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YOASOBI「夜に駆ける」の元ネタ「タナトスの誘惑」って何? 精神科医目線でタナトスを考えてみます

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00:00 今日のテーマ
02:59 タナトスとは
04:55 臨床的に思うこと
09:51 シザーハンズ問題

今日は「臨床的には『タナトス』をこう見ている」ということを語ってみようと思います。

2020年の紅白にも出場したYOASOBIに「夜に駆ける」という曲があります。この曲は星野舞夜さんの「タナトスの誘惑」という小説にインスピレーションを受けて作られた作品です。曲調はポップなのですが歌詞は暗く、20歳くらいの方が作っていることもありそれくらいの年齢の攻撃性、暴力性、儚さがあらわれています。

これを聴いている上の世代はどう感じているのかなども思います。色々思う中で、おそらく精神科医に聞いてみたいのは「タナトスって本当にあるのですか?」ということかなと思います。

僕も中学生くらいの頃にエヴァンゲリオンを見ていて「タナトスってなんだろう?」と思いました。「生の欲動」(生きたい、生きるための本能)と反対側の「死の欲動」があるということなのですが、それが本当にあるとしたら今自分が持っている悩みや破壊性、攻撃性がそれなのかなど、自分の中にある得体の知れない恐れなどを考えました。精神科医になってこの「死の欲動」をどう理解するようになったかをお伝えしたいと思います。

タナトスとは

「タナトス(死の欲動)」とは精神分析の創設者フロイトが1920年代に導入した概念です。1920年というと第一次世界大戦がありフロイトも年老いて病に侵されていた頃でした。またフロイトはユダヤ人だったので親戚が殺されたりしています。
この概念は精神分析の中でもなかなか使いこなせていなかったのですが、メラニー・クラインが1932年以降に積極的に取り入れ発展させました。

死の欲動という概念はいろいろな文脈で使われているのですが、説明するのが難しい概念です。自分の過去、うつ病の人の落ち込み、統合失調症の人の妄想・分裂感・内からくる分裂感などを見るとこういうものがベースにあるのかなとは思うのですが…。人間は白・黒の二項概念で考えるのが好きなのですが、そういうものではありません。

臨床的に思うこと

タナトスについて臨床的に思うことを思いつくままに語ってみます。

・破壊性、暴力性
人間にも動物的な破壊性や暴力性があり、それが人間社会の中でどう扱われるか。他人に向かっていく、自分に向かっていくことがあります。

・治療者の拒絶
治療や治療者を拒む感じも臨床で度々あらわれます。わざわざ診察室に来るにもかかわらず、意識的なのか無意識的なのか治療を拒絶するかのような言動を行ったりします。拒絶をどう扱うのかも一つのテーマとして挙げられます。

・倒錯との違い
倒錯との違いもあります。本当は女性が好きなのに倒錯てきにSMに入ってしまう、フェチズムに入ってしまう、その変形なのではないかという考え方もあります。

・性衝動の混同
年代によっては性衝動とどう区別するのかというのもあります。「夜に駆ける」も死を扱うように見えてラブソングなので、性衝動との混同をどう考えるかということがあります。

・苦痛の理解
苦痛から解放されたいのか、苦痛を受けにいきたいのかという問題。

・共依存
治したいのに、共依存では悪い方に行ってしまいます。アルコール依存症の人の奥さんが、アルコール依存を治してほしいにも関わらずお酒をついでしまうようなことです。このような共依存の構造もタナトスが絡んでいるのかもしれません。

・言語化困難、放棄
言葉にすることが困難だったりそれを放棄する感じも死の本能が関わっているのではないか。言語化するというのは「生む」ということですので、それの反対の行動を取ろうしているのではとも言います。
 
いろいろなことを言いましたが、僕らの認知のキャパシティから、死の本能を置いて喋った方が理解しやすいからなのだろうなとも思います。実際にはあるといえばある、ないといえばないという感じです。どちらにせよ二項概念から考えていても治療には行きません。

よくあるのはカップルで来院して、女の子が泣いていて過保護な彼氏がいるというケースです。患者さんが二人で来た時にカップルで治療を受けられませんかと聞かれるのですが断ります。うまくいかないからです。
これが何かというと、彼女自身が死に向かって行き彼がそれを援助するかのような共依存のような問題、そして二人で来ることで治療者を拒絶している問題もあったりします。冒頭の歌や小説も、理解し合えるのは二人だけだというナルシスティックな世界があったりします。

では治療としてはどうするかというと、二人で来てねと言いつつも二人がどのような青春を辿るのか、事故が起きないように見守るという感じです。それでだいたいはうまく行きます。うまくいかないことももちろんあって「益田はクソだ」と言って他の病院に行くこともありますが、それも含めて治療なのかなと思います。

シザーハンズ問題

傷つけるつもりはないのに傷つけてしまうというシザーハンズ問題もあります。自分というのが相手を傷つけるものでしかないのではないかという困惑です。発達障害の人や虐待を受けた人の攻撃性を取り上げた動画もありますので見てもらえると、臨床であらわれるタナトスがわかるのではないかと思います。

発達障害の人が自分の気持ちを言葉にできず、そのため感覚の世界に逃げ込む、オタクのようになっていく、生々しい世界を放棄しているような行動を取ることもあるかと思います。

タナトスだけで説明しようとすると難しいのですが、曲を聴くと20歳ごろの儚さ、暴力性、性的なものとの混同がよくわかります。それですごく衝動的になって自分や周りを傷つけていくことはよくあり、それをタナトスという言葉だけで説明するべきではないとは思いますが、それを入り口にしてそこからどのように自己理解、他者理解、社会理解をするかということが治療的には大事だったりします。

だんだん言葉にしていくころにはおじさん、おばさんになっていて、その頃には20歳くらいの時の気持ちは忘れてしまったりします。僕も今回いまさらなのですが、曲を聴いてその時の気持ちを思い出しながら動画を撮ってみました。

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2021.2.22

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