今日は「うつ病がよくならない人の特徴(諦めが下手)」というテーマです。
うつであったりうつ病であったり、諦めが下手なために人生がなんとなくうまくいかない人について、解説していきます
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確認すべきこと
うつやうつ病が良くならない場合、考え方や認知の歪みの話をする前にまず確認しないといけないことがあります。
1.診断
診断が正しいかどうかをもう一度見直す必要があります。
うつやうつ病と診断されているけれど、他の病気が隠れていないのか、診断に間違いはないのかを確認します。
2.1/3は薬が効かない
そもそもうつ病の1/3くらいの人は薬が効きません。
3.そもそも時間がかかる
そもそもうつ病は治療に時間がかかる病気です。
ネットでは1、2ヶ月という短期間で良くなったということを言う人もいますが、実際はもっと掛かります。3ヶ月、半年、数年単位というのも珍しくありません。
4.薬の変更
薬物治療をきちんと行なっているかどうかもポイントです。
・抗うつ薬
1、2週間で切り替えるのではなく、4~8週間十分量を使った上で薬を評価して、その上で必要であれば他の薬も試します。
・増強療法
抗うつ薬にプラスして抗精神病薬を使うことを増強療法と言いますが、そのようなことをきちんとやっているか。
・ECT(電気けいれん療法)
・TMS(磁気刺激治療)
重度の方に対しては、ECTやTMSを考慮しているかも重要です。
これらを考慮した上で、認知の歪みにも注目します。
諦めが下手な人
精神科の患者さんには「諦めが下手な人」がたくさんいます。
例)
パワハラやセクハラを受けた
↓
当事者がいなくなった後もモヤモヤ
↓
モヤモヤが何年経っても抜けない
「あれは何なんだ」となかなか次に切り替えることができません。
このような人は結構います。
パワハラ、セクハラ、恋人の浮気、不倫の問題、災害、病気、虐待などいろいろあります。
もちろんそれ自体はすごく悲しいことで、本人のせいでもありませんし不運でしかありません。ですが、どこかのタイミングで切り替えなければなりません。
「切り替えられないからトラウマなんでしょ」と言われることもあります。
それはそうですが、切り替えていく、変化を受け入れていくことが「治療」です。
不運が自分の身に起きてしまった、不合理なことが自分の身に起きてしまったということを受け入れるのが重要です。
「何で被害者の私が受け入れなければならないのですか」
「あなたにはわからない」
と言われることもあり、大変心苦しいです。
トラブルからのリセットが難しい例
たとえば、男兄弟で、兄の失敗や面倒ばかりに両親が手を焼いていると、弟の方は「失敗はしたくない」という思いに囚われて失敗を恐れすぎる性格になるかもしれません。
このようなタイプの人がパワハラやセクハラなど何らかのトラブルに遭った時に、失敗からリセットしていくことがなかなかできないかもしれません。
これは一例で、家族病理は関係なく失敗を恐れてしまう人もいます。
治療とは、こういう家族病理の理解などを通じて、完璧主義を修正していくことです。
治療
治療としては、「不運とどう付き合えば良いのか」を学んでいく必要があります。
これについては、古今東西の偉い人がいろいろなことを言っています。
・サンクコスト効果
何かを得ようとした時に掛かった費用を重く見てしまう。
サンクコスト(埋没費用)が掛かると諦めきれない。
例えば、ギャンブルで負けが嵩んだ時に、切り上げてしまえば良いところを「取り返さなければ帰れない」となり、より負けが嵩んでしまう。株や恋愛でもそうです。
「あんなに苦労したのだから相手の浮気は許せない」「色々あったからもう別れたくない」と泥沼にはまっていくパターンです。
・現状維持バイアス:損=得(1.5~2.5倍)
人間は現状を変えたくありません。だから諦めたり損をすることを避けます。
一説によると、得の方が損の1.5~2.5倍見込めないと新しい変化は受け入れられないようです。(1.5~2.5倍で損と得がイコールになる)
「嫌なことがあったから転職しても良いけれど、その代わり給料はこれくらい上がらなければ嫌だ」などと思いがちです。
ですが、世の中は基本的に「失敗ありき」です。
失敗がないように見えてみなさん失敗しています。
当院の患者さんは20代半ば~30代初めの人が多いのですが、失敗らしい失敗をこれまでしてこず、精神科に来るのが初めての人が多いです。もちろん受験の失敗など小さな挫折はありますが、会社で上手くいかなくて転職を余儀なくされた、パワハラで酷い傷を負ったというようなことは初めてということです。
・ピボット戦略
そのような失敗があっても次に向かわなければいけません。
まったく変えなければならないというよりは、自分の得意なところを残しつつ、ピボット戦略のようなことをやっていきます。これは当たり前というか普通のことです。
確かに同世代であなたほどの失敗をした人はいないかもしれないけれど、泥が付いたことがない人はいないわけで、ピボット戦略をしながら自分に合った場所を探します。
こういうことを言うと嫌われてしまうのですが、このようなことを理解してもらうのは治療的に大事です。
・自己理解を深める
自己理解を深めることもすごく重要です。
失敗を受け入れられないというのは、自己評価が高いのか低いのかよくわかりません。
高いが故に失敗を受け入れられないのか、自分は価値がないと思っていてこれ以上負け込んでほしくないから受け入れられないのか、日常語ではあらわせません。
その人の中で「自己評価」という言葉がどういう意味があって、どのような使われ方をしているのかで違います。この辺りをすごく理解しなければいけませんし、語り合っていく必要があります。
失敗を受け入れられない人や諦められない人は、周りから「あなたは自己評価が高いのよ」と言われて「いや、そんな風に思っていないよ」と内心思っている人もいれば、「あなたは自信がないのね」と言われて「いや、自分は自分を可愛がりすぎている、甘やかしているんじゃないか」と思う人もいます。
どちらが正しいとかではなく、
「あなたはどのように言葉を使っているのですか」
「あなたのことを『自己評価が高い/低い』と言った人は、どのような言葉の使い方をしているのですか、どのような価値観の人なのですか」
ということを僕は聞きます。
それによって言葉の意味は全然違いますし、その場で起きていることもすごく違います。
このように聞くことで、「ああ、言葉の使い方が違うんだな」「自分の受け取り方が違うんだな」と学んでいくことができると、しなやかな思考が身に付いていき、不安を正しく受け入れていけるようになっていきます。
ある程度諦めて次に向かうのは、人生にとって必要なことです。
それが下手だとなかなか生活しにくいです。
裁判をやるのがダメというわけでもありませんが、臨床をやっている中で、裁判をやって良かった、勝てて良かったとなることはあまりありません。
今日は、結構耳が痛い話をしました。
うつ病
2021.7.18