから悲しくなったり、怒りに変わったりといろいろなパターンがあります。
・知識<解決訓練
病名を伝えたり病名を決めるということは、治療的ではありません。
病名を伝えることで解ることも増えると言いますが、治療全体から見るとその効果は5%にも満たないと思っています。
診断をしっかり伝えたから患者さんが良くなったという経験は僕はあまりありません。特に発達障害の場合はそうです。
これがパニック障害であれば、動悸がしたりするのは病気のせいだと伝えるとほっとする、未知なる疾患ではなくよくある病気だと伝えるとほっとすることはあります。
うつ病の場合も、これは治る病気だと伝えるとほっとするということはあります。
発達障害の場合は、知識を得ることで最初は「自分は甘えているのではないんだ」とほっとするのですが、そこから治療的に加速するということはありません。
大事なのは、「解決訓練を一緒にする」ということです。
ですから、家族から知識を伝えるのではなく、解決訓練を一緒にするということを重視した方が良いと思います。
経験から学び成長する力が弱い
そもそも発達障害の人は、経験から学び成長するということが苦手です。
自分の経験もそうですし、他人の経験を利用する「僕はこんなことがあったからお前も気をつけなよ」とか、本から学習したことを擬似経験として応用し、学んで成長するという力が弱いのです。
ですから、「病名」をヒントにパッと目が開いて治療がトントンと進むということはほとんどありません。どちらかというと、ショックを受けて悲しくなったり、治療が停滞してしまうことの方が多いのではないかと思います。
一時的には病名がついて安心するかもしれませんが、そのようなことは長続きしません。
例えるならば、一緒に魚釣りをしましょうよということです。
魚を与えるのでもなく、魚の知識を教えるのでもなく、魚釣りのやり方を教えて「後は頑張って練習しろよ」と言うのでもなく、一緒に釣り続けます。
そのような営みの中でだんだん覚えていくということを意識するようにします。
家族がそこまでできない場合は、就労支援を使う、デイケアに通う、SST(生活技能訓練)やカウンセリングを使うことなどをしていきます。
とにかく知識を押し付けるのではなく、一緒にトレーニングをしていくことが重要です。
私の問題かも…
もう一つ大事な事は、そもそも「私の問題かもしれない」ということです。
「あの人はわかってくれない」
「あの子はわかってくれない」
というのは、こちら側の過度な要求ということもあります。
自称、カサンドラ症候群のような人もいます。
そのような場合もあるので、あまり言うよりは慎重に扱ったほうが良いと思います。
このようなパターンも結構多いです。
奥さんに「あなたは発達障害だから病院に行ってと言われて渋々来ました」という患者さんは、うちのクリニックにも結構います。
確かにその人の素朴さ、人付き合いの苦手さはありますが、そんなに問題なのか?と思うこともあります。
一方で、初診の時に問題ないと思っても、2回目、3回目と通うにつれて「やっぱり問題がたくさんあるな、奥さんの言う通りだった」ということもありますのでなんとも言えないですが。
とはいえ、相手の問題だと押し付けるのではなく、自分にも問題があるかもしれないと考える必要もあるので、病名を伝えるのは慎重になった方が良いと思います。
とにかく、病名ではなく「困りごとの共有」からスタートするのが良いと思います。
発達障害
2021.10.21