今日は「うつ病」という言葉を聞いたことはあるけれどどのようなものかわからないという人に向けて、「ゼロから学ぶ、うつ病」という動画を撮ってみようと思います。
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抑うつ状態
落ち込んでいる状態を「抑うつ状態」と言うのですが、病気的な落ち込みはどう違うかと言うと、
・いつもと違う「落ち込み」
・リフレッシュできない「どんより感」
趣味、恋人や家族と会うなど楽しいことのはずなのに全然楽しめない
・なかなか取れない「疲れ」
1、2日休めば取れるような疲れが取れない。朝からずっと疲れている
・眠れない、食べられない、涙
出勤前に涙が出る、死にたいという気持ち
このように多様です。気分の落ち込みはなくても疲れだけがある人もいれば、疲れや気分の落ち込みはないけれど眠れない・食べられないという人もいます。
ただ、病気が悪化していくと皆同じような症状になります。みなさんが見ているうつの人は本当に酷くなる前段階、前々段階だといえます。
うつの原因
精神科の問題は複雑で、生まれ、育ち、今のトラブル、脳の問題が複雑に絡み合っています。わかりやすい例でいうと、生まれも育ちも今の仕事も順調というときに脳の病気として急に落ち込んでしまうことがあります。多少忙しいなどのきっかけはあったとしても、世間から見たら順風満帆なのにガクッと落ち込んでしまいます。こういったケースを中高年発祥の内因性うつ病、10代・20代ならば躁うつ病となったりします。原因がないのに落ち込むというのは脳の病気としてのうつ病としてわかりやすいと思います。
古典的には脳の病気だけをうつ病と言うのですが、現代では解釈の幅が広がっています。例えば生まれの問題にどのようなことがあるかというと、発達障害、人格障害などです。そのような人たちが日常のストレスや生きづらさからうつっぽくなってしまいうつ病と診断されることがあります。
育ちでは、虐待されたために子どものうつになってしまう、大人になって自己肯定感の低さから自分を許せない、愛せないためにうつになってしまうことがあります。虐待以外ではいじめも原因になったりします。
今のトラブルでは、職場でのパワハラ、業務過多、アルコールの飲みすぎでうつになることもあります。
診断については、虐待の二次障害としてのうつ、適応障害のうつ、と診断する医師もいれば、背景も含めてうつ病と診断する医師もいます。これは診断基準を揃えるために「操作的診断」を取り入れたためです。操作的診断というのは、こういう症状があるならばうつ病としましょうというルールです。そうなってくると背景を無視してもうつ病を優先させるといったことが起こります。
この辺りはややこしく、実際に虐待の影響は脳に残ったりしますし、何年も忙しい状態が続くと脳が生理的に変化してうつになるという研究もあるのでうつ病が広くなっています。
治療法
それではそれぞれ治療法が違うかというと、そういうわけではありません。治療法はどのような背景があってもやることは結構同じです。
・抗うつ薬、mECT(修正型電気けいれん療法)、rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)
電気けいれん療法もありますが、基本的には抗うつ薬を使うか使わないかです。
・休養、入院
・カウンセリング、CBT(認知行動療法)
どれを取り入れるのかは、診断で決めるというよりはその時の患者さんの状態に合わせて判断します。
mECTは難治性うつ病に効果があるとされていますが、基本的には抗うつ薬での治療の方が効果があるかなと思います。カウンセリング、認知行動療法、運動療法も状態に合わせてやるやらないの判断をします。
虐待の問題があって仕事で頑張りすぎてうつ病になってしまったときに、うつのついでに虐待のことも治療しようとするとわけがわからなくなるのでそこは触れなかったりします。カウンセリングもそもそも余計なおせっかいなのではないかという話もありますので、その場の患者さんの状態に合わせて取捨選択します。
その場に合わせるならば、治療方針や診断がぐちゃぐちゃになるのではと言われるかもしれませんが、そういうわけではありません。診断はこの辺りだなと押さえながら治療方針を決め、揺れ動きはありながらも我々はプロなので相手を見ながら治療を進めていきます。
うつ病の経過
古典的には、抑うつエピソード(落ち込んでいる期間)を繰り返すというのがうつ病の定義です。ただ、70%くらいの人は回復すると言われます。落ち込む期間は3〜6ヶ月、あるいは1年など結構長く続きます。すぐに治るものではありません。
薬物治療は落ち込みを小さく、期間を短くするために行います。効いていない、効いているかどうかわからないという場合もありますが、保険適用していますから効いています。小さくなるのがわかりにくいかもしれません。統計的には効かない群もありますが、効きますから副作用が酷くなければ抗うつ薬を飲んだほうが良いのです。抗うつ薬は再発予防の効果もあるのでしばらく飲んだほうが良いと言われています。うつが良くなった後もしばらく飲んでねと言われるのはそのような理由です。
以上、ゼロからわかるうつ病ということで、うつ病の全体像を簡単に語ってみました。
精神科のことは複雑なので、いろいろな角度から見たりいろいろな本を読むことでだんだんわかってくる、積み重ねの理解が重要な世界です。同じことを文脈を変えて何度も語ることがあります。立体を理解するのに何枚も写真を撮ることと同じで、人間の心や脳、時間の流れ、臨床の本質を伝えるためには1枚の写真では収まらず、何度も語り直さないといけないということです。
うつ病は大変な病気ですし、決して軽くはありません。いろいろな患者さんからお話を聞きますが、がんなどの難病を抱えた患者さんがうつを合併していた場合、うつ病が一番きつかったという話を聞きます。血は出ないし目にも見えませんが、脳みその苦しいと感じるところが刺激され続ける病気なので当たり前といえば当たり前です。少しでもこの動画が患者さん、周りの方の助けになればと思います。
【参考】
・厚労省みんなのメンタルヘルス うつ病
・カプラン臨床精神医学テキスト
うつ病
2021.1.26