今日は「○○を受け入れるにはどうしたら良い?」というお話をします。○○には病気や障害など、受け入れがたいことが入ります。テーマが大きすぎると語れないので、具体的に細かく分けて考えてみたいと思います。
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薬を飲みたくない
受け入れがたい話としてまず挙がるのは「薬を飲みたくない」というものです。
それに対して僕は「飲むだけ(薬を口に入れる動作)だからとりあえず飲みましょう」と言ったりします。これはスモールステップから始めるという交渉術のひとつです。病気のことはとりあえず置いておいて、今日薬を飲むだけで良いですよという小さなステップを提案しているわけです。
他にも交渉術はいろいろなビジネス書に書かれていて、入院患者さんをその場で納得させる際には有効なこともありますが、外来の患者さんには小手先のテクニックだけはうまくいかないことが多いです。ですが、いろいろな形で伝えながら患者さんの心に響くように話します。患者さんも困っていて助けてほしいという気持ちがありますので、こちらが助けたいという気持ちが伝わればうまくいくのですがなかなか難しいです。
こんな自分は嫌だ
「こんな自分は嫌だ」というのも患者さんからよく聞きます。そういう時は、自分の何が嫌なのですかと聞くよりは、「どういう自分になりたいか」などポジティブな方向に変えたほうが建設的なディスカッションになるのかなと思います。「こういう自分になった後に何がしたいのか?」という話に持っていけるとより良いと思います。
完璧な自分にならないと何かを始められないということはありません。患者さんには「患者」の状態から「成功者・支援者」の状態に急激にジャンプしたいという欲望があるのですが、そうではなく患者さんであることから普通の人になれば良いだけです。そういうことに気づいてもらうためにどういう自分になりたいか、その結果何がしたいのかといった話をしてもらいます。ただこれは一般の人に言うことなので、例えばアルコール依存の場合はお酒を飲むことが人生の目的になってしまっているので、このようなロジックで簡単にいくものではありません。
また、発達障害が絡むと上記のような話になると「わかりません」となってしまって言語を介した想像ができないこともあります。そうなると行動療法やデイケアなど身体的、感覚的な部分に訴えかけた方が良いのかとも思います。
発達障害の人でなくても、全体が見えていないことも多いです。相手に自分の主導権を握られてしまっていることもあるので、あなたは影ではなくてあなたも個人なのですよと言ったりします。
働けない、正社員になれない
働けない、正社員になれないことを受け入れられないことも多いです。
お金のことは難しいのですが、どれくらい本当に必要なのかなど具体的に考えることも必要ですし、一方でお金はいくらあっても足りないと不安になるものなので開き直ることもあります。経済に関しては、患者さんに全然わかってないなと思われることのないよう医者も勉強しなければならないなと思います。
何の仕事ができますか? 何の仕事がありますか? といったことも聞かれるのですが、医者なのでわからないことも多く、ハローワークや福祉の助けも借りながらその人に合ったプランを考えていきます。
働けないことに関して突き詰めていくと、働けない自分を家族が受容してくれないという話もあります。
屈辱的で暴力的なものを介して劣等感を植えつけれられている場合もあります。復讐しても意味はないですよと伝えますが、なかなか理解してもらうのは難しいです。自分が受けた屈辱を、本人ではなく弱い立場の人間や医療従事者にぶつけたりすることもありますし、自分で自分を復讐する(傷つける)こともあります。
例えば、子どもが学校で弱い同級生に「コロナ」とあだ名をつけ、やっつけることで自分のコロナへの不安を解消することも、人間がもともと持っている本能です。言い返せないであろう相手に自分の攻撃性をぶつけることは、意識しないと人間はやってしまうものです。
治療として
1.受容的空間
2.吐き出す
3.整理・李モデリング
4.受け入れていることを真似てもらう
患者さんは受け入れられないものを受け入れよう、内側に入れようとしているので、受容的な空間を作って外に出してもらいます。そして問題を整理してリモデリングします。それから重要なのは、僕らが患者さんの弱さや生き方を受け入れている、そうせざるを得ないことを理解するということです。それを態度で示していけると患者さんは真似ていきます。患者さんにはそうした精神科のカルチャーを理解してもらうことが大事です。