今日は「うつ病の人が『嘘つき!』と言われやすい理由」について解説します。
うつ病や適応障害、また他の精神疾患の患者さんは、人から「嘘つき」と言われることがあります。
「私は嘘つきだと思われているのでしょうか」「それとも私の錯覚でしょうか?」と患者さんは言いますが、患者さんの錯覚の場合もあれば、本当に嘘つきだと思われている場合もあります。
それは、患者さん側の問題でもあれば、相手側の問題でもあります。
そのような時に、「それはあなたの勘違いですよ」と言っても治療はうまくいきません。どこかのタイミングで「益田先生は、聞きたくないからそれを押し付けたのでは。嘘つきだとやっぱり思われていましたよ」という話になることもあります。
患者さんが感じていることはリアルなことなので、それを僕らは理解しないといけないし、そのリアルさをきちんと解説してあげないといけません。
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なぜ嘘つきと言われるのか
うつ病は脳の機能障害です。
本人にはどこからが機能障害で、どこからが健康な自分なのかは良くわかりません。そのため困惑しています。
この困惑は、第三者には違和感として感じられます。
うつ病の人と喋っていると、独特の違和感を感じます。不安神経症の人などとはまったく違った違和感です。この違和感を「嘘だ」と決めつける人がいます。
強調、否定
<強調する>
うつ病の特徴として「強調する」という現象があります。大きくしてしまう、ということです。
「みんなが責める」
→実際は責めている人は一人か二人なのに、「みんなが」と強調してしまう。
「私の仕事は全くできていない。全部最悪なんだ」
→もちろん失敗しているところもありますが、全部ではありません。
<否定する>
逆に1のものを0にしてしまうこともあります。
「元気です」
→明らかに元気ではないのに否定する。
「楽しいです」
→苦しいのにそれを否定する。
「仕事はできています、大丈夫です」
→実は仕事が遅れているのに、大丈夫だと否定する。その結果、周囲に迷惑をかける。
これらの強調や否定は、病気からくるものです。
強調するというのは、妄想じみたことになっていて、それが発展すると「罪業妄想」「心気妄想」「貧困妄想」が起こります。
「罪業妄想」は、些細なこと、例えば空き缶を蹴ったとかガムをポイ捨てしたといったことで、「自分は最悪なんだ、モラルがない。警察に行って捕まえてもらおう」となってしまいます。
「心気妄想」は、自分の体のどこかに病気があるのではないか、自分の臭いは他の人と違うのではないかといったことを言います。体の違和感を過度に強調して、それを病気だと思うのです。
「病気ではありません、大丈夫ですよ」と言うと、別の病院をまわってドクターショッピングをしてしまいます。
「貧困妄想」は、実際にはお金があるのにATMに行ったらお金が入っていないのではないか、と言ったりする妄想です。
これらは、足りない、悪いことをしているといったことの「強調」です。
また、「否定」をしてしまう中に、「思考制止」があります。
頭が回らないので「大丈夫です」と否定しまうこともあるし、「記憶障害」が起きていて記憶が上書きされていかないので、とりあえず否定するということもあります。
これらが嘘をついているように見られることがあります。
専門家でさえ見逃すことも
<元気そうに見える>
イライラしていて元気そうに見えることもあります。
うつ病は「制止」している一方で、「焦燥感」から空回りをしていることもあります。
怒りなどの感情を抑えることもできないので、変に怒りっぽくて元気そうに見えることがあります。これはうつではなくて躁状態なのですかと聞かれたりすることもありますが、うつです。
<食べて、寝る>
食べて寝ているので、周りの人からは「しっかり食べているし、眠れているから大丈夫だよね」と言われてしまいます。でも本人は苦しいながらに食べてしまうし、代謝が落ちていて太りやすくなることもあります。
うつ病のイメージとして「食べられない・眠れない」というものがありますが、その逆の「過食・過眠」に転じるパターンもあるのです。
そのため、この人はうつ病だと言っているけれど、食べているから嘘つきなのではないか、と言われることがあります。
これは、専門家でもうつの悪化を見逃してしまう原因にもなります。
何が言いたいかというと、うつ病の人は「嘘つきのように見える要素」があるということです。
これは嘘をついているわけではなく病気の症状なのですが、知識がない人から見れば嘘をついている、詐病のように見えてしまいます。
知識のある専門家でさえ、うつ病ではなくこの人の性格なのだと考えてしまうことがよくあります。そのため、医師は誤診を前提にセーフティネットを張りながら診断し、対応しています。
嘘つきだと言う人の問題
わざわざ本人に「嘘つきだ」と言う人は滅多にいませんが、確かに、時々います。
そのような人の特徴として、たとえば心や脳をあまり理解していないという点もあります。
患者さんも相手もお互いに「しなやか」に考えたり、多角的に考えることが苦手だったりします。
うつ病の人は真面目で考え方に柔軟性のない人が多く、うつになればなるほど柔軟性がなくなってしまうのでうつが悪化してしまいます。
相手は相手で、自分の心、社会、脳などの哲学的な理解が乏しいです。
ですから、うつ病の人を「嘘つき」だと言う人ほどうつ病になりやすいです。
うつ病の人は良くなってくると、「実は、周りにうつ病の人がいたのですが、嘘つきだと思っていました」と告白する人もいます。
似た者同士なので返って相手の言葉が響くということもあると思います。
生物学的な脳
精神医学は、科学の部分と心理・社会学・哲学の要素が合わさっている面白い学問です。
脳には個人差があり、伸び代にも違いがあります。
頑張ればできる人もいれば、頑張ってもできない人もいるし、頑張らなくてもできる人もいます。運動神経が良い人を考えればわかると思います。
脳は魂とは違って(僕らは魂を信じていないところがありますが)、消耗品です。
脳は消耗品であり、意識も消耗されていくものです。だから衰えていくし、病気にもなっていきます。ですから脳は洗練されていくものとは考えていません。
我慢強い時もあれば、年老いて認知症に近づいていくと我慢ができなくなる。人間としての心の余裕がなくなっていきます。脳は臓器であり消耗品であるので、そういうものです。
社会や常識?
社会や常識は幻想にしか過ぎません。
「集団催眠」にかかっていて、みんなで嘘に引っかかっているので気づかないだけです。歴史的に見れば「男女平等」についても変わっていますし、それが真理に近づいているのかどうかもわかりません。
お金も信用と言ったりしますが、あってないようなよくわからないものでもあります。
僕らが考えている社会や常識は、どこか嘘や矛盾を孕んでいます。ですが、それがわかりません。
一見正しいとされているけれど、よく考えたら違うということに気づく、その飛躍ができない人がいます。
自分には魂があって死後の世界に続くと考えるような幻想性が抜けないし、哲学的な常識を疑うような視点を出されると困惑してしまいます。
うつ病自体を理解できない
そのような人は、「うつ病」というものがあると考えると困惑してしまいます。
脳には個人差があり意志の力ではどうしようもない、我々は消耗していっていつか死んでしまう、など同時に色々なものを受け入れなければなりません。そのため「そんなわけない、嘘つきだ」と思いたいようです。
うつ病になった患者さんが嘘つきなのではなく、「うつ病」という病気自体を理解できないことが多いです。
それが精神医学の難しさでもあり面白さです。
臨床しながら思うのですが、精神医学はわからない人にはわからないようです。それは僕が量子コンピュータについて考えても考えてもよくわからないのと似ています。
彼らにとってはうつ病はよく理解できないのです。動物が鏡を理解できないのと似ています。
もちろん、動物が鏡を理解できないのと違って、精神疾患はきちんと説明を受けたり実物を見たりすれば理解できる類のものですが。
今回はうつ病が嘘つきだと言われやすい件について解説しました。
1つは、うつ病という症状にどこか矛盾があって嘘のように見えるから。
もう1つは、うつ病という概念自体を理解し難い人がいて、その違和感や不快感を持って嘘つきだと言いたいから、ということです。
うつ病
2021.8.26