本日は「日中は楽しいのに、夜になると死にたくなる」とはどういうことかを解説します。
よく患者さんは「日中は楽しいけれど、夜になると不安なんです」「夜になると死にたいという気持ちに襲われるのですが、どうしたら良いのでしょうか?」と言います。
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脳の内部活動
人間は、目から(外部から)情報が入らなくても脳は活動しています。
当たり前と言えば当たり前です。
何も見えなくても考え事をしたりできます。でもそれは特殊なのです。
脳は刺激がなくても動き続けている臓器です。
これを「内部活動」と言います。
内部活動の中でどういうことをしているかと言うと、「予測」をしています。
これをデフォルトモードネットワーク(DMN)と言います。
とにかく考えているということです。
考えていることは何かというと、過去の記憶を整理したり、過去の記憶から次はこのようなことが起きるのではないかと予測したりしています。
日中は目の前の情報、友達との会話、行動に集中して嫌なことは考えずに済んでいるのが、夜になると過去の嫌な記憶が呼び起こされ、ぐるぐる考えてしまうから不安になります。
過去の記憶がベースになっている
この活動は「過去の記憶」をベースにしています。
ですから、慣れた結論に行きがちです。
A→B→C→D→Eといつも「E」という嫌な結論に辿り着くとすると、A’から始まってもまた「E」に辿り着きがちです。
一度脳にそのような「跡」が付くと、同じように考えがちです。
「刷り込み効果」のようなものです。
鳥が最初に見た生き物を親だと思い込むように、最初に起きたことが記憶に刻まれてしまい、同じようなことが起きてしまいます。
親子関係がトラウマになっているとしたら、どの人間関係であってもその時の記憶が呼び起こされて、それがベースになってしまうことが結構あります。
最初に食べたラーメンが美味しかったら、「ラーメン二郎って美味しいんだ」と思って「二郎が食べたい」とラーメンを見るたびに思うのですが、最初にラーメン二郎を食べて合わなかったら「やっぱりあれは美味しくないのかな」と思いますよね。
夜になるとぐるぐる思考の中で同じ結論に辿り着きやすいので、思い切って変えることが重要です。
「また嫌なことが起きるのではないか」
↓
「嫌なことは起きない」
と変えるのです。楽しいことを考えるようにします。
そうすると、夜になると条件反射で嫌なことを考えていたのが、楽しいことを考えられるようになっていきます。
不安の連想ゲーム
不安の連想ゲームが人間の脳の中で起きます。
例えば職場でパワハラがありすごく嫌な思いをして動悸がした時、職場に行くとその時の記憶が呼び起こされ、職場に行くだけで動悸がするようになる。
職場で動悸がするようになると、今度は駅などで動悸がするようになります。
駅で動悸がするようになると、今度は電車でも動悸がするようになります。
このように恐怖の対象が広がっていくことがあります。
これも記憶のモードと同じなので、「電車は危険ではない」と電車に慣れていく、「駅は危険ではない」と意識することで不安を減らす必要があります。
夜の不安やパニックになる場所もそうですが、感情に身を任せてはダメで、理性である程度コントロールしてあげなければいけません。
「確かに、自分は今不安を感じている」「確かに今、動悸が激しくなっていて嫌な気持ちになっている」「でも大丈夫なんだ。ゆっくり深呼吸しよう」と言い聞かせます。
そうすれば動悸はおさまりますし、場合によっては頓服を飲んで「大丈夫、今は全然危険な状況ではない。体や脳の記憶は危険だという信号を発しているけれど、それは大丈夫なんだ」と言い聞かせてあげて落ち着きます。
落ち着くと、体は「あ、大丈夫だった」と覚えます。
「次からは大丈夫」ということを体に教え込ませるのです。そういう作業が重要です。
マラソンと同じです。走っていると、体は苦しい苦しいと悲鳴をあげます。
「いや、大丈夫だ。走り切るぞ」と言い聞かせると苦しみや疲れが落ち着いてきます。それで走れるようになります。
それを毎日やっていけば走る距離が延びていきます。
それは体力が上がってきたのではなく、脳が疲れ方を覚えてくるからです。
もちろん体力が伸びているからということもありますが、基本は脳が覚えるからです。
このように、意志によって脳の記憶をコントロールすることが重要です。
でも一人ではできないので、通院しながら主治医の先生や治療者と話し合って、励まされながらやれば良いと思います。
僕も一人ではできません。一緒に頑張りましょう。
前向きになる考え方
2022.4.7