今日は「SNSと経営戦略」というお題をいただいていたのですが、求められていることをもう一度考え直してみたところ、「ミライを作る情熱はどこから来ているのか?」ということなのかなと思いましたのでそれについて語ってみます。
臨床をしながらYouTubeを続けてきた中で、なぜYouTubeをやっているのか何度も自分に問い直しています。皆さんからのコメントをいただきながら、自分自身も自分の心、気持ち、人生について考える機会も多く、わかってきたことも多いです。
僕は30代後半でこれから10年、20年を掛けて未来を作っていくのですが、臨床の中心としている大学生〜20代の人は、やはりこういった新しいことに挑戦する情熱、しかも僕はただの町医者なのでどれだけ頑張ってもすごく儲かるわけでも、出世するわけでも、論文を書いていくわけでもない中で新しいことに挑戦する姿から何か知りたいのかなと思いました。
コンテンツ
YouTubeと開業医
これに対する答え方はいろいろあります。広告、経営戦略、マーケティング、データ分析などの学びにもなりますし、それよりも承認欲求とどう付き合うかといった心の学びにもなるとも言えますが、やはり単純に「楽しい」のです。患者さんも喜んでくれますし、「こういう動画があって良かった」と言ってもらえます。ある意味で最先端の医療というか、YouTubeと臨床が混ざっている感じが面白いです。
純粋に未来を想像してこういう形でできたら楽しいのでは、臨床が進化していくのではと考えたときに、今あるテクノロジーをアレンジするだけで臨床の幅が広がっていくのが面白いです。趣味がシナジーを生んでいるともいえます。
受診までのプロセス
広告、経営戦略におけるYouTubeの立ち位置をもう少し説明します。
1.精神科に行くべきか?
患者さんはまず「自分は精神科に行くべきかどうか」を考えます。そこで、病気のことをGoogleやtwittwerで検索します。YouTube検索をする人もいますので、そうすると早稲田メンタルクリニックの受診につながります。Googleやtwitterはレッドオーシャンなのでここから来るのは難しかなと思います。
2.どこのクリニックに行こう?
受診しようと思った時に患者さんはどこに行こう?と考えます。そうなった時はGoogle MAPや口コミ、HPを見ます。Google MAPや口コミはこちらから介入のしようがありません。
3.もう一度行く?
再診に行くべきかを考えた時に、もう一度1と2を繰り返します。その時もHPや口コミを見たりしますし、病気を知るためにYouTubeを見たりします。
受診までのプロセスの中にネット(スマホ)がすごく入り込んでいます。病気を調べるためにわざわざ本を買う人はほとんどいませんので、こちらからの情報発信をきちんとしておくと患者さんとのやりとりが生まれます。
病気・自己(他者)理解が不可欠
ミライを作る情熱がどこから来るのかという話に戻ります。
精神科における診療は病気の理解、自分や相手の理解が不可欠です。薬を飲んだら、正しい病名が付いたら終わりではなく、いろいろ学んでいくことが大事です。例えば胃がんならば正しい病名が見つかればあとは医者に任せれば治療は進んでいきますが、精神科はそうではありません。自分から、自分の心や相手の心を理解していくことがすごく重要です。その理解が治癒につながるのです。
どのように理解を進めるかというと、YouTubeを使えば理解が進むわけではありません。どのようにすれば学習や記憶の定着が良くなるかというラーニングピラミッドというものがあるのですが、一番良いのは「自分から教えること」です。よりアクティブに問題に立ち向かったほうが記憶の定着には良いです。これは精神科の治療でも同じことで、基本的には積極的に自分から病気を治しに行った方が良くなります。うつ病や統合失調症のような内因性疾患の場合は薬を飲めば終わりということもありますが、基本的にはそうではありません。
・講義を受ける(5%):口頭説明
・読書(10%):HP、メモ
・ビデオ(20%):YouTube
・議論(50%):診療時間
・教える(90%):診療時間
患者さんは調子が悪いこともありますので、医者からパーッと説明されても全部理解できないことがあります。
以前は病気の説明を書いた紙を渡していましたが、紙だと患者さんは捨ててしまいます。ですのでHPに書くようにしたのですが、患者さんは待合でゲームや動画を見ている人が多いので動画の方が良いなと思いYouTubeを始めました。YouTubeから事前に病気の知識を入れておいてもらえれば、診療の時間を患者さんの話を聞くことやディスカッションに使えます。診療時間には制限がありますので、その時間を活かすためにもYouTubeは有効です。
治療者側のメリット
・アウトプットによる学びの効果
病気の説明をしながら、病気のこと、それ以外のこともすごく学べています。
・診療のやりがい
僕らは患者さんの病気を当てたい、説明したいわけではなく、精神科医は診察室という閉じた場所で患者さんと会話をしながら心の傷に触れてそれが癒えていく過程を手助けしたいわけです。YouTubeをやることで会話の時間が増えるのでそれはやりがいにも繋がっています。
・承認欲求
これはどうしても刺激されますので、自分の欲望に支配されるのではないかという怖さがあります。
良い道具なので使うべきだと思いますが、Googleは広告収入を増やすために運営しているので、彼らが作った人工的なものに支配されないようにしないといけないと思っています。学びややりがいを意識しながら承認欲求に支配されないようにすることが大事かと思いますが、ある部分では支配されて酔いしれないとYouTubeなんてやっていられないなとも思います。
というわけで、新しい技術を使って今ある診療にプラスすると楽しいですし、お金ではないところでやりがいを感じられます。だからやっているというのが自分なりの答えです。