今日は「母親の世話をする子供~大人になってから」というテーマでお話しします。
以前にもこのテーマで動画を撮りましたが、半年ほど経ちましたのでもう一度撮ろうと思います。
ヤングケアラーの話はコメント欄にもすごくあります。この動画はそちらへのアンサーでもあります。
動画を撮るにあたり本も読み直しました。
澁谷智子・著「ヤングケアラー 介護を担う子ども・若者の現実」(中公新書)
こちらの本からいくつか重要なポイントをあげさせてもらうのと、僕が診療で診ている子供と元ヤングケアラーの人が、どのような形でうつになり通院しているのかという話もします。
実際の親御さんの方も診ていたりするので、そのお話もしようと思います。
コンテンツ
ヤングケアラー
5~6%の子供、もっと多いという話もありますが、そのくらいの子供たちがヤングケアラーに該当すると言われています。
ヤングケアラーとは、「祖父母、親、兄弟の世話をしている子供たち」です。
勉強や遊びの時間を削って家の手伝いをしたりしています。
昔はそんなの普通だった、子供が親の手伝いをするのは普通だ、うちの田舎ではそうなんだと仰る方もいるかもしれませんが、現代においてはそのような子供たちを想定していません。
学校は宿題をやれ、遅刻をするなと言います。
家のことをしている子供たちを想定していないので、学校でうまくいかなくなって落ちこぼれてしまうことがあります。
他の子たちは自分のためにエネルギーを使えるのです。自分のための勉強などにエネルギーを割くことができるのですが、そういうことができない子が多く、困って孤立してしまいます。
こういったことがヤングケアラーの問題としてあがっています。
高齢化社会になので、祖父母の世話をしている子供が多いのかと思ったのですが、実際のところは母親のケアをしている子供たちが多くいます。
本の中では、藤沢市の回答者508名中、母親のケアをしているのが212人、兄弟の世話をしているのが239人とあります。約半数近くが母親のケアをしています。
これからもっと高齢化社会が進むので、高齢のご両親、そこに住むシングルマザーの母、そして子供という構造が増えてくるのではないかと思います。
そうすると、祖父母の世話をする子供たちも増える一方、祖父母の介護で疲れた母の愚痴の聞き役や話し相手にならなければいけない、ヤングケアラーには該当しないけれど、母親のフォローをしなければいけない子供たちがすごく増えるのではないかと思います。
<母親の問題>
・貧困
・離婚
・シングルマザー
・精神疾患
など
子供たちは健気なので、クソババァと怒るよりはむしろ助けてあげたいと思います。
頼られることの満足感・充足感もあり、自分のためにエネルギーを使うよりは、困っている家族を助けてあげたいと言う気持ちでいっぱいになってしまうようです。
でも周りの子供たちは、僕もそうでしたが、自分のことしか考えていません。
自分がいかに良い成績を取るのか、競争に勝つのか、自分の能力を上げていくのか、自分のキャリアをどうするのかといったことしか考えていないのに、自分は母親や家族の平和を考えたりしているという価値観のギャップに苦しんだり、自分はどう生きたら良いのかということに困ってしまいます。
僕もよく児童相談所の人や保健師さんとも話すのですが、どこまで介入したら良いのかわからないとよく言いますし、どこまで介入できるのかというシステム上の問題があったりもします。
また、母親の主治医だから、子供にはここまではできないということもあります。
子供たちの負担をできるだけ減らせるように訪問看護を入れる、祖父母の場合は訪問介護を入れるなど、使える行政サービスを入れることもあります。
ですが結局子供の主治医ではないので、訪問看護の看護師も母親のケアをしながら、子供が疲れているな、子供がいっぱいいっぱいになっているなと横目で見ながらも、どう声をかけて良いか分からない、どう声をかけて良いか分からないし、どこまでして良いのか分からないので非常に困っているということがあります。
学校の先生も気づいているけれど、どうしたら良いかわからないということが多いようです。
実際、子供の頑張りによって維持されている家族なので、そこに対して「あなたは自分の人生を生きたら良いんだよ」と言ってしまうと崩れてしまいます。他人が横槍を入れてぐちゃぐちゃになってもいけません。
子供たちの心があまりわからない状況で何かを入れて、それがかえって悪い刺激になることもあります。
すごく奮闘している子供の場合もあれば、隠れてリストカットをしているけれど病院にはつながっていないケースもあったりして非常に複雑です。
どのように介入すべきかという答えもありませんし、システムもありません。
僕は個人でクリニックをやっていて自分の責任でやれることが多いので、無責任ではなく好きなことを言えますが、訪問看護の方や介護士の方、保健師さんや児相の方はすごく苦しみながらやっていると思います。勤務医の方も病院の立場や上司や部下に挟まれて自由にできないことが多く、大変だなと思います。
答えが本当にないので、どうしたら良いのかと思います。
診察で何を話すのか
ヤングケアラーだった子供が大人になってから通院することもあれば、子供たちと少しは話すこともあります。
・母親はどんな人なのだろう?
・私って何?
・私は何が好き?
・私は何をしたいんだろう?
・「普通」がわからない
といった話に付き合っています。
母親の病気が良くならないのは「私が悪いのではないか」「私がもっと頑張れば良いのではないか」と思っていることが多いので、そこはそんな事はないという話をよくします。
子供たちは大人と違って本当に知識や経験がないので、どのように考えたら良いかが分かりません。
ですから、普通の会話をするだけでも子供たちには役に立つこともあります。
普通の感性で、普通にアドバイスをするだけでも喜ばれることもあります。逆にそれが冷たく感じられることもあるので、気を遣いながら話しています。
大人になってから起きている問題
大人になってからどのような問題が起きているかというと、「共依存関係」で苦しむことが多かったりします。
未熟と成熟のアンバランスさがあるのです。
親のために頑張ってきた子供は、大人になって恋人ができたときに「その人のために尽くさなければ」と思いますし、自分が母親になったときは「子供のために尽くさなければ」と思ってしまいます。
そのように頑張りすぎてしまったり、恋人を選ぶときには弱った人を選んでしまいやすかったり、自分の人生を生きにくい人が多くいます。
逆に自分の人生を生きたいがために人と距離を取り、その孤独を癒すためにアルコール、ギャンブル、買い物、摂食障害などで心を満たそうとして困ってしまうパターンも多いかと思います。
やるべき事としては、「相手を理解すること」と「自分の人生に起きてしまったことを理解すること」が重要です。
家族のために何かしてあげたいという本能、欲望を評価しつつも、それに縛られすぎないように導いてあげる難しさがあります。
本の中では下記の3点が大事だと書かれています。
・ヤングケアラーがケアについて安心して話せる相手と場所を作ること
・家庭でヤングケアラーが担うケアや責任を減らしていくこと
・ヤングケアラーについて社会の意識を高めていくこと
イギリスでは、ボランティアの人が中心になって子供が集まれる場所を作ったり、子供のための外出プログラムやキャンププログラムを作ったりしているそうです。
普通の学校で集めようとすると少数派なのですが、複数の学校から子供たちを集めるとたくさんのニーズが集まりますので、そのようなワークキャンプを作ることも重要かと思います。
ただそれを今の日本でやろうとすると、社会的な偏見やボランティア文化がないなどから、実現困難ではないかと思うので、まずは引き続きこのような形で啓蒙活動をしていくことが重要なのではないかと思います。
今回はヤングケアラーについてお話ししました。
親子問題
2021.11.9