今日は「うつ病患者さんの家族対応」について語ってみようと思います。動画を撮るにあたり、改めて自分の中で情報を整理し言語化してみたのですが、家族は本当にキツいなと思いました。闘病を支える家族の苦しさを考えながら診察をしてはいるのですが、こうして言葉にすると改めて大変だと痛感しました。
診察室でもよく言うのですが、「キツすぎるのでまずは落ち着いてください」ということを一番最初に伝えたいです。いろいろな家族があり、中にはうつ病のことをものすごく学んでいる「スーパー家族」もいらっしゃいます。ですが、全員がスーパー家族になる必要はありません。医学知識などいろいろな知識はあったほうが良いですが、なくても良いのです。知識があったとしてもあまり変わらないこともありますので、治療していく中で少しずつ成長していけば良いと思います。
精神科の治療はとても難しいです。やるべきことは単純で「ゆっくり休み、薬を飲み、焦らない」ということだけなのですが、その当たり前が難しいのです。本当にゆっくりしか治らないので、その手応えのなさに焦ってしまいます。
目に見えないものを信じる力、見る力、受け取る力は人によってかなり違います。物やお金、地位、名誉などは「実感」があるものですが、そのようなものとは違う、目に見えないものを抱える力が必要になります。ですので、焦らずゆっくりやっていけば良のではないかと思います。
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家族の役割
そうは言ってもそんな精神論はやめてくれと思うかもしれません。
家族の役割を3つ上げてみます。
1.本人の代わりをする役割
・家事や子育てで相手がやっている部分をカバーする。
・職場との連絡(休職、傷病手当)
・入院治療の決定(本人の意思決定能力が著しく損なわれているため、本人の代わりに家族が判断する)
入院治療の決定は大変なことですが、今の法律上、家族が決めなければなりません。僕らはできる限りの助言はします。
2.本人をケアする役割
・看護師的:食事の用意、ベッドを整える、服薬管理
・心理士的:声かけ、距離感
・医師的:この病院、治療で良い?
おそらく一番混乱されるのが、声かけや距離感だと思います。励ましたらいけないのか、仕事のことをどうするのか相談してはいけないのかといったことです。ここは結構難しく、それまでの人間関係や本人のキャラクターにもよるので正解はありません。
病態によっても違います。うつ病は下記の4つの時期に分かれます。
①気づき:なんだか調子悪そうだから病院をすすめないと…という時期
本人は病院に行きたくても行けなかったりするので、積極的に距離を詰めないといけないこともあります。「一緒に行かない?」「こんな病院あるんだけどどう?」など受診に繋げます。
②急性期:休めることになりガクッと下がる時期
それまで気を張っていたのが、休めることになりガクッと一気に下がります。この落差に本人は相当戸惑います。家族も「本当に病院に連れて行ってよかったのかしら」となります。でもそういうものなのです。フルマラソンでゴールをした途端に崩れ落ちるような感じです。この時期は、食べられない、眠れないなどいろいろなトラブルが起こります。
この状態の時には励まさない方が良いですし、精神的にも認知が歪んでいる(小さなことが大きく見える等)ので話して通じる時期ではありません。距離を取りながら薬の管理をして、「休んで大丈夫なんだよ」「お金のことはなんとかなるよ」といったことを言い続ける時期です。
③回復:だんだん良くなってくる時期ですが、油断はできません
少し元気になってくると自殺を考え始めたりすることがあります。復職への不安が語られたり、少し元気になった分、家族に対して変に攻撃的になったりすることもあります。また、この時期はよく寝ます。寝て食べてばかりなのでもっと動かした方が良いのか、カウンセリングを受けさせた方が良いのかなど色々悩んだりします。
④予防期:上記のような段階を経て、復帰していきます
復帰しても前ほどに働くことができないため、本人の自尊心も傷付きますし、家族も焦ります。「このままこの人と一緒に暮らしていけるのだろうか」と思ったりしますが、半年くらい経つと良くなります。再発しないように薬を飲み続けたりします。
大きな決断をしないというのも一つですが、時期によって悩むことや家族の距離の取り方、話せる内容も違ってきます。会話することでかえってトラブルになることもあります。
3.その他
・自分自身のケア
すごく苦しいので、ご自身のケアもしなければなりません。
キューブラー・ロスの「否認・孤立→怒り→取引→抑うつ→受容」のように、家族自身の心もすごく乱れます。
「何でこうなってしまったのか」→「病気ではなくパワハラのせいだ!」→「会社を訴えて勝てば病気が良くなるのでは、他の病院に行けば良くなるのではないか」→「何でこんなことになってしまったのか、人間て何なんだろう。家族って、夫婦ってなんだろう」→「でもそういうこともあるよね…」このようなことを行ったり来たりするので苦しいです。
医学知識があれば上記のような経過を辿るのだろうということがわかるので、少しは心の安心につながるかもしれません。でも無理はしなくて良いと思います。家族がこうあった方が治療率が上がるといった論文はいくらでもあるでしょうけれど、あまり気にしない方が良いと思います。スーパー家族になる必要はありません。時間が解決してくれます。
うつ病
2021.3.8