今日はHSP、「繊細さんの本」について語ってみようと思います。診察室でも話題に上ることあるので、武田友紀さんの本を3冊読んでみました。読んでみて売れるのがわかるなと思いました。
本によると、「繊細さん(HSP)」という概念はアメリカのエレイン・アーロン博士が提唱したそうです。
コンテンツ
著者の武田さんについて
武田さんは1983年福岡生まれ、東京在住。旦那さんとお子さんがいらっしゃいます。九州大学工学部出身でメーカーで研究開発をされていましたが、入社して6年目の時期にかなり無理をしてしまい倒れてしまいます。そこから復帰するのに2年ほどかかり、その間にHSPを知り、自分が倒れてしまったのはこういうことだったのかと深く理解されたそうです。ご自身のホームページを立ち上げたのが32歳、2018年35歳で「繊細さんの本」を出版されます。
HSPの概念
人口の15〜20%くらいはHSPに該当するということです。
「繊細」を横軸に取った時の上位15〜20%くらいを指すのかと思っていたのですが、そういことではないそうです。スペクトラムというよりは、「深く処理する」「共感力が高い」「過剰に刺激を受けやすい」「刺激の察知が早い」の4つの特徴が全て含まれないといけないようです。スペクトラム(連続体)というよりはカテゴリという概念に近いです。発達障害というスペクトラムの概念ではなく、うつ病・躁うつ病などのカテゴリに近いということです。
また、4つの特徴はASD(自閉スペクトラム症)からくる特徴とは違うと言われています。
繊細な感性を大事にすべき
この本の主張は、「そんなに気にしなくていい」とか「鈍感力が大事」ということではなく、「繊細な感性を大事にすべき」ということです。自己肯定感を高めた上で、具体的なアドバイスをするのがこの本の流れです。すごく良いし、今っぽいなと思いました。
仕事をしていて周りに気を使ったり振り回されたり、何が正解がわからないまま自分はどうしたら良いのかと混乱があったのではないかと思います。混乱は繊細な感性から来ていますし、感受性が豊かだから振り回されてしまい無視できないことが多く、仕事でつぶれてしまった、そういう患者さんは結構いらっしゃいます。
精神医学とHSP
精神医学とHSPがどう結びつくか患者さんからよく聞かれますが、なかなか難しいです。本を読む前はASDや不安障害の一部を指すのかなと思っていたのですが、そうではないようです。
精神医学はICD(国際疾病分類)でF0からF9までコードが振られていて、基本的にはすべての精神的な問題がどれかに当てはまるように分類されています。合併することもあるのですが、原則合併しないという前提です。
HSPに関していうと、「HSPかHSP以外」という概念なのかなと思いました。
これを足していくと、診断概念を重複して上から乗っかっているのかなとも思いましたが、それだと本質を逃しているような気がするのでやはりちょっと違うかなと思います。HSPがスペクトラム要素であるというならば重複もあり得ますが、カテゴリだったら当てはまらない気がします。
どちらが正しいとかそういうものではないですし、どのように分けるのか、どのように診断するのか、同じものを見ていても世界観が違えば見え方も違うものです。
臨床的には、これだけ売れている本ですし患者さんも読んでいますので活かした方が良いと思います。でもあくまで精神医学の診断カテゴリとは違うので、部分一致とアドバイスをどう活かすのか、精神医学的な知見やアドバイスとうまくミックスしながらやっていけたらと思いました。