今日は「大人の発達障害」について解説します。
「大人の発達障害」という言葉は最近よく聞くと思います。「大人なのに発達してないの?」と不思議に思うかもしれません。
発達障害とはどういうものなのか、どのような経緯で広まったのか、実際はどのような症状でどのような治療があるのかをざっくり解説しようと思います。
大人の発達障害を一言で言うと「説明できることが増えた」ということです。
ある種の発見・発明なのです。
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発達障害の発見
児童の分野では昔から他人への共感や理解ができない、こだわり、感覚過敏のある子供は報告されていました。(オーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーが1944年に報告)
日本にこの概念が広まったのは1970年以降です。
小児の世界では、こだわり、不注意・多動性のある子供がいるということはその頃からわかっていました。児童健診でそのような子供がいると報告されていたのです。
一方、大人を対象とする精神の世界では、上記のような人に対し「統合失調症?」「境界性人格障害?」「躁うつ病?」と診断に迷うことがありました。
ある先生は、自閉症を「妄想を伴わない早期統合失調症」と診断したり、衝動性・多動を「境界性人格障害」や「躁うつ病の一種」だと言ったりしていました。
ですが、児童の医師から「それって発達障害ですよね?(知らないんですか?)」と指摘があり、ここ10年、20年くらいでようやくわかり始めました。
現在
今は薬も増えてきていますし、治療ができるぞということで僕のような精神科医が治療をしたりしています。昔のままアップデートされていない精神科の先生もいますが。
また、小児の先生からは「大人の精神科診療のロジックで治療するのは違う」と言われます。合理的配慮、構造化、生活の中での工夫など、薬物治療より先にやることがあるでしょうということです。
ですが、精神医学の世界はまず「薬ありき」なのです。
なぜかというと、精神の病とはすなわち脳病ですから、薬をきちんと入れたほうが治りが良いと考えがちです。ですからやり方のカルチャーが違うのです。そこにちょっとしたぶつかり、混乱があります。
そこで困るのは患者さんです。
科学というと皆さんは普遍的な真理だと思われるかもしれませんが、医学は実学なので「カルチャー」があります。そのカルチャーによってやることが微妙に違うのですが、目指すところは患者さんの利益の最大化です。
発達障害とは
発達障害とはこちらの3つの疾患のことです。
・自閉スペクトラム症(ASD)
・注意欠如多動症(ADHD)
・学習障害(LD)
この3つは別々の疾患のように見えますが重複することが多いです。
そもそも知的能力の凹凸を指すので人によってさまざまです。
治療
本人の特性x育ちx今のトラブル=再現性ゼロ
本人の特性はASDとADHDの複合的なもので決まりますので、皆同じではありません。それに加えて育ちも人によって違います。現在のトラブル(仕事、恋人など)も人によって違いますので治療のやり方もそれぞれ違ってきます。
そもそも精神医療の世界はある部分再現性はゼロなのです。正解はありません。
正解はないけれどより良いものを作っていく、という感じです。
イメージとしてはヒット商品に似ています。「こうすれば物は売れる」という法則は、あるようでありません。
それと同じで、精神の治療も少なくとも発達障害に関しては、本人の特性や生い立ちを考慮しながら今のトラブルをどうやって解決していくかを考えていく、という作業になります。
説明できることが増えた
「発達障害」を補助線として引くことで、説明できることが増えました。
今までは「他人への共感・理解が難しい」というのがどういうことかわからなかったので、妄想の前段階なのかとか、心理的な葛藤で気持ちを抑え込んでいるのかなど思われていました。それが知的能力の問題だとわかってきました。
多動や衝動性でトラブルを起こす人は、そのような人格なのかそれとも躁うつ病の軽いものなのかなど考えられていましたが、脳の情報処理の問題でトラブルが起きているとわかってきました。
このような発見により、今まで治療がうまくいかなかったものが、「発達障害」という診断で見直すとうまくいくことが増えてきたのです。
こうした背景から、精神科の医師は「大人の発達障害」という概念で診断をし直し、治療が急ピッチで進んでいます。
それから、共感・理解困難に対する薬はありませんが、感覚過敏や不注意、衝動性・多動については薬物治療が効果があります。
また、現在はもう少し概念が広がっていて、ASDの人の家族のトラブルも「カサンドラ症候群」として治療の対象になったりもしています。
今回は大人の発達障害について解説しました。
発達障害
2021.6.25